野球には「セオリー」というものがあり、打順を決める場合もこのセオリーに従って決める。1、2番は出塁率が高く、足が速く、バントやヒットエンドランを決められる小細工のできる打者。クリーンアップは長打力があり、走者を置いての打撃に信頼が置ける打者ということになっている。これは、1番打者が出塁し、2番がバントで送り、3、4番打者の安打で走者を迎え入れるという戦略に基づいた打順である。この考え方は、初回の攻撃で先制得点を挙げることが極めて重要であるという思想に立脚している。私も、基本的にはこの考え方に賛成である。
だが、初回に得点できなかったら、あるいは1番以外の打順からスタートするイニングではこの戦略は成り立たない。4番、あるいは5番打者が出塁しても打順が下位に下がり、多くを期待できない。したがって、セオリー通りの打順を組むことが万能なのではない。
セオリーはセオリーとして尊重し、チームの状況、相手チームの投手力などに応じて弾力的に戦略を構築すべきである。
初回、あるいは1、2番からスタートするイニングに得点を期待する戦略ならばセオリー通りの打順が適している。二死で9番が出塁した場合、失敗してもともとの盗塁をさせる作戦もありえる。失敗しても、次回1番から始まるからだ。
チームで最も長打力がある選手を1番に置く戦略もあり得る。いきなり二塁、あるいは三塁まで進塁すれば、あとは犠打や相手失策で得点できる確率が高まる。その場合、3番、4番は犠打の上手な選手を置く。チームのこれまでの得点経過を分析し、7番、8番あたりにチャンスがめぐる確率が高ければ、最も信頼の置ける選手を下位に置く戦略でもよい。出塁して送り、また出塁して犠打で得点するという戦略ならば、打てる選手と打てない選手を交互に並べる考え方があってもよい。
草野球では、チーム内の打てる選手と打てない選手の差はさほど大きくないことが多い。そんな場合、誰が4番でも状況は変わらない。であるならば、セオリー以外の考え方で打順を組むことがあってもよい。
昔、学生時代、ある中学でコーチをしていたことがある。皆どんぐりの背比べで、小粒な選手ばかりだった。当然、4番が打てる生徒はいない。そこで、それまで試合に殆ど出場したことのない選手を、教育の意味で4番に据えたことがある。3番、5番で得点すればよいという考え方からであった。相手投手は、4番というだけでプレッシャーを感じ、四球出塁が多くなった。そればかりでなく、何試合かするうちに、その生徒は少しずつ打てるようになり、最後の方では立派な4番打者に育っていた。すなわち、立場が人を育てたのである。
これ、ゆめゆめ忘れることなかれ。
(平成10年5月11日掲載) |