Sclerocactus whipplei
 
       Britton&Rose 1922  白虹 

白虹、という和名はこの属でもっとも有名な白虹山(S.polyancistrus・・・最近は白紅山と云われることが多い)と紛らわしく、私もずっと昔、国内某園から白虹山で取り寄せた種から、この白虹が生えてガッカリしたことがあります。なぜガッカリしたかと云えば、当時の私は白虹山のカラフルな美しさは理解できても、「白虹」のまさに燻し銀の味わいを知るには至っていなかったからでしょう。「白虹」・・・S.whipplei の記載はこの属のなかでもっとも古く、日本への導入もかなり昔ですが、名前を聞いて植物の姿をイメージ出来るひとは少ないんじゃないかと思います。
 白虹(スクレロカクタス・ウイップレイ)は、アリゾナ州中北部の1500〜1900メートルに分布しています。おおむね小石交じりのなだらかな丘に生えており、ビャクシンや松類の疎林帯、グラマグラスの草原、またほとんど植物のない厳しい場所にも見られます。植物体はおおむね単体ですが、稀に群生株も見られます。深い緑色の植物体は単体の径4〜10センチ、高さ4〜15センチくらい、多くの場合太い直根で支えられています。稜は12〜15で比較的通っており、ぜんたいに刺に覆われています。中刺はおおむね4本。下向きの1本はかぎ刺で黒〜褐色、長さ4センチくらい。上向きの1本は白く平たい紙状の刺で、するどく天を突くように跳ね上がっていることが多い。この刺は尖端が尖っており、なかなか雄々しくて白虹を外見的に識別するいちばん際立った特長ですが、コロニーによって例外もあります。また花も属の中では小さい方で識別点になります。径は2センチくらい、長さ2〜3センチで、大きく開かず漏斗状なのが特徴です。おおむね白〜クリーム黄ですが、こちらも例外的に紫やピンクがあります。この花は植物体が小さい(径3〜4センチ)うちから咲きます。
 自生地では飛鳥(Pediocactus peeblesianus)や月の童子(Toumeya papyracanthus)と一緒に生えていたり、また彩虹山(Sclero.parviflorus)とも自生地が重なっている地域があります。アリゾナとニューメキシコの州境周辺では白虹と彩虹山の自生地が重なっていて、ニューメキシコ西部に自生する両者の中間的な特徴を持つ植物(一般に cloveriae, heilii, reevesii などと呼ばれているグループ)を白虹の変種とするか、パルビの1タイプとみなすか、あるいは独立させるかで専門家の見解が分かれているのです。また、他にも変わったタイプの「白虹」はいくつかあり、実際に自生地を歩いてみると、どこかに線を引くと云うこと自体に意味があるのかな、などと思うほどです。このページでは、先のcloveriae の一群はwhipplei としては扱わず、今後暫定的に彩虹山グループに置くことにします。
 栽培については彩虹山とほぼ同様で、属のなかでは易しいほうです。もちろんスクレロですから、十分な陽光と通風のもと、成長シーズンを見極めて限定的な潅水をすることが必要ですが、小さいうちから花を咲かせるので実生正木でも5年くらいで最初の花をつけてくれます。自生地では同じコロニーのなかでも刺色、太さ長さにかなりの幅がありますが、かぎ刺が黒く太く、上向きの刺が強くて真っ白な個体はとても美しく感動的です。園芸的には綾波や太平のように素晴らしい刺タイプの選抜改良種をつくれば人気も出そうですが、ネックはやっぱり栽培難でしょうね。
 またここでは、別種扱いにする見方もある S.whipplei ssp.busekii = S.sileriもあわせて紹介しました。




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Scl.whipplei ssp.whipplei

(Navajo Co. ARIZONA)  白虹
黒褐色のかぎ刺、強く跳ね上がった白い平刺、もっとも典型的な白虹です。リトルコロラドリバーの近くの小石の多い丘に飛鳥と一緒に生えています。タイプの幅も広く個体数もとても多いコロニーで、見ごたえがある大株、群生株も見られました。
Scl.whipplei "pygmaeus"

(Apache Co. ARIZONA)  白虹 ピグマエウス
かつては変種と見なす向きもあった「ピグマエウス」タイプの産地です。より小型で丈は低く上向きの刺がより長く目立つ、とされていますが、ほぼその通りでした。この辺りは高度が2000メートル近くあり、ビャクシン類の疎林になっています。
Scl.whipplei ssp.whipplei

(SanJuan Co. UTAH)  白虹
彩虹山(パルビフロラス)の主産地であるユタ州では白虹はここでしか見られません。ぽつんと飛び石のように分布していて、周囲は彩虹山に囲まれているのです。花は黄緑で刺姿もたしかに白虹ですが、なにかミステリアスな植物です。
Scl.whipplei ssp.whipplei

(Coconino Co. ARIZONA)  白虹
これも不思議な白虹。自生風景は強烈で、火星のような赤土の灼熱沙漠にほとんど焼け焦げながら生きています。刺はアメ色で全体に短く、特徴の上向きの白く平たい刺も目立ちません。メサガーデンのリストでもodd formと説明されています。
Scl.whipplei ssp.busekii = S.sileri

(coconino Co. ARIZONA) 白虹ブセキィ or サイレリ(シレリ)
スクレロ・シレリと云う独立種と考える人もいるくらい、特異なタイプの植物です。繊細なかぎ刺が長く絡みあう実に美しいもので、花色はベージュ白。分布は極めて狭い範囲に限られており個体数も少なく、スクレロ中もっとも絶滅が危惧される植物と云えます。










                            
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