Sclerocactus spinosior
             Woodruff&Benson1976

         黒虹山 
             
 古くから黒虹山の名で国内でも知られていますが、その名の通り、漆黒(〜赤褐色)の鈎刺と白いリボン状刺が巻きあがるとても美しい品種です。しばしばparviflorus、またwhippleiと混同されてきましたが、実際には分布域も独立しており、特徴からも弁別は難しくありません。分布域はユタ中西部〜ネヴァダ東部のグレートベイズゥン沙漠。標高1500〜1800メートルの石灰分の多い土壌に多く見られ、セージブラシの茂みなどに隠れるように生えています。一帯は多將性植物にとってはかなり寒冷なため、ほかのサボテン類はきわめて少ないところです。そうしたシビアな環境に適応したためか、栽培は難しい方で、実生のうちはいいのですが、開花サイズに達するとご機嫌を取りにくくなってきます。春の目覚めが悪かったり、成長期を過ぎて水を与えすぎると根が赤腐れとなりやすい、また肌に赤錆びがあがりやすい、など耐病性が弱くて気を使います。
 植物体は径4〜8センチ高さ5〜20センチで稜は6〜13くらいまで。肌色は比較的濃い緑色。刺の様相は成長段階で大きく変化し、幼苗時は放射状に出た数ミリの短い側刺の中央から1センチほどの中刺1本を突き出します。この刺は肉眼でもわかるような白い微毛に被われており、これはglaucus, pubispinus と重なる特徴ですが、parvflorus, whipplei には見られないもので、この点ではっきり区別できます。開花サイズに近づくと、この微毛は失われ、中刺は黒〜褐色の強い鈎刺と、白く長くうねった紙状刺とになります。この黒白二色のからみあう刺のコントラストは見事で、まさに黒虹山の名に相応しいものです。大株になるに従って、この紙状刺は一層多く長くなる傾向があるようで、老株には白髪を振り乱したような姿のものも見られます。花はやや小さく2〜4センチくらいのピンク〜濃紫色です。 
 黒虹山はpubispinusときわめて近く、分布域も重なっています。また特定の地域では両者の中間的な個体も見られ、自然交雑の可能性も指摘されています。また、黒虹山の変種とされるものに、blaineiがあります。これは以前はschlesseri(シュレセリー)と呼ばれていたもので、黒虹山に比べ小型で、黒白の中刺がより長く絡み合うような特徴を持つものです。別種とするほどの差異は見出し難いのですが、この植物はほかの黒虹山のコロニーと隔絶したネヴァダ州の二カ所だけ(しかもこの二カ所もかなり離れている)で見つかっています。きわめて稀少な植物で、知られている自生地での個体数は百に達するかどうか・・・園芸的にもきわめて美しい植物ですが、ここでは黒虹山のバリエーションとして扱いました。




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Scl.spinosior ssp.spinosior

(Millard Co. UTAH) 黒虹山
「黒虹山」の名前のイメージにもっとも近いタイプで、黒白の長い刺がリボンのようにからみ合う。ユタ中西部の、ほとんど石灰分だけの平原に生育し、とても大型に育つ。
Scl.spinosior ssp.spinosior

(Sevier Co. UTAH) 黒虹山
ユタ中部、黒虹山としてはもっとも東にあるコロニーで、刺色は赤褐色〜黄色。ちょっとパルビっぽい雰囲気もある。大株は刺数が多くとても美しい。
Scl.spinosior ssp.spinosior
"Escalante desert small form"

(Iron Co. UTAH) 黒虹山エスカランテフォーム
ユタ南西部のエスカランテ沙漠は、悪路を何時間を走らないとたどり着けないエリア。ここの黒虹山は小型で刺も繊細。次にあげるブライネイに少し近い顔をしている。
Scl.spinosior ssp.blainei (ex.schleseri)
(Lincoln Co. NEVADA) 黒虹山ブライネイ(シュレセリ)
ブライネイのコロニーはたった二カ所しか知られていない。黒虹山の特異タイプで幼苗、成株ともに刺がより長くカールして絡む。もっとも美しいスクレロカクタス。ここはネヴァダ南のコロニー。
Scl.spinosior ssp.blainei (ex.schleseri)
(Nye Co. NEVADA) 黒虹山ブライネイ(シュレセリ)
上のリンカン群のコロニーから直線で70マイルあまり離れているが、そのあいだでは見つかっていない。しかも、このコロニーでは個体数が減少し危険水域に入っている。






                           
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