図書館員のコンピュータ基礎講座

人名

人名の多くは、姓と名で構成されます。姓は氏や名字・苗字とも呼ばれ、名は名前とも呼ばれます。本来、姓と氏は異なる意味を持っていましたが、現在では特に区別はされていません。
ここでは、基本的に、姓、名という用語を用い(日本の説明のみ氏、名)、姓と名を含む名前全体を表す場合または姓と名を区別しない場合には名前という用語を、姓と名を区別して表す場合には、それぞれ姓、名という用語を用います。また、原則として、現代の一般的な人名について述べており、少数民族等については省略しています。

ここでは、人名について、国、地域別に説明しています。国・地域の区分は国際連合の「Geographical region and composition外部へのリンク」を参考にし、国連非加盟国・地域を適宜追加しています。

また、国を超えた宗教や人種に基づく共通事項については、下記で説明しています。

イスラム教徒の名前

【2014-12-07更新】

一般的に、アラブ人に代表されるイスラム教徒は姓を持たず、「名+父の名+祖父の名…」のように父祖代々の名を繋げて名とします。1~3の名を繋げるのが一般的です。
本人の名をイスム(اسم اسم‎Ism)、父祖の名をナサブ(نسبNasab)と呼びます。

  • 名と名の間には、「~の息子の」を意味するイブン(ابنibn)やビン(بنbin)、「~の娘の」を意味するビント(بنتbint)という語を置くことがあります。
  • 父祖の名ではなく、子の名を用いることもあります。これをクンヤ(كنيةKunya)と呼びます。クンヤは、「~の父の」を意味するアブー(أبabu)、「~の母の」を意味するウンム(أمUmm)という語を名前の前に付けます。
  • 名を揚げた父祖の名、祖先の職業、部族、出身地や宗派に由来する語を用いる場合もあります。これをニスバ(نسبةNisba)と呼びます。ニスバは、部族や地名の前に定冠詞のアル、アッ(الـal-, ar-, as-)を付け、形容詞形に語尾変化させた形をとります(語尾がイー(ي-i)になる)。
  • 名前の最後にその人の功績を讃えたり、性質を表す尊称(あだ名)を付ける場合もあります。これをラカブ(لقبlaqab)と呼びます。

例えば、サッダーム・フセイン(1937-2006)の正式な名前は、次のとおりです。

صدام حسين عبد المجيد التكريتي (サッダーム・フセイン・アブドゥル=マジード・アッ=ティクリーティー;Saddam Hussein Abd al-Majid al-Tikriti、1937-2006) || NDL典拠:Hussein, Saddam, 1937-外部へのリンク

次のとおりに構成されています。

本人の名(イスム) 父の名(ナサブ) 父祖の名(ナサブ) 出身地名(ニスバ)
サッダーム フセイン アブドゥル=マジード アッ=ティクリーティー
صدام حسين عبد المجيد التكريتي
  • アラビア語は右から左へ表記するため、この表は右から左へ(他の表と左右を逆に)読んでください。
  • 出身地はティクリート(تكريتTikrit)です。この前に定冠詞のアル(الـal-)を付け、形容詞形に語尾変化させたものがニスバとなっています。

なお、一般的に、女性は結婚後も改姓しません。また、本来、イスラム教徒には親子で継承する姓はありませんが、近年では、ヨーロッパにならってニスバなどを姓のように用いて継承することが多くなってきています。さらに、長い名前を簡略化するために、ナサブはしばしば省略されます。

イスラム教徒の名は、アッラーの99の美名に「~の下僕」を意味するعبد (アブドル、アブドゥル、アブド;Abdul, Abd)を付したものが多いです。上例の「アブドゥル=マジード」がこれに該当します。

称号

また、イスラム教徒の名前には、次のような称号が含まれることがあります。イスラム教徒が多いインドネシアの称号パキスタンの称号マレーシアの称号も参照してください。

  • أمير (アミール;Amir, Emir):王族、貴人
  • آية الله (アーヤトッラー、アヤトラ;Ayatollah):高位のイスラム法学者であるعلماء (ウラマー)の称号
  • امام (イマーム;Imam):指導者
  • قَارِئ‎ (カリ;Qari):قرآن (クルアーン、コーラン)の朗誦者
  • خليفة‎ (カリフ;Caliph):指導者、最高権威者
  • سلطانه (スルターナ;Sultana):王妃(スルタンの女性形)
  • سلطان‎ (スルタン、スルターン;Sultan):君主、王
  • حجّ‎ (ハッジ;Haji, Hadji, Hajji, El-Hajj):メッカ巡礼を行った者
  • الحاجة (ハッジャ;Hajjah, Hajah, Hajiya):メッカ巡礼を行った者(ハッジの女性形)
  • حافظ (ハーフィズ;Hafiz):クルアーン(コーラン)を暗誦している者
  • ملا‎ (ムッラー、ムラー;Mullah):イスラム教の法や教義に精通した指導者。
    同じような称号に、مولانا‎ (モーラーナ;Mawlana, Maulana)、مولوی (マウラヴィ;Mawlawi, Maulavi)、شيخ‎ (シェイク、シャイフ;Sheikh, Shaykh, Sheik)があります。
  • مفتي‎ (ムフティ;Mufti):イスラム法であるشريعة‎ (シャリーア)の解釈を行う学者

アラビア語にはフスハー/アル・フスハー(الفصحىal-fusha)と呼ばれる正則アラビア語(文語)と、アーンミーヤ/アル・アーンミーヤ(العاميةal-ammiyya)と呼ばれる方言(口語)があります。さらに、アーンミーヤには、イラク方言、エジプト方言、シリア方言、マグリブ方言、湾岸方言など、地域によって様々な方言が存在しています。基本的に、アラビア語は正則アラビア語で記述されるため、同じ記述でも地方によって発音が異なることになります。例えば定冠詞のアル(al)はエル(el)、「~の息子の」を意味するビン(bin)はベン(ben)、「~の娘の」を意味するビント(bint)はベント(bent)と発音され、日本語や英語ではそのように表記されることがあります。

なお、この項の原綴りは、アラビア語で記述しています。

スラヴ系の名前

【2013-09-19更新】

スラブ民族の名前の多くは「名+ミドルネーム+姓」で構成され、ミドルネームは通常、父称です。ロシア語では、名をイーミャ(ИмяImya)、父称をオーチェストヴァ(ОтчествоOtchestvo)、姓をファミーリヤ(ФамилияFamiliya)と呼びます。ロシア以外に移住したロシア系の人々の名前や、ロシアの影響を受けた国・地域の人々がこの形式の名前を持っている場合があります。
東欧諸国では、夫婦は結婚後に同姓、別姓、複合姓(両者の姓を連結させる)を選択できることが多いです。

接尾辞

父称は、父の名の語尾を次のとおりに変化させて作られます。

  • 父の名が硬子音で終わる場合
    • 男性には-ович (オヴィチ;-ovich)を付ける。
      例:Александр (アレクサンドル)+ович (オヴィチ)=Александрович (アレクサンドロヴィチ)
    • 女性には-овна (オヴナ;-ovna)付ける。
      例:Александр (アレクサンドル)+овна (オヴナ)=Александровна (アレクサンドロヴナ)
  • 父の名がで終わる場合、この文字を削除して
    • 男性には-евич (エヴィチ;-evitch)を付ける。
      例:Алексей (アレクセイ)+евич (エヴィチ)=Алексеевич (アレクセエヴィチ)
    • 女性には-евна (エヴナ;-evna)を付ける。
      例:Алексей (アレクセイ)+евна (エヴナ)=Алексеевна (アレクセエヴナ)
  • 父の名がまたはで終わる場合、これらの文字を削除して
    • 男性には-ич (イチ;-ich)を付ける。
      例:Илья (イリヤ)+ич (イチ)=Ильич (イリイチ)
    • 女性には-инична (イニチナ;-inichna)または-ична (イチナ;-ichna)を付ける。
      例:Илья (イリヤ)+инична (イニチナ)=Ильинична (イリイニチナ)

また、姓は次の接尾辞で終わることが多いです。([ ]内は女性形)
これらの姓の接尾辞は、「~に属する」、「~出身の」、「~(生まれ)の」を意味します。

  • -ов (オフ;-ov) [-ова (オヴァ;-ova)]
  • -ев (エフ;-ev) [-ева (エヴァ;-eva)]
  • -ёв (ヨーフ;-jov) [-ёва (ヨーヴァ;)]
  • -ин, -ын (イン;-in) [-ина (イナ;-ina)]
  • -ский (スキー;-sky, -ski, -skii) [-ская (スカヤ;-skaya, -skaja, -skaia)]:ポーランド系の姓
  • -ко (コ;-ko) [-ко (コ;-ko)]:ウクライナ系の姓

ロシア語、ペルシア語、テュルク諸語には同じ語彙から派生した言葉が多く、一部の接尾辞にも共通性があります。アゼルバイジャンの接尾辞アルメニアの接尾辞ウズベキスタンの接尾辞カザフスタンの接尾辞キルギスの接尾辞グルジア語タジキスタンの接尾辞トルクメニスタンの接尾辞トルコの接尾辞マケドニアの接尾辞も参照してください。

ここで、スラヴ系の名前の実例として、トルストイ(1828-1910)を挙げます。彼のフルネームは、次のとおりです。

Лев Николаевич Толстой (レフ・ニコラエヴィチ・トルストイ;Lev Nikolayevich Tolstoy、1828-1910) || NDL典拠:Tolstoi, Lev Nikolaevich, 1828-1910外部へのリンク

これは、次のとおりに構成されています。

本人の名(イーミャ) 父称(オーチェストヴァ) 姓(ファミーリヤ)
レフ ニコラエヴィチ トルストイ
Лев Николаевич Толстой
  • 父の名はНиколай (ニコライ;Nikolai)です。
  • Николаевич (ニコラエヴィチ)は、女性であればНиколаевна (ニコラエヴナ)になります。

なお、ミドルネーム(父称)は、省略されたり、頭文字で表記されることがあります。特に、カナや英語などの外国語による表記では、その傾向があります。

注:この項の原綴りは、ロシア語で記述しています。

スペイン・ポルトガル語圏の名前

【2013-10-03更新】

スペイン語またはポルトガル語を母語とする民族の名前の多くは「名+第一姓+第二姓」の順に配列します。

セカンドネームなど、複数の名を持っていることも多いです。

通常、スペイン語圏では、第一姓は父方の第一姓、第二姓は母方の第一姓です。逆に、ポルトガル語圏では、第一姓は母方の第一姓、第二姓は父方の第一姓です
日常的には片方の姓のみを用いることが多く、その場合は通常、母方の姓(スペイン語圏では第二姓、ポルトガル語圏では第一姓)を省略しますが、母方の姓の方が珍しい場合には、父方の姓を省略することがあります。
スペイン語圏では、第一姓と第二姓の間に「~と」を意味する接続詞y (イ)やハイフンが置かれることがあり、ポルトガル語圏ではハイフンが置かれることがあります。ただし、これらの接続詞や記号は省略されることも多いです。

例えば、スペイン人であるサルバドール・ダリ(1904-1989)のフルネームは次の通りです。

例:Salvador Domingo Felipe Jacinto Dalí i Domènech (サルバドール・ドミンゴ・フェリペ・ハシント・ダリ・イ・ドメネク、1904-1989) || NDL典拠:Dali, Salvador, 1904-1989外部へのリンク

これは、次のとおりに構成されています。

父の第一姓 接続詞
(~と)
母の第一姓
サルバドール・ドミンゴ・フェリペ・ハシント ダリ ドメネク
Salvador Domingo Felipe Jacinto Dalí i Domènech
  • 父の名前はSalvador Dalí i Cusí (サルバドール・ダリ・イ・クーシ)、母の名前はFelipa Domènech i Ferrés (フェリパ・ドメネク・イ・フェレス)です。
  • カタルーニャ地方の出身です。
  • カタルーニャ語では、接続詞の接続詞yiになります。

スペインポルトガルの項目も参照してください。

注:この項の原綴りは、スペイン語で記述しています。

華僑の名前

【2013-09-11更新】

ここでは、中国・台湾以外に移住した中国系、台湾系の人々を華僑と呼びます。多くの華僑は、中国・台湾(チベットを除く)と同様の名前を持っています。

印僑の名前

【2013-09-11更新】

ここでは、インド以外に移住したインド系の人々を印僑と呼びます。多くの印僑は、インドと同様の名前を持っています。

アフリカの名前

【2015-10-14更新】

北アフリカにはイスラム教徒が大部分を占める国が多く、それらの国では基本的にイスラム系の名前に基づきますが、植民地化やヨーロッパに近い地理的環境の影響で、近年では、ヨーロッパ形式の名前が多くなっているようです。
北アフリカ以外の地域の人々の名前については、文化の多様性や人名情報収集の困難さのため、一般的な名付けの傾向を語ることは困難ですが、文献等によると次のような特徴があるようです。

  • 出生の曜日、時間・季節、順序、場所、状況、家族や地域の状況にちなんだ命名を行う場合がある。出生の曜日や順序にちなんだ命名を行う国は西アフリカに多く、時間・季節にちなんだ命名を行う国は東アフリカに多い。
    例:ガーナ初代大統領Kwame Nkrumah (クワメ・エンクルマ)は「土曜日生まれの第九子」を意味する。
  • 双子や双子の後に生まれた子に特別な命名を行う場合がある。特に西アフリカに多い。
    • 植民地化の影響で姓を持つようになった人が多い。
    • 父祖の偉人の名前に由来することが多く、父祖の名や父のあだ名を姓とする場合がある。
    • 伝統的な姓を代々受け継ぐことはほとんどなく、出生時に付けることがある。また、そのため、家族全員が同じ姓ではない場合がある。
    • 出生時の状況を名とすることがある。
    • 自分の名に父の名を添えることがある。
    • ムスリム名やクリスチャン・ネームを持っている場合がある。

なお、非常に大雑把に言うと、アフリカ大陸は、北緯10度線以北および北緯10度線以南の東海岸沿の一部がイスラム教圏、それ以外がキリスト教圏に分かれています。

<凡例>
  • 一部の文字をUnicodeで記述しているため、環境によっては文字が正しく表示されない場合があります。
  • 名前の例には、国立国会図書館(NDL)または米国議会図書館(LC)の典拠データを付記し、当該データにリンクしました。
  • 名前の例として、姓、名などの名前の構成要素を示した表も掲載しました。この表には、家族の名前も注記しましたが、これらは、姓の継承の有無を理解することを主目的として提供しており、網羅的なものではありません。例えば、配偶者や子の名前は、一部のみを掲載している場合があります。また、配偶者の姓は、できる限り結婚後のものを掲載しましたが、不明な場合には結婚前の姓を掲載しました。
参照・参考文献
  • 英米目録規則. 第2版日本語版 / 米国図書館協会 [ほか制定] ; Michael Gorman, Paul W.Winkler 共編 ; 丸山昭二郎[ほか]訳 日本図書館協会, 1995.7 [b]
  • 外国人の姓名 / 島村修治著 帝国地方行政学会, 1971.9 [b]
  • 人名の世界史 : 由来を知れば文化がわかる / 辻原康夫著 (平凡社新書) 平凡社, 2005.10 [b]
  • 人名の世界地図 / 21世紀研究会編著 文藝春秋, 2001.2 [b]
  • 世界の言語ガイドブック 1 / 東京外国語大学語学研究所編 三省堂, 1998.3 [b]
  • 世界の言語ガイドブック 2 / 東京外国語大学語学研究所編 三省堂, 1998.3 [b]
  • 第三世界の姓名 / 松本脩作, 大岩川嫩編 明石書店, 1994.3 [b]
  • 洋書目録法入門. マニュアル編 / 丸山昭二郎編 (図書館員選書 ; 7) 日本図書館協会, 1988.7 [b]
  • アフリカの人々と名付け 1-76 / 小馬徹[著] (Africa) 34(11)-41(4) アフリカ協会, 1994.10-2001.4 [s]
  • A Guide to Names And Naming Practices / United Kingdom [w] 2015.10.14
  • Law Enforcement Guide to International Names / Regional Organized Crime Information Center [w] 2015.10.14
  • The World Factbook (Central Intelligence Agency) [w] 2013.09.11
  • 各国・地域情勢 (外務省) [w] 2013.09.11
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