updated Aug. 30 1998
派遣110番によく寄せられる質問と回答例(FAQ)


質 問 と 回 答 例 (F A Q)

3002. 派遣労働者の労働条件は何によって決まるのですか?
 派遣で働いて色々と疑問に思うことが多いのですが、労働法をよく知らないので何が問題か判りません。派遣会社の担当者にいつもうまく言いくるめられてしまいます。
 

 派遣労働者の労働条件を決めるものとしては、主に次のものがあります。
 派遣で働くときには、この(1)から(7)について、自分で確認することが必要です。
 (1)派遣元との労働契約(雇入れ通知書、雇用契約書ということもある)
 (2)派遣元会社の就業規則(社内規程)
 (3)派遣元での労使協定(とくに労働基準法第36条に基づく残業協定など)
 (4)派遣先での就業条件明示書(派遣元から渡される)
 (5)労働者保護法(労働基準法、労働安全衛生法、最低賃金法など)
 (6)労働保険法(労災保険法、雇用保険法)
 (7)社会保険法(健康保険、厚生年金保険)

 この(1)〜(7)について、次のように自分で確認できることは、できるだけ自分で確認して下さい。

 (1)については、少なくとも「賃金」関連の事項については文書で渡すことが労働基準法第15条等で使用者(派遣元)に義務づけられています。最初に、派遣会社に登録するときや、派遣の紹介があったときなどに、労働条件について詳しく尋ねること、それを文書で明記してもらうという態度が必要です。
 派遣110番のHPにも掲載していますが、労働省からはモデル雇入れ通知書が発表されていますので参照して、ご自分のものと比較してみて下さい。

 労働基準法第15条(労働条件の明示)

 1 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金に関する事項については、命令で定める方法により明示しなければならない。
 2 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働 者は、即時に労働契約を解除することができる。
 3 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以 内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。


 まず、第1項では、労働条件を明示することになっています。
 明示するべき事項は、施行規則第5条で次のように決められています。
 労働基準法施行規則第5条(明示すべき労働条件事項)

 使用者が法第15条第1項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件は、次に掲げるものとする。
 ただし、第4号の2から第11号までに掲げる事項については、使用者がこれらに関する定めをしない場合においては、この限りでない。
 一 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
 二 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
 三 賃金(退職手当及び第五号に規定する賃金を除く。以下この号及び第二項において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
 四 退職に関する事項
 四の二 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
 五 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与及び第八条各号に掲げる賃金並びに最低賃金額に関する事項
 六 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
 七 安全及び衛生に関する事項
 八 職業訓練に関する事項
 九 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
 十 表彰及び制裁に関する事項
 十一 休職に関する事項
 2 法第15条第1項後段の命令で定める方法は、賃金に関する事項のうち労働契約の締結の際における賃金の決定、計算及び支払の方法並びに賃金の締切り及び支払の時期に関する事項については、これらの事項が明らかとなる書面の労働者に対する交付とする。

 賃金については、この施行規則第5条第2項にありますように、文書に賃金の決定、計算、支払の方法、締め切り、支払の時期を文書に書いて労働者に渡すことが義務づけられています。派遣元(使用者)が、これらの労働条件を明示しなかったり、賃金の文書を渡さないときには、別に罰則もあります。
 第2項では、労働条件が約束と違っていたときには、労働者は、即時に労働契約を解除することができるとしています。約束を破っても、責任を追及されることがないことを明確にしています。
 さらに、第3項では、労働契約のために転居したときには旅費の支払まで請求できることになっています。
 労働者派遣の場合にも、派遣元と派遣労働者の間の労働契約について、この労働基 準法第15条が適用されます。

 登録型の派遣会社では、派遣の紹介を受けるために事前に「登録」をすることになります。
 この「登録」をめぐるトラブルが増えています。労働者派遣法は、この「登録」段階での労働者保護について何も定めていないからです。とくに、派遣会社は、この登録段階で、アンケートをとり、労働者の個人情報を詳しく書かせることになります。しかし、この個人情報を杜撰(ずさん)に管理して盗まれたり(1998年1月の大手派遣会社テンプスタッフ事件)、派遣先にファックスで垂れ流すなどの労働者を軽く見た扱いをしているようです(労働省からの注意文書参照)。
 不必要と思われる項目まで、詳しく聞き出すアンケートなどには注意をすることが必要ですし、派遣会社には、個人情報をどのように管理しているか、もしものときの保障をできれば文書で示すことが求められています。そうした誠実な個人情報管理をしているか疑わしい派遣会社には、できるだけ派遣登録をしないことが賢明です。

 (2)については、常時10人以上を使用する事業場の使用者は、就業規則を作成することを義務づけられています。就業規則というのは、従業員全体を対象にする社内規程です。派遣会社の場合、派遣元の正社員だけでなく、スタッフを含めれば常時10人を使用するというのが通常ですので、通常は派遣元で就業規則を定める義務があることになります。
 労働基準法第89条(就業規則の作成・届出)

   常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
 一 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
 二 賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
 三 退職に関する事項
 三の二 退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
 四 臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項
 五 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項
 六 安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項
 七 職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項
 八 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項
 九 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項
 十 前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項
 使用者は、必要がある場合においては、賃金(退職手当を除く。)、退職手当、安全及び衛生又は災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項については、それぞれ別に規則を定めることができる。


 労働者としては、できれば、就業規則を文書として渡してもらうことが望ましいのですが、使用者(派遣元)には、次のように、少なくとも周知すること(事業場に備え付けるなど)が義務づけられています。
 労働基準法第106条(法令規則の周知義務)

 1 使用者は、この法律及びこの法律に基いて発する命令の要旨並びに就業規則を、常時各作業場の見易い場所に掲示し、又は備え付ける等の方法によつて、労働者に周知させなければならない。
 2 使用者は、この法律及びこの法律に基いて発する命令のうち、寄宿舎に関する規定及び寄宿舎規則を、寄宿舎の見易い場所に掲示し、又は備え付ける等の方法によつて、寄宿舎に寄宿する労働者に周知させなければならない。


 (3)時間外労働、変形労働時間制導入や賃金からの天引き項目などについては、派遣元事業場での労働者代表と使用者(派遣元)の労使協定によって決まります。
 この労働者代表がどのように選出されているのか、また、協定で何が決まっているのかを労働者が知ることは当然のことです。使用者(派遣元)に対して、労働者全員が周知できるように求めることが必要です。
 とくに、派遣先での時間外については、派遣元での36協定の時間を超えての残業を命じたとき、派遣先事業主が処罰される等の迷惑をかけることもありますので、労働者自身が36協定や時間外労働に関する内容を周知することは当然のことです。

 (4)派遣元は、労働者派遣法第34条によって、派遣先での「就業条件明示書」を労働者に交付することを義務づけられています。
 労働者派遣法第34条(就業条件の明示)

 派遣元事業主は、労働者派遣をしようとするときは、あらかじめ、当該労働者派遣に係る派遣労働者に対し、労働省令で定めるところにより、その旨及び第26条第1項各号に掲げる事項その他労働省令で定める事項であつて当該派遣労働者に係るものを明示しなければならない。


 つまり、派遣元は、派遣先との労働者派遣契約のなかで主な内容を「就業条件明示書」で派遣労働者に示すことが義務づけられているのです。具体的には、次の事項ということになります。

 1.派遣労働者が従事する業務の内容
 2.就労する派遣先の事業所の名称、所在地、就労の場所
 3.派遣先で、就労を指揮する者の氏名
 4.労働者派遣の期間及び派遣就業する日
 5.派遣就業の開始・終了の時刻および休憩時間
 6.安全衛生に関する事項
 7.苦情の処理に関する事項
 8.派遣契約解除の場合の措置(以上、労働者派遣法第26条1項)
 9.派遣元責任者に関する事項(労働者派遣法施行規則第22条)
10.派遣就業日以外の就業や時間外の派遣就業ができるとした場合の当該の日又は延長できる時間数(労働者派遣法施行規則第22条)

 労働省令=労働者派遣法施行規則第25条では次のように規定されています。

 労働者派遣法施行規則第25条(就業条件明示書の交付)

 法第34条の規定による明示は、同条の規定により明示すべき事項を記載した書面を当該派遣労働者に交付することにより行わなければならない。ただし、労働者派遣の実施について緊急の必要があるためあらかじめ当該書面を交付することができない場合において、当該明示すべき事項をあらかじめ書面以外の方法により明示したときはこの限りではない。
 2 前項ただし書の場合であって、次の各号のいずれかに該当するときは、当該労働者派遣の開始の後遅滞なく、当該事項を記載した書面を交付しなければならない。
 一 当該派遣労働者から請求があったとき
 二 前号以外の場合であって、当該労働者派遣の期間が一週間を超えるとき


 以上のように、「就業条件明示書」を派遣労働者に交付する(文書として渡す)ことは、派遣元としての法的な義務になっています。必ず、この明示書を渡してもらいましょう。もし、明示書を渡さないとか、なかなか渡さない派遣元(派遣会社)は信用できないと考えて間違いがありません。
 もし、派遣元が就業条件明示書をあなたに交付しないときには、労働者派遣法・労働者派遣法施行規則違反ということになり、派遣元は10万円以下の罰金を受けることもあります。
 派遣110番のHPにも掲載していますが、労働省からはモデル就業条件明示書が発表されていますので参照して、ご自分のものと比較してみて下さい。

 (5)の労働者保護法については、労働基準法、労働安全衛生法、最低賃金法などが考えられますが、労働基準法第106条所定の通り、派遣元(使用者)は労働者に周知する義務があります。派遣元(使用者)で見ることが難しいか、それが嫌なときには、インターネットでも法令を見ることができます。
 次の法令ページを参考に、関連した労働法令をご自分で調べて下さい。

法律の条文を入手できるサイト

法庫
法律の条文、政令、省令などの条文を引き出すことができる。最新の情報も含まれていてとても便利。最近の被災者支援法の条文も入手できる。50音別、分野別、公布年月別の検索も可能。

日本電脳法律集
金沢大学法学部のHPにある日本の法令集。
WWW六法
インターネット上の法律検索

 (6)労働保険法(労災保険法、雇用保険法)は、労働者を使用するときには、規模などに関係なく全面的に適用されます。労災保険法は、通勤災害の保障もあり、派遣労働者は例外なしに適用されています。もしものときには、必ず労災の適用をしてもらえます。何か不審に思うことがあったり、判らないことなどがありましたら、派遣元を管轄する「労働基準監督署」に問い合わせして下さい。
 雇用保険も同様です。雇用保険の保険料は、労働者負担部分があります。毎月の賃金明細で天引きされているかどうかで確認することもできます。
 雇用保険の場合には、家計補助的な賃金額や就労日数などで、例外的に適用除外される場合があります。派遣元は、雇用保険加入について「選択できる」かのような間違った説明をすることがあるようです。派遣元の言い分を信用せず、公共職業安定所に必ず確認をして下さい。もしものときに、受けられる給付を受けられない等大きな不利益を受けることがあります。
 疑問や詳しいことは、近くの「公共職業安定所(ハローワーク)」に尋ねて下さい。
 なお、雇用保険や労災保険についての関連したページを見て参考にして下さい。
 3300.雇用保険加入 1 常用型の場合
 3310.雇用保険加入 2 登録型
 3320.労災保険・通勤災害は適用されますか?
 3321.通勤災害保障は適用されますか?
 3322.腱鞘炎で労災保険を受けられますか?
 3328.労災保険給付を受ける手続は?
 3330.通勤の途中、交通事故にあってしまったのですが?
 3340.派遣先での仕事中に事故。損害賠償は可能ですか?
 3342.労災で負傷。どのような休業保障がありますか?

 (7)社会保険法(健康保険、厚生年金保険)については、派遣会社が、法律の趣旨に反する間違った運用をしていたことが大きな問題になっています。
 つまり、社会保険の加入は労働者が選択できるという間違った理解です。「時給が高いが、国民健康保険・国民年金のコース」と「時給が低い、健康保険・厚生年金保険加入のコース」を選択させるものです。
 また、「社会保険は2ヵ月後から初めて加入する」として、長期の就労を予定しているのに、最初の契約期間を2ヵ月として、その間は健康保険や厚生年金保険の手続をとらない事例があるようです。こうした方法は脱法的です。
 いずれにしても、派遣会社の社会保険についての取扱いを信用することは危険です。派遣会社が、国民健康保険・国民年金加入も選択できると言ったことを信用していたが、結局、社会保険庁からの行政指導で、遡っての健康保険・厚生年金保険加入となり、70万円近くの保険料を支払うように派遣会社から迫られているといった相談も少なくありません。派遣会社の説明を鵜呑みにせず、必ず、ご自分で近くの社会保険事務所に直接問い合わせをして、大きな不利益を受けることがないように確認して下さい。

 以上、労働者派遣は、派遣元・派遣先・派遣労働者の三面関係です。一般の労働者でも労働条件がどのように決まるか、確認することが難しい面がありますし、口頭の約束だけでは、相手が平気で約束を破ることもあります。派遣の場合には、一般の労働関係以上に、文書での労働条件の確認が必要です。この点をしっかり肝に命じて、派遣元(派遣会社)の言い分をそのまま信用せず、必ず、派遣労働者がご自分で関係機関などに問い合わせをしていただいきますようにお願いします。

 なお、「派遣で働くときの注意事項」をまとめていますので、次のページも是非参考にして下さい。1060.派遣か正社員か? 派遣で働くときの注意は?


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