updated Aug. 24 1998

派遣110番によく寄せられる質問と回答例(FAQ)
質 問 と 回 答 例 (F A Q)

1060. 「会社を辞めよう!」という派遣社員の宣伝がありました。派遣を選ぶべきでしょうか、正社員を選ぶべきでしょうか? 派遣で働くとしたら、どんなことに注意しなければなりませんか?  先月約2年間勤めた会社を退職し、現在求職中です。具体的なことは未定なのですが、1、2年後に結婚の予定があるので、正社員での雇用ではなく結婚後も続けられる人材派遣に登録しようかと考えているのですが、待遇や福利厚生など不安な点があります。やはり、派遣のようないきあたりばったりの就職ではなく、正社員として安定で確実な形で就職したほうが良いのでしょうか。
 できることならば正社員で働くことを勧めます。
 しかし、最近は、正社員の雇用が派遣や契約社員(期限付き雇用)に切り替えられており、正社員で働くことが難しい状況になっているのも事実です。
 そこで派遣で働くときにはかなりの知識をもって、いざというときに対応できる準備が必要だと思います。
 派遣で働くときに注意すべき事項をホームページに掲載する予定ですが、まだ完成しておりません。途中の段階ですが、これから派遣で働こうとされている方向けに110番の担当者からの注意事項をまとめてみました。
 正社員と比べて自由であるとか、オフィスがきれいであるとか、いろいろな仕事を選べるというメリットが宣伝されていますので、110番としては、逆に、派遣会社が決して宣伝しないマイナス面を知っておいていただきたいと思います。

 派遣で働くときの注意事項

 (1)派遣の雇用形態の3面関係という特徴をしっかりと認識しておく。

 直接に労働をする相手(派遣先)と労働者の間に中間者(派遣元)が入る「間接雇用」という形態です。通常は、仕事をする先の使用者が契約上も使用者ですが、派遣の場合は派遣元との間に雇用契約を結び、「使用者」が派遣元(雇用関係)と派遣先(使用関係)に分かれます。
 いわば使用者が2人あるということですが、労働者にとっては問題や要望があるときに責任をとったり、要望を受け止めてくれる相手が誰かはっきりしないという危険性が出てきます。
 派遣先は労働者を直接雇用すれば辞めさせようと思っても簡単には首を切ることができません。派遣であれば、委託を打ち切るという形式で実際には労働者を解雇することができるのです。派遣先にとっては大きなメリットがありますが、労働者にとっては何時でも雇用を失う危険性があることになります。

 (2)派遣元は頼りにならないことが多い。

 派遣元で聞かされた仕事と、派遣先で命じられた仕事の内容が違う。
 残業をしない(3月で仕事を辞める)約束だったのに、派遣先の都合で残業をさせられる(契約の延長をさせられる)ので困っている。などの苦情が110番にも数多く寄せられます。
 ところが、派遣元の営業マンに苦情をいったら、逆に「ぜいたくを言うな。残業(契約延長)をしなければ、次の仕事を紹介しないぞ」と凄まれた。という事例もあります。
 派遣元の仕事は、以前は職業安定法で禁止される「口入れ屋」というものです。近代的な派遣会社という華やかな形で宣伝していますが、実態は、派遣労働者の労働に寄生して、本来なら労働者が全額受け取るべき賃金の3割程度を「中間搾取」する存在です。
 派遣110番に相談が相次ぐのは、派遣元に苦情を持ち込んでも相手にされないので仕方がないからという方が少なくありません。派遣110番は、言い換えれば、無責任な派遣元の代わりに苦情を受け付けて尻拭いをしているのではないかという気持ちになることもあります。
 派遣労働者は派遣先がバラバラですので、お互いに労働条件などの情報交換も困難です。労働組合をつくって集団的に交渉することも難しい存在です。労働者がバラバラで力がないのを前提に使用者としての責任も果たさないでいるので、派遣会社は何時までも社会的に尊敬される企業になれないとも考えられます。
 何も問題がなければ調子がいいが、ことが起これば実に頼りない。派遣元がこのような実体であることを十分に知っておく必要があります。

 (3)派遣労働者と正社員の待遇に大きな違い

 派遣は、大企業のきれいなオフィスでパートタイマーよりも高い時給で働けるということが宣伝されています。
 しかし、日本では同一労働同一賃金の原則がほとんど守られていません。育児休業などの代替も派遣が認められましたが、同じ労働であるのに待遇は正社員とは大きく異なります。ひどい場合は2分の1や3分の1の場合もあります。
 確かに、パートタイマーについては非課税限度や社会保険の被扶養者基準の枠があり、103万円から130万円程度の年収です。これに対して、派遣労働者の場合は、時給1000円以上という点では高給かもしれません。独身であれば非課税限度を超えても気になりませんが、結婚すれば夫の被扶養者としてとどまるのかどうかが大きな問題になり、年収ではパートタイマーと同じ問題が生じます。
 とくに、大企業のOL(直用正社員)と比べたときには、派遣社員の待遇は次の点で大きな差があります。
 1.毎年の定期昇給がない
 2.手当がない(とくに通勤手当。交通費自己負担がほとんど)
 3.ボーナス(賞与)がない
 4.福利厚生が貧弱
 5.雇用保険、健康保険、厚生年金保険への加入がないことが多い
 6.年次有給休暇が不利(6ヵ月以上勤務で10日が労働基準法の最低基準であるが、契約期間が短く年休がないとか、長期雇用の場合の年休の増加がない)

 (4)派遣労働者に対する派遣先の差別的な扱いの例がある

 派遣先によって違いがあると思いますが、110番でよく聞くのは、派遣先の正社員が派遣労働者を対等な人間扱いをしないで差別的に扱う例です。これは、『がんばってよかった』(かもがわ出版)にA子さんからの手紙が掲載されていますので、機会があれば是非読んでみてください。派遣元に書いた自分の履歴書が、派遣先でコピーやファックスされてあちこちに回されていて、住所や電話といったプライバシーへの配慮もまったくないという例や、正規社員がいやがる、いやな仕事を派遣社員に押し付ける例などがあります。
 残念ながら、日本の大企業の職場には競争や能力主義の風潮が強いことや、企業主義の意識も強く、零細な派遣会社からきた外部労働者である派遣社員に対する意識は必ずしも暖かいものではありません。とくに、男性正社員には、男女差別の意識も加わって派遣社員を軽く扱うなどの差別的な傾向があります。

 (5)派遣は、ドライな契約意識を前提にした雇用形態

 派遣は、アメリカから日本へ導入された雇用形態です。アメリカでは労使ともに契約意識が強く、契約書に書かれていないことを命じたりすることは考えられません。契約で細かなことまで約束することが慣習になっています。ところが、日本では、仕事の仕方などを契約書に詳しく書いておく習慣がなく、書かれていないことでも命じられたら断れないことが少なくありません。
 派遣の建て前はアメリカ的ですが、実際の派遣労働は日本的な状況のなかで行われますので、多くの問題が生じます。しかも、アメリカのように契約違反の責任を裁判所で追及することは簡単ではありません。つまり、派遣で働くときには、かなり「ドライな」気持ちで働くという気持ちが必要ということになります。
 具体的には、派遣元も派遣先も信用できないと考えて、契約の内容については文書(就業規則や雇いれ通知書)で細かく確認する、自分の就労の記録をきちんと残しておく、相手の不当な言い分についても正確なメモを残すなどの対策が必要です。

 (6)自分を守るために労働法や派遣労働についての勉強を

 派遣というのは、以上のようにきわめて不安定で孤立した雇用形態です。派遣で働くときには、目的をしっかりと持ち、職業能力や契約意識が十分であることが通常の雇用よりも余計に必要だと思います。
 そうでなければ働いた後にいろいろと不満が残ることが多いかもしれません。とりわけ、自分を守るために労働法や派遣労働についての知識をもつことが必要ですし、日ごろから相談できるところ(この110番もその一つです)や弁護士などを考えておくことも必要です。

 なお、関連して次のFAQ項目も合わせて読んで下さい。
 3002. 派遣労働者の労働条件は何によって決まるのですか?
 3020 派遣会社を選ぶときに注意することは?


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