updated Aug. 24 1998
派遣110番によく寄せられる質問と回答例(FAQ)

質 問 と 回 答 例 (F A Q)

3322. オペレータが腱鞘炎といった、キーボードの使いすぎなどで労災保険を受けることは難しいのでしょうか。  私は、現在派遣社員として、コンピュータによる入力を中心とした仕事についています。最近、キーボードの使いすぎにより、右手が痛むようになり、病院に通院を始めました。派遣会社の担当者に、労災保険の適用になるのか尋ねたところ、
 「オペレーターが腱鞘炎などで労災の適用になることはほとんどない。
 とくに、あなたは入力が100%の仕事ではないから、なおさら労災の適用は難しいと思う。医者に診断書を書いてもらう手数料は、自己負担になるので、労災の適用にならない場合かえって損をする」
 との回答でした。

 【結論】労災保険の給付の支給を求めることは十分可能です。派遣元の対応は、明らかに誤った不当きわまりないものです。
 【理由】キーボード関連の入力作業に伴う病気は、職業病のなかでも典型的なものの一つです。「キーパンチャー病」や「けいわん」と呼ばれる労災保険適用の職業病です。
 私は専門的知識はありませんが、「オペレータが腱鞘炎」というのは、「頚肩腕症侯群」と推測します。
 頚(けい)・・・くび
 肩(けん)・・・かた
 腕(わん)・・・うで
 に負担がかかる作業を長期に行う労働者に発症する病気で、「頚肩腕症候群(けいけんわんしょうこうぐん)」(略称「けいわん」)と呼ばれているのです。
 最初は、キーパンチャーに多かったので、キーパンチャー病とも呼ばれていましたが、その後、タイピスト、金銭登録機(レジ)係、ボールペンで長時間にわたって筆記する事務員、電話交換手など、上肢(うで)を宙に浮かせて作業する人々に共通の病気であることが判り、頸肩腕症候群と呼ばれるようになりました。
 現在では、これらの職種以外に、子どもの世話をする保母さん、手話通訳者などのけいわんが業務上の疾病として認定されています。
 資料として添付しましたが、労働省から昨年2月に頚肩腕症侯群についての新認定基準が示されています。専門用語が多いので判りにくいかと思いますが、是非、読んで下さい。
 同様な病気としては、その他に、腰痛、振動障害、難聴などがあり、慢性的で疲労蓄積的な病気として、業務上の認定をめぐって問題になっており、一つの典型的な業務上の疾病(職業病)と言えます。

>入力が100%の仕事ではないから、なおさら労災の適用は難しいと思う。

 入力が100%でない人でも適用されることはよくあることです。
 作業の態様など、いくつかの要素を総合的に判定しますので、入力が何%だったら認められるといった画一的な認定基準ではありません。
 「上肢作業に基づく疾病の業務上外の認定基準について[平成9年2月3日付け基発第65号]」が、認定にあたる労働基準監督署長がしたがうべきものです。派遣元の担当者は、おそらくこうした基準を知らないと思います。

 この基準について、ご自分の場合をチェックしてみてください。

 医者に診断書を書いてもらう手数料などは、もし、保険の適用を受けることができたら、ごくごくわずかな額です。
 労災の適用は十分あり得ますし、派遣元・派遣先について健康配慮義務違反などで、損害賠償を請求する例もあります。派遣元・派遣先の安全衛生教育や衛生管理体制の不備の可能性もあり、それらについても損害賠償で責任を問える可能性もあります。

>私のように、オペレータが腱鞘炎といった、キーボードの使いすぎなどの >理由で労災保険がおりることは、実際難しいのでしょうか。  たしかに、労働基準監督署は、労働省から「認定基準」を決められており、この認定基準の内容は、案外と厳しいと考えられます。

 もし、この基準をクリアすることができれば、労災保険の給付として、治療費にあたる療養補償給付、休業補償給付などを長期に受けることができます。
 認定を求めなければ、私病となって、健康保険でも自己負担はありますし、休業保障でも6割で1年半までの傷病手当金しかありません。これに対して、労災保険の休業補償給付は、期限についてはとくに制限がありませんし、給付額も特別支給金を含めると賃金の80%をもらえます。

 なお、業務上の災害や職業病ということになれば、派遣元が嫌がるのは解雇することができなくなるからです。労働基準法は、第19条で次のように、労災で療養中の解雇を禁止しています。
 
 労働基準法第19条(解雇制限)

 1 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女子が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。
 但し、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。
 2 前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。

 認定をさせることができれば、有利な給付を受けることができる反面、認定は難しいというのが現実です。認定を受けるためには、しっかりとした証拠が必要ということになります。

 決定的とは言えませんが、きわめて大きな意味をもつのは、医証(医師の証明)です。医師のなかでも、労働災害や職業病の知識が乏しい人も少なくありません。また、医師の多くは、エリートであったり、経営者(病院長)になることも多く、労働者の作業や実情に理解があるとは言えません。そうした医師にあたれば、本来であれば、職業病に該当するものであっても、診断書を出してくれないといった場合もあります。

 各地に、職業病対策連絡会(職対連)や安全センターなどの取り組みをしている団体があります。数少ないながら、公正な立場から労働者の症状を判定し職業病の治療についても経験豊かな病院や医師がいます。そうした病院を探して、認定とともに適切な治療をしてもらうことが必要だと思います。

 これまで多くの労働者や労働医学者が、「けいわん」の労災認定をめぐる取り組みを進めてきました。私たち、法律家も、こうした医師と連携して、職業病の認定の取り組みや認定されなかったときの裁判闘争を進めてきました。
 その結果、労働省の認定基準の改善をはじめ、一つの道が開かれています。その道にしたがってがんばれば、職業病としての認定も十分に可能だと考えます。

 大阪地区では、大阪労災職業病対策連絡会(tel 06-6882-2084)が、けいわんの認定の取り組みを進め、ごく最近の3月20日には、松下電器の大森さんという女性労働者が、北大阪労働基準監督署で「業務上」疾病と認定されたということが報じられています。

 大阪労災職業病対策連絡会の所在地と電話(ファックス)は、次のとおりです。
 郵便番号530 大阪市北区錦2−2 国労会館内 (電話+fax 06-6882-2084)

 また、大阪市にある西淀病院には、附属の研究所として、『社会医学研究所』(tel 06-472-1141)が、主に職業病の研究をしています。その『社医研ニュース』1998年3月20日号では、吹田の東海さん、横浜の鈴木さん、東大阪の山本さんと、保母さんが相次いで『頚肩腕症侯群』で労災保険の支給を勝取ったことを報じています。また、同社会医学研究所では、神戸市職員1600人の頚肩腕健康診断を実施していることも報じています。そこでは、大阪と兵庫の民医連系の病院・診療所から延べ25名の医師が、けいわん健診に参加した記事が掲載されています。

 どちらにお住いか判りませんが、もし、関西地区にお住いでしたら、この社会医学研究所に問い合わせをしていただければと思います。他の地区にお住いの場合にも、各地に民主的な医師のグループや産業衛生に詳しい医師のグループがありますので、探していただければと思います。

 関連したインターネットアドレス、次の通りです。ここから関連した地域の病院名や職業病対策連絡会議の所在地などが判ると思います。

 日本産業衛生学会産業疲労研究会
 全日本民主医療機関連合会(民医連)のホームページ
 もし、必要でしたら、地域を教えていただきましたら、相談できる団体や病院を調べてみますので、お知らせ下さい。

 次のページも参考になりますので見て下さい。
 上肢作業に基づく疾病の認定基準の改正(97年)
 3320.労災保険は適用されますか
 3328.労災保険を受ける手続はどのようなものですか
 3340.労働災害の損害賠償は請求できますか

 なお、労災保険の受給手続きについては、「労務安全情報センター」のHPに、労働省労働保険徴収課編「労働保険の手引(平成8年度版)」をベースにした説明がありますので、これを参照して下さい。


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