第24話 語らいの場所
 文化祭が終わり一段落する事無く、三嶋たちは次の年も進学出来るよう単位を取るための試験の準備をしていた。彼らは図書館で授業の穴埋めをするのが放課後の時間の使い方になっている。試験の日程は科目の履修状況によってはわずかで試験の終わる生徒もいるしかなり多い人もいる。メンバーの中で一番試験が全部終わったが青山だった。
「三嶋と一緒の授業もあったからなんとか単位が取れそうだよ。それに試験もあっという間に終わったしこれで後は春までゆっくりだな」
試験でなんとか単位を取った事に安心して帰ろうとしていると、一人の女性を見かけた。青山が手を振ると、その女性も笑顔を向けた。
「今、帰る所? もう試験は終わったの」
彼女は文化祭の時、大倉のサークルにいた間宮恵理で、文化祭の時、青山と準備の間に気軽に話しかけてから、顔を合わせるようになった。
「ああ、あんまり勉強してなかったけどなんとか図書館でその埋め合わせをして単位が取れるところまで出来た思うから、まあ一安心てとこだろうな」
「じゃあ来年は3年生になれるってことか、一安心ね」
間宮は明るい声で言った。
「そっちの方はどうなんだ?」
「私の方は、専門の科目があと3つ残ってるけどなんとか勉強したからクリアできると思う。きちんと
先生の話を出来る限りノートにと取っておけば、同じ事を毎回言う先生もいるし楽な時もあるかな」
「そういう先生の授業受けりゃあよかったかな? それでも毎日1時間半も集中して話は聞けそうにないしな。まぁ無事に済んだからよかったよ。そういえばこの試験が終わって3年になったら就職活動を始めないといけないし、ゆっくり学生生活をすごせるのも残りわずかって訳か」
「今は新卒の採用が少なくて就職率も低いらしいし、早めに就職活動しているってニュースでやってるからね。早いうちからいろいろ就職課で見ておいた方がいいんじゃない?」
「考えないと、行けないよな」
3年になってからは就職活動だけでなく、自分の専攻する学科のセミナー等やる事が多くなるの
で青山としてはのんびりしていられない心境であった。
「あ、そうだ。今度の土曜日に文化祭の打ち上げをするんでみんなの赤坂の店で集まることになったんだよ。大倉たちも誘ってみたら来るっていってたな、確か」
大倉たちと文化祭以来、親しくなったためさらに親交を深める意味と、店の売り上げのために赤坂の店で集まる事を計画していた。
「それなら私も来ていい? またみんなに会いたいから」
「もちろん!」
この二つの会話で約束が決まった。
 その土曜日の夕方、みんなが赤坂の店に集まっていた。店側で用意された物だけでなく、自分たちで持ち込んだ物も準備して、楽しい時間が始まった。
「それじゃあ、今回の文化祭で出会った事を感謝して、乾杯!」
「乾杯!!」
三嶋たちと大倉のサークル一同、赤坂の叔父たちも混じってつきない話をしながら食事を楽しんでいる。
「本当にさ、すごいよみんな。前の時よりも上達していると思ってたんだよ」
赤坂が飲み物を片手に、青山の肩に手を置いて明るい表情を浮かべている。
「そうだな、でも今回は大倉たちのサークルの手伝いもあったからさらに去年以上に盛り上がれたような気がするよ」
「結構みんな一生懸命舞台作りとか、練習に力をいれてたもんね。サークルの中だけだと毎回同
じことばかりやってきているから、面白みがなくなってね。大倉君は現状を悩んだ末、協力をたのんだって訳」
間宮が大倉の横で今までのいきさつを話した。
「最初はその話を持ちかけた時、うちのメンバーは乗り気じゃなかったんだけどさ、なんとかサークルを続けるきっかけにしたらどうかって説得し続けて来たからねぇ」
彼らは今までの事を振り返りながら、この時間を楽しんでいる。
 三嶋は別のテーブルで中林、金井、青山の所へ移動しては会話を弾ませていた。次第に時間が経つにつれ、全員地下室のスタジオに行って三嶋たちの演奏を楽しむ流れになった。誰もが曲と中林の声を心地よく聞いていた。その後の拍手と歓声はかなり大きかったが地下なので誰にも迷惑をかける事無くすんでいるのはありがたかった。
「こういう場所があったんだなぁ、ここなら結構コンサートも出来そうな気がするけど」
「そうだな、いずれそう言う人達が来たらこの場所を貸して、多いに役立てられると思うよ」
赤坂は実は、この場所を練習するだけの物だけではもったいないと思っていた。叔父にその話
は何度かしてはいるようだが進展していない。
「確かにな、まぁ、場所を提供すればバーとしての売り上げとか場所代でも稼げるということだろう? お前の言いたいのは」
「その通り!」
赤坂が笑みを浮かべた。
それから程なくして飲み物が2時間も立たないうちになくなっていた。あまりにも盛り上がりすぎて
いるようだった。
「あっという間になくなってしまったようだな、この店の物では少し足らないようだが、どうする?」
赤坂の叔父がバーの冷蔵庫を見て言った。
「それじゃ、俺行ってきますよ。すこし演奏したせいか疲れましたからね、ちょっと外に出て気分を変えに行ってきます」
三嶋がそう言って、近くのスーパーへ買い出しにすすんで行く事した。
「いやぁ、済まんねえ。曲を聞かせてもらったのに手伝わせてしまって」
「あそこなら24時間やってるんですこし買ってきます」
「私も、行って良い?」
金井菜々が静かな口調で聞いて来た。
「じゃあ、一緒に行こう」
 2人で夜の町並みを歩いていると、空には星が少し輝いてて、町の街灯や駅前の店のネオンが明るさを少し残していた。彼らはすぐスーパーで買い物を済ませた。酒瓶やビールの缶で溢れている袋が彼らの両手にあった。
「少し持とうか? そっちのは重たそうだから」
「ありがとう、でも大丈夫」
三嶋の気遣いにもかかわらず、金井は少々無理して荷物を持っていた。二人は少し歩いて近くの
公園のベンチに腰掛けた。
「結構買い出ししたけど、重かったな」
「瓶が2本に後は缶が多かったから重たかったね」
二人は少し休んで、星の少ない夜空を見ていた。
「私、大学に入ってからいろいろと楽しい事に出会えた様な気がする。中林さんやサークルのみんなと会ってから、今までのつらかったことが少しでも忘れられるんじゃないかって感じて・・・」
「良い仲間に出会えたんだよな、きっと。実はさ、俺も実家にいた頃はあまり良い思い出がなかったからなぁ、今こうしてみんなと出会って自分の気持ちが充実しているって感じが不思議なくらいに感じるよ」
「なんだか私、あなたといると本当に心を開いて自分の気持ちを素直に伝えているのかもれないって思っていたの」
「俺といると?」
「うん、あまり私の話って面白くないから、何か変な事言ったんじゃないかって思われるのが不安で・・・、でも三嶋君はきちんと話を聞いてくれたから」
金井は自分のつらい部分を話すのに聞いてもらえるのかどうか、またからかわれたりすると戸惑いを感じていたようだ。
「変な事か。俺はそうは思わないよ、俺は人の話はきっちり行くタイプだけどね」
夜空を見ながら、うつむいている彼女に答える。
「もしかしたら、金井さんの中でよほど気になる事があって今まで言い出せなかったんじゃないか?」
「そう、かもね・・・、なんだか私の気持ちをわかってくれたようで本当にうれしい」
彼女は三嶋の気遣いある言葉に満面の笑みで喜んで答えた。
「またこうやって話せる時が来ると思う?」
「そうだな、卒業して社会人になった時どうなるかなんてわからないけど、この町にいる限りはまた会えるんじゃないかって、前向きに考えていたいな」
「そうだね」
「そろそろ行くか、みんな待ってるから。まだ盛り上がっているからこのままだと2時間はまだ続きそうだ」
2人はまた重たい荷物を持って仲間の所へ戻って行く、この時間の間に、二人の中で少しずつ「お互いの信頼」というものが芽生えていた。