第22話 文化祭に向けて
 友人の所属するサークルとの話をメンバーに話した所、だれもが首を横に振る事は無かった。
「毎年同じ雰囲気じゃあねえ・・・、そうしてくれると一段と盛り上がりも違うとは思うよ」青山はその
サークルのことはよく知っていたようだ。
「けっこうあそこのサークルは自分の感じた表現をどうしたらデザインできるかなんて、本格的に
考えてやっているところだからなぁ。期待しても良いんじゃないか?」
「うちのサークルもけっこう乗り気だったから、そういうの考えつかなかったよね」
それからサークルでの話し合いが行われ、舞台の作成だけでなく演出でも協力を依頼し着々と
準備が進んで行った。文化祭までの準備は去年より忙しくなっていた。
 今、大倉のいるサークルの部室でこれからどうやって舞台をつくるか話し合っていた。
「そうだな、この色だと暗くなった時に少しわかりずらいからもう少し明るくしよう」友人の大倉が
舞台の作成に使う色見本を見て言った。
「舞台の演出っていうのはどんなものなんだ? 俺にはちょっとわからないよ」
「なんていうのかな? 例えばみんなが演奏する曲の雰囲気に合わせて舞台や照明の設定をしたり、面白い仕掛けなんてのも・・・」
「いやぁ、それは面白そうだけどそこまでは手間がかかりすぎて大変じゃないか?」延々と話し合いで1時間が流れた時、三嶋か部室にやって来た。
「よう」 
「あのさ、なんか手伝える事、あるかな」
「実はまだ考え中なんでね。せっかくだから今話し合っていた事についてお前の意見を聞いてみようか」大倉は三嶋に今までの事を話した。三嶋はその話にどうも不安な表情を浮かべていた。
「大掛かりなんだな・・・。それにこれだけの物を作るとなると費用がかかるんじゃないか?」
「そこについては抜かりは無いよ。部費だけじゃ無理だからコンビニで段ボールをもらったり、ゴミ捨て場の廃材を使ってやろうと思っているんだよ」
「物はやりようって事か?」そこで部員の一人がこう言った。
「他にも近くのアウトレットならセールが多いから手に入る物もありそうだぜ」
「それならなんとかなりそうだね」三嶋は心で彼らの協力に感謝した。
 その後、文化祭までの間、大倉たちは舞台制作に力を注ぎ、三嶋たちも盛り上がりの欠く事のないように自分たちの気持ちを高め合いながら練習を積み重ねていた。
「今日はここまでだな、段々と曲もやっているうちに確かな物になっているようだな」青山がすっきりした表情で言った。
「他のサークルと一緒に文化祭を盛り上げるんだもん、やりがいは十分にあるんじゃない?」中林も明るい声で答える。
「次の練習は今週の木曜日だな? 文化祭まであと3週間か」
「じゃあ、またスタジオで」みんな解散した後、三嶋は一人家路に向かっていた。その途中後を追って来たのは金井菜々であった、彼女の左手に買い物袋が。
「あれ、もう帰ったんじゃないのか?」
「今日は私が食事作る番だったからすこし買い物して来たの」
「そうか、お姉さんと二人暮らしだから家事も色々とやることが多そうだね。それに結構買い込んでる様子だけど、一つ持とうか? 重たそうだから」三嶋は自然と持っている買い物袋を見て言った。
「でも・・・」
「一人でそこまでやってるんじゃ手伝わない訳には行かない気がしてね」
「それじゃ・・・、ありがとう」三嶋の持った買い物袋はずっしりと野菜や食料品で重たかった。
「今年は去年以上に文化祭を盛り上げられそうだね」
「うん、他のサークルの人達と一緒にできるなんて思っていなかったから」
「正直言って、これからサークルで何をやっていいか目標が見えなかったんだよ。いつもの通り練習して、発表しての繰り返しだったんで味気なかったのかも」
「そう、実は私も」
「金井さんも?」
「もともとピアノは小さい頃からやっていたし、今も勉強はしているけど将来の目標がまだわからなかった。だから私もどこかで戸惑いがあったと思う」
「お互いにまだやれそうなことを見つけようとしているって訳か、今のうちだけなのかな? そう言っていられるのは?」 
「これから卒業して社会に出てからどうするか考える時が来るかもしれないのね」
「そろそろそんな時期になりそうだ、学生生活を精一杯送って生きたいもんだ」二人の家路の空は夏よりも早く、薄い夜の青さに変わって行った。