第23話 精一杯のコンサート
 三嶋岳人の友人である大倉の所属するサークルとの、文化祭での合同活動の準備は順調に進み、いよいよ文化祭当日を迎えた。例年になく多くの人々が大学を訪れ、大学の友人の様子を見に来た人や近所の人々、その他大勢でひしめき合っていた。三嶋たちのコンサートは体育館で初日と3日目に行われることが決まっていたが当日ギリギリまで準備に追われている状況だった。それでも、彼らはコンサートの成功に向けて精一杯力を尽くしている。
「大倉、ピアノはこの位置で良いのか?」
青山がピアノを舞台で手探りに動かしながら聞いて来た。
「そうだな、もう少しその段の2センチ前まで出してくれないか」
「この飾りはどこで良いの?」
「その飾りはボーカルの立ち位置の周りに置いてくれればいいよ」
「おーい、舞台の設置はいつ終わるんだ? そろそろ照明のチェックもしたいんだけどさ」
サークルの一員の声が体育館に響く。とにかくコンサート開始まで忙しく動いていた。なんとか舞台のセッティングが終わり、リハーサルを始める事に。開始まで後4時間となっていた。
「そろそろね、青山君。今まで練習して来たけどどうしても緊張するね」
中林が舞台の目の前の光景を見つめて言った。
「やれるだけのことをやったんだ、なんとかなるさ」
「また、ここでコンサートをやれるんだな、俺たち」
野中がしみじみと今、そんなことを思った。リハーサルも練習の成果があって、演奏に息もあって以前よりも増して曲が洗練されて行ったようだった。
「ここまで迫力のある曲が聴けるなんて、うちの文化祭って良いよなって思ったよ」
大倉が改めて彼らの演奏に感心していた。こうしてリハーサルが終わり本番を待った。
 やがて開場となった体育館は人の群れであふれかえっていた。コンサートの始まるのを待つ人や試しに見てみようとしている人達の声が混ざり合っていた。舞台の裏では三嶋たちが開始を待っていた。
「いよいよ、か」
以前もコンサートに参加して慣れているつもりだったが、緊張感が抜ける事は無かった。
「この人の声を聞く限り、去年よりも多そうだな」
「でも、私たちここまで精一杯やって来たから・・・」
金井は舞台の外の雰囲気を感じながら、気持ちを落ち着けていた。そして幕が上がった!
観客の数々の拍手が重なり合って、彼らを待ちわびていた。もう後には引けない、今は自分たちのやって来た事をぶつけるだけだ。
「みなさん、うちの大学の文化祭に足を運んでくださって本当にありがとうございます、まず始めの曲は・・・」
曲が始まるごとに照明の度合いや光の色を使った演出、舞台の仕掛けなどで手作りではあるが「ここまでやるのか」という意気込みを伝える事が出来た。この日のコンサートは体育館の観客を盛り上げ、その歓声と雰囲気がさめる事無く続いて行った。そして絶え間ない拍手が響き渡る。
「今日はありがとう! 以前は演奏だけでしたが、他のサークルと協力して舞台の演出にもこだわりをお見せする事が出来ました」
その後、このコンサートに携わったメンバー紹介をしてこの日は大盛況の中、無事に終える事が出来た。
 「俺としてはやれることはやったし、評判も良かったから俺としては満足だな。なにせサークルもだらだらやっていたもんだから、みんなの協力があってこそだったよ。本当にありがとう」
大倉は大変満足している様子である。
「そう言ってもらえるとうれしいよ、でも最終日が残っているんだ。まだこれからじゃないか?」
三嶋は大倉の表情とは反対に冷静に答えた。
「今回のコンサートは彼らのサークルの協力があって本当によかったよ。毎年演奏だけだと面白みが無いって思っていたからさ」
「そう言ってくれるとうれしいよ」
大倉以下の仲間たちも三嶋たちの話を聞いて心から喜んでいた。
「あとは最終日だな。この調子で行こうじゃないか」
その後、最終日のコンサートも成功を収め、この年の文化祭も無事に終わった。