第21話 それから 
 長い夏休みが終わりを告げ、その余韻が残ったまま新学期が始まった。三嶋たちは文化祭に向けてコンサートの準備に入ったが、とりあえず履修科目を落とさずに次の学年に行けるように勉強の時間も作っていた。
 三嶋は授業が終わった後、調べ物も兼ねて後期のテストの準備をしていた。今日は講師が自分の学会で休んでいることや、もともとその日は授業が少ないので午前中には終わってしまったの
で、出来る限りの事をやっていた。
「とりあえずこの一般教養さえなんとかなれば単位が取れそうだ。コンサートの準備と同時進行って大変だよなぁ。もう今日はこれくらいにして帰るか」彼はひと呼吸置いた後、何重にも重なった本をさっさと片付け学校を出た。まだ、夏の暑さを残しながらその空は秋に一歩ずつ向かっていようであった。それから、電車での帰り路の景色を眺めていると、町にビルがあちこちに建ち始めているのを見ていた。最近この付近の町にある埋め立て地の開発が盛んで、この紗峨野町もその影響が及んで来たからだ。
「ここに来てから一年くらい経つけど、随分とこの町の景色もあっという間に変わって来たような気が・・・」ただじっとその景色と少し曇りかかった空を見ていた。
 駅をおりてから、交差点を通って商店街に向かっていると金井菜々の姉、佐知子の姿を見かけた。三嶋はごく普通の挨拶をして頭を下げた。
「今日はもう授業は終わったの?」
「ええ、講師が休みだったりしたもんで授業が午前中で終わったんですけど、テストも近いんで少し図書館で自習してました」
「自習か、けっこうちゃんとやってるんだ」
「あまり単位を落とすと卒業できなくなりますから、やれるだけのことをやってます」
「いつなの?」
「11月の半ばくらいです。文化祭を平行して勉強してるんで頭の整理がつかなくて・・・」
「結構大変ね」少しの会話の時間の後、三嶋は自宅へ。それから食事を終えた後、クラスメートから電話があった。
「もしもし、大倉です。夜遅くに悪いな」
「よう、どうしたんだ?」
「少し聞きたい事があるんだけどさ、今年の文化祭でそっちのサークルはまたコンサートがあるんだろうけど会場を体育館にすることになるのか?」
「そうだね、やっぱり人が入る場所がそこしかないからね」
「実はうちのサークルで自分たちの作品を発表していたんだけど、なんかやりがいが無くてさ、それで会場のデザインとか装飾とかうちらで出来そうな事を協力するつもりなんだよ」なんでも、彼のサークル活動は自分たちの感性を追求した美術関係のサークルで、毎回同じ事をしているので面白みがなくなったようで、他のサークルとの合同での活動を考えていた。そのため、知っている仲間に呼びかけていた。
「そうか、まぁ俺の一存じゃ決められないけどね。前の文化祭は自分たちでいろいろやってたから
結構大変だったんだよな。まぁそっちのサークルの美的センスならもっとよくなるんじゃないか?」
「その発言からすると、お前はこの話に乗ってくれそうだと思ってるよ。まぁいずれそっちのサークルに話しに行くよ、じゃ」
電話をテーブルに置いて、横になりながら三嶋はふと思った。
「他のサークルと協力か・・・、それも面白そうだな」今まで以上にサークル活動が楽しめそうだと
三嶋は感じていた。