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「脳ってすごい!―絵で見る脳の科学」ロバート・オーンスタイン (著), リチャード・F・トムソン (著), デイヴィッド・マコーレイ (イラスト), 水谷 弘 (訳)(草思社 1993年6月)

→目次など

■増築を重ねてでき上がった脳はそもそも思考のためではなく制御のための機関。顔や体と同様に差異を持ち、ときに不都合な癖や要件を持つ存在でもあるのだ。■

1993年発行で20年以上経った今でも新刊が販売されています。

沼地に立つ巨大な怪鳥のような姿で、大脳を除いた脳の構造を立体的に描いた表紙からわかるように、脳をそのまま図にするのではなく、深い印象を与える形にアレンジしたイラストが多用されている点が特徴になっています。事実、このようなイラストで示された小脳は、私の体内に実在している構造としてこれまでにない現実味を持って感じられてきました。

「まえがき」には次のように記されています。

脳は、いわばきちんとした計画もないまま長い年月をかけて増築されてきた古い家のようなものです。この本で、わたしたちはこの家がどんなつくりになっているかを見ます。まず、そのいろいろな部屋をまわることから始め、だんだんと部屋をつくっている材料まで見ていこうと思います。そのあとで脳の不思議さや具体的な例と人間の経験の成り立ちについても考えてみましょう。多くの挿絵や図がヒトの脳という驚嘆すべき器官の複雑なしくみを理解するのを助けるでしょう。

この言葉のとおり、生物の発生から現在のヒトの脳までの増設具合を知っていくことは、脳の大部分を無意識が占めていることを理解することにつながり、 「心の領分の多くの部分は、自我の意識的な努力ではどうすることもできない、生まれもった身体の顔つきや体つきと同じように、もって生まれた自然としかいいようのない部分だ」(『覚醒する心体』)とならざるを得ない事情も納得できてきます。

脳の発達を知ると、私たちがどのように暮らすべきであるのかも知ることになります。

ヒトは直立したことで頑丈な腰を必要とするようになり、産道が狭くなったために、あまり頭が成長しないうちに出産しなければならなくなりました。これを知ると、新生児にはしばらくの間、母体内で過ごすのと同じような保護された栄養豊富な環境が必要になるであろうと思えてきます。

視力が十分に発達するためには、生後一定の時期までに目を十分に使う必要があります。これを知ると、まだ幼い子どもには平面的な映像を見せたくなくなります。

遊ぶことや仲間と過ごすことの重要性を示すラットの実験も示唆的です。毎日違った遊び道具を与えられ、十二匹の仲間と遊びながら過ごすラットは、一匹だけにされ、おもちゃもなく、仲間と触れ合うこともできないラットと比べて脳が10%重くなるというのです。

プラセーボに関する記述もあります。これを読むと、痛み止めを飲んだと信じ込んでいる場合、実際に脳内でエンドルフィンが作られているというのです。

右脳と左脳の違い、利き手の影響、男女差などを知れば、私たちは、癖の強い、思い通りにならない肉体を持っていることを知らされます。

私は、言語を使うようになって人類の脳は退化したと考えますし、抽象概念は詐欺師の第一歩であると考えますから、言語能力や抽象概念を操る能力がこの本で称賛されているたびに、そうではないといいたくなります。子ワニのために体を丸めてプールを作ってやる親ワニの優しさや、ミズオオトカゲの豊かな感情表現(『高田栄一の爬虫類ウォッチング』)を知れば、下等な脳から高等な脳へと一直線の進化があったかのように思える記述も否定したくなります。

それでも、長く売れ続ける理由に納得のいく本でした。

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内容の紹介

ニューロンの基本的役割は、情報を処理し、それをほかのニューロンに伝え、最終的には行動をおこさせ、経験を形づくることにあります。 神経細胞は神経線維を通じて電気的信号を送って情報をほかのニューロンに伝えると多くの人は考えていますが、そうではありません。 神経細胞が活動しているときは、たしかにかなり強い電場が発生します。 それはヒトでも動物でも頭の表面を通して記録することができるほどのものです。 しかし、神経を刺激すると発生する電気(神経インパルス)と電線を流れる電気とはまったく違います。 神経繊維の内と外で化学粒子の交換がおこなわれ、そのためにおこる電気的変化が神経繊維をゆっくり伝わっていくのです。 - 65ページ

基本的な知識なのでしょうが、なぜ、頭にネットをかぶせて実験をしているのかをようやく理解できました。

長距離のジョギングとかスカイダイヴィングといった疲労・緊張をともなう活動は脳からアヘン類似物質を放出させ、そのために麻薬的効果があるのではないかと考えられます。 よくある例としては、熱心なジョッガーたちの経験する"昂揚した"気分があります。 一定のリズムで長距離をジョギングすると、強い喜びの感情、つまり多幸感が生まれてくると彼らは報告しています。 興味あるのは、出産時、陣痛が近づくと、母親の血液中のエンドルフィン濃度が急に高まり、お産の最中には親も子も正常の一〇倍もの値を示すことです。 これは母親のからだが現在経験している痛みやストレスから自分も子供も守ろうとしていることのあらわれなのです。 - 93ページ


脳を成長させるのは経験の積み重ねだけではありません。 空気のマイナスイオンの増加(荷電し空気は山頂や滝のそば、海岸などに多い)も脳の成長を促します。 ダイアモンド(引用注:研究者)はラットのゲージにマイナスイオン発生器をそなえたところ、脳の生長に同じような変化がおこりました。 ですから、友人や刺激となる経験が脳の糧となるだけでなく、山頂や滝のそばなど、イオン濃度(プラスであれマイナスであれ)が高いところも脳の生長に影響を与えるのです。 イオンは神経伝達物質の化学構成をも変え、気分を高めたり、憂鬱にしたりすることもあるのです。 だれでも山に登ったときの気分の高まりや、サンタアナ(訳者註:カリフォルニア南部で内陸の砂漠から吹きつける熱風)に吹かれたときの気分の落ち込みを知っているでしょう。 - 166-167ページ


マサチューセッツ工科大学のリチャード・ワートマンによる最近の実験では、食事によって短期間に、脳の化学組成のいちじるしい変化が認められました。 従来の研究でタンパク質を食べると脳のセロトニンが増加することがわかっていましたが、コリンに富んだ物質を食べると、脳の中の神経伝達物質アセチルコリンが劇的に増えて、とくに脳幹と大脳皮質でこの変化がいちじるしくなります。 コリンはレシチン(サプリメントとして市販されています)や卵黄、そのほか量はわずかですが、魚、穀類、豆などに含まれています。ですから、卵は魚より"脳にいい食べ物"なのです。 どんな食事が学習や記憶によいかは実証されていませんが、そうした研究をしてもむだだと無視するのは愚かなことでしょう。 - 167ページ

研究が進むことは恐ろしいとか、バランスが問題なのではないかとも考えますが、食の将来を考える上で必要な知識であると考えます。


  もう一つの最近の重要な発見は、病気や毒素などにたいするからだの防御体制、免疫系に関するものです。 ジョナス・ソースがかつて指摘したように、免疫系は脳と似た機能をもつ高度に複雑な機能です。 今日、多くの研究者たちは第一に脳が免疫系を統制していること、第二に免疫系そのものの状態が、毒物を摂取したりウイルスや細菌などに感染するよりも、病気の発生に重要な関係をもっていると指摘しています。 ウイルスには単純ヘルペスのウイルスのようにからだの中につねに存在しているものもありますが、それが動きだすのは免疫系が狂ったときだけです。 からだの中には癌になりうる細胞もつねに循環していますが、健康な人ではそれらの免疫系によってたえず除かれているのです。 これらの"変異細胞"がどこかに定着するのは、遺伝ないし環境のある要因が免疫系のはたらきを抑制したときだけなのです。
  ですから、免疫系は癌や分裂病を含む、治りにくい多くの病を治したり予防したりする鍵をにぎっているとも考えられています。
  現在、脳に関して最も興味をそそられる研究は、心理作用、たとえばストレスなどの免疫系への影響に関するものです。 生活上の出来事や人格上のある特性が、病気になったり治ったりすることに影響をおよぼすのです。 たとえば、最近のある研究では、乳癌の患者で、癌の大きさや治療法よりも、患者がいかに精神的に病気に対処しているかが、回復に重大な効果をもつことを示しています。 - 174ページ



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「ルビリン」は東山動物園にいたアムールトラの名前です。土手で出会った子猫を迎え入れ、「るびりん」と命名しました。

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