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「新版 催眠法の実際」斎藤稔正 (著)(創元社 2009年9月)

→目次など

■「催眠術」の誤解や偏見を解き、広い視野から催眠を研究したり、臨床的に応用したりするための学生、専門家向け入門書■

本書は催眠法の実際というだけに、催眠法を実践するときの注意点や方法を主としていますが、今回は、催眠とは何かに絞って読んでみました。

誤解されている催眠
テレビ番組に催眠術師が登場し、面白いようにタレントを操る様子を見て、「こんなバカなことがあるはずがない」と私も考えていました。きっと、催眠術にかかったふりをしているにちがいないとしか思えません。しかし、実際の催眠法は、これらとは違うようです。

本書を一読すれば明らかなように、催眠は極めて自然な普遍的な心理現象である。少し勉強すると直ちに理解できると思うが、極端な過信や不信の対象にされるほど奇異な現象ではない。毎日の日常生活で体験するさまざまな心理現象に対して向ける、ごく普通の科学的、客観的な態度で催眠現象にも接して欲しいものである。(5ページ)

本書によると、催眠を初めて経験した多くの人は、自分は催眠にかからなかったといい、暗示に従ったのも、わかっていたが面倒だったからだというそうです。実際には、これが催眠の効果であり、意識の変容が起きているために、通常であれば、拒否するような暗示を受け入れてしまうのです。

催眠は8割の人に有効であり、頭がよくても、性格が素直でなくても、催眠のされやすさには影響しないことが判明しています。催眠の深度と感受性は別々の要素であり、催眠にかかりやすい人が、深く催眠されやすいわけではありません。

催眠とは

催眠とは、「人為的に引き起こされた意識の変容状態であって、種々の点で睡眠に類似しているが異質のものである。被暗示性が著しく亢進するので、覚醒時に比較して、暗示によって運動、知覚、思考などの異常性が一層容易に引き起こされるような状態を指して言う。(18ページ)

とあります。 催眠状態では、次のような変容が起きます。
・意志の力が低下
・特定の対象にだけ注意を向ける
・過去の経験を思い起こす
・現実を吟味する力が低下して歪曲された現実を受け入れやすくなる
・被暗示性が亢進する
・与えられた役割を演じようとする
・健忘
・身体的にリラックス
それぞれの起きやすさにも個人差があるようです。トランス状態は催眠における変容の一種です。

催眠の利点
では、催眠にはどのような利点があるのでしょうか。本書には、催眠の応用として「精神的健康」「セルフコントロール」「性に関する諸問題」「教育への利用」「スポーツ」「創造性の開発」「医学的利用」「歯科への利用」が上げられています。

たとえば、痛みの半分以上は心理的なものであり、催眠によって大幅に軽減できます。アルコール依存症や、不眠、肥満などにも応用可能です。出産時の痛みに耐えることや、あがり症への対応、乗り物酔い、ADHD、アレルギー体質など、多くの症状や問題に対応できる可能性があります。

終わりに
催眠は自分自身にかけることもでき、繰り返すことによって、感受性が向上します。催眠をいかがわしいものと考えず、生き物に与えられた能力であるととらえたならどうでしょう。たとえば、森の精霊を信じて、川の向こう岸に精霊の姿を見るアマゾンのピダハンたちは、だからこそ幸せに生きています。催眠を能力と見なし、意識変容を受け入れ、自己催眠で強化することで、そのような暮らしを私たちも取り戻すことができるのではないでしょうか。物質文明に限界を感じるとき、私たちは、私たちが機械ではなく生物であることを思い出します。

内容の紹介


初めて催眠された人が、覚醒後にその感想を求められると大抵次のように答える。 「私は催眠にかからなかったと思います。 だって、私はあなたが催眠をかけている時に、ずうっと意識があったのです。 暗示された事も抵抗しようと思えばできたのですが、とても面倒だったので抵抗せずにそのまま従ったのです」。この内省報告は、被験者が「自分が催眠された」ことを実証している。 - 19ページ

タレントであれば、やらせ(演出)に加担したという意識になるかもしれません。


近年、夢および研究は大脳生理学の領域で新たな転換がなされている。 例えば、ホブソンの提起した「夢のAIM理論」は大変興味深い説である。 彼は、REM睡眠中に生起する夢が、脳内の化学物質のアミン系(カテコールアミン、ノルアドレナリン等)とコリン系(アセチルコリン等)のどちらかの優位性によって決まることを指摘し、更に夢の内容を仔細に分析してみると、明らかに精神異常者のそれと殆ど同じものであったことから、夢は正常者の異常状態であると指摘している。 - 29ページ


心理療法の中には、リラックスだけで一つの技法として体系化されているものもある。 例えば、近年脚光を浴びている自律訓練法や漸進弛緩法は、リラックスだけで心身の健康の増進を図るものである。 前者は一種の自己催眠法ともいうべきものであり、他者催眠法における誘導時のリラックスの暗示を自己暗示用に細かく修正し、体系化したものである。 その内容は、リラックス時の特徴である温感、重感を中心に、心臓、腹部、呼吸、前額の涼感などの生理的変化をコントロールしようとするものである。 - 44-45ページ


催眠感受性とは
催眠は知能が低い人とか、性格の単純な人だけがかかるという一種の偏見とは逆に、個人差はあるがほとんどの人が反応する普遍的な現象である。 ある人が催眠状態に誘導されて、催眠時に固有の特徴的な行動や心理状態を示す程度は催眠感受性とよばれている。 だから、催眠感受性は、ほとんどの人にみられる一種の能力のようなものと考えてもよい。 - 61ページ


間接暗示――直接暗示とは逆に、相手に暗示の内容は理解できるが、背景にある行動を生起させようという意図や目的が気づかれないように隠されているものである。 上述の無痛覚の場合、痛みについては何もふれず「あなたの手は少しずつ痺れてきて、だんだん何も感じなくなります」というように暗示する。 この方法は、テレビ、ラジオ等のマスメディアを通じて行われる広告、宣伝では頻繁に利用されている。 - 73ページ

それゆえに、催眠について知識を得る必要があるといえます。


等作用被暗示性亢進の現象があるために、催眠は深化していくのである。 これをねらって誘導暗示などでは、リラックスやイメージ、注意集中、眠りなどを何度も反復してこの現象を利用している。 - 85ページ


年齢が進むにつれて、平均的には催眠感受性は漸減していく。 ただし、催眠感受性は年齢だけによって規定される訳ではないので、逆に年齢と共に上昇したり、何年たっても児童の時と変わらず高い人もいる。 - 93ページ


性差を調べる研究は数多くなされているが結論として性差はみられない。 - 93ページ


催眠でのイメージ療法では、患者の幼時期の外傷体験を探索するために、イメージの中で年齢退行させて、その体験を再現させ、洞察への手掛かりとするようなことが行われる。 また、現実おいては表出できなかった感情が、イメージでは非現実的であるので抑圧がとれて自由に行動でき、一気に浄化(カタルシス)できるような可能性もある。 - 157-158ページ


そもそも病気は過剰な心身の緊張から生じるものである。 すなわち、リラックスしていない状態を言う。
このように考えると、催眠は精神的健康にとってきわめて有用性の高い手段になりうることがわかる。 元来催眠は、医師のメスメルが治療の一手段として用い始めたものである。 そのような経緯もあって、その後の研究も医学における治療目的の暗示を中心にして進められてきた。 しかし、現代では、単に病人を治療するという目的だけではなく、健康な人たちへの積極的な利用ということも大いに考慮されなければならない時代にきている。 - 172ページ


歯科というと痛みを思い出すほどに、両者は極めて密接な関係にある。 よく知られているように、痛みの要素を分析してみると半分以上は心理的なものである。 このことは、痛みが化学薬品や物理的手段によってだけでなく、心理的にもコントロール可能な対象であることを示唆している。
(中略)
催眠が無痛の抜歯や治療に有用なのは、直接感覚的な痛みを除去できるからではない。 もちろん「痛くない」という直接暗示で和痛も可能であるが、それよりも痛みに伴う苦しみの成分を軽減するのに催眠は著効を示している。 - 217-218ページ


「最近の催眠利用の状況」より
一、自発的に生起する生理的な意識水準の低下を利用するエリクソンの技法
二、トランスを誘導しなくても伝統的な催眠現象が生起可能であることを主張する、T.X.バーバーの流れを汲む、バイオ・フィードバック技法など
三、心身相関の観点から心身症などの諸問題に催眠を適用
四、近年増加しつつある特定の疾患や嗜癖(解離性人格障害、PTSD、摂食障害、禁煙、偏頭痛)に対する催眠の頻用
五、催眠の部分的な要素の利用、他の療法との併用


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「ルビリン」は東山動物園にいたアムールトラの名前です。土手で出会った子猫を迎え入れ、「るびりん」と命名しました。

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