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「脳の神話が崩れるとき」マリオ・ボーリガード (著), 黒澤 修司 (翻訳)(KADOKAWA/角川書店 2014年1月)

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■ニューロフィードバックがアルコール依存症の治療と再発の防止やてんかんの治療に役立ち、長年瞑想を続けた修行僧の脳には変化が生じ、催眠は痛みを消し、臨死体験者や宇宙飛行士は価値観を変える■

「熟練の科学者たちが子どもたちに決して教えようとしない、ささやかな秘密がある──それは、『科学の世界に足を踏み入れるのならば、自分の精神は棚に上げなければならない』ということだ。これは、いくら人々が精神の存在を感じていようと、現在の科学では存在していないことになっているからだ。意識、意思、感情、そして理論という言葉でさえ、科学においては、脳という言葉に置き換えられてしまうのだ。

これは、本書の著者であるマリオ・ボーリガードが物質主義的な理解の偏りを問題視して、「はじめに」で紹介しているラリー・ドッシー博士の言葉です。

こうして、現在の科学における物理主義、還元主義、客観主義を疑問視しながら、語られる内容は、プラシーボ効果や、ニューロフィードバックといった客観的に確認可能なものから、超常現象という眉つばな内容や、臨死体験による幽体離脱、宇宙飛行士が感じる神の存在といった主観的な内容にまで及んでいます。

第一章「思い込みが生死を分ける」では、実際には何の治療もしていないのに強力な治療が施されたと信じることで実際に病気が治ってしまうプラシーボ効果の大きさが示されています。多くの新薬が偽薬との比較試験で偽薬を越える効果を出せずに認可されなくなっているといいます。つまり、偽薬を新薬であると偽って施すことで、それほど大きな効果を発揮してしまうのです。実際には治療していなくても痛みまで軽減するそうです。

第二章「脳を心で操作する」では、猫の実験から発見されたSMR(Sensorimotor Rhythm)と名付けられた12Hzから16Hzの脳波リズムを出すようにニューロフィードバック装置を用いて訓練することで、てんかん患者の症状を劇的に改善する例があげられています。アルコール依存症についても、アルファ波とシータ波が生じる状態をフィードバックすることで単なる治療ではなく、他の手法と比べて再発がずっと少ないといいます。依存症の治療では再発が大きな問題となっているだけに、事実であるとすれば、依存症の治療に絶大な効果を発揮しそうです。

第三章「心を変えること、それは脳を変えること」には、瞑想を長年続けることによってガンマ波の活動が強くなり、瞑想を終えても持続しやすくなることや、灰白質に変化が生じることが記されています。つまり、意思の力によって脳が実際に変化するということです。私たちは、運動によって筋肉を鍛えることができるのと同じように、意思の力や、手法によって脳を鍛えることができ、感覚を制御したり、心拍数などを制御したりもできる存在なのだと再確認できます。

第四章「感情が病気を治す」には、癌細胞を破壊する白血球をイメージすることによる癌の治癒効果が取り上げられています。治癒効果のあるイメージの仕方は人によって異なるそうです(激しい攻撃の様子を思い描く、実際のメカニズムが機能している様子を思い描く、穏やかに消えていく様子を思い描くなど)。こうして自分に適したイメージを描くことで、免疫力が上がると考えることができるかもしれません。

さて、本書を読みながら、私はいつものように狩猟採集者たちの暮らしぶりを思い出します。空腹をあえて我慢するピダハンら米大陸の先住民たちは、ニューロフィードバックを受ける人々のようです。人生の初期に一人の時間を過ごして守護動物を知ることで自分の心の中に客観的な目を持とうする人々は、修行者たちのようです。大自然が与える経験は、臨死体験者や宇宙飛行士たちの体験にも似ているように感じます。神話世界を生き、歌や踊りによって神話を今の世界に蘇らせるアボリジニーたちの大脳には、神話を持たない私たちとは異なる灰白質の構造ができ、絶大なプラシーボ効果が働いていることでしょう。

臨死体験や超常現象という非科学的ともいえる内容に拒否反応を示すのはもったいない本だと思います。

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「ルビリン」は東山動物園にいたアムールトラの名前です。土手で出会った子猫を迎え入れ、「るびりん」と命名しました。

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