ミニTPM活動の進め方−「設備管理活動」


 フルストーリーのTPM活動の導入はトップの意思決定が必要である、そして不況の中で操業低下し活動経費が掛けられない、また活動の体力が心配である。しかし設備の故障が多い、チョコ停、不良も多く生産性が上がらない。何とかTPMの活動方策を取り入れたいと思っている工場は意外と多いはずである。
 そこで筆者考案のミニTPM活動を以下に紹介する。実際にはTPMの言葉を使わないで「設備管理活動」と称している。


活動の4本柱]

フルストーリーのTPM活動では活動は8本柱であるが、この「設備管理活動」では下記の4本柱に限定して活動する。
1.自主保全(体制造り)
2.計画保全・金型保全(体制造り)
3.個別改善
4.保全教育

[活動の進め方概要]

 設備管理活動の推進組織を設定し、3年間の活動計画(マスタープラン)を立案する。
最初の1年目は、モデルラインを設定する(各製造プロセス毎に設定、設備台数は5台〜10台位)、4本柱の活動をこのモデルラインで展開する。
 1年間で下記の活動ステップを実施して活動の進め方を学び、成果を確認してから、2年目に対象ラインを逐次拡大する。3年目には全ラインを対象の活動とする。(または本格的にTPM活動の導入を決意する。)

 活動の手順        活 動 実 施 内 容   備   考
1.活動の準備 ・活動の推進準備担当者を任命(推進事務局)
・推進責任者と推進組織、4本柱の推進分科会組織を設置する。
・活動4本柱の進め方を事前に研究する。
・推進責任者は工場長
 又は生産担当役員
・活動経費を試算して
 予算計上する
2.活動計画立案 ・活動マスタープランを作成する。
・活動4本柱ごとの詳細活動計画を作成する。
・各活動の月次活動計画を作成する。
・活動の管理項目(Q,D,C)と目標値を設定する。
・一年目活動のモデルライン(設備)を設定する。
・活動の進め方の社内研修会を実施する。
・活動管理項目と目標
 値は工場の年度計画
 と整合していること
・モデルラインの設定
 は各製造プロセス毎
 に代表するラインを
 選定する。
3.実活動 ・モデルラインの設備総合効率(作業総合効率)を測定する。
・モデルラインの自主保全ステップ活動を開始する。
・モデルラインの個別改善アイテムを整理、改善計画を立て
 改善実施する。
・計画保全の活動を開始する
・保全教育の計画に基づき教育の準備、教育を実施する。
・各活動の「活動板」を設置する。
・自主保全活動は設備
 ごとにチーム編成し
 て取組む
 活動チームには工場
 長以下全管理者と
 監督者、技術スタッフ
 が参加する
4.活動振返りと
  成果確認
・半期毎に活動を振り返り、「設備管理活動評価」(後日掲載予定)
を実施する。
・活動の成果をまとめ、成果発表会を定期的に開催する。
・活動成果を社内報
 にPRする
5.対象ラインの
  拡大
・二年目活動として、モデルライン活動を拡大する。
 (対象ライン5割/全ライン)
・拡大する規模は各社
 の体力により設定
 する

1.自主保全

 TPM活動の自主保全では1〜7ステップの活動であるが、設備管理活動ではこの内1〜3ステップまでの活動に限定する。
TPMの4ステップ総点検は専門保全部署が1〜2ステップの中で実施する、その結果を踏まえて3ステツプでTPM5ステップの自主点検に相当する清掃給油点検本基準を作成する。

 ステップ  活動名称    活 動 内 容  備  考
1ステップ 初期清掃点検
 (エフ付け)
・活動のモデルラインを設定し。モデル設備の自主保全活動
 計画を設定
・設備の汚れを徹底的に清掃する、そして清掃しながら汚れ
 の発生源とあらゆる不具合にエフ付けを行う。
・重要な締結部(ボルト、ナット)を増す締めする。
 給油個所の給油していなかった所に給油する。
・稼動中の配線配管の干渉、駆動部の異音振動の不具合
 にエフ付けをする。
・カバー、扉、ピットは全て開けて中の清掃と不具合のエフ
 付けを行う。
・緊急を要する不具合と簡単に復元ができる不具合を復元
 改善してエフ取りをする。
・専門保全員は締結、潤滑、駆動、油圧空圧、電気制御の
 それぞれの専門の見方で不具合のエフ付けを行う。
・清掃仮基準を作成して実施する。
・1ステップの自主保全診断を実施して合格するまで活動を
 繰り返す。
・自主保全活動板
 を設置する
・清掃前と清掃後
 の写真を撮る。
・不具合の改善前
 の写真を撮る
・不具合の層別エ
 フ付け取りグラフ
 に記入する。
2ステップ 発生源困難
   個所対策
 (エフ取り)
・汚れ洩れ垂れ飛散の発生源対策を行う。局所極小カバー
 化、拡散防止
・清掃困難個所、給油困難個所、点検困難個所の改善実施
・その他不具合個所を全て復元改善を実施してエフ取りを行
 う。
・計器類は目の高さに移動し正常異常範囲の表示、制御盤
 のファンクーラーに風量風車、高所また地下ピツトはの
 点検個所は地上で見れるようにする。
・油圧潤滑タンクの油量点検し易い改善、
・駆動部(ベルト、チェーン)は点検窓の設置等など。
・給油の仮基準作成して実施する。
・2ステップの自主保全診断を実施して合格まで活動を繰り
 返す。
・不具合改善後
 の写真を撮り、
 改善成果を確認
 する
・清掃給油点検
 「からくり改善」
 を参考にする。
・改善技能教育
 を実施する。
(板金穴明溶接)
3ステップ 清掃給油点検
  基準の作成
(目で見る管理)
・設備の機能構造図を作成、潤滑経路を調査し記入する。
・既存の設備始業点検項目と安全点検項目、1ステップ
 清掃基準、2ステップ給油基準を照合して「清掃給油点検
 基準書」を作成する。
・基準書に基ずき「清掃給油点検チェックシート」を作成して
 実施する。
・実施した結果の時間を記録して、時間の掛かる項目の
 改善項目をリストアップして周期の見直しとさらに清掃し易
 い改善、給油し易い改善と目で見る管理の点検化に改善
 する。
・3ステップの自主保全診断を実施して合格まで活動を繰り
 返す。
・設備本体と付帯
 装置以外に周辺
 の整理整頓、掲
 示物、工具類の
 整理整頓を平行
 して実施し、
目で見る管理
 を行う。


2.計画保全

 計画保全は、TPMの計画保全体制造りの活動にほぼ準じて行うが、自主保全のステップ活動にリンクして実施する。

ステップ  活動名称   活 動 内 容   備  考  
1ステップ 自主保全対応
設備総点検
・自主保全活動に対応して専門保全の目で設備総点検
 (潤滑、油空圧、駆動、電気制御)を実施する。
・設備保全管理項目と活動の目標値を設定する。
・設備ランク付け(A,B,C)を設定する。
・故障の定義を設定する。
・保全職場の自主保全活動を行う。
・計画保全活動板
 を設置する。
・保全復元と製造
 復元の故障を分
 けて管理する。
2ステップ 故障解析と
再発防止
・工場の過去一年間の故障(設備、型)履歴を整理して、
 故障の件数、設備停止時間、現象、処置、原因別の
 整理を行う。
・故障の記録用紙を見直す(故障解析−なぜなぜ解析が
 書ける用紙)
・モデル設備(Aランク)から故障解析を実施する。
・故障解析の後は再発防止チャートに落とし、再発防止
 活動を行う。
・再発防止項目(予知、予防、改良)を自主保全、専門
 保全のそれぞれの給油点検整備基準に追加する。
・故障解析の仕方
 勉強会を実施す
 る
・再発防止チャート
 (後日入力)
3ステップ 点検整備基準
の作成、実施
・1〜2ステップの活動を整理し、自主保全3ステップの
 清掃給油点検基準書と突き合わせて、専門保全の「点検
 整備基準」を作成する。
・点検整備基準に基ずいて、年間保全カレンダー、月間
 保全カレンダーを設定する。
・過去及び予測故
 障モードの洗い
 出しを行う。
(事例は後日入力)
4ステップ 予備品管理
図面管理
潤滑管理
保全情報管理
・既存の予備品を整理整頓して、予備品リストを作成する。
・予備品の発注方式を見直しする。
・設備取扱い説明書、図面を整理整頓する。
・潤滑、作動油の油種と使用状態調査してリストを作成。
 油種統一と補給方式を見直す。さらにオイルステーション
 を配置する。
・保全記録、工数、発生費用、計画保全カレンダーをパソ
 コン入力システムを構築する。(またはシステムを見直す)
・保全情報システ
 ムは「プラウザ」
 形式HTMLによ
 るシステム作成
 が便利
5ステップ 設備診断技術
の導入
再生補修技術
の導入
設備リニュアー
ルの実施
・設備診断技術の研究と診断装置の導入を行う。
 (振動診断、有効電力診断、変位診断、油診断他)
・再生補修の導入(金属溶射装置)
・設備リニュアール、設備改造の内製化を実施する。
・設備診断技術の
 研修セミナー参加
・有効電力診断法
 (エルファイ)は極
 めて有効な診断
 方法である。

・プレス金型、樹脂成型金型など、「金型保全」の活動ステップ

ステップ   活動名称       活 動 内 容     備  考  
1ステップ 金型総点検
・モデル金型を設定して、型を分解し不具合の総点検を
 実施する。
・合わせて予備品、型図面の総点検を実施する。
・逐次対象金型を拡大する。
・予備品(消耗部品)リスト作成、発注方式を設定する。
・故障の定義明確にする、金型のランク付け設定。
・金型保全管理項目と目標値を設定する。
・金型保全の
 活動板を設置する
・総点検チェック
 シート作成
2ステップ 不具合の復元
過去故障の再
発防止
・全金型の過去の故障履歴を洗い出し、現象、原因、処置
 の層別を行う
・故障原因の再発防止項目を整理する。
・弱点部位の改良保全計画を立てる。
・以上の対策をモデル金型から実施する。
・金型故障解析
 シート作成
3ステップ 点検整備基準
の作成と実施
保全情報管理
整備
・1〜2ステップ活動項目を整理して「金型点検整備基準
 書」を作成する
・年間、月間金型保全カレンダーに落とし込む。
・保全記録、故障現象、原因、処置、保全工数、発生費用
 、点検整備
 計画(計画保全カレンダー)などのパソコンシステムを
 作成する。
・型に付随する搬送
 装置の点検整備
 項目も基準化する
4ステップ 劣化部品の寿
命延長改善
段取り改善項
目の改善
・消耗劣化部位、部品の寿命延長改善を実施する。
 (材質、形状、表面処理、他)
・再生補修の導入(金属溶射など)
・段取り改善、サイクル短縮改善の型改善項目を全型に
 水平展開実施
・摩耗型消耗の寿命
 延長と破損型寿命
 延長の改善に分け
 る
・要因解析にPM
 分析を行う
5ステップ 劣化予知診断
型のMP情報
発行
・金型劣化の診断技術の研究と診断装置の導入。
 (変位診断、圧電診断、冷却流量温度診断など)
・改善項目を金型MP情報に整理し型設計基準化する。
・設備診断技術を
 応用する


3.個別改善

 設備総合効率の阻害ロスの中で「故障ロス」は自主保全と計画保全の活動によって故障を無くすが、「段取りロス」「工具交換ロス」「速度低下ロス」「チョコ停ロス」「不良手直しロス」「手作業ロス」等は個々にアイテムを設定して改善しなければならない。
 具体的には、自主保全の活動で設定したモデルラインの設備総合効率作業総合効率を測定して、それぞれのロス構造を把握する。その上で個別改善アイテムと取組みメンバーを設定し、改善計画、改善目標値を決めて活動を展開する。

ステップ  活動名称    活 動 内 容   備 考
1ステップ 総合効率阻害
ロスの把握
・モデルラインの前設備の設備総合効率、または作業総合
 効率を測定する
・各総合効率の阻害ロスを明確にする。
・個別改善のアイテムを整理しモデルラインの活動板に
 掲示する。
・総合効率と時間
 当り出来高管理
 の両方をグラフ
 に表す。
・ロスアイテム表
2ステップ 個別改善計画
作成
個別改善方策
研修
・個別改善アイテム別に改善チームを編成し改善実施
 計画を立てる。
・ロスアイテム別の改善方策の研修と使用帳票を準備する
・ロス区分
 「段取り」「チョコ停」「工具交換」「サイクル短縮」「不良
 手直し」「作業タクト短縮」「作業編成」その他
[ロス別の改善方策(改善手順、視点、ワークシートなど)
 の詳細は別途更新時にLINKして掲載予定]

・個別改善計画
 進捗表
・個別改善件数
 効果金額グラフ
3ステップ 個別改善の
実施
・各チーム改善実施
・定期的に改善経過の報告会実施
・改善経過を活動板に掲示する。
−−−
4ステップ 成果まとめ
発表
・改善成果をまとめ、改善事例発表会を実施する。
・改善内容をMP情報に整理し発行する。
・個別改善報告書
5ステップ 個別改善
マニュアル作成
対象ラインの
拡大
・ロス別の個別改善実施マニュアルを事例入れて作成
 する。
・改善マニュアルにより、社内研修会を実施する。
−−−


4.保全教育

 自主保全、計画保全、個別改善のそれぞれの活動を展開するには、平行して各階層別に保全に関わる教育が必要である。以下に保全教育を進める手順(ステップ)について記す。

ステップ  活動名称    活 動 内 容  担当、対象者
1ステップ 保全教育計画
立案、準備
・会社全体の教育体系の見直しと設備管理、保全教育の組
 み入れ
・設備管理、保全教育計画の立案
・教育資料、教育施設、教育教材の設置
・教育教材=締結、潤滑、駆動、油空圧、電気制御
・人事部門
・推進室
2ステップ 設備管理全般
教育
個別改善教育
・設備管理全般教育(自主保全の進め方、計画保全の進め方
 、個別改善の進め方)
・個別改善の教育(総合効率の測定、ロス別改善方策)
・管理者監督者
 リーダー
・技術保全員
3ステップ 保全基礎教育
・締結、潤滑、駆動、油空圧、電気制御の座学、実技教育
 の実施
・改善技能教育の実施(板金、溶接、穴あけなど)
・製造管理者
 監督者
 オペレーター
4ステップ 専門保全教育
・専門保全教育の実施(予防、予知、改良保全)
・設備診断技術教育(外部セミナー)
・技術保全員
5ステップ 保全技能士
資格取得
社内保全
技能士制度化
・機械保全技能士の取得教育(JIPM通信教育あり)の実施
・社内保全技能士制度の制定
・技術保全員
・製造管理者
 監督者
 オペレーター


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