[目で見る管理

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1. 「目で見る管理」の定義と解説

定義
目で見る管理とは、[管理の対象物を誰が見ても、一瞬に正常な状態か、異常な状態かが正しく判断して、異常の処置方法が明確に成っている管理]である。すなわち管理の対象物が自ら正常、異常を人に働きかけ、速やかに異常の処置を行わせる仕組みである。
 「目で見る管理」に対して「目で見る表示」がある。「目で見る表示」はある情報(注意喚起、禁止事項、等)を分かりやすい文字、絵などで表示するものである。「目で見る管理」の定義である正常か異常かの判断表示のないものである。本稿ではこの「目で見る表示」も低レベルの「目で見る管理」として扱うことにしている。
解説
ここで「誰が見ても」とは、その職場の担当者だけではなく、第三者が見ても判る事が重要である。
「一瞬に」とは正常、異常を思考せずに反射的に判断出来ることが重要である。
さらに「正しく判断」とは、人が誤判断を起こさない事が重要である。「人はミスやエラーを起こすものである」と言われている。
人のミス3段階は
@ 認知・確認のミス
(目、耳、鼻、触覚など五感からの情報が大脳の感覚中枢で認知されるまでの過程で起き
 るエラー)
A 判断・記憶のミス
(認知した状況を判断して、適応行動を意思決定し運動中枢から動作指令を出すまでの
 過程で起こるエラー)
B動作・操作のミス
(運動中枢から動作指令で手・足が動作するまでの過程で誤ったり、手抜きするエラー)
この中で最も多いミスがAの判断記憶ミスであると言われている。
 よって「誰が見ても」「一瞬に」に「正しく判断」できる情報は、文字や数値情報でなく、色分け表示、ランプ表示、記号(アイコン)表示、絵マンガ表示、カード表示、グラフ表示などの、いわゆる「イメージ情報」である。
 以上の事から、見ようとして見る管理から、見たくなくても見えてしまう管理、すなわち「目で見える管理」にする。
最も代表的な「目で見る管理」の事例は「交通標識」である。交通標識を見て判断する人は子供から大人まで万人である。さらに交通事故防止から一瞬の判断を必要としている。「交差点の信号」「進入禁止標識」「一方通行標識」「右折禁止標識」「駐車禁止標識」「道路工事標識」など、又道路上に描かれたさまざまな表示がある。これらには文字情報は殆ど補足程度にしか書かれていない。
 
2. 「目で見る管理」「目で見る表示」の狙い

@ 異常の早期発見と処置により災害、事故、故障防止、品質防止
A 誤確認、誤判断、誤動作、忘れ、ポカミス等の防止により災害、事故、故障防止、品質防止 
B あらゆる仕事の効率化

 
3.「目で見る管理」「目で見る表示」の対象と管理の事例

全ての仕事、全ての管理が対象であるが、生産工場を対象に限定すると下記のようになる。

管理の対象          目で見る管理、目で見る表示の主な事例   目 的
安全衛生管理 ・ 危険物表示 ・有機溶剤保管表示 ・消火器置き場表示 ・安全緑十字
・ 指差呼称表示 ・挟まれ危険個所表示 ・ 非常口表示 ・清掃分担マップ
・ 清掃用具棚
災害防止
品質管理 ・ ポカヨケ設置マーク ・不良品手直し品赤箱 ・品質の急所表示
・ 測定具管理台 ・品質管理板
納入不良防止
工程不良防止
生産管理 ・ 生産進捗時間当り出来高ランプ表示 ・生産指示カンバン
・ 段取換え指示ランプ ・ 出荷指示カンバン ・計画停止表示
未納防止
生産管理業務
の効率化
在庫管理 ・ 在庫最大最小表示 ・ロケーション表示 ・ 現品写真表示
・ 仕掛り品定位置表示
在庫削減
設備管理 ・ 液類汚れ表示 ・給油タンクレベル表示 ・油種ラベル ・ 点検個所マーク
・ 回転方向表示 ・圧力計正常異常表示 ・流れ方向表示 ・バルブ開閉表示
・ 温度表示・風量表示 ・振動表示・点検窓表示 ・ フイルター類詰り表示
・ボルトナット類合いマーク ・ 点検マップ ・点検メニューカード ・点検順路表示
不良故障予防
清掃給油点検
の効率化
現場管理 ・ 当日配員マップ ・多能工育成マップ ・時間当出来高 表示 ・作業の急所表示 配員効率化
スキルアップ
方針管理 ・ 方針管理板 ・活動板グラフ表示 方針管理徹底
その他諸管理 ・ 設備初期管理活動板 ・初期流動活動板
・ 消耗工具器具購入金額表示板 ・5S診断マップ
垂直立上げ
原価低減意識
間接業務 ・ ファイリング表示、・ 行き先表示板 ・業務順番カード差立て
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業務効率化
活動活性化 ・ サークル活動板 ・故障不良ゼロ職場のぼり ・カラクリ改善のぼり
・ 改善個所シール
活動の活性化


4. 「目で見る管理」化の手順とポイント
 
「目で見る管理」を進める手順と実施に当たってのポイントを以下に示す。

ステップ   手 順          実 施 ポ イ ン ト
1ステップ 管理対象の設定 目で管理する対象の管理目的を明確にして設定する。
2ステップ 可視化・見える化 カバーで覆われている、高所や地下にある、危険個所で近づけない、
位置方向が判らない、空気の流れが見えない、温度が判らない、容器に入っ
ている書類フアイルに入っているなどなど、見たくても見えない物を見えるよう
にする。
3ステップ 正常、異常の範囲
基準化
見えるようになったら正常と異常の範囲を正しく設定する。正常と異常の中間
を設定する場合は注意範囲として設定する。
4ステップ 異常の処置の
基準化
異常又は注意になった場合の処置基準を設定する。
5ステップ イメージ化
色彩化
正常異常範囲を色分け、ランプ表示、記号、絵、図、マンガ、カード化、グラフ
化する。色分け事例:[正常]=青色、[注意]=黄色、
             [異常]=赤色 (交通信号)
6ステップ アニメーション化 さらに緊急性の高い項目を異常時にアニメーション化(動きを与える)にする。
例:旗振り人形、風車、浮き玉、回転灯
7ステップ 作業位置、
目線高さの
近接化、集約化
見る位置、高さ、方向と場所の近接化および複数見る部位の集約化を行い
目線の移動を最小限にする例:ゲージの集合化、バルブ開閉表示集中化。
8ステップ 音響併用化 危険を知らせる場合は、音響(音管理)を併用する。例:ブザー、サイレン
9ステップ 維持管理化 これらの目で見る管理を維持しながら、さらに見やすく改善する。


5. 設備管理における「目で見る管理」、「目で見る表示」

 設備のあらゆる機能と稼動条件、稼動状態、運転操作が正常か異常かを「目で見る管理」とし、又、設備の各機能の劣化による異常を早期発見と処置により、設備災害、設備故障、品質不良を未然に防止することが目的である。
自主保全活動の中では、清掃、給油、点検、正しい運転操作の「目で見る管理」である。
・清掃
 汚れの発生源対策を行ったあとは、どうしても汚れが蓄積する加工液タンクや潤滑ドレーンなどの清掃時期を判定するために、汚れの度合いが目で見えるようにする。
・給油
給油基準を設定した後、油量レベルと油種が一目で見える状態にして、最適な給油を行う。
・点検
 あらゆる点検項目と正常異常と処置基準を設定した後、これらを全て目で見る管理にする。
・運転操作
誤った運転操作やポカミス操作を防止するための目で見る管理を行う。
以下具体的な目で見る管理項目と事例を記す。

 分 類  管理項目          「目で見る管理」、「目で見る表示」事例
締結 ボルト・ナツト ・合いマーク表示・増締め確認識別・調整ボルト識別
潤滑、給油 給油

油量レベル
・ 給油口油種色別ラベル表示・オイルジョッキ油種表示・ 給油標準周期表示
・オイラー滴下/毎分表示
・油量上下限と目盛り表示・油量レベル計フロート化
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油圧、空圧
水、液、ガス
圧力計
バルブ類

配管ダクト類
・ 設定圧力の色分け表示と設定圧の同一方向化・ 圧力計の方向と集約化
・ 丸ハンドルの常時開閉位置の垂直表示化・ レバーハンドルの常時開閉位置
 の扇型表示化
・ 油、水、ガス種類別色表示・流れ方向表示・ 加工液類汚れ度点検透明管化
・ 吹出し口風量検知浮玉、風車
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駆動 ベルトチェーン
回転駆動部他
・ 透明点検窓化・ベルトテンション測定窓化・型式表示
・ 回転部トラマーク表示・駆動部点検窓化・給油個所の集約と表示
電装 モーター
制御盤
操作盤
・冷却ファン回転表示、振動旗振りバー・サーモラベル
・フアンクーラー回転表示(吹流し、風車、ダンパー)
・誤操作防止メクラカバー化・操作順番号表示
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付帯 作業工具器具 ・使用用途表示・影絵ハンガー化・段取工具専用表示
測定具 測定器、
測定台
・測定個所、検査方法、規格表示・汚れ防止透明カバー化 ・測定器切込み
 受台化
参考文献
 JIPM発行「TPMエイジ」目で見る管理――執筆:JIPMコンサルタント渡辺高志氏

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