アルバムに納めた曲の説明です。順不同。

『12月の秘密』の秘密
 最後の3曲は3部作になっている‥‥つもりで、いちおうアルバムのクライマックスのつもり‥‥です。

『12月の秘密』はまずGarage Bandで作り、その音を再現するようにCubaseで作り直しました。理由は曲のあちこちにちりばめている高いベルの音を「手付け」で揺らすのに疲れちゃったからです。はじめは1音1音、音の位置を変えていました。

 そんな面倒なことをやろうとした理由は「快感」にあります。
(以下、だらだらと音楽療法、民俗音楽、サイケデリック・ミュージック等々について記した部分はカットしました)
 音には音色と音程によって心に緊張と弛緩を与える作用があり、『12月の秘密』と『真冬の白薔薇』ではかなり意図的に使っています。そのひとつが左右から交互に響く高音で、ヘッドフォンなどで意識して聞くと軽い船酔い状態になるかもしれません。壁のようなストリングスも中途ではボイスを重ねた音作りをしています。言わば、快感と不安のスパイスを配合しているってことです。

 Cubaseに変更したのは自動で音をパンさせるプラグインが付属していたからで、代償として音色の設定に苦労させられました。その過程で選択したのがメロディを奏でるエレキギター。できることならメインのギターはナイロン弦に統一したかったのですが、他の楽器の音とのバランスから例外的に使用することにしました。

『真冬の白薔薇』はかなり奇妙な印象を与えたかもしれません。メロディだけを取り出せば「これでどうするの?」って感じで、アレンジを考える前にボツにするところです。他の曲みたいにボサノバやライトロックすると、変てこ感が際立ちます。だったら、その奇妙な感じを消すのではなく増幅するようにアレンジしてみたらというのが出発点。メロディを聴いて全体の構成がぱっと浮かぶものより、途方に暮れてしまうほうが作業としては楽しいですね。難易度とおもしろさの関係はゲームに通じるものがあります。

 実はデザインしている時のタイトルは「○○月の白昼夢」で、蒸し暑い初夏をイメージしていました。もう少し具体的には、バンコクの冷房のない安ホテルで、寝苦しくて寝ているのか起きているのかわからない状態で見ている奇妙な夢。そんな方向性で進めていました。(タイトルを変更したのは、文字どおり真冬の寒さの中で頭の中に白いバラのイメージが浮かんだからです。幻想的なイメージという点では、季節を超えてしまっています)

 もちろん変てこな曲を作ろうとしたのではなく、意図したのは夢の中みたいな奇妙な感覚・快感を与える音楽です。
 あまりにもいじりすぎてタンバリンの入ったリズムなどをどのようにして決めたのか覚えていません。音色の設定もイメージに即した音を見つけるのではなく、片っ端から試して決めていきました。試行錯誤と言うか行き当たりばったりのアレンジです。(笑)
 ベースの音は甘めに、ストリングスは霧が流れているようなうねりを、メロディは楽器らしくない正体不明の音を、その中でギターの音だけはリアルに規則正しくリズムを刻ませる‥‥ほぼ思い通りになりました。

 ギターのソロが始まると、快感のスパイス「高音」が遅れて登場します。私的にはこちらが主役。ピアノのようなガラスのような硬質の音色設定にしたうえ、元のフレーズを2オクターブぐらい持ち上げています。ヘッドフォンで聞けば、頭の中で鳴っているような印象を受けるでしょう。

 こうして2つの曲にまたがって聞き手の情緒を一定の方向に持っていった後に、ラストの『冬の胸騒ぎ』が登場します。
 単独で聴くよりも、3曲通したほうがメロディが切なく響くと思うのですが、いかが?

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『日曜日のまどろみ』

 仕上げ一歩前の編集段階のファイル名が分類番号の「101」のままになっているほど、最後に駆け込みで作った曲です。

 ボツにした曲もいくつかあるわけで、その1曲を入れることで全体の印象が「似たり寄ったり」になったり「てんでんばらばら」になるものはお蔵入りにしました。そうこうしているうちに「1曲足りない!」に陥り、しかも全体の構成も出来上がりつつあったので「春の曲じゃなきゃダメ」という制約までついてきました。
 こういう時に思いどおりの曲が生まれてこないのはよくあることで、新規に作ることは時間の関係で諦めました。とりあえず保存したものの第一次審査でふるい落とした曲の中から敗者復活させようと決め、聞き直してみると「やっぱり‥‥」の連続。そういった中から偶然の重なりによって生まれたのがこの曲です。

 最初に使わなかった理由は(メロディは良いのですが)どこが始まりでどこが終わりかはっきりしないし、展開の印象が薄くて延々繰り返しているような印象が強かったからです。(まあ、言わなくてもわかるでしょうがネ)
 まず最初に全体にメリハリをつけようとリズムをルンバにしたら‥‥うーむ、古いラテンの曲みたいになってしまいました。そこで別のリズムを刻むドラムを加えて全体をポップス調に味付ける裏技を使ったら逆効果。ベースやギターなどと組み合わさって生まれてきたのが、あのチャカポコリズム。だけど、おもしろい!
 ほとんどの曲ではソロ部分が始まると主旋律の音量を極端に下げるか消すかしています。この曲では裏でストリングスが鳴るようにしました。ありゃ、かえって主旋律が目立つ結果になったではないかいな。だったら、繰り返しを強調してやれ!
 そんな感じで使用楽器の音も慎重に変更して、最初に考えていたのとどんどん逆の方向へ。

 もともとスティーブ・ライヒに代表されるミニマル音楽は好きでしたから、最後にたがが外れて自分の好みを優先させちゃったとも言えます。そうすると更に偶然は重なるもので、2つのストリングスパートの音が(多分)干渉して、譜面にはない極端なエコーみたいな音が発生してしまい、これまた自分好み。前後しますが、どんどん気持ちよい曲になっていくので、ピアノとフルートによるソロは思い切り「ゆるい」感じのものを選びました。
 土壇場でつけたタイトルも、たまたまその日が日曜日で眠かったから。(笑)

 ミニマルには難しい定義があるかもしれませんが、要するに繰り返し。ファミコン時代のゲーム音楽などもある意味ではミニマルに近く、この曲も2等身キャラのRPGに登場しそうです。そして最後の意外な(でもないけど)結果は‥‥主張するような音楽ではないので、BGMにうってつけということ。たとえばこの曲をBGMにしてインドの「友人たち」のスライドショーを作ると実にはまっちゃいます。あるいは林の中で木漏れ日を浴びながらこの曲を聴くと、実に気持ちよくなれます。

 偶然によって今後の方向を示唆する要素がつまっていった点で、『日曜日のまどろみ』は最もアルバムタイトルの『セレンディピティ』に富んだ曲になったと言えるでしょう。

[訂正]元のファイルを見直したところ、極端なエコーみたいな音は偶然ではなく、音のレイヤー処理(重ね合わせ)によって意図的に作っていることがわかりました。没入すると実力以上の力が出ると言うか、その場の勢いで(経験がないのに)こうすればああなるが見えてくるのですね。だからすぐに忘れてしまうのですが‥‥。なお、後になるほど使う音の数が増えていき、この曲では12トラック使用しています。その目的は前述のレイヤー処理がほとんどです。

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『秋の散歩道』

 最初に完成させた曲です。
 当初の予定では『Band in a Box』の自動作曲を使うとこんな曲ができるよという感じで、なるべくレアなものを並べるつもりでした。というわけで、大きく手を加えていません。基本的には書き出されたmidiデータだけをGarageBandに読込んで、細かく調整したものです。GarageBandを使った理由もハードディスクをメンテナンスした時に(悪い偶然が重なって)愛用していた音楽編集ソフトが使えなくなったという消極的なもの。
 ところが、Macを買うとついてくるおまけソフトとは思えないほどGarageBandは良かったのですね。操作性はいかにもApple。そして予想外に付属音源が高品質でした。ギターのフレットノイズ(キュッという音)まで再現されているのには感動しました。後になって「ちょっとやりすぎ」ではと思えてきましたが。(笑)

 こういったビギナーズラックが重なって最初にこの曲ができたのが勘違いの始まりです。何しろ「こんなに簡単にできるのなら、余裕を持って2週間もあればCDが作れるぞ」と思ってしまったのですから。(笑)
 聴く人が聴けばわかりますが、使用したパラメーター設定は「アール・クルー風」です。小さなこだわりは最初に電気ピアノの音を出すこと。同時に複数の音が鳴る場合、特定の音が前に出るようにするにはコツが必要です。

単純線

『冬の胸騒ぎ』

 友人のN君は「良い音楽は、聴くと眠くなる」と言いました。前日のコンサートが素晴らしかったので、当然のように彼は「眠っちゃった」そうです。そのていでいくと、この曲はアルバムの中でも名曲中の名曲ということになります。横になってヘッドフォンで聴いていて、なぜかこの曲になると眠ってしまうことが何度もありました。

 実際、この曲はお気に入りです。「アルバムの最後はこれで締めるぞ」と決めたのもかなり早い段階でした。
 メロディーを奏でるピアノのソフトなタッチは最高です。これがいわゆるパソコン音楽的な強弱に乏しいものだったら、別のアレンジにしていたかもしれません。というより、最初はクラシックギターを想定していたのを、このタッチがあったからピアノに変更しました。音色はいろいろ試した末にグランドピアノ専用の音源を押しのけて残響を加味したGarageBandのコンサートピアノ。さらにソロの順番もピアノを後にしてと、やはりピアノによって使用ソフトや全体の構成までが決まってしまいました。

 元々は有名ミュージシャンの競演を意図していたので、P.Fountainのクラリネット、J.J.Johnsonジョンソンのトロンボーンなどのソロパートをいくつか用意しました。しかし、前述の理由でお尻から決まっていった関係で最初のソロに使う音色はフルート。伏線として、伴奏のピアノはエレクトリックピアノを高い音域で使っています。いろいろいじりすぎて、いずれも素材に何を使ったのかわかりません。(笑)
 Band in a Boxはけっこう人間臭いメロディを作ってくれることもありますから、ピアノソロはモンティ・アレキサンダー(の多分ブルース)をそっくりそのまま。これも気に入っています。その後で、思い切り出し惜しみしていたピアノとギターの絡みになりますが、このクラシックギターの音は個人的にはノスタルジーたっぷりです。
 昔『シャボン玉ホリデー』というバラエティー番組がありましたね。クレージーキャッツのコントが有名ですが、忘れられないのがラストにザ・ピーナッツが歌う『スターダスト』のメロディ。祭りの後の寂しさというか、バラエティの最後を締めくくるしっとりとしたバラードでした。そして、この歌は(多分)生ギター1本の伴奏で歌われていたはずで、イメージ的に自分の中では同じ音にしています。まあ、微妙な表現です。記憶の中の音ですら少し違っているのですから‥‥、あくまでも曲に対する音のイメージということで。

 ラストも他の曲とは少し変えて、やはりピアノを強調しています。‥‥それなのに‥‥最後の最後のピアノの余韻が濁っています。これはCDに焼く時に発生したようで、やり直しても結果は同じ。曲数を減らすか、ライティングソフトを変えなければ解決しないようです。ご容赦。

 さて、胸騒ぎという言葉にどういったイメージを持つかで印象が変わってくるかもしれません。暖炉のある洋室でブランデーの入ったココアを飲みながら感じる胸騒ぎをイメージした人はハズレ。(笑)
 映画を作れるぐらい具体的なイメージのストーリーがありまして、描いていたのは大きな波ではなく、風がそよいだ時に生じるかすかなさざ波みたいな心の状態です。木枯らしを正面から受けながら歩き、暖をとるといえば両手の中の赤い毛糸の手袋。とっても惨めな状況です。そんな中で少年が、もしかしたら不幸な少女が小さな胸騒ぎを感じているのではと思ったことで気づく自分の中の胸騒ぎ。(現実はこんなにも気恥ずかしいものなのです)
 つまり、元になるエピソードがありまして、それを聞いた私が思い切り想像を広げたストーリーなのです。語った本人もまさかここまで妄想が拡大するとは思わなかったでしょう。(笑)

単純線

『カモメのサンバ』

 タイトル的にはジョアン・ジルベルトの『ガチョウのサンバ』へのオマージュです。というのも、アレンジしているうちにピアノの音をギターに替えたら何と初期ボサノバの伴奏そっくりに。ボサノバ独特のギター(厳密にはヴィオロン)奏法はジョアン・ジルベルトが(一説には風呂場にこもって)編み出したものです。
 そこで左にあったギターの音をメロディーと同じ位置にして、全く同じ音色に変更すると、ますますジョアン・ジルベルトかバーデン・パウエルの演奏みたいじゃありませんか。こうなったら余分な音は入れないで、シンプルにするしかありません。
 カモメにしたきっかけは、この冬、お台場で仕事をしていて、昼の休憩時間に海浜公園のカモメを餌付けして遊んでいたからです。(笑)
 初級・かっぱえびせんを放り投げて空中キャッチ。
 中級・ホバリング(空中静止)しているカモメの口に。
 上級・頭の上に着地?させて。

単純線

『8月の夜の夢』

 この曲だけ他とは成り立ちが違います。元になる曲は自動生成ではなく、Band in a BoxのDEMOSONGSに入っていた「The Silken Gown」を使っています。全曲オリジナル(?)という方針を変えてもかまわないと思うぐらい、どうしても編曲してみたくなりました。

**事情がありまして、ムービーを埋め込めません。
**元の曲を聴くには左のメニューからどうぞ。
**(再生にはQuickTimeが必要です。
Appleのサイトからダウンロードしてください)

 リキが入っているだけ構成も複雑で、使用楽器は12。しかも処理の重いストリングスをそれぞれ異なる音色で4パート使っています。多分、高性能の機材を使えばストリングスは分離して聴こえるのかもしれませんが、音のうねりのようなものが欲しかったので非力であることが幸いしました。最初のメロディが聴きづらいのは、夢の中でぼやけた映像にだんだん焦点が合っていく感じを出すための演出です。
 ほとんどの曲でギターによるソロをフューチャーしていますが、この曲に関してはリアルな生音では浮いてしまいます。夢の感じを出すためにエフェクターなどで音をいじることも考えましたが、今度はギターとわからなくなってしまいます。そこでシンセサイザーによるベルの音を重ねてみました。音程によって音色がギターあるいはハープのように変化するだけでなく、音の位置も移動して予想以上の結果。つづくフルートの音やメロディも夢の感じを出しています。
 全体に高音になるほど気持ちよくなるような音作りで、そのためにベースの音は意図的に柔らかく大きめです。オーディオ装置によっては響きすぎるでしょうが、ヘッドフォンで聴くと脳のマッサージ効果があるかも(?)。ただ、ソロ部分では音量を落としただけではバランスが崩れてしまうのでアコースティックのウッドベースの音に変えています。ああ、また使用楽器が増えてしまう‥‥。

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