一図書館員から見た日本

日本における司書

司書の資格、我が国の図書館におけるのことについていつか書かねばと思いつつ、書こうとすると気が重くなって、ついつい書くのが遅くなりました。しかし、幾人かからメールをいただいたりしているうち、このことについて書かなければならない、とそれは義務のように思えて来て、それでますます書けなくなっていたのでしたが、なんとか書きます。

市町村立図書館で働いている職員の半分ほどは司書資格を持っていない。図書館長が司書である館はさらに少ない。司書という区分を設けて有資格者の図書館職員を採用している市町村はもっと少ない。

市町村立図書館を建設する際、館長が司書資格を持っていないと国の補助金をもらうことができなかったのだが、補助金の制度自体がなくなったため、今後司書が館長である図書館はさらに減るであろうと思われる。

図書館に異動した職員に、夏期講習などで司書資格を取るようにしている市町村もある。資格がないよりあった方が良いのではあるが、その後、またその職員は市役所などに異動してゆく。

私のホームページを読んで、「どうしたら図書館で働くことができますか」との質問を学生の方から良くいただく。答えに窮する。市町村立のみならず、都道府県立であっても司書を採用していない自治体はかなりあり、また、毎年採用しているわけではないのである。狭き門といえば聞こえはいいが、文化行政がおかしいだけのことである。

アメリカの大学院で図書館学を学んでいる人が私のホームページを読み、日本の図書館に就職することを諦め、アメリカの児童図書館に就いたとのメールをくださった。日本の図書館で働けたとしても、司書としての仕事以前の仕事が多すぎると感じたためとのことであった。こういう形で私のホームページが役に立つとは考えていなかった。けれども、我が国における司書の位置を冷静に考えれば、図書館で働きたいからとの理由だけで働きはじめたとして、失望することばかりである。司書が専門職として認められている海外の図書館で働くことができるのであれば、国内の図書館に就職するより、その方が良い、と思えることがかなしい。

子供の頃から図書館で働きたいと思っている人が少なからずいる。図書館がどういう役割を果たすところであるか、また果たすべきところであるかを考えている人である。けれども多くの自治体は司書を雇おうとしない。大した専門性があると考えていない。役所の一般行政職の職員が回り持ちで図書館の仕事をする。役所の職員の多くは出先機関で働くことを嫌う。図書館への異動を飛ばされたと感じる職員もいる。実際に能力の問題で飛ばされた職員もいたりするらしい。嫌々働く職員、能力に問題のある職員が運営する図書館が少なからずあるようなのだ。司書講習を受け、資格を取りに行かされることを理不尽だと感じる職員もいる。「早く本庁に戻りたい」、「夏の暑い時に遠くまで朝早くから資格を取りに行かされてひどい目に遭った」という言葉を図書館員の会合で幾人から聞いたことだろう。図書館に異動してきた彼らが悪いわけではないとは思う。

私はたまたま司書を採用する自治体に就職できた。かといってその自治体が司書の専門性について理解しているというわけでは多分ない。今年度の異動はその良い例であろう。もしかするといつか司書を採用する制度自体が崩れるのかもしれない。司書で採用され、土日に働いているからといって給料が良いわけでもない。市役所の一般行政職と同じ給与体系である。土日の手当、司書職手当といったものは一切ない。司書を採用しているほかの市町村も似たようなものである。司書に高度な専門性がある、とはどうやら思われていない。

資格さえあれば良い図書館員になれるとは思わない。けれど図書館員になりたい人がいっぱいいるのに就くことができず、なりたくない人がいっぱい働いているという状況は絶対おかしい。医者になることよりも図書館員になることの方が現実に難しいのである。

一般の人のイメージはどうなのであろうか。アメリカやイギリスにおける司書の位置は実に高い。仕事の質も高く、採用されることも難しい。図書館長は尊敬されている。日本では本を読む習慣のない人が図書館長をしていることがまるで珍しくない。それもしかし本人の責任ではない。

世の中の本の数は多く、詳しい中身についてすべて知ることはできない。図書館は本と人を結びつけるところである。だから司書はいろいろな方法で本についての知識を得、利用者が何を知ろうとしているのかを早く的確に把握する術を毎日の生活、仕事の中で身につけてゆかねばならないのだ。本を好きでない人、人と本を結びつけることに意味を見いだせない人がすべき仕事ではないし、できるはずもない。図書館の外の職場に長期間出されて勘が鈍らない程度の仕事でもない。どの司書がどの分野に明るいか、また、どの分野に向いているか、力を入れようとしているのかを判断し、担当につけるといったことを本を読まぬ館長にできるはずがあろうか。

ともあれ現在、日本国の多くのまちの図書館はそんなような状態であり、司書資格を大学や通信講座、夏期講座などで取得し、図書館の仕事をしたい、と思っている人が図書館で働くことがまず不可能なのである。このことを知らない人が多いのではなかろうか。私はどこかが完全に狂っていると思っている。

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