一図書館員から見た日本

幼児、乳幼児の問題

この不思議な情景を初めて見たのはいつのことだっただろうか。以前には決してなかったのだが、今では日常になってしまっている。図書館の床を乳幼児が一人で這っている。回りに親はいない。大声で、「この赤ちゃんの親御さんはいらしゃいませんか」と呼ぶと、慌てて来る親、ちっとも来ない親。

私の勤めている図書館は土日には入館者が2000人を越す日もある。通勤ラッシュの列車に近いような人込みの中で平気で赤ん坊を這わせておく親がいる。平日には幾人もいる。図書館の利用者は棚で本を見た後、大抵うしろに真っ直ぐ下がる。そこに乳幼児がいたらと考えるとぞっとする。死角にいる小さなものに皆が皆気づくとは限らない。書架と書架の間から足を踏み出すときには気をつけた方が良い。赤ん坊が死角から這ってくるかもしれない。

こんなこともあった。「駐車場の溝に赤ちゃんが這ってましたよ」と利用者。慌てて見にゆくと親もすぐに来た。「車に入れて窓を開けてあった」と親。窓から下に落っこちたのである。発見が遅れていたらどうなっていただろう。親の想像力が欠如している。そうした親たちが図書館で情操教育のために絵本を借りてゆく。

このごろねんねこした母親をあまり見ない。母親は胸に赤ん坊を抱えて来る。登録や予約で文字を書かないといけないときにはカウンターに赤ん坊を置く。

「ここは本を置いたり帳票を置いたりする場所ですので、赤ちゃんを置かないでいただけますか」とお願いする。机の上に座ってはいけません、と学校で教えなくなったのだろうか。「ならば赤ん坊をどこにおけばいいのですか」と訊かれることも増えた。

字を書かねばならないところで、赤ん坊を両手に抱いてくることがそもそものの間違いではないのだろうか。

託児所を作れるほどの予算が図書館にあれば良いのかもしれない。だが、問題はそこにあるのではないような気がする。人間が変質しつつあるのではないだろうか。

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