椰月
(やづき)美智子作品のページ No.1


1970年神奈川県小田原市生。2001年「十二歳」にて第42回講談社児童文学新人賞を受賞し作家デビュー。「しずかな日々」にて07年第45回野間児童文芸賞、08年第23回坪田譲治文学賞を受賞。現在小田原在住。


1.
十二歳

2.未来の息子

3.しずかな日々

4.体育座りで、空を見上げて

5.みきわめ検定

6.枝付き干し葡萄とワイングラス

7.るり姉

8.ガミガミ女とスーダラ男

9.坂道の向こうにある海(文庫改題:坂道の向こう)

10フリン


ダリアの笑顔、市立第二中学校2年C組、恋愛小説、純愛モラトリアム、どんまいっ!、かっこうの親もずの子ども、シロシロクビハダ、その青のその先の、消えてなくなっても、未来の手紙、伶也と

 → 椰月美智子作品のページ No.2


伶也と、14歳の水平線、明日の食卓、見た目レシピいかがですか?、つながりの蔵、さしすせその女たち、緑のなかで、昔はおれと同い年だった田中さんとの友情、こんぱるいろ彼方、純喫茶パオーン

 → 椰月美智子作品のページ No.3


ぼくたちの答え、ミラーワールド、きときと夫婦旅、ともだち

 → 椰月美智子作品のページ No.4

 


    

1.

●「十二歳」● ★★☆         講談社児童文学新人賞


十二歳画像

2002年04月
講談社刊
(1400円+税)

2007年12月
講談社文庫化



2007/01/13



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主人公のさえは、小学6年、12歳。子供から脱皮する年頃を迎えた少女の微妙に揺れる心の内、戸惑いを新鮮に描いた好作。

さえはポートボール大会でも活躍するし、ピアノの発表会もそこそこにこなし、絵も上手、水泳も得意、おまけに成績も上々と、要するに何でも人並み以上にできる子である。
だからこそなのか、自分がどういう人間で何をしたいのか、はっきりつかめていないようだ。
そのためか、それまで一生懸命になっていたことに急に興味を失ってヤル気を失くしたり、最後には自分は本当に鈴木さえという人間なのかと疑念にかられたりする。

小学生から中学生になるというのは、子供時代において大きな変化の時期だと思いますが、それにしてもさえの場合は極端に過ぎる。
それでも、そんなさえを好意的に見ることができるのは、さえが率直な女の子で、さえの同級生たちを見る眼が優しく、温かいからです。それはクラスでちょっと問題になっている子や男子に対しても変わるところありません。
 200頁余の作品だと登場人物は少数に限られるのが普通なのに、さえが呼びかける同級生はとても多い。そしてその殆どが好意的な視線であり、それは読み手にとっても楽しいこと。
12歳のさえの感性は眩しく、瑞々しい。本書はそんな魅力に満ちた作品です。お薦め。

※同じ12歳の少女を描いても島本理生「あなたの呼吸が止まるまで」とは対照的。両作品を読み比べてみるのも良いと思います。

    

2.

●「未来の息子」● ★★


未来の息子画像

2005年04月
双葉社刊

(1500円+税)

2008年02月
双葉文庫化



2005/08/06



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一般的に短篇集というと、同じ傾向の作品がまとめられていることが多いのですが、本書はその点各篇の趣きがバラバラ。
ユニークで心温まる話があると思えば、不気味でどう捉えれば良いのか迷う話があったりと、ちと困惑してしまいました。

ユニークで心温まる話は「未来の息子」と「月島さんちのフミちゃん」。
「未来の息子」は、こっくりさんを呼び出して好きな相手の気持ちを占ってもらおうとした中学生、理子の話。
こっくりさんに取り憑かれたと思ったら、何と親指大の中年オヤジ。しかも、理子の未来の息子だという。
「月島さんちのフミちゃん」も中学生のフミが主人公。両親が交通事故で早くに死んでしまい、二卵性双生児のカンちゃん(勘次郎)瑛子ちゃんに育てられている。カンちゃんはキリッとした美男子にもかかわらずオカマ、瑛子ちゃんは年中身体に異変が起きていて、今は頭の後ろに口ができているという。
前者は未来の息子と会話したことで主人公の心の中に広がりが生まれる点、後者は奇妙な家族ながらも妹を慈しんでいる家族愛が感じられる点で、心温まる短篇。

上記2篇に対し「女」は、人妻の生理感覚を妖しくも危うくも描いていて、陶酔感と共に不気味さを味わうことになる一篇。
「三ツ谷橋」はよく判らず、「告白」には?!。

いずれもなんとなく不思議でよく判らないながらも、後味が濃く残るといった短篇集。

未来の息子/三ツ谷橋/月島さんちのフミちゃん/女/告白

    

3.

●「しずかな日々」● ★★★       野間児童文芸賞・坪田譲治文学賞


しずかな日々画像

2006年10月
講談社刊
(1400円+税)

2010年06月
講談社文庫化



2007/01/09



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本書に描かれているのは、ごく普通の小学生の、ごく普通の日常生活の日々に過ぎません。
でもそこには、自分の前に世界が開けているという実感があります。何とそれは輝かしく、明るく、楽しい日々であることか。
全ての子供たちにこんな輝いている日々があったらどんなに幸せなことかと思わざるを得ません。
ただしそれは読み終えてから思うこと。読んでいる最中はただ、主人公の枝田光輝(みつき)と一緒になってこの幸せな日々を過ごす楽しさを満喫するのみです。
これだけストーリィの中に入り込んでいることが楽しく、かついつまでも忘れたくない余韻を残す作品はそうあるものではありません。
多くの子供たちに是非読んで欲しい一冊。お薦めです。

なお、ストーリィは次のとおり。
母子2人暮らしの光輝は、成績も運動もパッとせず、学校でもいるかいないか判らない生徒だった。学校が終われば家に帰って家事をし、母親の帰りを待つだけの生活。
そんな光輝の生活が一変したのは、5年生になって同級生になった押野の一言から。それは単に「三丁目の空き地に来いよ。野球しようぜ」というごくありきたりな一言に過ぎませんが、彼にとってはまさに“人生のターニングポイントとなる記念すべき日”となったのです。
遊び友達ができ、ニックネームで呼ばれるようになり、空き地での野球仲間、押野の姉との出会いと、彼の生活は急速に開けていくのです。
それまでの、まるで存在しない人間であるかのようにしていた日々、母親の帰りを待つだけの生活とどんなに違っていることか。
自分の前に世界が開けていることを知る歓びは、閉ざされていた生活があったからこそ瑞々しく、輝かしく感じられるというものです。
そしてその輝かしい日々を失うかと思われた時、初めて光輝は断固とした意思を示して、それまで知らなかった祖父との暮らしが始まるのです。
その祖父との暮らしは、光輝の生活を何と楽しく、さらに輝かしいものにしたことか。
そんな彼の祖父との暮らし、友達と一緒に笑い合った日々がとても羨ましくなる程です。
理屈なし、ただただ楽しい作品。まずはお読みあれ。

      

4.

●「体育座りで、空を見上げて」● ★★


体育座りで、空を見上げて画像

2008年05月
幻冬舎刊
(1400円+税)



2008/06/20



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主人公・和光妙子の中学3年間をつぶさに描いた、青春&成長ストーリィ。

プロローグは、小学校生活最後の学活から。
その時の彼女たちにとって中学校とは、こわいところ。不良に呼び出されたり、先輩からいじめられたりと、だから不安だという(どこから仕入れたんだ、こんな情報?)。
ところが実際に中学校に進学して、1年、2年、3年と過ごすうちに、彼らはどんどん変わっていく。
同級生や友だち関係に戸惑っていたのが、次第に大胆にもなり、男の子を意識したり、意識されたり。当然女の子ですから、身体にも変化が生じ、微妙に意識してしまう。
そして3年生にもなると、訳もなく母親につっかかって、自分が悪いと判っていて惨めにもなるのだが、自分ながらどうしようもない。
そんな日々が、中学校を卒業する日まで順々と克明に描かれていきます。

よくもまぁ中学生の心の内をこうも見事に描けるものだなぁ、と感心することしきり。そうだったよなぁ、こんなだったよなぁ、と心の底から懐かしさが込み上げてくる気がします。
でもこれは女の子たち側の物語。そうだったなぁと懐かしみながらも、女の子ってそうだったのか、男の子はちょっと違っていたなぁと思います。
ですから、本書は女性にとってはもっと懐かしくて仕方ない気持ちになれる作品でしょう。
元男の子としては、そんな男女のズレを残念に思う反面、ホッとする気持ちもあり。当時の子供っぽい自分の心の内をこんなにも素っ裸に描き出されたら、きっとこっ恥ずかしくてたまらくなったことでしょう。
小学校と高校生活の間にある、過渡期の3年間。今思い返すと、それはそれで愛しき日々。

プロローグ/一年三組/二年七組/三年九組/エピローグ

   

5.

●「みきわめ検定−超短編を含む短編集−」● ★☆


みきわめ検定画像

2008年10月
講談社刊

(1300円+税)

2012年06月
講談社文庫化


2008/11/10


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椰月さんの「あとがき」にある一文をそのまま引用すると、
日常の中で見過ごしていること、見なかったふりをしたこと、取り返しのつかないこと、そこに隠されている心理と真実、その発見。そんな、カーヴァーの書く「やっちまった感」が大好き、とのこと。
本書に収録されているのも、そんな趣向の短篇ばかり。
そんなことあるなァ、そんなこと思ってしまうことあるよなァ、と楽しい短篇もあれば、ちょっと理解できないままの短篇もあります。

その中で抜群に面白かったのは、表題作の「みきわめ検定」
4回目のデート、キス以上のものをお互いに期待している。どうせすることならさっさと早く済ませてしまいたい、ゆっくり知り合うのはそれからといった風の、主人公の女の子の心理が可笑しい。しかし・・・・・。
その他、駅のホームで突然ヘンな衝動にかられてしまうOLを描いた「六番ホーム」、介護施設で老人の世話をするアルバイトの大学生を描いた「と、言った。」も面白い篇。

日常生活、切り出してみようと思えば、いろいろなストーリィが生まれるものなのかもしれない、と納得。

みきわめ検定/死/沢渡のお兄さん/六番ホーム/夏/と、言った。/川/彼女をとりまく風景/きのこ/クーリーズで/西瓜

 

6.

●「枝付き干し葡萄とワイングラス−超短編を含む短編集−」● ★★


枝付き干し葡萄とワイングラス画像

2008年10月
講談社刊
(1300円+税)

2012年06月
講談社文庫化


2008/11/11


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本書「あとがき」によると、収録されている短篇はいずれも、椰月さんが「読みたいと思う短編」で、いずれ陽の目をみられたらいいなあと思いつつ書き留めておいたものだそうです。

ありふれた日常生活のある一時を切り出したストーリィ。
離婚、浮気とか当事者にすれば大きな曲がり角という事柄もありますが、視点を変えてみると、可笑しさと温かさをつい感じたりもします。そんな、ふと安らぎを覚えるような、コミカルな味わいが楽しい。
「みきわめ検定」と同じく“超短編をふくむ短編集”ということですが、「みきわめ」が結婚前、本書が結婚後という切り分けなのだそうです。
・・・って、ストーリィのこと、椰月さん自身のこと?

本書中、最も共感してしまうのは「風邪」。判るなぁ、そうなんですよねぇ、熱が出て寝込んだ前後の気分は。
若い夫婦による平日の夜のドライブを描いた「夜のドライブ」、夫婦喧嘩の顛末を描いた表題作の「枝付き干し葡萄とワイングラス」、毎日毎日大袈裟に騒ぐ夫に妻がついに逆キレした顛末を描いた「甘えび」
さらりとコミカルなところが、何とも楽しい。好きですねぇ。
また、もうひとつ挙げると「おしぼり」。漫画的で馬鹿馬鹿しいような話なのですが、愉快になるんだなぁ、これが。

城址公園にて/風邪/夜のドライブ/たんぽぽ産科婦人科クリニック/プールサイド小景(仮)/七夕の夜/枝付き干し葡萄とワイングラス/甘えび/おしぼり/どじょう

  

7.

●「るり姉(ねえ)」● ★★


るり姉画像

2009年04月
双葉社刊
(1600円+税)

2012年10月
双葉文庫化



2009/05/07



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「るり姉」という題名から連想するのは、エレノア・ポーターの名作スウ姉さん
時代の違いもあるでしょう、スウ姉さんが身を犠牲にして家族のために尽くすという典型的な長女気質の女性だったのに対し、本書のるり姉は、その奔放な明るさ故に姪の三姉妹に慕われる叔母という立場。

本ストーリィの中心となる渋沢家は、看護師として働く母親が早くに離婚したため、高校生のさつきを筆頭に、中学生のみやこ、小学生のみのりという女性ばかりの一家。
三人が“るり姉”と呼んで慕って止まないのは、母親の4歳年下の妹である叔母のこと。
まず第一章、高校生のさつきが彼女たち姉妹とるり姉の濃い結び付きを語った後、るり姉が重い病気で入院し、日毎に痩せ細っていく様子が語られます。
その後、三姉妹の母親=けい子、次女のみやこ、るり姉の年下の夫である開人を各章の語り手として、彼らの生活ぶり、そして各人にとってるり姉がどういった存在なのかが各々の視点から語られていきます。

るり姉は常に明るく、元気良く、皆がその明るさに鼓舞され、元気を出すことができるという存在。
渋沢家、決して恵まれている家庭環境とはいえませんが、るり姉の存在に支えられているからこそ、各々が個性的に元気でいられている、という風です。
「スウ姉さん」とは異なる、現代的な家族小説。
単にるり姉を賞賛して終わるのではなく、さつき、母親けい子、みやこ、みのりと、各々の個性的な言動が本書の魅力です。
なお、本書は可笑しいくらいに女系家族小説。祖母、母親、るり姉、三姉妹と女性ばっかりです。
その中で唯一の男性が、るり姉の2番目の夫である開人。女性たちに尻に敷かれている一方の気弱な男性かと言えばさに非ず。彼のるり姉に対する傾倒ぶり、真に愛すべし。

登場人物一人一人の生き生きとした人物造形がたっぷり楽しめる、愛すべき家族小説。
従来の家庭観・子育て観が維持できなくなって来ている今、何が大切なことなのか、本書はその道筋を示してくれているような気がします。

さつき−夏/けい子−その春/みやこ−去年の冬/開人−去年の秋/みのり−四年後春

 

8.

●「ガミガミ女とスーダラ男」● ★☆


ガミガミ女とスーダラ男画像

2009年09月
筑摩書房刊

(1500円+税)

2013年07月
講談社文庫化


2009/10/30


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「Webちくま」に20.05.09〜21.04.24の間連載された、抱腹絶倒の夫婦バトル物語。

読み始めたすぐそばから、なっ、何なんだ、この夫婦は!のひと言。
しもネタ好きで悪ふざけばかりの亭主、その亭主と罵り合い、殴る蹴るのやり放題という女房、呆れ果ててもう口も利けません、という程。
家にいても、外に出かけても、子守をしてても、年中罵り合い、叩き合い、という風なのですから。

椰月さんのあとがきを読むと、コレ、小説ではなく、エッセイなんですよねぇ・・・・。
“ガミガミ女”は当然に椰月さんであって、“スーダラ男”は2人目の旦那、とのこと。
椰月さんのイメージが崩れたというより、余りに乖離し過ぎていて全く結びつきません。
なんで夫婦でいるの?、もう離婚した方がいいのでは?と思って当然という程なのですが、それでもちゃんと次男が生まれてくるのですから、余人には知れない夫婦の良さがあるのだろう、と考える他ありません。
なお、椰月さん曰く、連載が終わってストレスの発散ができなくなり、困っているのだとか。

それにしてもまぁ、よくぞここまで・・・・。

  

9.

●「坂道の向こうにある海」● ★★
 (文庫改題:坂道の向こう)


坂道の向こうにある海画像

2009年11月
講談社刊
(1500円+税)

2013年04月
講談社文庫化



2010/01/03



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小田原にある同じ特養老人ホームで働く同僚だった4人を主にして描く、恋愛成長ストーリィ。

朝子正人は現在恋人同士の関係にあるが、元々正人は朝子の5歳下の同僚=の恋人だった。略奪愛という結果になったが、朝子が梓に申し訳ないと思うのは、正人と関係ができてから3ヶ月間それを梓に内緒にしていたこと。
その梓、今は朝子が正人の前に付き合っていた卓也と恋人関係。
いくら何でもそのまま4人が同じ職場という訳にはいかず、朝子がディサービスセンターへ転職、梓も隣町の病院へ転職、正人と卓也が今までどおり同僚という関係。
3角関係ならぬ4角関係でいかにもドロドロしていそうな関係ですが、傍の好奇心による視線と別に、本人たちの間に意外とそういう思いはないのがすぐ知れます。他の2人のことをつい考えてしまわざるを得ないものの、前の関係はなんとなく付き合っていたもの。今度こそ正真正銘の恋愛感情だと思っている。

恋愛というのは唯一無二のものではない、幾度か経験することによって自分の恋愛関係も成長していくものである、ということを謳ったストーリィ。
恋愛感情を自覚していても、梓が卓也に対して嫌な奴だと感じるところはあるし、朝子は自分が結婚するだろう相手は正人の次の男性と感じています。
今の恋愛関係が絶対なものではない、恋愛もまた何度も積み重ねて自分の人生を築いていくものだと描いている点、恋愛小説としては珍しい。そして、恋愛というのもの真実の姿を正しく描いていると感じます。
2組の関係だけでなく、卓也の同僚=村上冬樹(冗談みたいな名前ですが)と妹=祥子との恋人関係もまた象徴的。

主役となる4人が代わる代わる第一人称の主人公、語り手となるので、本人たちの心の有り様がすんなりと受け止められ、読み易い。
穏やかで地味、でも恋愛を新たな観点から考えさせられる一作。

  

10.

●「フリン immorality」● ★★☆


フリン画像

2010年05月
角川書店刊
(1500円+税)

2013年01月
角川文庫化



2010/07/02



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題名の“フリン”、即ち“不倫”。
これまでの椰月作品からすると意外な感じを受けます。不倫といえば、反道徳的、そして暗いイメージを浮かべる故。

ただ、本書を読むと、一口に“不倫”といっても実に様々な姿があるなぁというのが実感。
不倫ストーリィといっても、明るい印象を受けるものもあれば、裏切りという印象を受けるものもあるといった具合に、其々。
その違いをもたらすのは、当人の本気度でしょうか。
夫婦といっても元々は他人。結びつきがあれば別れもあるというのは、何ら不思議ではありません。不倫といっても、途中過程のことなのか、それとも最初からそれだけで終わる関係なのか。

本連作短篇集の主人公たちは、いずれも<リバーサイドマンション>の住人。
単にそう設定しただけのことかと思っていたら、最後の篇、それまでの主人公たちが一堂に会した場で、仰天するような不倫ストーリィが展開されます。
ただ読者を仰天させるのではなく、その篇をもって不倫ストーリィを総括しているところが、椰月さんの上手さです。
「フリン」という題名に腰を引くことなく、あくまで椰月作品として、読むことをお勧めします。きっと後悔することはない筈。

ちなみに、「葵さんの初恋」ではその初々しさが気持ち好く、次の「シニガミ」ではその結末に因果応報と思い、「最後の恋」では中年サラリーマンの一途さに思わず陶然。
「年下の男の子」は可笑しく、「魔法がとけた夜」の主人公には共感し、最後の「二人三脚」では住民たちの一人になった気分でその打ち明け話に仰天。
読了後はすっかり納得させられた気分です。それもまた楽しき哉。

葵さんの初恋/シニガミ/最後の恋/年下の男の子/魔法がとけた夜/二人三脚

          

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