|
31.とにもかくにもごはん 32.ミニシアターの六人 33.いえ 34.奇跡集 35.みつばの郵便屋さん−あなたを祝う人−−みつばの郵便屋さん No.7− 36.レジデンス 37.タクジョ!−みんなのみち− 38.みつばの郵便屋さん−そして明日も地球はまわる−−みつばの郵便屋さん No.8 39.銀座に住むのはまだ早い 40.君に光射す |
【作家歴】、みつばの郵便やさん、転がる空に雨は降らない、牛丼愛、それは甘くないかなあ森くん、片見里なまぐさグッジョブ、みつばの郵便やさん−先生が待つ手紙−、ホケツ! その愛の程度、ひりつく夜の音、みつばの郵便やさん−二代目も配達中− |
近いはずの人、家族のシナリオ、太郎とさくら、本日も教官なり、みつばの郵便屋さん−幸せの公園−、それ自体が奇跡、ひと、夜の側に立つ、みつばの郵便屋さん−奇蹟がめぐる町−、ライフ |
ナオタの星、縁、まち、今日も町の隅で、食っちゃ寝て書いて、タクジョ!、みつばの郵便屋さん−階下の君は−、今夜、天使と悪魔のシネマ、片見里荒川コネクション |
みつばの泉ちゃん、夫妻集、うたう、町なか番外地、モノ、日比野豆腐店 |
31. | |
「とにもかくにもごはん」 ★★☆ |
|
2023年09月
|
“子ども食堂”を舞台にした、子どもたち、大人たちの群像劇。 松井波子、44歳。夫の隆大が交通事故で急死した後、心が埋まらず呆然としたままのような状況。 ふと思い出したのは、夫が亡くなる直前の会話で、夜の公園で一人夕食代わりのパンを食べていた男の子のこと。 そこから波子は精力的に行動し始め、閉店した喫茶店クロードをただで貸してほしいと交渉し、<クロード子ども食堂>開店に漕ぎつけます。 開店は月に2回、午後5〜8時、子どもは無料、大人は 300円。スタッフは波江を含め5人、うち2人は学生ボランティア。 最近よく聞くようになった“子ども食堂”を舞台にした連作風群像劇であり、しかも作者が小野寺さんとなれば、面白い作品であるのはもう決まったようなもの。 主宰者である波子の経緯、就活の上で負担の少ないボランティアという大学生の動機、子どもたちの家庭事情が次々と語られていきますが、敢えて言えば“お節介おばさんの慈善活動”ストーリィかな?という思いあり。 ところが後半に至ると、味わい、言葉の深みが一気に加速、流石うまいなぁ、という感嘆に変わるのですから、やはり小野寺さんは曲者です。 子どもたちより、大人たちに目が向けられたからでしょうか。 主役である波子の発する言葉の数々が、実に良い、心に届いてきます。 人と人との繋がりが一気に広がっていく、という興奮あり。 どんな形であろうと、人と人が繋がっていくところに安らぎと期待を生まれます。とくに同じ町に住む人たちの輪が繋がっていくのであれば。 人と人の関係が疎遠になっている現在において、小野寺さんが一貫して描いてきたテーマが本作品にも籠められている、と感じます。 波子と高校生である航大との親子のやりとりが楽しい。皆の心を和らげているようです。そして最後には、アッと言わせられるのですから、何とまァ心憎い。 お薦め! 午後四時−こんにちは−松井波子/午後四時半−おつかれさま−木戸凪穂/午後五時−いただきます−森下牧斗/午後五時半−ごちそうさま−岡田千亜/午後五時五十五分−お元気で−白岩鈴彦/午後六時−さようなら−森下貴紗/午後六時半−ごめんなさい−松井航大/午後七時−ありがとう−石上久恵/午後七時半−また明日−宮本良作/午後八時−初めまして−松井波子 |
32. | |
「ミニシアターの六人」 ★★☆ |
|
2024年10月
|
銀座のミニシアターで、2年前に死去した末永静男監督の代表作「夜、街の隙間」の追悼上映が行われます。 最終日前日 午後4時50分の回、観客は僅か6人。 各章、観客6人それぞれの人生ドラマが描かれます。 ただし、映画を観てという共通点をもった連作ストーリィという単純な構成ではなく、スクリーンの中のドラマと観客自身の人生が交錯しているようです。 映画館も銀座なら、観ている映画の舞台も銀座、しかも夜。そして何人かの観客には、この映画にまつわる思い出があるという設定がとても洒落ています。 映画と並行して語られる所為か、各主人公の人生もまた映画の一コマのように感じられます。この切り取り方がとても上手い! 昔、TVのロードショーでよく観た、オムニバス映画作品のようです。 なお、間に挿入されている「断章」は、末永静男監督の実子で、女優の母親を苦しめた父親を憎んでいる立男が主人公。 この息子くん=末永立男の扱い方も、ホント上手いなぁ。 手練れによる、洒落た、鮮やかなオムニバス映画を味わった気分です。 ・三輪善乃はかつてこのミニシアターでチケット販売係。 ・山下春子はかつて大学の男友達とこの映画を観た思い出あり。 ・安尾昇治は末永静男のデビュー作品を観て映画監督の道を諦めた過去あり。 ・沢田英和はこの作品に恋人との苦い思い出あり。 ・川越小夏は誕生日デートの予定だったこの日、恋人のやむを得ない事情で一人この追悼映画を観る。 ・本木洋央は、末永監督とその愛人だった母親との間に生まれた実子で、自らも映画監督を目指していて・・・。 ・最後をまとめる「再び記念:三輪善乃」、「午後七時の回」のキレ味がよく実に爽快。小野寺さんへ拍手です。 記念:三輪善乃-60歳/思念:山下春子-40歳/断章−丸の内/断念:安尾昇治-70歳/無念:沢田英和-50歳/断章−丸の内/雑念:川越小夏-20歳/一念:本木洋央-30歳/断章−銀座/再び記念:三輪善乃/午後七時の回 |
33. | |
「い え」 ★★ |
|
|
「ひと」「まち」に続く、普通の人たちを描くストーリィ。 ※という訳で、「ひと」に登場した惣菜屋「おかずの田野倉」も顔を出しますし、「まち」で主人公だった江藤瞬一も隣人として登場します。 主人公は大学卒業後スーパーに就職、3年目の三上傑(すぐる)。 3歳下の妹=若緒(わかお)は就活中。 その三上家の家族(両親と傑)がぎくしゃくするようになったのは、傑の友人であり若緒のカレシであった城山大河が自動車事故を起こし、同乗していた若緒が左膝を怪我し、歩く時に左足を引きずるようになってしまったことから。 傑、何かと妹の若緒のことを気遣わずにはいられない。 一方、母親が父親につっかかることが増え、傑と大河は会わないままとなり、カノジョである福地美令との付き合いにも支障が生じている。 主人公の傑、ごく普通の青年でしょう。真面目で大人しい、人づき合いは悪くないけれど、ちょっと要領が悪いかも。 そんな傑の日々を、丁寧に綴っていくストーリィ。 主人公は傑なのですが、他の登場人物たち一人一人もまた、それぞれの面において主人公である、という雰囲気が漂っています。それが何とも気持ち良い。 傑や江藤瞬一がよく散歩する、ランニングする川沿いの土手で風に吹かれているような感じでしょうか。 いろいろな人と関わり合って、そこに傑がいる、という感じ。 それは若緒も同じです。左足を引きずるようになったからといって人と関わらずにいることはできませんし、そもそも若緒にそんな気持ちは無いようですし。 最後は、爽快というより、ホッとさせられたという読後感。 ※傑も大河も、美令や若緒に助けられたのではないでしょうか。 三月−雨/四月−空/五月−花/六月−鳥/七月−風/八月−月/九月−川/十月−家 |
34. | |
「奇跡集」 ★★ |
|
|
朝の満員電車に乗り合わせた人たち、それぞれが経験するちょっとした奇跡を描いた連作短編集。 (奇跡というと大袈裟かも。ちょっとした喜び、と受け取ってもらった方が良いかもしれません) ちょっとした奇跡、ちょっとした喜び。それだけで気持ちが弾んでくるようです。温かい気持ちになれる短編集です。 ・「青戸条哉の奇跡−竜を放つ」:大学生、電車の中でトイレを我慢できずになった時、隣の女性が突然しゃがみ込み・・・。 ・「大野柑奈の奇跡−情を放つ」:会社員。突然しゃがみ込んだ女性のことが気になり、ひとつ先の駅から引き返すと・・・。 ・「東原達人の奇跡−銃を放つ」:容疑者を尾行中の刑事。しかし、赤ん坊の危機を救うことを優先・・・。 ・「赤沢道香の奇跡−今日を放つ」:会社員。デートに向かう途中、痴漢と間違われた男性を目撃するのですが・・・。 ・「小見太平の奇跡−ニューを放つ」:会社員。満員電車の中で失敗した広告の代替案を考えていた処・・・。 ・「西村琴子の奇跡−業を放つ」:44歳の公務員。交際中の男性の浮気相手を尾行中。その結果は・・・。 ・「黒瀬悦生の奇跡−空を放つ」:密造銃の運び屋。刑事の尾行、仲間の脅し、最後に選んだ道は・・・。 ※日常的に使う電車を舞台にした連作短編集というと思い出すのは、有川ひろ「阪急電車」。未読の方には是非同作もどうぞ。 1.青戸条哉の奇跡−竜を放つ/2.大野柑奈の奇跡−情を放つ/3.東原達人の奇跡−銃を放つ/4.赤沢道香の奇跡−今日を放つ/5.小見太平の奇跡−ニューを放つ/6.西村琴子の奇跡−業を放つ/7.黒瀬悦生の奇跡−空を放つ |
35. | |
「みつばの郵便屋さん−あなたを祝う人−」 ★☆ |
|
|
<みつば町>を担当区域とする郵便配達員=平本秋宏を主人公とした“みつばの郵便屋さん”シリーズ第7弾。 秋宏もすでにみつば郵便局8年目。異動があっても不思議ない頃合いですが、今回も異動なし。 そのためか本巻、みつば郵便局赴任以来、関わった人たちの変化や子どもたちの成長、町の変化等がいろいろ描かれているという印象です。 本シリーズも終盤間近か?とますます思えてきます。 ・「あなたを祝う人」:みつば町に初めてカフェ(店名:ノヴェレッテ)が誕生。子どもが生まれたばかりの国分苗香宛て現金書留、送り主は知らない人? 友人のセトッチ・未佳夫婦に未久くん誕生。 ・「拾いものには福がある」:配達中、道路脇に未開封の料金後納郵便が落ちているのを発見。落とし主は果たして・・・? ・「エレジー」:馴染みだった篠原ふさ(80代半ば)死去。 孫の山村海斗(中三)と久しぶりに会話。 ・「心の小売店」:中二の時職場体験学習でみつば局にきた柳沢梨緒、大学生になって年賀バイトに。今井家への配達、小六の貴哉くんが秋宏に缶コーヒー。 ※最後、秋宏以外の配達員が思いがけず異動。ということは、本シリーズはまだまだ続くのか? あなたを祝う人/拾いものにも福はある/エレジー/心の小売店 |
36. | |
「レジデンス」 ★★ |
|
2024年12月
|
いつもの小野寺作品とは全く異なる、救いようもなくブラックな群像劇。かなり衝撃的です。 湾岸に立つ14階建てのマンション“湊レジデンス”に住む4人の若者たちが主人公。 ・会田 望:公立中2年。学年トップの優等生だが横柄な性格。夜道、女性を背後から襲ってのひったくりを繰り返している。 ・根岸英仁:大学卒業後郵便局で夜間バイト。夜道で女性を追いかけるように走って轢き逃げに遭い、就活を断念した結果。 ・入江充也:三流大学の学生。彼女を放って40代女性とのセックスに溺れこんでいる。 ・入江弓矢:充也の異母弟。私立中2年、進学校に入学したものの成績は底辺。自転車泥棒を獲物にしようと狙っている。 ・その他、何らかの形で4人に関わる、ウリ(援交)をやっている女子高生等々、様々な人物が登場します。 まぁ、ろくでもない人間ばかり、というか。 今抱えている鬱憤、欲望をただ振りまいているだけ、これから先に対する何の考えもなく、何ら自分を抑制することがない、という風です。 それさえ持てば、見える風景はかなり違うと思うのですが。 そして、何かと自分に都合よく考え、それに従って行動しているだけですから、報復を受けるかもしれないことを何も考えていません。 実際、弓矢がそうした事態に追い込まれた時、友人だった望、異母兄である充也はどう行動するのでしょうか。 望・充也・弓矢の人物像はまだ分かるのですが、分からないのは根岸英仁。冷静でまともな人物と思われたのですが・・・。 彼らと、ごく普通の人たちを分けたのは何だったのか。 ずっとそれを考え続けてしまう気がします。 プロローグ−警官/木曜日−晴/断章−援交/金曜日−晴一時雨/断章−情交/土曜日−曇/エピローグ−諦観 |
37. | |
「タクジョ!−みんなのみち−」 ★★ |
|
|
新卒女性ドライバー・高間夏子を主人公にした「タクジョ!」の続編。 ただし、今回は夏子が働く東央タクシー・東雲営業所に勤務する同僚ドライバー等々を一人一人描く、群像劇。 ただし、タクシー仕事の内情を知る面白味はあっても、夏子が主役になっていない分、何となく物足りなさを感じてしまうのも事実。 しかし、気づくとどの章にも夏子が登場し、夏子という女性タクシードライバーの存在感の濃さが感じられるストーリィになっているところが嬉しい。 そして最終章は、満を持しての夏子主役のストーリィ。 夏子が新卒でタクシードライバーの道を選んだのは、車の運転が好きというのもひとつの理由ですが、もうひとつ、皆が夏子に期待する経緯がある、という処が注目点。 タクシーを利用した若い女性、男性ドライバーに自宅を知られたくないからと手前で下車したところ、自宅までの間でストーカーに襲われたという事件を知り、それならば自分がドライバーにならなくちゃっと思った、というのがその理由。 それを象徴するのが、ベテランドライバー=道上剛造が口にした一言。 「みつばの郵便屋さん」がついに最終巻を迎えますので、それに代わって高間夏子がシリーズ化されるといいなぁと思います。 小野寺さん、どうでしょうか。 四月二十四日の御徒町−姫野民哉/五月二十五日の田町−霜島菜由/六月十六日の大井町−永江哲巳/七月二十七日の大通公園−川名水音/八月二十八日の金町−道上剛造/九月の南砂町−高間夏子 |
38. | |
「みつばの郵便屋さん−そして明日も地球まわる−」 ★☆ | |
|
本シリーズ第8巻にして、ついに最終巻! 平本秋宏、4月1日となりみつば郵便局勤務もついに9年目。 異動してきたとき23歳だった秋宏ももう31歳。 サラリーマンにとって同じ部署で8年というのは、長い、長過ぎますね。マンネリ化する一方で、異動するのが億劫になってしまう、というか。 しかし、心優しく、いつも真面目で誠実な秋宏においては、そんな心配はないようです。 とはいえ、最終巻。冒頭から、秋宏のみつば郵便局勤務の8年間を総括するような滑り出し。また、再会とお別れも。 ・「昨日の友は友」:宛先相違の郵便物を機に、現住人から友だちだったという前住人のことをいろいろ聞くことに・・・。 谷、転勤。谷の妹=秋乃の交えて4人で送別会。 ・「雨と帽子」:心優しき配達人は道に落ちていた帽子も見捨てることなし。 公園のベンチで弁当を食べる歯科衛生士の遠山(現:楠)那奈さんと久しぶりに遭遇、思い出話。 片岡泉さん、異動と結婚のためついにみつばから引っ越し。 ・「秋の逆指名」:職場体験学習、配達業務を体験してもらう中学生から秋宏への逆指名。凄い!と同僚たち。 初恋の人=出口愛加ちゃん、カレシが出来、近々引っ越しと。 ※春行・百波共演の劇場版「ダメデカ」が好評、お祝い。 ・「そして明日も地球はまわる」:谷の後に異動してきたのは伝説の最速配達人=木下。でも誤配? そしてついに秋宏と恋人たまきとの間にも進展が。 しかし、それを超えるニュース報道・・・さすが春行。(笑) 昨日の友は友/雨と帽子/秋の逆指名/そして明日も地球はまわる |
39. | |
「銀座に住むのはまだ早い」 ★☆ |
|
|
小野寺さん、初のエッセイ本、とのこと。 リクルートが運営するオウンドメディア「SUUMOタウン」に、2020年11月〜22年 9月の間、毎月掲載されたもの。 銀座がないなら人生じゃない、という小野寺さん、可能なら銀座に住みたいけどまずは東京23区にということで、現在住んでいる千葉県のワンルームと同じ家賃5万円ぐらいでどこに住めるだろうかと23区を訪ね歩く、というのが本エッセイのコンセプト。 毎月1区、それぞれの区でこの町辺りならと絞り込み、移り住んだ気になって町歩き。見つけた<キッチン>でランチを取り、最後は<カフェ>でストレートコーヒーを飲むというのが、定例パターン。 町歩きをしながら小野寺さんが語るのは、小野寺作品の登場人物がここに住んでいた等々の関わり。 こんなにもあちこちの区が登場していたのかと驚く思いでしたが、小野寺さん、自作の中で東京23区をすべて何らかの形で登場させているのだそうです。 また、区立図書館に行き当たれば、入って自作があるかどうか確認する、ファンとしてはあって当たり前のことですが、何やら微笑ましい。流石に江東区の図書館には多く所蔵されていた由。 町歩きエッセイとなれば、実際の地図と見比べながら読むと楽しめると思いますが、外で読む場合はそうもいかず。 となれば小野寺さんが撮った写真だけでなく、地図も添えられていたらなぁと思うところですが、残念ながら地図は無し。 なお最後に、書き下ろし掌篇小説付き。その短いストーリィ、ちょっと笑えます。小説家=横尾成吾が登場。 前日譚:ノー銀座、ノーライフ/はじめに/ 第 1回千代田区:神田にたゆたう神保町 第 2回江戸川区:川を感じて住む小岩 第 3回杉並区:静かに元気な西荻窪 第 4回北区 :あれこれ不思議な浮間舟渡 第 5回大田区:端でもにぎわう蒲田 第 6回台東区:浅草も香る田原町 第 7回豊島区:隣駅の魅力に満ちた要町 第 8回葛飾区:まどろみ落ち着くお花茶屋 第 9回品川区:町に紛れる大森海岸 第10回荒川区:都電が愛しい東尾久三丁目 第11回中野区:ジャズもそよぐよ中野新橋 第12回港区 :彩り溢れる三田 第13回板橋区:台に住もうよときわ台 第14回目黒区:キュキュッとまとまる都立大学 第15回足立区:島感強めの王子神谷 第16回新宿区:駅前キュートな下落合 第17回江東区:何だか広いよ東大島 第18回世田谷区:ふんわりやわらか世田谷 第19回文京区:何ともほどよい新大塚 第20回練馬区:公園と生きる石神井公園 第21回墨田区:未知を知る鐘ヶ淵 第22回渋谷区:散歩で渋谷へ代々木上原 第23回中央区:銀座の風吹く月島 /おわりに/ 小説:十一月二日、正午にA2出口 |
40. | |
「君に光射す」 ★★☆ |
|
|
主人公の石村圭斗は、元小学校教師で今はショッピングセンターで警備員。 その石村が小学校教師だった時の出来事、そして現在の警備員として出会った親に世話されていないらしい少女との関わりが、並行して語られていきます。 ストーリィの淡々とした語り口、主人公である石村の淡々とした心の有り様が、とても印象的。 石村、自分についてまるで無欲と言える、でも他人が困っている時には支えようとする。 何故なのだろうな?と思うと、幼少の頃に母親から放置されたことがあり、祖父母に育ててもらい迷惑をかけたという思いが、心の底にいつもあるからなのでしょう。 でもそれは、自分について何も他人に期待しない、何も求めないということではないか。 後半、何故教師を辞めるに至ったかの事情が描かれますが、簡単に仕事を辞められてしまうことが、そんな石村の有り様を表していると思います。 しかし、かつての自分と同じ臭いを発する小四の少女を放っておけないと、自らの意志で行動を起こしたところから、石村の有り様に変化が生まれたようです。 石村が思う程、石村は一人ではない、ということが見えてくる終盤、胸がじんわり温かくなってくるのを感じます。 人を助けるだけではなく、自分もまた人に助けられていいんだ、という言葉が、愛おしく響きます。 主人公がこれから歩むだろう、明るい未来へ向かって、心からエールを贈りたい。 淡々とした語り口の中にある深い味わい、これだから小野寺史宜作品は読むのを止められません。 春−三十二歳/春から夏−二十八歳/夏−三十二歳/秋から冬−二十九歳/秋−三十三歳/冬から春−二十九歳/冬−三十三歳 |
小野寺史宜作品のページ No.1 へ 小野寺史宜作品のページ No.2 へ
小野寺史宜作品のページ No.3 へ 小野寺史宜作品のページ No.5 へ