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21.ナオタの星 22.縁(ゆかり) 23.まち 24.今日も町の隅で 25.食っちゃ寝て書いて 26.タクジョ! 27.みつばの郵便屋さん−階下の君は−−みつばの郵便屋さん No.6− 28.今夜 29.天使と悪魔のシネマ 30.片見里荒川コネクション |
【作家歴】、みつばの郵便やさん、転がる空に雨は降らない、牛丼愛、それは甘くないかなあ森くん、片見里なまぐさグッジョブ、みつばの郵便やさん−先生が待つ手紙−、ホケツ! その愛の程度、ひりつく夜の音、みつばの郵便やさん−二代目も配達中− |
近いはずの人、家族のシナリオ、太郎とさくら、本日も教官なり、みつばの郵便屋さん−幸せの公園−、それ自体が奇跡、ひと、夜の側に立つ、みつばの郵便屋さん−奇蹟がめぐる町−、ライフ |
とにもかくにもごはん、ミニシアターの六人、いえ、奇跡集、みつばの郵便屋さん−あなたを祝う人−、レジデンス、タクジョ!−みんなのみち−、みつばの郵便屋さん−そして明日も地球はまわる−、銀座に住むのはまだ早い、君に光射す |
みつばの泉ちゃん、夫妻集、うたう、町なか番外地、モノ、日比野豆腐店 |
21. | |
「ナオタの星」 ★★ |
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主人公の小倉直丈は29歳。2年前に新卒で入社した製菓会社を辞め、シナリオライターを目指して奮闘中。しかし現実は厳しく、貯蓄を取り崩しての生活もまもなくもう限界。 同期入社で交際7年の恋人=石川藍からついに見限られ、別れを宣告されたところから、本ストーリィは始まります。 たまたま入った風俗店で、何と小三時の初恋相手=牧田梨紗にとんでもない状況で再会。 すると今度は、やはり当時の同級生で今はプロ野球界でエース投手として活躍する高見頼也から突然、頼みたいことがあると電話がかかってきます。 頼也からの依頼もまたとんでもないことだったのですが、友達からの頼みごとだからと、直丈は戸惑いながら引き受けます。 恋人からフラれて以降、急に直丈の周囲は賑やかになります。 梨紗、頼也、その頼也の妻である高見美樹、足音がうるさい2階の住人=菊池澄香23歳。 シナリオライター志望と言えば聞こえはいいが、実質は単なる無職の若者。 その割に何処かのんびりしていて、不器用、バカ正直。 結局は皆々、直丈をきっかけに、直丈を踏み越えて新たな道を掴んでいきます。 それなのに、あぁ、直丈はそのままで良いのでしょうか。 直丈だけが結局、一歩も進むことなく終わるのかと思ったら、実はそこに深遠なドラマがあったとは。 お人好しで、自分のことはさておき人に幸せをもたらすことのできる人物、それも良いじゃないか、と思う次第。 そして最後は・・・・。それは読んでのお楽しみ。 奇妙でコミカルで、気持ちが良くなる青春譚。 |
22. | |
「 縁(ゆかり) 」 ★★☆ |
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2021年09月
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ふとした人の繋がりが、人を救い、幸せにすることもある、といった姿を描く円環ストーリィ。 「霧」の主人公は室屋忠仁・38歳。少年サッカークラブでボランティアのコーチ。選手の一人である寛斗のシングルマザー・美汐との仲を疑う噂に、好意は確かにあったものの辞めると即決断。 「塵」はOLの春日真波・28歳。人のことを何かと批判してばかり。彼氏から別れを切り出されるのも当然と思いますが・・。 「針」はバツイチ、会社では万年係長の田村洋造・52歳。別れた息子の尻拭いをした後、かつてパパ交際していた春日真波から6年ぶりに連絡を受ける。自分は甘いのか。 「縁」は、田村洋造と同窓会で再会した国崎友恵。離婚後家政婦として働くが、カツカツの生活。息子の瑞哉の就活、何とか手助けしたいと思い・・・。 春日真波はちょっと?が付きますが、基本的に皆、善良で心優しい人たちばかり。 それでも、悪い道への誘惑や、行動に迷うことは幾度もあるでしょう。 各篇の主人公たち、最後のところで留まった、それが大事なこと。そしてそれを支えたのは、人との繋がりだったと思います。 小野寺さん、人と人の温かな繋がりを描くのが上手いですが、本作はその中でもとくに圧巻。 各篇の登場人物たちが他の篇にも登場し、各篇ストーリィが繋がりあっているところに楽しい読み応えあり。 なお、「霧」の主人公である室屋のその後が気になりますが、それは読者の想像に任されたようで、それはそれで楽しい。 霧/塵/針/縁/終 |
23. | |
「ま ち」 ★★☆ |
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2022年11月
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いい小説だなぁと心から思える、感じられる一冊。 主人公は江藤瞬一、23歳。尾瀬ヶ原が広がる群馬県片品村育ち。 小3の時、宿屋を営んでいた両親が火事で死去。それ以来「歩荷(ぼっか)」仕事をしていた祖父=紀介に育てられる。 高校を卒業した瞬一は、祖父から「東京に出て、よその世界を知れ。知って、人と交われ」と言われて単身東京へ。荒川に近い江戸川区平井のアパートに住み、コンビニ、引っ越しのバイトをしながら4年が経ったという状況。 瞬一、いつも淡々、飄々としている感じ。でも、きちんと人に接し、仕事がバイトであろうときちんと働き、きちんと暮らしているという印象です。つい“みつばの郵便屋さん”=平本秋宏を彷彿とさせられます。 また、祖父から受け継いだのか、自分の身体を使って働きたい、という。この言葉がとても良いし、新鮮です。 頭を使うという働き方は、もしかするとエゴや損得、無理を生じさせてしまうのかもしれません。身体を使って働くのであれば自ずと限界があり、背伸びはしないで済む、余計な欲をかかずにいられるのかもしれません。 バイト暮らしといっても、行き詰ってのフリーターではありません。きちんと考えるための準備期間という気がします。そもそも田舎暮らしからいきなり東京へ出てきたのですから。 単純でいい、地道にきちんと生きる、それがどんなに大事で、かけがえのないことか。本作はそれを気づかせてくれます。 そうしたことがじっくりと伝わってくる作品です。 同じアパート住まいの君島敦美・彩美母子、笠木得三さん、バイト仲間の野崎万勇等々、そして故郷の人や同級生たち。 いつのまにか瞬一がきちんと人との繋がりを広げ、自分の居場所を見つけていることが、とても嬉しい。 いつの間にかじわじわと、温かさ、幸福感が伝わってきます。 |
24. | |
「今日も町の隅で WHAT GOES ON AT THE CORNER OF THIS TOWN」 ★★ | |
2023年02月
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人生における日常的な一コマを描いた、小野寺さん初の短篇集。 主人公は、11歳(小五)から始まり42歳まで。順々に年齢を追っていく短篇構成に、何やら人生を辿っているような楽しさ(辛さではなく)を感じます。 思ったようにいかないことも多いのですが、それを肯定的に受け止められるかどうか、笑ってしまえるかどうかでその後の人生も変わる筈、そう思わせてくれる短篇集です。 ・「梅雨明けヤジオ」:小五の島愛里、同級生の長野くんに誘われ県大会野球の試合観戦。そこで遭遇したのがヤジオ。そのヤジオのおかげで気持ちが前向きに。 ・「逆にタワー」:バンドのリードギターを降格された中三の水谷悠太、同級生の上条乃衣と初デート。予定とは違ってしまったが、悠太に前向きな気持ちが生まれる。。 ・「冬の女子部長」:高二の森田幹矢、派手な母親のフユにいつも振り回されているため、自分一人で女子研究の部活動。 ・「チャリクラッシュ・アフタヌーン」:バンドデビュー出来なかったことを今も引きずるケント、28歳。小学生に自転車でぶつかられたことが、自分を見直す契機に。 ・「君を待つ」:思いがけない繋がりのあった木塚駿作・29歳と西川那美。お互いに難しさはあるが、今嬉し涙の時を迎える。 ・「リトル・トリマー・ガール」:小説家を目指すが一向に目途立たずの佐藤一臣・30歳。思いがけない出会いに幸せ感。 ・「ハグは十五秒」:古川守・31歳、妻の好美を毎朝ハグするのが習慣。その好美から、困っている元カレを泊めてあげて良いかと問われ・・・。 ・「ハナダソフ」:斎藤周平・40歳、バツイチ。中学の同窓会で大塚豪・夏美夫婦と久々の会話。憧れの花田あかりの登場を待つが、あかりにしろ夏美にしろ色々あったと、今にして知る。 ・「カートおじさん」:直美・42歳、今やレジのおばちゃん。でも、おばちゃんになっても好いことはある。 ・「十キロ空走る」:早瀬行人・42歳。引越作業中、結婚する前の高松道代と一緒に出たTV番組収録ビデオを見つけ・・・。 梅雨明けヤジオ/逆にタワー/冬の女子部長/チャリクラッシュ・アフタヌーン/君を待つ/リトル・トリマー・ガール/ハグは十五秒/ハナダソフ/カートおじさん/十キロ空走る |
25. | |
「食っちゃ寝て書いて EAT.SLEEP.WRITE.」 ★★☆ | |
2023年12月
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もう一つヒット作を書けていない小説家の横尾成吾・50歳。 片や、編集者歴4年になるも未だヒット作を出したことがない編集者の井草菜種・30歳。 その2人がお互いに本気で向かい合い、新作刊行を目指すというストーリィ。 前任編集者から書き直していた原稿をボツにされ、横尾ががっくりした3月から始まり、ついに新作刊行に至るまでの1年間を、月毎、視点を横尾と井草を交互に替えながら描く構成。 ベストセラー作家ならいざしらず、それ程売れない作家というのは本当に大変なんだろうなぁと思わされます。 ずっと独身、ワンルームマンション住まい、質素な食生活、編集者の指摘も素直に受け入れて、ただひたすら刻苦精励し書き続ける日々。作家という華麗なイメージと異なる、まるで修行僧の如き涙ぐましい生活ではありませんか。 これって、売れている、売れていないという違いを除けば、小野寺さん自身の執筆生活そのものではあるまいか。その意味では、とてもリアルな“小説家苦闘物語”です。 そのリアルさが面白いと思って読み進んでいたら、最後に、あぁヤラレタ! 今ノッている作家は、ただの人ではなかったのです。 小野寺さんにまんまとしてやられた、という感はあるのですが、それが気持ち良い。脱帽です。 ファンには、是非お薦めの快心作です。 三月の横尾成吾/四月の井草菜種/五月の横尾成吾/六月の井草菜種/七月の横尾成吾/八月の井草菜種/九月の横尾成吾/十月の井草菜種/十一月の横尾成吾/十二月の井草菜種/一月の横尾成吾/二月の井草菜種 |
26. | |
「タクジョ!」 ★★ |
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2022年10月
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題名だけでは分かりませんでしたが、表紙絵を見ればすぐ意味が分かります。 「タクジョ」とは、女性タクシードライバーのこと。 主人公は高間夏子、23歳。大学新卒でタクシー会社に入社、ドライバー採用。 タクシードライバーの職を選んだのは、運転が好きだから。 勤務時間は午前8時から翌午前4時までの隔日勤務。 主人公=夏子の淡々とした語り口が印象的です。 もうひとつ印象的なのは会話が多いこと。それはそうでしょう、ドライバーとして乗客との会話も描かれているのですから。 タクシードライバーだからといって、特別なドラマがある訳でもなく、ヒーロー的な行動が求められるわけでもありません。 籠脱け(無賃乗車)や強盗まがいのハプニングもありますが、どんな仕事でも何かしらのリスクやトラブルはあるもの。 そりゃそうでしょう。仕事なのですから。新卒で選んだ職種がタクシードライバーというだけで、ひとつの仕事であるという点で他の仕事と何ら変わるところはありません。 その意味で、本作は純然たるお仕事小説。 同僚との付き合いもあれば、紹介された男性との結婚を前提にした交際もある。しかし、すんなり行かないのもまた普通のこと。 やはりタクシードライバーを主人公にした荻原浩「あの日にドライブ」とはまるで趣きの異なるストーリィになっていますが、ドライバーといっても人それぞれ、新卒者もいれば転職者もいるのですから。 自分の選んだ仕事に真っ直ぐ向かい合い、きちんとルールに則って仕事をこなしていく夏子の人物像に好感大です。 十月の羽田/十一月の神田/十二月の五反田/一月の早稲田/二月の町田/三月の江古田 |
27. | |
「みつばの郵便屋さん−階下の君は−」 ★☆ |
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<みつば町>を担当区域とする郵便配達員=平本秋宏を主人公とした“みつばの郵便屋さん”シリーズ第6弾。 ドラマチックな出来事は全くと言って良いほど無く、極めて平穏な巻。 しかし、その平穏さこそ貴重なこと、住民たちの無事を示していることでもありますから。 そして、郵便配達員である秋宏の、配達先一人一人に対する誠実な仕事ぶりが、なおのこと浮かび上がって来るようです。 主人公が6年も担当してきたみつば町、その配達先となる住人たちを一人一人数え上げていくような内容になっています。 それが、秋宏の郵便配達仕事に対する誠実さを物語っていると言えますが、同時に6巻まで続いた本シリーズの長さを振り返るような気がします。 そう思うと、そろそろ本シリーズも終盤間近か?と思えてきますが、どうなのでしょう。 ・「階下の君は」:恋人の三好たまきが住む<カーサみつば>、たまきの階下に住む横尾成吾さんの人柄は? ・「今日もゼロベース」:郵便物のポスト入れ間違い。さて郵便配達員はどう対処すべきか。 ・「あきらめぬがカギ」:届いた封書に穴が開き鍵が入っていなかった、という問い掛け。さて秋宏はどう対応する? ・「秘密の竹屋敷」:今は誰も住んでいないらしく竹が繁って建物を覆い隠しているような一軒家。その家に郵便物が届くのですが・・・。 ※冒頭章の横尾成吾は、「食っちゃ寝て書いて」の主人公。 階下の君は/今日もゼロベース/あきらめぬがカギ/秘密の竹屋敷 |
28. | |
「今 夜」 ★★ |
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“夜”を舞台にした、4人の人物を巡る連作ストーリィ。 ・直井蓮児は25歳、ボクサー。同年代の有望ボクサーとの対戦で勝利して以来、気が抜けたように敗戦続きで練習から遠のく。 ・立野優菜は28歳、タクシー運転手。亡母の治療で未だローン返済を抱える身。ふと魔が差しておつりを誤魔化してしまう。 ・坪田澄哉は30歳、交番勤務の巡査長。同じ交番の上司がクズ警官、おかげで深酒をするようになっている。 ・荒木奈苗は30歳、都立高校の国語教師。澄哉の妻で、元高校の同級生。深酒が常となった澄哉を責め立てずにはいられない。 夜というのは、やはり悪いことを招く時間帯なのでしょうか。 とくに直井蓮児と坪田澄哉の2人は、このまま人生を転げ落ちていくのかどうか、その岐路に立っていると言えます。 立野優菜と荒木奈苗の2人はそこまで至ってはいませんが、まかり間違えば大きな後悔を背負いこむことになってしまうかもしれない。 直井蓮児、立野優菜、坪田澄哉が互いに関わりを持って展開していくところが、小野寺さんらしく面白い。 (人気俳優=春行の名前も会話の中で出てきますし) ある夜、その一日を描いた人生ドラマ。 直井蓮児は挑戦か諦めか。立野優菜はお仕事小説。 坪田澄哉と荒木奈苗はそれぞれ仕事ストレス、夫婦不和の話。 誰にでもあるような等身大の、ちょっとしたドラマですから、親近感が持てて読み応えあり。 なお、冒頭で直井蓮児と坪田澄哉が争った結果はどうなるのか。 思わず戦慄してしまいますが、その結果は4人それぞれが迎える「朝」で明らかになります。乞うご期待。 ※「ひりつく夜の音」「夜の側に立つ」に続く、“夜四部作”の三作目。 直井蓮児の夜/立野優菜の夜/坪田澄哉の夜/荒木奈苗の夜 |
29. | |
「天使と悪魔のシネマ」 ★☆ |
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2024年09月
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人間の死を司るのは、天使なのか、それとも悪魔なのか。 突然目の前に現れた天使あるいは悪魔。 貴方はもう死んでいる、これから死ぬところなんだ、と言って覚悟を決めさせたり、否応なく殺そうとしてきたり。 一方、死んだ後に霊となって親しい人たちの身近を漂ったりと、死の前後に舞台設定した、哀しさもあり滑稽さもある、連作短篇集。 登場する天使も悪魔も、かなり人間的。標的である人間を殺すことに何度も失敗して青ざめたり、ということもあるのですから。 天使と悪魔はどう違うのか。悪魔はとにかく殺そうとし、時にやり過ぎるからそれを調整するのが天使、なの? ただ、天使にしろ悪魔にしろ、人間の死を司っているのは同様のようで、所詮は程度の差、と感じられます。 ミルトン「失楽園」においては、元々サタンは天使の一人(第一天使)だったのですから。 ・「レイト・ショーのケイト」:映画館の観客は自分一人。するとスクリーンの中の女優が話しかけてきて・・・。 ・「天使と一宮定男」:駅ホームで電車の前に飛び込んだ人を助けようとした男、現れた男は主人公に選択肢を・・・。 ・「悪魔と園田深」:悪魔でも失敗することはある? ・「今宵守宮くんと」:主人公が命拾いした理由は・・・。 ・「カフェ霜鳥」:毎年一度命日に現れる、既に故人となったバンド仲間4人。今回は何故命日ではない日に・・・。 ・「ほよん」:霊となった主人公、形はふわふわした球形。漂うようにあちこちへ。 ・「LOOKER」:永遠に10歳の少女=絵恋。かつての親友の今を確かめに・・・。 ・「おれ、降臨」:交渉した結果半日だけ現世を見に行くことが許された主人公、妻と愛娘の元を訪ねますが・・・。 ・「宇宙人来訪」:侵略の事前調査と。本当に宇宙人? ・「中津巧の予定」:悪魔と天使のせめぎ合い。その結果は? レイト・ショーのケイト・ショウ/天使と一宮定男/悪魔と園田深/今宵守宮くんと/カフェ霜鳥/ほよん/LOOKER/おれ、降臨/宇宙人来訪/中津巧の余生 |
30. | |
「片見里荒川コネクション」 ★★ |
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2023年04月
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大学4年生の田渕海平・22歳、寝坊して卒論提出時限を経過してしまい、卒業できなくなったばかりか、折角内定を得ていた会社からも採用取り消しに。 両親へ報告するため<片見里>の実家に戻った海平が、その際に祖母から大枚のお小遣いとともに依頼されたのは、東京に出た元同級生の中林継男を探すこと。 一方、その中林継男・75歳、父親の死去により大学は中退、就職した会社も41歳の時に倒産して転職、結局結婚もせず家族はもう誰もいないという状況。 その継男、同郷の次郎に頼まれたのが、何と「オレオレ詐欺」受け子の代役。仕方なく引き受けた継男でしたが・・・。 本作、中林継男を主人公とする章と、田渕海平を主人公とする章が交互に綴られます。 そして、海平と継男が出会った時から、ストーリィが大きく広がり始めます、継男のかつての知り合いたちを巻き込みながら。 他者の目から見れば、海平は間が抜けているし、継男は寂しい独居老人に過ぎないのかもしれませんが、人と人との繋がりという面において2人には懐の深さが共通してあるように感じられます。 この2人のストーリィを読んでいると、成功と言える人生かどうか、豊かな生活を手に入れたかどうかと、真っ当に生きているかどうかとは、全く違った問題であることに思い至ります。 冒頭から終盤にかけて、この2人の印象は大きく変わっていきます。とくに中林継男は最後、颯爽とした快男児ぶりを見せてくれます。 本作は、真っ当に生きることの大切さを、読者に教えてくれる一冊、そう思います。 ※継男が現在住んでいるのは荒川区。そして故郷は片見里。 本作の題名は、片見里と荒川を繋ぐストーリィだからでしょう。 1月 中林継男、葬儀に出る/2月 田渕海平、寝すごす/3月 中林継男、代役を務める/4月 田渕海平、捜す/5月 中林継男、罪悪感を覚える/6月 田渕海平、迷う/7月 中林継男、深みにはまる/8月 田渕海平、なお迷う/9月 中林継男、謝罪に行く/10月 田渕海平、手伝う/11月 中林継男、故郷に帰る/12月 田渕海平、動く |
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