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1.みつばの郵便屋さん−みつばの郵便屋さん No.1− 2.転がる空に雨は降らない(文庫改題:リカバリー) 3.牛丼愛(文庫改題:人生は並盛で) 4.それは甘くないかなあ、森くん。(文庫改題:東京放浪) 5.片見里なまぐさグッジョブ 6.みつばの郵便屋さん−先生が待つ手紙−−みつばの郵便屋さん No.2− 7.ホケツ! 8.その愛の程度 9.ひりつく夜の音 10.みつばの郵便屋さん−二代目も配達中−−みつばの郵便屋さん No.3− |
近いはずの人、家族のシナリオ、太郎とさくら、本日も教官なり、みつばの郵便屋さん−幸せの公園−、それ自体が奇跡、ひと、夜の側に立つ、みつばの郵便屋さん−奇蹟がめぐる町−、ライフ、ナオタの星 |
ナオタの星、縁、まち、今日も町の隅で、食っちゃ寝て書いて、タクジョ!、みつばの郵便屋さん−階下の君は−、今夜、天使と悪魔のシネマ、片見里荒川コネクション |
とにもかくにもごはん、ミニシアターの六人、いえ、奇跡集、みつばの郵便屋さん−あなたを祝う人−、レジデンス、タクジョ!−みんなのみち−、みつばの郵便屋さん−そして明日も地球はまわる−、銀座に住むのはまだ早い、君に光射す |
みつばの泉ちゃん、夫妻集、うたう、町なか番外地、モノ |
1. | |
「みつばの郵便屋さん」 ★★ |
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2014年08月
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“みつば町”を担当区域とする郵便配達員を主人公にした連作風長篇小説。 マンションに住んでいると郵便物は1階の集合ポストにいろいろなDM・チラシと一緒に投函されているので、郵便配達員さんという意識が薄れているのですが、一軒家の実家に住んでいた頃はもっと身近に感じていたように思います。 一定地域の中を毎日郵便を配って回る配達員さんは、確かにその町やその町に住む人たちのことをいつの間にかよく知っていて当然なのでしょう。同時に、本書中にも書かれているとおり、住民側は配達員さんをあまり意識していない(風景のひとつ程度)ということも事実なのでしょう。 その点で、郵便配達員さんから見た町、町の人々の姿、そして配達員さんと住人との関わりを描いたストーリィというのは新鮮であって、また本作品の面白味です。 ストーリィ全体の雰囲気は、これ以上ないというくらいに優しく、温和で、ごく普通の人々の日常的でささやかな物語、という風です。 そして本書の主人公である25歳の郵便配達員=平本秋宏のキャラクターもまさにその通り。 そんな優しい雰囲気が好きな人向けの、ささやかな“小さな町物語”です。 なお、本作品、“お仕事小説”の仲間に入れても良いのでしょうか。 春一番に飛ばされたものは/悪意も届けてこそ/愛すべきアイスを/待てば海路の日和ある?/起こせる奇蹟も奇蹟/能ある鷹は爪を研げ/たとえ許せはしなくとも/そして今日も地球はまわる |
2. | |
「転がる空に雨は降らない」 ★★☆ |
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2017年11月
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自分の不注意から息子が車道に飛び出し、通りかかった自動車にはねられ即死するという悲運に見舞われたプロサッカー選手=灰沢考人。その結果妻とも離婚、息子だけでなく妻と娘という家庭まで失ってしまう。 本書の登場人物の何人かは悲運な“喪失”を抱えています。 灰沢と彼が出会った中里由季の2人は30代カップルなりに、佳之也と彼が出会った本間青海は19歳という若いカップルなりに、お互いに寄り添おうとする雰囲気が何とも小気味良い。 |
3. | |
「牛丼愛 ビーフボウル・ラブ Beef Bowl Love」 ★★ |
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2019年02月 2014/02/17 |
牛丼屋を舞台に描く、様々な若者たちの人生ドラマ。 登場する若者たちの人物造形が秀逸なので面白いことこの上なし、ぐいぐい引き込まれますが、それがまた楽しい哉。 たかが牛丼、たかが牛丼店、たかが牛丼店のバイト。されど牛丼を愛する人は多く、牛丼店を訪れる人もそこで働く若者たちも多い。だからそこにもそれなりの人生ドラマが展開される、人生ドラマの目撃場所ともなる、ということでしょうか。 第一話は、年下の男子バイトとのセックス期待でパートする主婦の恵と、その恵がデブと馬鹿にする牛丼大好き女子大生=日和との対照が際立っています。それでいて仕事の能力は日和の方がずっと優っているのですから面白い。調子に乗った恵をさて日和がどう逆転するのか、見ものです。 第二話は、驚いたことに円環小説。リレーするかのように次々といろいろな人物が登場しては夫々のちょっとした人生ドラマを演じます。でも何故に円環小説?と思うのですが、その疑問は第三話で紐解かれるという構成が、曲者にして面白さの妙。 さて第三話、様々な人生ドラマもこういう風に終局していけば楽しいことしきりです。愛あるところに幸せも有り、でしょうか。 1.肉蠅/2.そんな一つの環/3.弱盗 |
4. | |
「それは甘くないかなあ、森くん。」 ★★ |
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2016年08月
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森由照、26歳。大手百貨店の個人営業担当。しかし、顧客の一方的な無理強いに腹を立て、言い返して即辞職。会社の寮も出ざるを得なくなり、突然にして仕事も住居を失うことになります。 頼りにするのは同じく東京暮らしの姉ですが、あいにく恋人と西欧旅行中。姉が帰国するまでの一週間、友人等の処を泊まり歩いて凌ごうとします。 一言でいうならば、都会における一青年の青春彷徨記。 かつて同様のストーリィをどこかで読んだような気がしますが、3年以内の離職率が高い現状からすると、あながち非現実的な話ではないのかもしれません。 大学のクラスメイト、高校時代の親友、大学同好会での友人や先輩等々、状況が状況ですから一泊を頼み込む相手先は手当たり次第といった観あり。 それでも決して無理強いせず、遠慮しがちに礼儀をわきまえて、というのが森由照風、これは好感が持てます。 そして、泊めてもらった相手の状況、抱えている問題もいろいろと聞き知るという展開が、青春彷徨記には相応しい。 その中で主人公の転機となるのが、友人ツネのアパートで出会った樹里ちゃんという5歳の少女。 人間というのは、自分のためではなく、人の為に行動するというのが一番の特効薬、一番の転機となるらしい。 主人公自身のことだけでなく、主人公と絡んだことによってその友人たちの再スタートにも繋がっていくところが、何とも気持ち良く、前向きになれるストーリィとなっています。 ※なお本作品中、古典的名著であるソロー「森の生活」が引用されています。主人公の「森」という名前はそれ故かも。 水曜日、第1夜.揺れ動く高田馬場の橋の上/第2夜.彼方には東京タワー車中泊/第3夜.川の字でほとりを往くよ江戸川の/第4夜.世田谷の壁の向こうに妻がいる/第5夜.焼き鳥の煙にむせぶ町屋かな/第6夜.天王洲高みに浮かびさわさわと/第7夜.地に潜りスマホが灯る日本橋/もう一度、水曜日.何やかや始まりもまた橋の上 |
5. | |
「片見里なまぐさグッジョブ」 ★★ |
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先日読んだ「片見里荒川コネクション」、本作とストーリィ上の繋がりはないとはいえ、同じ“片見里”ものが既にあると知れば気になるというもの。 入院を機会にこの際読んでみようと思った次第。 小一の時に父親が死去、それ以降は様々な男とくっつく母親に連れられ各地を転々、小学校時に5回・中学時に3回転校したという過去を持つ谷田一時(ひととき)。 今は音信不通の母親が、小六の時4ヶ月だけ滞在した片見里の寺に父親の遺骨を預けたまま。それが気になって一時は17年ぶりに片見里を訪れます。 その寺の現住職が、当時同級生だった村岡徳弥。予想外にも徳弥は一時を歓待し、腰の引けている一時を中学の同窓会に同行させます。 ところがその同窓会で一時、元同級生2人の不審な会話を耳にしてしまう。 皆から人気のあった女子の倉内美和、一時にも優しかった彼女は3年前に自殺。その死に、当時リーダー的存在だった堀川丈章(市会議員選挙に出馬を目論見中)が絡んでいるらしい。 一体美和と堀川の間に何があったのか。 そこから始まる、真相究明と、心ある仲間たちによる復讐劇。 ちょっとコミカルな色彩が濃い復讐活劇といった風ですが、心根の腐った悪辣な男に対抗するため、彼に虐げられた女性たちのために心ある人たちが繋がって一つのチームが出来上がる、といった展開が嬉しい。 何よりも人と人との繋がりが、いろいろなことを成し遂げることに通じる、と思いますので。 初期作品だからでしょうか。最近の小野寺作品と比較すると、かなり単純なストーリィ。 |
6. | |
「みつばの郵便屋さん−先生が待つ手紙−」 ★★ |
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“みつば町”を担当区域とする郵便配達員を主人公とした連作風長篇小説「みつばの郵便屋さん」第2弾。 本シリーズの特徴は、とにかく穏やかで静かな温かさに満ちていること。それは本書の主人公である平本秋宏25歳のキャラクターに負うところも大きい。 郵便配達員、毎日郵便を配って回っているのですから、街の住民のことを知らず知らずの内に詳しくなっているというのも当然のことでしょう。それ故に“街”を語る者としては恰好の存在かもしれません。だからといって住民各人のプライバシーに立ち入ってはならない、最低限の線を越えて。その抑制の効いた処が、本町物語の快さに繋がっています。 それだけだと何の刺激もないストーリィになってしまうところですが、それを救っているのが主人公の周辺にいる人物。 その最たるものは年子の兄でモデルからイケメン俳優へと人気を高めている春行の存在。何しろ「春行に似ている郵便配達員」ということで何かと主人公は注目されるのですから。 春行の恋人であり人気タレントの百波23歳が、居心地の良い隠れ場所として度々秋宏の部屋に勝手に上り込んでいるところが可笑しい。秋宏の年上の恋人である三好たまき27歳の目を心配してなくていいのか?とつい心配してしまいます。 その他にも、大卒で新人の配達員=早坂22歳や、同僚との間で揉め事を起すのが常のベテラン配達員=谷が新たに異動してきてひと悶着あったり、住民側の様々な問題に関わったりするストーリィも、気持ち良く楽しめます。 「シバザキミゾレ」は、不登校の女子中学生=柴崎みぞれから、主人公が恰好の話し相手にされる顛末。 「その後が大事」は、誤配に端を発した幾人かの街の住民物語。 「サイン」は新しく移動してきた配達員=谷とのゴタゴタ。 「先生が待つ手紙」は、決して来て欲しくない手紙を待ち続ける小学校の女性教師から、その意味を主人公が打ち明けられる話。 シバザキミゾレ/そのあとが大事/サイン/先生が待つ手紙 |
7. | |
「ホケツ!」 ★★ |
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2018年09月
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主人公の宮島大地はサッカー好きな高校3年生。 でも好きだからと言って上手いということにはならない。中高ずっとサッカー部でしたが一度もレギュラーになったことはなく、公式戦に一度も出場したことがない。つまり、万年補欠。 それなのにさもレギュラーであるかのような嘘をずっと付き続けていて、それが胸の内に刺さった棘。 小6の時に両親が離婚し、中1の時に母親が子宮頸がんで死去。それ以来、母の姉に引き取られ、独身で証券会社勤めの絹子伯母とずっと2人暮らし。嘘は生前の母親を喜ばせようとつい付いてしまったもの。 レギュラーになれなくても腐ることなくサッカー部員として一緒に練習を続け、上手い下級生に抜かれても当然のことと思ってしまう、いつも受け身でいる大地を、落ちこぼれ或いは根性なしと呼ぶべきでしょうか。それとも、皆を常に盛り立てようとする温厚な性格を褒め称えるべきでしょうか。私はそのどちらも適当ではないと思います。 大地のそんな性格は、彼の個性のひとつと言うべきでしょう。 もしかすると絹子伯母の幸せを邪魔しているのかもしれないという思いが、いつも自分が一歩引こうとする性格にしているのかもしれません。 でもそんな大地という人間を正当に評価している人もちゃんといます。それも何人も。 スタープレイヤーよりむしろ貴重な存在かも知れない主人公のキャラクターも好感尽きないのですが、彼の良さをきちんと認識している周囲の有り様が何とも気持ち良く、爽快です。 他人の目に惑わさることなく自分の居場所を見つけることも勿論大切ですが、それを正当に評価してくれる存在もまた重要であるのだなぁとつくづく感じます。 大地少年とその絹子伯母に、幸いあれ。 私好みの一冊です。 風薫る五月/風潤む六月/風熱き七月 |
8. | |
「その愛の程度」 ★★ |
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2019年09月
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主人公の豊永守彦は、営業職の会社員、35歳。2年前に7歳年上、バツイチの成恵と結婚し、現在は連れ子である7歳の菜月と3人家族。 ストーリィを追って読んでいくとこの主人公、どうも女性にいいように操られているだけではないかと思えてきます。 次第に主人公と小池君の対照的な相違点が明らかになってきます。小池君は恋人を信じようとすることに積極的。それに対して主人公は、要は相手女性の言うがままをただ受け入れているだけ、という印象。 |
9. | |
「ひりつく夜の音」 ★★☆ |
2019年10月
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所属していたバンドが昨年解散して以降、新しい活動もせずに週2回音楽教室で講師を務めるだけ、ひたすら倹約に努め地味な暮しを続けているクラリネット奏者の下田保幸、46歳が主人公。 下田の生活はまるで、人生を終えようとしている老人のように感じられます。 そんな下田の元にある夜、警察から一本の電話が掛かってきます。その内容は、佐久間音矢という人間を知っているか、というもの。かつて恋人だった佐久間留美の関係者なのか。 その佐久間音矢との出会いによって、止まっていたかのような下田保幸の世界が少しずつ動き始めます。 本作品は、自由さ、気取りの無さが実に良い! 倹約づくめの暮らしといっても、それは本人が選んだこと、何にも問われることなく、ひとつひとつ小さなことも大切にしているその様子には、むしろ人間本来の生き方を感じさせられる気がします。 しかし、音矢との出会いによって動き始める世界もまた、とても魅力に満ちています。 動き始めること、それによって人と人との出会いが広がり、さらに世界が躍動していく。それもまた普遍的な真理なのでしょう。 これまでの小野寺史宜作品の中で質の高さといい、魅力の濃さといい、ダントツに秀逸! 夢の風車/幻の追伸/鏡の世界/闇の吉原/冬の走者/謎の献本/茶の痕跡/数の魔術 |
10. | |
「みつばの郵便屋さん−二代目も配達中−」 ★☆ |
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“みつば町”を担当区域とする郵便配達員を主人公とした連作風長篇小説「みつばの郵便屋さん」第3弾。 主人公である配達員=平本秋宏27歳が醸し出す、安らかな温かさに包まれた本シリーズは、安心して身を委ねていられる雰囲気に満ちている点が魅力です。 3作目となる本書でもその雰囲気は全く変わるところありません。 ただし、本書ではこれまでの2作に比べると、余り大きな変化はありません。 そうした中でそれなりに在った変化はというと、秋宏と同期という女性配達員の筒井美郷がみつば局に異動してきたこと。父親も元郵便配達員だったということで“二代目”、「二代目も配達中」というサブタイトルはこの筒井美郷のこと。 若い女性とはいえこの美郷、かなり強気で物事をはっきりさせる方の性格。秋宏とは好対照で、この2人が並ぶと本シリーズにも新たな面白さが加わるように思えます。 もうひとつ小さな変化としては、大学生の荻野武道がバイト配達員として仲間に加わること。この荻野を巡っては、章を越えた小さなドラマが展開されます。 今回、秋宏の兄である春行、その恋人である百波の出番は少ないのですが、2人の関係が進展している旨報告されており、ファンとしては嬉しいところ。そして2人の出番の少なさを補うように、兄弟の母親である伊沢幹子52歳が登場します。 「二代目も配達中」、美郷の登場は颯爽としています。 「濡れない雨はない」は、バイト配達員=荻野を巡る顛末。 「塔のおばあちゃん」は、秋宏が配達途中、高層マンション30階に住む鎌田めいさん82歳と関わることになった顛末。 「あけまして愛してます」は、小さなロマンス2つ+α。 二代目も配達中/濡れない雨はない/塔の上のおばあちゃん/あけまして愛してます |
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