小野寺史宜(ふみのり)作品のページ No.1


1968年千葉県生、法政大学文学部英文学科卒。2006年短篇「裏へ走り蹴り込め」にて第86回オール読物新人賞、2008年「ROCKER」にて第3回ポプラ社小説大賞優秀賞受賞を受賞し、作家デビュー。


1.みつばの郵便屋さん−みつばの郵便屋さん No.1−

2.転がる空に雨は降らない
(文庫改題:リカバリー)

3.牛丼愛(文庫改題:人生は並盛で)

4.それは甘くないかなあ、森くん。(文庫改題:東京放浪)

5.みつばの郵便屋さん−先生が待つ手紙−−みつばの郵便屋さん No.2−

6.ホケツ!

7.その愛の程度

8.ひりつく夜の音

9.みつばの郵便屋さん−二代目も配達中−−みつばの郵便屋さん No.3−

10.近いはずの人

家族のシナリオ、太郎とさくら、本日も教官なり、みつばの郵便屋さん−幸せの公園−、それ自体が奇跡、ひと、夜の側に立つ、みつばの郵便屋さん−奇蹟がめぐる町−、ライフ、ナオタの星

 → 小野寺史宜作品のページ No.2


縁、まち、今日も町の隅で、食っちゃ寝て書いて

 → 小野寺史宜作品のページ No.3

  


     

1.

「みつばの郵便屋さん」 ★★


みつばの郵便屋さん

2012年05月
ポプラ社刊

(1300円+税)

2014年08月
ポプラ文庫化



2012/08/30



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“みつば町”を担当区域とする郵便配達員を主人公にした連作風長篇小説。

マンションに住んでいると郵便物は1階の集合ポストにいろいろなDM・チラシと一緒に投函されているので、郵便配達員さんという意識が薄れているのですが、一軒家の実家に住んでいた頃はもっと身近に感じていたように思います。
一定地域の中を毎日郵便を配って回る配達員さんは、確かにその町やその町に住む人たちのことをいつの間にかよく知っていて当然なのでしょう。同時に、本書中にも書かれているとおり、住民側は配達員さんをあまり意識していない(風景のひとつ程度)ということも事実なのでしょう。
その点で、郵便配達員さんから見た町、町の人々の姿、そして配達員さんと住人との関わりを描いたストーリィというのは新鮮であって、また本作品の面白味です。

ストーリィ全体の雰囲気は、これ以上ないというくらいに優しく、温和で、ごく普通の人々の日常的でささやかな物語、という風です。
そして本書の主人公である25歳の郵便配達員=平本秋宏のキャラクターもまさにその通り。
そんな優しい雰囲気が好きな人向けの、ささやかな“小さな町物語”です。
なお、本作品、“お仕事小説”の仲間に入れても良いのでしょうか。

春一番に飛ばされたものは/悪意も届けてこそ/愛すべきアイスを/待てば海路の日和ある?/起こせる奇蹟も奇蹟/能ある鷹は爪を研げ/たとえ許せはしなくとも/そして今日も地球はまわる

    

2.

「転がる空に雨は降らない」 ★★☆
 (文庫改題:リカバリー)


転がる空に雨は降らない画像

2012年07月
新潮社刊

(1500円+税)

2017年11月
新潮文庫化



2012/08/20



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自分の不注意から息子が車道に飛び出し、通りかかった自動車にはねられ即死するという悲運に見舞われたプロサッカー選手=灰沢考人。その結果妻とも離婚、息子だけでなく妻と娘という家庭まで失ってしまう。
一方、加害者となってしまった
下山は、責任はないとされたものの自責の念から妻と離婚し自殺。その息子である砂田佳之也はその結果、父親を失うこととなります。皮肉にも佳之也もまた、プロサッカー選手を目指す若者だった。
家庭を失った男性と父親を失った若者、2人にはサッカーという共通点があるものの、サッカー自体は本作品の主筋ではなく、2人の舞台となっているに過ぎません。

本書の登場人物の何人かは悲運な“喪失”を抱えています。
その意味で本書は、喪失と再出発の物語。
それがどんなに辛い記憶であろうと、そのために全てを捨ててしまってはならない、前に向かって進み、そして新しい幸せを掴もうとしなくてはいけないのだ、というメッセージが強く伝わってくるストーリィです。

灰沢と彼が出会った中里由季の2人は30代カップルなりに、佳之也と彼が出会った本間青海は19歳という若いカップルなりに、お互いに寄り添おうとする雰囲気が何とも小気味良い。
そして灰沢と佳之也がついに直接出会うのはサッカーグラウンドであり、2人とも余計なことに捉われず堂々とぶつかり合う展開もまた清々しく感じられます。
心の痛みを感じると同時に胸弾む雰囲気が本書には満ちていて、本作品が好き、と率直に言うことができます。お薦めです!

    

3.

「牛丼愛 ビーフボウル・ラブ Beef Bowl Love ★★
 (文庫改題:人生は並盛で)


牛丼愛画像

2014年01月
実業之日本社

(1500円+税)

2019年02月
実業之日本社
文庫化

2014/02/17

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牛丼屋を舞台に描く、様々な若者たちの人生ドラマ。
登場する若者たちの人物造形が秀逸なので面白いことこの上なし、ぐいぐい引き込まれますが、それがまた楽しい哉。
たかが牛丼、たかが牛丼店、たかが牛丼店のバイト。されど牛丼を愛する人は多く、牛丼店を訪れる人もそこで働く若者たちも多い。だからそこにもそれなりの人生ドラマが展開される、人生ドラマの目撃場所ともなる、ということでしょうか。

第一話は、年下の男子バイトとのセックス期待でパートする主婦の恵と、その恵がデブと馬鹿にする牛丼大好き女子大生=日和との対照が際立っています。それでいて仕事の能力は日和の方がずっと優っているのですから面白い。調子に乗った恵をさて日和がどう逆転するのか、見ものです。

第二話は、驚いたことに円環小説。リレーするかのように次々といろいろな人物が登場しては夫々のちょっとした人生ドラマを演じます。でも何故に円環小説?と思うのですが、その疑問は第三話で紐解かれるという構成が、曲者にして面白さの妙。

さて第三話、様々な人生ドラマもこういう風に終局していけば楽しいことしきりです。愛あるところに幸せも有り、でしょうか。


1.肉蠅/2.そんな一つの環/3.弱盗

      

4.

「それは甘くないかなあ、森くん。 ★★
 (文庫改題:東京放浪)


それは甘くないかなあ、森くん。画像

2014年07月
ポプラ社刊

(1400円+税)

2016年08月
ポプラ文庫



2014/08/04



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森由照、26歳。大手百貨店の個人営業担当。しかし、顧客の一方的な無理強いに腹を立て、言い返して即辞職。会社の寮も出ざるを得なくなり、突然にして仕事も住居を失うことになります。
頼りにするのは同じく東京暮らしの姉ですが、あいにく恋人と西欧旅行中。姉が帰国するまでの一週間、友人等の処を泊まり歩いて凌ごうとします。

一言でいうならば、都会における一青年の青春彷徨記。
かつて同様のストーリィをどこかで読んだような気がしますが、3年以内の離職率が高い現状からすると、あながち非現実的な話ではないのかもしれません。
大学のクラスメイト、高校時代の親友、大学同好会での友人や先輩等々、状況が状況ですから一泊を頼み込む相手先は手当たり次第といった観あり。
それでも決して無理強いせず、遠慮しがちに礼儀をわきまえて、というのが森由照風、これは好感が持てます。
そして、泊めてもらった相手の状況、抱えている問題もいろいろと聞き知るという展開が、青春彷徨記には相応しい。

その中で主人公の転機となるのが、友人
ツネのアパートで出会った樹里ちゃんという5歳の少女。
人間というのは、自分のためではなく、人の為に行動するというのが一番の特効薬、一番の転機となるらしい。
主人公自身のことだけでなく、主人公と絡んだことによってその友人たちの再スタートにも繋がっていくところが、何とも気持ち良く、前向きになれるストーリィとなっています。

※なお本作品中、古典的名著である
ソロー「森の生活」が引用されています。主人公の「森」という名前はそれ故かも。

水曜日、第1夜.揺れ動く高田馬場の橋の上/第2夜.彼方には東京タワー車中泊/第3夜.川の字でほとりを往くよ江戸川の/第4夜.世田谷の壁の向こうに妻がいる/第5夜.焼き鳥の煙にむせぶ町屋かな/第6夜.天王洲高みに浮かびさわさわと/第7夜.地に潜りスマホが灯る日本橋/もう一度、水曜日.何やかや始まりもまた橋の上

    

5.

「みつばの郵便屋さん−先生が待つ手紙− ★★


先生が待つ手紙

2015年02月
ポプラ文庫刊
(620円+税)



2015/05/06



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“みつば町”を担当区域とする郵便配達員を主人公とした連作風長篇小説みつばの郵便屋さん第2弾。

本シリーズの特徴は、とにかく穏やかで静かな温かさに満ちていること。それは本書の主人公である
平本秋宏25歳のキャラクターに負うところも大きい。
郵便配達員、毎日郵便を配って回っているのですから、街の住民のことを知らず知らずの内に詳しくなっているというのも当然のことでしょう。それ故に“街”を語る者としては恰好の存在かもしれません。だからといって住民各人のプライバシーに立ち入ってはならない、最低限の線を越えて。その抑制の効いた処が、本町物語の快さに繋がっています。

それだけだと何の刺激もないストーリィになってしまうところですが、それを救っているのが主人公の周辺にいる人物。
その最たるものは年子の兄でモデルからイケメン俳優へと人気を高めている
春行の存在。何しろ「春行に似ている郵便配達員」ということで何かと主人公は注目されるのですから。
春行の恋人であり人気タレントの
百波23歳が、居心地の良い隠れ場所として度々秋宏の部屋に勝手に上り込んでいるところが可笑しい。秋宏の年上の恋人である三好たまき27歳の目を心配してなくていいのか?とつい心配してしまいます。
その他にも、大卒で新人の配達員=
早坂22歳や、同僚との間で揉め事を起すのが常のベテラン配達員=が新たに異動してきてひと悶着あったり、住民側の様々な問題に関わったりするストーリィも、気持ち良く楽しめます。

「シバザキミゾレ」は、不登校の女子中学生=柴崎みぞれから、主人公が恰好の話し相手にされる顛末。
「その後が大事」は、誤配に端を発した幾人かの街の住民物語。
「サイン」は新しく移動してきた配達員=とのゴタゴタ。
「先生が待つ手紙」は、決して来て欲しくない手紙を待ち続ける小学校の女性教師から、その意味を主人公が打ち明けられる話。

シバザキミゾレ/そのあとが大事/サイン/先生が待つ手紙

       

6.

「ホケツ! ★★


ホケツ!

2015年02月
祥伝社刊
(1480円+税)

2018年09月
祥伝社文庫化



2015/03/08



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主人公の宮島大地はサッカー好きな高校3年生。
でも好きだからと言って上手いということにはならない。中高ずっとサッカー部でしたが一度もレギュラーになったことはなく、公式戦に一度も出場したことがない。つまり、万年補欠。
それなのにさもレギュラーであるかのような嘘をずっと付き続けていて、それが胸の内に刺さった棘。
小6の時に両親が離婚し、中1の時に母親が子宮頸がんで死去。それ以来、母の姉に引き取られ、独身で証券会社勤めの
絹子伯母とずっと2人暮らし。嘘は生前の母親を喜ばせようとつい付いてしまったもの。

レギュラーになれなくても腐ることなくサッカー部員として一緒に練習を続け、上手い下級生に抜かれても当然のことと思ってしまう、いつも受け身でいる大地を、落ちこぼれ或いは根性なしと呼ぶべきでしょうか。それとも、皆を常に盛り立てようとする温厚な性格を褒め称えるべきでしょうか。私はそのどちらも適当ではないと思います。
大地のそんな性格は、彼の個性のひとつと言うべきでしょう。
もしかすると絹子伯母の幸せを邪魔しているのかもしれないという思いが、いつも自分が一歩引こうとする性格にしているのかもしれません。
でもそんな大地という人間を正当に評価している人もちゃんといます。それも何人も。
スタープレイヤーよりむしろ貴重な存在かも知れない主人公のキャラクターも好感尽きないのですが、彼の良さをきちんと認識している周囲の有り様が何とも気持ち良く、爽快です。

他人の目に惑わさることなく自分の居場所を見つけることも勿論大切ですが、それを正当に評価してくれる存在もまた重要であるのだなぁとつくづく感じます。
大地少年とその絹子伯母に、幸いあれ。 私好みの一冊です。


風薫る五月/風潤む六月/風熱き七月

     

7.

「その愛の程度 ★★


その愛の程度

2015年06月
講談社刊
(1650円+税)

2019年09月
講談社文庫



2015/07/13



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主人公の豊永守彦は、営業職の会社員、35歳。2年前に7歳年上、バツイチの成恵と結婚し、現在は連れ子である7歳の菜月と3人家族。
その成恵が店長を務めるカフェが臨時休業となり、成恵の発案で店員やその家族とキャンプ遊びに出掛けます。
ところがそこで、菜月ともう一人が乗ったボートが川で転覆、慌てて豊永と大学生バイトが川に飛び込み2人を救いますが、てっきり菜月と信じていたのに豊永が助けたのはもう一人の女の子=
留衣だった。
気の強い菜月はその時から、お父さんは菜月を助けてくれなかったと言い続け、家族の間がギクシャクしていきます。
一方、留衣の母親である
広瀬結衣もバツイチ女性。お礼の電話を受けたことがきっかけになって豊永は、結衣が現在ウェイトレスをしているカフェに通うようになるのですが・・・。

ストーリィを追って読んでいくとこの主人公、どうも女性にいいように操られているだけではないかと思えてきます。
そんな頼りない30代男性であるにもかかわらず、後輩社員の
小池君は恋人である品田くるみの疑わしい行動についてしきりと相談を持ちかけてきます。

次第に主人公と小池君の対照的な相違点が明らかになってきます。小池君は恋人を信じようとすることに積極的。それに対して主人公は、要は相手女性の言うがままをただ受け入れているだけ、という印象。
すべては(愛を含め)程度の問題に過ぎない、と主人公は語りますが、それは本当でしょうか。
そう考えてしまうと、結婚や家庭までもが絶対的な関係ではなく、相対的な関係に過ぎなくなってしまうのではないかと懸念する次第です。さて、現実にはどうなのでしょうか。


暗転の七月/退転の八月/横転の九月/空転の十月/好転の十一月/急転の十二月

      

8.
「ひりつく夜の音 ★★☆


ひりつく夜の音

2015年09月
新潮社刊
(1600円+税)

2019年10月
新潮文庫



2015/10/05



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所属していたバンドが昨年解散して以降、新しい活動もせずに週2回音楽教室で講師を務めるだけ、ひたすら倹約に努め地味な暮しを続けているクラリネット奏者の下田保幸、46歳が主人公。
下田の生活はまるで、人生を終えようとしている老人のように感じられます。
そんな下田の元にある夜、警察から一本の電話が掛かってきます。その内容は、
佐久間音矢という人間を知っているか、というもの。かつて恋人だった佐久間留美の関係者なのか。
その佐久間音矢との出会いによって、止まっていたかのような下田保幸の世界が少しずつ動き始めます。

本作品は、自由さ、気取りの無さが実に良い!
倹約づくめの暮らしといっても、それは本人が選んだこと、何にも問われることなく、ひとつひとつ小さなことも大切にしているその様子には、むしろ人間本来の生き方を感じさせられる気がします。
しかし、音矢との出会いによって動き始める世界もまた、とても魅力に満ちています。
動き始めること、それによって人と人との出会いが広がり、さらに世界が躍動していく。それもまた普遍的な真理なのでしょう。

これまでの小野寺史宜作品の中で質の高さといい、魅力の濃さといい、ダントツに秀逸!


夢の風車/幻の追伸/鏡の世界/闇の吉原/冬の走者/謎の献本/茶の痕跡/数の魔術

            

9.
「みつばの郵便屋さん−二代目も配達中− ★☆


みつばの郵便屋さん−二代目も配達中

2015年11月
ポプラ文庫刊
(640円+税)



2015/12/02



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“みつば町”を担当区域とする郵便配達員を主人公とした連作風長篇小説みつばの郵便屋さん第3弾。

主人公である配達員=
平本秋宏27歳が醸し出す、安らかな温かさに包まれた本シリーズは、安心して身を委ねていられる雰囲気に満ちている点が魅力です。
3作目となる本書でもその雰囲気は全く変わるところありません。
ただし、本書ではこれまでの2作に比べると、余り大きな変化はありません。
そうした中でそれなりに在った変化はというと、秋宏と同期という女性配達員の
筒井美郷がみつば局に異動してきたこと。父親も元郵便配達員だったということで“二代目”、「二代目も配達中」というサブタイトルはこの筒井美郷のこと。
若い女性とはいえこの美郷、かなり強気で物事をはっきりさせる方の性格。秋宏とは好対照で、この2人が並ぶと本シリーズにも新たな面白さが加わるように思えます。
もうひとつ小さな変化としては、大学生の
荻野武道がバイト配達員として仲間に加わること。この荻野を巡っては、章を越えた小さなドラマが展開されます。

今回、秋宏の兄である
春行、その恋人である百波の出番は少ないのですが、2人の関係が進展している旨報告されており、ファンとしては嬉しいところ。そして2人の出番の少なさを補うように、兄弟の母親である伊沢幹子52歳が登場します。

「二代目も配達中」、美郷の登場は颯爽としています。
「濡れない雨はない」は、バイト配達員=荻野を巡る顛末。
「塔のおばあちゃん」は、秋宏が配達途中、高層マンション30階に住む鎌田めいさん82歳と関わることになった顛末。
「あけまして愛してます」は、小さなロマンス2つ+α。

二代目も配達中/濡れない雨はない/塔の上のおばあちゃん/あけまして愛してます

  

10.
「近いはずの人 ★★


近いはずの人

2016年02月
講談社刊
(1600円+税)

2020年01月
講談社文庫



2016/03/04



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学生時代に付き合い、27歳の時に再会して結婚した妻の絵美
その妻が突然に交通事故死。
友達と泊りに行くといった温泉宿に向かう途中、タクシーが崖から転落しての死だった。しかし、一緒に行く友達が誰だったかは判らないまま。
夫である主人公の
俊英、33歳は、毎晩カップラーメンと缶ビールで食事を済ませる傍ら、妻の遺品となった携帯のロックを外そうと番号を打ち込み続ける。
そしてついにロックが解除された時、まるで知ることのなかった妻の秘密が・・・。

恋愛結婚の妻が突然に死去、それもよく判らない状況で。
納得できない気持ちを抑えられない、という主人公の気持ちは当然のことだろうと思います。
その仔細が判るかと毎晩数字を入れ続けた末に行き着いたものは、さらなる妻の謎。
自分を振り返り、そして妻のことや互いの実家のことを振り返り続ける一年間が月を追って描かれます。
喪失感を抱える自分の心に決着をつけるためにはそれだけの時間が必要だった、とも言えます。
その最後に主人公が辿りついた思いこそ、そこから前へ足を踏み出すために必要な着時点だったのでしょう。

夫婦であっても元々は他人、夫婦になったからといって相手のことを全て知っている訳ではない、と考えられる人であれば共感できるストーリィではないでしょうか。
一年間苦しみ続け、その時間を経てこれから新しい扉を開けようとしている主人公に対し、エールを送りたくなる一冊です。


後退の九月/懐胎の十月/携帯の十一月/重体の十二月/倦怠の一月/招待の二月/敵対の三月/停滞の四月/忍耐の五月/進退の六月

       

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