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21.イモムシ偏愛記 22.トリカブトの花言葉を教えて 23.雨女とホームラン 24.強制終了、いつか再起動 25.階段ランナー |
【作家歴】、秋の大三角、雨のち晴れところにより虹、ドラマデイズ、乙女部部長、今夜も残業エキストラ、想い出あずかります、海岸通りポストカードカフェ、恋愛映画は選ばない、劇団6年2組、連れ猫 |
時速47メートルの疾走、風船教室、空色バウムクーヘン、赤の他人だったらどんなによかったか、ひみつの校庭、ロバのサイン会、いい人ランキング、忘霊トランクルーム、南西の風やや強く、昨日のぼくのパーツ |
「イモムシ偏愛記」 ★★ | |
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本ストーリィは、地元の高台にある豪邸、かつての銀幕スター=故蓑島隆三が建てたその家を中三女子の新巻凪が訪ねるところから始まります。 実は凪、デビュー前のアイドル=ヒカルのファン。そのヒカルの祖母が現女主人の蓑島嘉世子という訳で、嘉世子を助けて自宅に招かれたことをチャンスとしてヒカルに会えるかもと、のこのこ出掛けてきた次第。 しかし、何とその嘉世子がイモムシ好き、そしてそのイモムシの世話を頼まれるとは! 生き物全般、とくに虫が大嫌いな母親の影響を受けて、凪も虫が大の苦手。それでもヒカルに会えるならと、我慢して嘉世子の手伝いをするため蓑島邸に通うことになります。 邸内の雑木林を嘉世子に案内されて巡りながら、植物やイモムシの生態、無事に蝶となるまでイモムシたちのホームステイを学ぶうち、次第に凪はイモムシや植物に関心をもつようになり、イモムシたちを可愛く思うようになります。 そしてヒカルとも接点が生まれるのですが、嘉世子が<蝶屋>であるのに対して、ヒカルが<蛾屋>だったとは。 加えて、殺虫剤の会社に勤めている凪の父親まで、実は大の虫好きだったとは! とにかく、凪の心が変化していく様子が面白く、微笑ましく、楽しい。 体操部を辞めて帰宅部となった凪曰く、「イモムシ部」。 イモムシ好きになったことで凪の活動域が広がり、新たな世界が開けていくところが、嬉しい。 凪だって、人間の一生から見れば、今はイモムシにあたる時期。 成長につれ姿を変えていくのが同じです。 そうした変化の可能性があること、これから広い世界に羽ばたいていくという可能性が感じられるところが、本作の魅力です。 ・・・好きだなぁ。 |
「トリカブトの花言葉を教えて forgotten storage room phantoms」 ★☆ | |
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「忘霊トランクルーム」の続編。 前作と同じく、ストーリィは祖母からトランクルーム管理のバイトを引き受けた高校生の上倉星哉(主人公)と、トランクルーム利用者で星哉の片想い相手となった年上の女性=西条聖子の2人を主軸として進んでいきます。 西条さんにトランクルームの忘霊が見えている? 忘霊が見える条件は殺意を持ったことがある人間だけの筈。優しい女性である西条さんが一体どんな殺意を? ただでさえ西条さんに片想いをしている星哉、じっとしていることなどできず、西条さんが抱える秘密、西条さんが隠している想いを突き止めようと行動し始めます。 まずは、西条さんが助手を務めている、森国千園美先生のアートフラワ―教室に入り込むのですが・・・。 続編ではありますが、本作において“忘霊”によるファンタジー要素は薄まり、片想い相手の秘密を突き止めようという青春&恋ミステリの要素が濃い。 ただし、ミステリ、青春・恋という面においても、割とあっさりした内容。でも登場人物たちの心情を細やかに描いている点が、好ましいところ。 吉野万理子作品のこうした雰囲気が、私は好きです。 なお、題名の中の「トリカブト」はストーリィ中、フラワーアレンジメントの材料として登場します。 トリカブトに託された意図・想いは、どんなものだったのでしょうか。 さらなる続編がありそうです。楽しみです。 1.二一九号室の問題集/2.きらめく剣山のなかに/3.スパイになった夜/4.三人の西条さん/5.そして、感情は放たれた |
「雨女とホームラン」(イラスト:嶽まいこ) ★★ | |
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児童向け作品です。 占いが大好きな小学生、タッツこと竜広と隣席の里桜(りお)。 小学生たちの学校生活等を通じて、占い等を信じることの是非について考えさせられるストーリィ。 民放朝のニュースでは毎日星座占いをやっているし、竜広や里桜のようにラッキーアイテムにこだわる人もいるのでしょう。 また、血液型による性格占いを口にする人は、依然としていなくならないし。 私は子供のころから占いというものにはトンと縁がない、というか、信じるつもりが昔も今も全く信じるつもりがなかったので、本書冒頭、男子だというのに毎朝ラッキーアイテムにこだわっている小学生というキャラクターは、むしろ新鮮でした。 しかし、雨女と決めつけて仲間外れにしてしまうのはなぁ。 ましてからかいやイジメではなく、「本気でそういったのだ」と言われてしまうと何ともはや・・・・。 占いを信じるのも半ばお遊び、気分転換、というような処に留めておいて欲しいものです。 本作では、担任の小山先生というキャラクターが凄く好い。そう簡単に笑顔を見せない女性というところも、竜広や里桜たちと同じ目線で向かい合ってくれるところも素晴らしい。 吉野万理子作品には、大人向けのも、こうした児童向けのものもありますが、どれをとっても語り口に楽しさがあります。 大人が読んでも楽しく、かつ考えさせられる作品です。 1.占い当たります/2."見える"人/3.負けおばさん登場/4.だれのせい?/5.先生のひみつ/6.見えないもの |
「強制終了、いつか再起動」 ★★ | |
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パソコン操作のような題名ですが、本作は中学生における薬物依存問題をリアルに取り上げたストーリィ。 主人公の一人は加地隆秋。父親の栄転に伴い新潟から東京の私立一貫校に転校した加地ですが、勉強についていけず、さらに運動神経の鈍さも笑われ、孤独感を否めない。 そんな時、家庭教師の大学生=安岡の部屋に遊びに行った処、大麻を見つけ、誘われるままに大麻を吸ってしまう。 一方、同級生の伊佐木周五は、何とか YouTubeのアクセス者数を伸ばしたいと、前の学校で放送部だったという加地を動画作りの仲間に誘い入れます。 そしてもう一人、麻矢夕都希(ゆづき)は無愛想ながら2人からの頼みに協力するのですが、その過程で加地が薬物を使用しているのではないかと気付いてしまう。 そして、ついに加地がある事件を起こしてしまい、窮地に追い込まれることになります。 友人が薬物依存になった時、何をできるのでしょうか。 本作の意図は、疑似体験を通じて薬物依存の怖さを警告すると共に、一度道を踏み外してしまった該当者を見放してしまうのでは解決にならない、と伝えることにあるとおもいます。 中学生なら彼らの人生はまだまだ始まったばかりのところなのですから。本書題名は、再出発の願いを篭めたものと思います。 主人公たちは中学生ですが、世代を問わず薬物問題について考えさせてくれるストーリィになっています。 ※こう言っては何ですが、私は未喫煙者なので、煙草と薬物は同様の問題に思えます。どちらも百害あって一利なし、そして中毒性があるという点で共通していますから。 また、主人公たちに対する誘い文句は、大学時代に友人が私に煙草を吸わせようと勧めた時の言葉とほぼ同様でした。 ひょっとすると、薬物はすぐ身近にある危険、そう考えておくべき問題なのかもしれません。 |
「階段ランナー」 ★★ | |
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それぞれに悩みを抱える高校生2人、奥貫広夢と三上瑠衣。 その2人が出会い、言葉を交わしたところから、徐々に2人の新しい歩みが生まれていき、そして・・・。 まさに青春真っ只中のストーリィですが、“階段ランナー”というモチーフが抜群に魅力的です。 吉野万理子さんの作品、やっぱり大好きです。 事情があって水泳部を辞めたらしい奥貫広夢。 一方、腕が触れなくなってクラブチームでの卓球練習を休んでいる三上瑠衣。 そして、母親が大怪我したを契機に、長く勤めた高校を退職して京都に帰り母親の学習塾を引き受けることになった、社会科教師の高桑曜太朗(通称:タクワン)。 その高桑のブログ<階段おじさん>が共通の話題になって、広夢と瑠衣の交流が増えていきます。 2人が抱えている悩みは、それぞれ自分で解決しなければならない問題。でも、傍に仲間がいて話を聞いてくれたら、それだけでどんなに力になることでしょう。 ※広夢の友人である山本の存在も、地味ですが、とても貴重。 そして、なんだかんだを経てこの2人、高桑に誘われ、チームで“京都駅大階段駈け上り大会”に挑戦することになります。 階段というのが象徴的。困難や悩みや課題といったものが階段に譬えられますから。その階段を駆け上った先には、きっと新しい希望があるに違いありません。 ストーリィ自体、爽快で楽しめるのですが、実在の“京都駅大階段駈け上り大会”をはじめ、高桑がブログで紹介するあちこちの階段−「せつない階段」「出会いの階段」「決意の階段」「哀しみの階段」「無限の階段」「勝負の階段」「あきらめない階段」等について語った階段話がとても楽しい。 これは余禄の楽しみです。 |
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