中村 航作品のページ


1969
年岐阜県大垣市生、芝浦工業大学工学部工業経営科卒。富士写真光機株式会社にてエンジニアとして6年間勤務。2002年「リレキショ」にて第39回文藝賞、2004年「ぐるぐるまわるすべり台」にて第26回野間文芸新人賞、13年第4回早稲田大学坪内逍遥大賞奨励賞を受賞。


1.
リレキショ

2.ぐるぐるまわるすべり台

3.トリガール!

4.僕は小説が書けない(共著:中田永一)

  


 

1.

●「リレキショ」● ★☆         文藝賞


リレキショ画像

2002年12月
河出書房新社

(1300円+税)

2005年10月
河出文庫化

2003/10/06

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「姉さん」に拾われ、同居して「半沢良」になった、という青年が本作品の主人公。
そして主人公は、当座のリレキショを書き、近所のガソリンスタンドで深夜勤務のアルバイトを始めます。
そんな主人公の、姉さんとその親友、ガソリンスタンドに手紙を届けてくる女子高生との関わりを描いた、あっさり目のストーリィ。
主人公が、姉さんとどのような経緯で知り合い、同居するようになったかは、一切本書には書かれていません。
まるで、そこから初めて半沢良の生活が始まり、リレキショが新たに埋められていく、そう語っているかのようです。

登場人物は僅かに、姉さん=半沢橙子とその親友=山崎、ガソリンスタンドの同僚=加藤、女子高生=漆原玲子の5人。
37歳の同僚は別として、各人それぞれマイペースな生き方が軽快で、とても気分が良い。読後感はとても爽やかです。
とくに、ウルシバラとの深夜、静かなデートは、城達也“ジェット・ストリーム”のナレーションを聴くような、特筆すべき爽快さあり。

 

2.

●「ぐるぐるまわるすべり台」●      野間文芸新人賞


ぐるぐるまわるすべり台画像

2004年6

文芸春秋刊

(1238円+税)

2006年5月
文春文庫化

  

2004/06/30

 

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リレキショ」「夏休み」に続く“始まりの”三部作、完結篇とのこと。
そう言われればその通りの共通点があります。
今までの居場所を捨てて初めて立ったその場所に、急に陽が射してきたような明るさがある、中村航作品からはそんな印象を受けます。本書のみならず、それは「リレキショ」についても同じこと。
ストーリィも、これまでの生活を一旦整理し、新しい局面が始まろうとする一時点を描いているという点で共通しています。

前篇の「ぐるぐるまわるすべり台」は、主人公の僕(小林)が大学へ退学届を出すところから始まり、新たにバンドメンバーを集める話が描かれます。それと並行して、バイト先の学習塾で面倒みている不登校児ヨシモクが二学期から学校へ行きます、と僕に語るところで終わる。
ひとつが終わったけれど、次がまだ始まらない、というスタート前の一時点。それは、時間の流れを描くという普通のストーリィ観とは異なり、ストーリィが始まらないままに終わってしまうという展開。読み手としては正直戸惑ってしまうのですが、それが中村航作品の持ち味というべきでしょう。
後篇の「月に吠えろ」は、前篇で僕が集めたバンドメンバーのうちギターのてつろー、ドラムのチバ2人の、バンドに加わる前の話らしい。僕だけでなく、他のメンバーにとっても始まりであることを示すものでしょう。

ぐるぐるまわるすべり台/月に吠える

    

3.

●「トリガール!」● ★★


トリガール!画像

2012年08月
角川マガジンズ刊

(1400円+税)

  

2012/09/02

  

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さてどんなストーリィかというと、題名からある程度推測はつくと思いますが、空を飛ぶために奮闘する大学女子の物語。

主人公は一浪して工業大学の機械工学科に入学した鳥山ゆきな。といって、何か目標があって入学した訳ではない。
そのゆきな、クラスで女子たった2人の相方=
和美に引きずられるようにして、毎年琵琶湖で開かれる“鳥人間コンテスト”出場を目指すサークル「T.S.L.」に入部。さらに、勧誘者の巧みな話術に載せられ、ダイエットにも役立つからと、パイロット班に所属します。
人力飛行機である以上、肝心のエンジンはヒト。制作側の各班とは全く別にパイロット班のやることといえば、ひたすら人力を高めるのみ。ただしそのパイロット班が、ゆきなを入れても僅か3人とは知らなかったこと。

工業系学校の部活動と言えば忘れられない作品が、濱野京子「レッドシャイン。真夏下でのソーラーカーレースも過酷でしたが、人力が鍵とあってコンテストまでの日々のトレーニングが重要と、違った意味でこれもまた過酷。
大学生、自力制作の人力飛行機だというのに、授業風景も制作風景も一切お構いなく、ひたすらアスリート並みのトレーニングに尽きるストーリィ、というところが何気に可笑しい。
それらは一体何の為?といえば、空を飛ぶ快感を味わいたいから、というに尽きるのですから何ともはや。

最後は主人公たちと一緒に読み手も、空を飛ぶ爽快感が味わえます! でもその快感を味わうためには本書を最初から最後まで、しっかりと読むことが不可欠です、念のため。

  

4.

「僕は小説が書けない」(共著:中田永一) ★★


僕は小説が書けない画像

2014年10月
角川書店刊
(1500円+税)

2017年06月
角川文庫化



2014/11/27



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2人の作家による合作小説。それもこれまでにない試みだったようです。
小説執筆を助けてくれるプログラムを作れないものかと考えていた中村さんが中田さんに声を掛け、2人で研究中の“ものがたりソフト”を使って何度も打ち合わせしながらプロット等を作成、そして 5〜10頁毎交互に書き進めるという方法で完成したのが、本作品なのだそうです。

主人公は高校に入学したばかりの
高橋光太郎。この光太郎、ちょっとした不幸を招き寄せてしまう“不幸力”の持ち主なのですが、そのうえ血液型の違いから父親と実は血の繋がりがないことを知ってしまいます。
友達もおらず、自宅に居場所もないと感じていて不幸感いっぱいの光太郎に声を掛けてきたのは、2年生の
佐野七瀬。文芸部存続のため光太郎を入部させようと近づいてきた次第。
何だかんだを経て光太郎は文芸部に入部しますが、先輩部員やOBたちといえば、奇妙な人物ばかり。
中学生の時に書き始めたまま中断状態にあるファンタジー冒険小説、果たして光太郎はそれを書き上げることができるのやら。

本好きとしてまず、本書題名に釣られました。(笑)
小説とはそもそも何か?という高邁な思索は背後に置き、前面では、小説を書くためにはどういうステップが必要かという現実論を小説という形を借りて具体的にレクチャーすると同時に、諦め感いっぱいの光太郎を叱咤激励する高校青春ストーリィ。
結構、楽しかったです。
合作の所為か、面白さ・楽しさとも2割増しという感じ。

1.降ってきた僕/2.小説の書き方/3.書けない理由/4.その夏の永遠/5.答は風のなか

    


  

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