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51.今ひとたびの、和泉式部 52.元禄お犬姫 53.尼子姫十勇士 54.旅は道づれきりきり舞い−きりきり舞い− 55.別れの季節−お鳥見女房− 56.嫁ぐ日−狸穴あいあい坂− 57.きりきり舞いのさようなら−きりきり舞い− |
【作家歴】、まやかし草紙、誰そ彼れ心中、幽恋舟、氷葬、月を吐く、お鳥見女房、笠雲、あくじゃれ瓢六、源内狂恋、髭麻呂 |
其の一日、蛍の行方、犬吉、恋ほおずき、仇花、紅の袖、鷹姫さま、山流しさればこそ、末世炎上、昔日より |
こんちき(あくじゃれ瓢六)、天女湯おれん、木もれ陽の街で、狐狸の恋、奸婦にあらず、かってまま、狸穴あいあい坂、遊女のあと、美女いくさ、巣立ち |
めおと、べっぴん(あくじゃれ瓢六)、楠の実が熟すまで、きりきり舞い、炎天の雪、天女湯おれん−これがはじまり−、お順、春色恋ぐるい、恋かたみ、幽霊の涙 |
四十八人目の忠臣、心がわり、来春まで(お鳥見女房No.7)、再会(あくじゃれ瓢六)、ともえ、相も変わらずきりきり舞い、王朝小遊記、破落戸、帰蝶、風聞き草墓標 |
「今ひとたびの、和泉式部」 ★★ 親鸞賞 |
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2019年08月
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諸田さん、久々の王朝もの。 是非読んでみようとまでは思わなかったものの、女流歌人の和泉式部という人物、彼女が生きた時代とは如何なるものだったのかという興味から読んだ次第。 冒頭、亡くなった和泉式部を蛍を愛でながら偲ぼうという催しの舞台からストーリィは始まります。 この部分での主人公は、式部の保護者であった赤染衛門の娘である江侍従。 和泉式部の生涯を描く本ストーリィと別に、江侍従を主人公とする後日のストーリィが設けられているその理由は、式部の生涯に幾つかある謎を解き明かそうとする、ミステリ構造になっているからと読み進んでいくうちに判ります。 和泉式部を主人公とした主ストーリィだけでも、運命に翻弄された故というべき数々の試練と恋の遍歴という内容は読み応えたっぷりですが、ミステリ風味を加えた点が諸田さんらしい処。 和泉式部が生きた時代は、藤原道長が権力を握り、娘の彰子を中宮に押し込み自分の血に繋がる孫を帝位につけようとして専横を振るった時代。 式部が味わった数々の試練は、まさにその道長の専横の結果というのが本ストーリィでの設定です。 自らの権力、立身出世欲のために道具のように扱われ、個人としての幸せを踏みにじられたのは、和泉式部だけでなく中宮彰子、娘の小式部も同じことと描かれています。 男の身勝手さに振り回される女性の悲哀は、現代にも通じる題材でしょう。 試練ばかりの人生を、歌を以て生き抜こうとした女流歌人の生涯は、女性読者の共感を呼ぶところ大ではないでしょうか。 |
「元禄お犬姫」 ★ | |
2021年05月
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諸田さんは、元々好きな作家の一人ではあるのですが、本作についてはインパクトがないなぁ〜と感じざるを得ず。 五代将軍綱吉の「生類憐みの令」下の“お犬様”時代、どんな犬も易々と手懐けてしまう武家の娘がいた。 そのため、その娘=知世は“お犬姫”と異名で呼ばれることに。 多数の犬を世話するために設けられた中野村の<御囲>。その世話役を命じられた森橋一家、夜も絶えない犬の鳴き声により知世の母親は心身を損なったため、父親と兄を中野村に残し、知世は祖父の善右衛門と母親、13歳の弟と一緒に、祖父と親しい剣術道場主の堀内源左衛門の元に身を寄せ、その離れで暮らすことになります。 本作は知世らが、堀内家の離れで暮らした2年半に起きた、犬にまつわる騒動事を描いた長編時代ストーリィ。 堀内道場の弟子で浪人者の河合真之介らと共に知世は、犬で騒動を起こした間に盗み働きをする<盗賊お犬党>、祖父や源左衛門と親しい堀部弥兵衛の赤穂藩に降りかかった大事件、真之介らの仇討ち騒動、そしてお犬党が企てるテロ計画に巻き込まれます。 それなりに色々なドラマが織り込まれているのですが、もう一つ面白いと思えない、というのが正直な感想。 ひとつは、綱吉時代下で、お犬姫というキャラクター設定が、何やら悪法を批判せず、むしろ肯定するかのような雰囲気を醸し出しているところがあり、すっきりしない気分、というのがその理由。 また、お犬姫と呼ばれるような特技があるにしろ、知世にヒロインという程の魅力は感じられず、また河合真之介についてもヒーローとしての魅力を感じるには至らない、というのも理由のひとつ。 人の情に関わる部分も、何やら散文的で、今一つ盛り上がらなかった観あり。 序.お犬姫見参/1.盗賊お犬党/2.赤穂お犬騒動/3.仇討お犬侍/4.お犬心中/5.お犬の討ち入り |
「尼子姫十勇士」 ★☆ | |
2021年10月
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諸田玲子作品はもうずいぶん読んだし、もういいかなと思ったところで刊行されたのが本書。 尼子氏にもさほど興味はないし(司馬遼太郎「新史太閤記」で読んだ程度)という訳で読むのを見送っていたのですが、諸田さん初のファンタジー歴史小説として評価する向きもあり、それならと読んでみた次第。 かつては出雲を支配していた尼子氏。毛利氏の攻撃により没落していたのですが、山中鹿介が尼子一族であるスセリビメ、寺に入れられていたその息子=勝久を担いで起こした、尼子再興戦の始まりから終わりまでを、ファンタジー要素を絡めて描いた長編歴史小説。 しかし、今ひとつ楽しめなかった、というのが正直な感想。 まず、舞台となる出雲、中央からみれば地方の片隅、という印象がぬぐえませんし、また、尼子氏自体にさほど魅力も覚えず、という訳です(出雲地方自体は個人的に好きなんですよ)。 “十勇士”といっても真田十勇士のような活躍も特になく、ストーリィも何やらチマチマと進むだけ、という印象でした。 ファンタジー要素は、出雲の国らしく、イザナミ・イザナギ伝説と<黄泉の国>が絡むところ。 でも驚天動地の展開には至らないし、極めて大人しい展開。 結局は、尼子氏の没落・滅亡という史実に逆らうことはできなかった、ということでしょうか。 序/1.八咫烏/2.決起/3.上陸/4.合戦/5.浮沈/6.奮戦/7.黄泉国/8.永遠 |
「旅は道づれ きりきり舞い」 ★☆ | |
2022年01月
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“きりきり舞い”シリーズ第3弾。 最新刊「きりきり舞いのさようなら」が2021年12月に刊行。題名からして最終巻か?と思った処、その前の第3弾を読んでいないことに気づきました。という訳で本書を読んだ次第です。 主人公の舞、相変わらず父親の十返舎一九をはじめとする奇人変人たちに振り回されてばかり。 おかげでその都度気持ちを抑えるため唱える文句が「奇人気まぐれきりきり舞い・・・」。 本巻で舞、一九の押しかけ弟子となり居候ともなった今井尚武と祝言を上げるのですが、その祝言直前からあいかわらずドタバタ騒ぎ。ま、本シリーズの基本路線なのでしょう。 なにしろ新婚だというのに、一九の落とし子らしい丈吉を夫婦の養子としたことから、端から「母ちゃん」呼ばわりされるのですから。 正面に父親の十返舎一九がいれば、背後には葛飾北斎の娘であるお栄が控える、という配置。 題名から本巻、ずっと道中話かと思ったのですが、それは勝手な思い込みだったようです。 本書6篇のうち、旅話は最後の2篇のみ。 それも、舞の兄で大阪の本屋に奉公していた市次郎が、駿府の豪商の後ろ盾を得て府中宿で本屋を開業することになったため、市次郎から招待を受けたため、という経緯。 一行は、中風病みの一九とえつの夫婦、舞と尚武の夫婦に丈吉、さらに何故かお栄もという顔ぶれ。 旅の面白さというより、旅先でもドタバタ騒ぎばかりという風なのですが、ちょっとだけ・・・・。 それなりに面白く読みました。 おどろ木、桃の木/われ鍋にとじ蓋/捨てる神あれば/坊主憎けりゃ/旅は道づれ/世は情け |
「別れの季節−お鳥見女房−」 ★★ | |
2022年06月
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“お鳥見女房”シリーズ第8巻にして最終巻。 第7巻「来春まで」から後、続巻がずっとでないままでしたのであれで打ち切りかと思っていたのですが、6年半ぶりの第8巻。ついに最終巻とのことです。 雑誌連載が始まったのが20年前、第1巻刊行から18年半が立っていますので随分と長いシリーズものとなりました。 本巻もこれまでのシリーズ各巻同様、主役である珠世のおおらかさ、温かさが全篇を覆っているという印象です。 それと共に印象的なことは、子供たち世代の活躍が目につくことと、それらを経て各人の今後に目途がついていくところでしょうか。 中でも目立つのは、嫡子=久太郎の嫁である元鷹姫の恵以、そして石塚源太夫の次男=源次郎でしょうか。 その他、次男=久之助の妻である綾、源太夫の次女=秋の行動も印象に残ります。 口煩い珠世の従姉である登美、恵以の実家元家臣である松井次左衛門が2人そろって矢島家の居候になっている処は、温かいものを感じます。 新しい登場人物としては、久次郎が通う天然理心流「試衛館」の道場主=近藤周助、その養子である島崎勝太、そしてしゃぼん玉売りの藤助の弟分だという乙吉等、というところ。 最後、珠世の有り様を今度は恵以が継いで、これからも変わりなく矢島家は続いていくと示唆するかのような締めくくり方は鮮やかで快い気持ちに包まれます。 1.嘉永六年の大雪/2.大鷹の卵/3.黒船/4.御殿山/5.天狗の娘/6.別れの季節 |
「嫁ぐ日−狸穴あいあい坂−」 ★★ | |
2023年03月
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“狸穴(まみあな)あいあい坂”シリーズ、「心がわり」に続く第4弾。何と7年半ぶりです。 前巻にて盗賊騒動にまつわる失態により御先手組から小普請に降格された小山田家ですが、本巻にてさらに思わぬ出来事が襲います。 その結果、結寿と娘の香苗の運命は大きく変わり、紆余曲折を経て再び結寿は八丁堀同心の妻木道三郎と組んで様々な事件に取り組むことになります。 その辺りは、本シリーズ本来の展開です。 なお、小山田家に起きた思わぬ出来事とその経緯は「幕間」にて描かれていますが、どうぞ驚かれませんように。 その後も、あっという間に時間が経過する展開へ。 本巻では結寿の幼い娘=香苗が随所に顔を出し、可愛らしさと共にその存在感を発揮しています。 その所為か、結寿と香苗を大事に思う周囲の人たちが、あたかも2人の応援団であるかのように大活躍します。その点が楽しいところ。 そのうえでさて、最終章の「嫁ぐ日」はどんなストーリィとなるのでしょうか。 本シリーズ、本巻でひと段落ついてしまった観があるのですが、まだまだシリーズは続くのでしょうか。 ツキエ/幕間/花の色は/水と油/いらない子/それぞれの道/嫁ぐ日 |
「きりきり舞いのさようなら」 ★☆ | |
2024年08月
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“きりきり舞い”シリーズ第4弾。 相変わらずの、家族ドタバタ劇です。 今回は大火事で皆が焼け出され、北斎が紹介してくれた深川佐賀町の長屋へ引っ越すところから始まります。 とはいえ場所が変わっただけで、十返舎一九一家のドタバタは相変わらず。正直なところマンネリ気味ではあります。 ・「一寸先は闇」:大火事。住む家を失くしたうえ老婆まで抱え込み、一家は北斎が紹介してくれた深川佐賀町の長屋へ。 ・「貧すれば鈍する」:ひどい臭いのする長屋でしたが何とかホッ。それなのに知り合い家族たちが大勢押し寄せ・・・。 ・「女房妬くほど」:大家の代理人だというおつや、これが妙齢の美人で・・・。さらに、お化けまで出没!? ・「知らぬが仏」:江戸市中で盗賊騒ぎ。一九一家も無縁とは行かず・・・。 ・「百線あやうからず」:兄の市次郎が駿府から江戸に。一方、十返舎一九の名を騙る戯作者が・・・。 ・「灰さようなら」:冒頭、一九の葬儀が盛大に行われるのですが・・・。 一寸先は闇/貧すれば鈍する/女房妬くほど/知らぬが仏/百線あやうからず/灰さようなら |
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