諸田玲子作品のページ No.3



21.こんちき−あくじゃれ飄六−

22.天女湯おれん

23.木もれ陽の街で

24.狐狸の恋−お鳥見女房−

25.奸婦にあらず

26.かってまま

27.狸穴あいあい坂

28.遊女のあと

29.美女いくさ

30.巣立ち−お鳥見女房−


【作家歴】、まやかし草紙、誰そ彼れ心中、幽恋舟、氷葬、月を吐く、お鳥見女房、笠雲、あくじゃれ瓢六、源内狂恋、髭麻呂

諸田玲子作品のページ No.1


其の一日、蛍の行方(お鳥見女房No.2)、犬吉、恋ほおずき、仇花、紅の袖、鷹姫さま(お鳥見女房No.3)、山流しさればこそ、末世炎上、昔日より

諸田玲子作品のページ No.2


めおと、べっぴん(あくじゃれ瓢六)、楠の実が熟すまで、きりきり舞い、炎天の雪、天女湯おれん−これがはじまり−、お順、春色恋ぐるい、恋かたみ(狸穴あいあい坂)、幽霊の涙(お鳥見女房No.6)

 → 諸田玲子作品のページ No.4


四十八人目の忠臣、心がわり(狸穴あいあい坂)、来春まで(お鳥見女房No.7)、再会(あくじゃれ瓢六)、ともえ、相も変わらずきりきり舞い、王朝小遊記、破落戸、帰蝶、風聞き草墓標

 → 諸田玲子作品のページ No.5


今ひとたびの和泉式部、元禄お犬姫、尼子姫十勇士、旅は道づれきりきり舞い、別れの季節(お鳥見女房No.8)、嫁ぐ日(狸穴あいあい坂)、きりきり舞いのさようなら

 → 諸田玲子作品のページ No.6

 


  

21.

●「こんちき あくじゃれ瓢六」● ★☆


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2005年07月
文芸春秋刊

(1571円+税)

2007年07年
文春文庫化



2005/08/02

あくじゃれ瓢六シリーズの第2弾。
唐絵目利き、阿蘭陀通詞の経歴を持ち、裏社会にも通じているという色男・瓢六を主人公とする連作短篇集。
前作では、牢内にいながら底知れない力を発揮してみせる瓢六という主人公に妖しい魅力がありましたが、本書では牢から出てしまっている所為か、そうした魅力が失せた観あり。その分、丸まって安定的なシリーズものに定着したという印象を受けます。

“瓢六もの”の魅力は、人と人との関わりにあります。
瓢六と同心・篠崎弥左衛門との身分を越えた友情。その弥左衛門が八重に恋煩いしていて、恋の指南役として瓢六に頼りっきりというエピソードが楽しい。
また、瓢六とお袖という一対。売れっ子芸者で気風も好いのですが並外れた悋気もちで雌猫にさえ焼き餅を妬く程というのが、この2人における情愛の濃さという楽しさ。
そして、瓢六の元に集まり瓢六に協力して揉め事にあたる気の良い連中。本書では新たに貸本屋の賀野見堂弐兵衛、絵描き浪人の筧十五郎が登場しますが、それなりの面白さを発揮しています。彼らのお調子者ぶりが発揮されるのは「半夏」
そのうえに、風流人ぶっている割りに時々とんでもない発案をして瓢六、弥左衛門を苦渋させる与力・菅野という登場人物あり。
瓢六が活動するたびに駆り出される源次親分、その度にとんでもない羽目に遭うというエピソードは、いつも笑えるアクセント。

本書は“捕り物帖”というより、江戸裏社会にも通じた瓢六という色男が颯爽と江戸の町を駆け抜ける爽快感に魅力があります。
軽快、斬新、かつユーモラス。軽く楽しめる連作短篇集です。

消えた女/孝行息子/鬼と仏/あべこべ/半夏/こんちき

  

22.

●「天女湯おれん」● ★☆


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2005年12月
講談社刊

(1700円+税)

2007年12月
講談社文庫化



2006/01/07



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表の顔は湯屋の女将、裏の顔は色事の手引師という美女おれん、23歳を主人公とする市井もの長篇時代小説。
諸田さんらしい鋭さはあまり感じられませんが、その分市井ものにふさわしいまとまりの良さが感じられます。

石榴口に吉祥天の絵を描き、天女のような笑顔を浮かべたおれんが番台に坐っていることから、おれんが主の天女湯はいつも商売繁盛。
しかし、そのおれんの湯屋には仕掛けが施されている。男湯には隠し階段、女湯には隠し戸があり、その両方とも隠し部屋に通じている。拠所ない事情で金銭のために身体を売らねばならない女のために、おれんは男女の仲を取り持ちも行っている。
天女湯に押しかけてくる裏長屋連中は、男も女いつも賑やかで楽しげ。しかしその一方で、辻斬り事件、商店を狙った強盗事件、匿った訳有の武士、色事に目覚めてしまった女たちの始末と、おれんに気の落着く暇はない。それに加えて、匿った武士へのおれんの恋心が絡む、というストーリィ。
天女湯のメンバーは、おれんの他に老番頭の与平・おくめ夫婦、下足番で色事師の弥助と、各々訳有の過去を持つ者ばかり。一糸乱れぬチームワークぶりを発揮、という風が小気味良い。
もちろん、おれんの女っぷりの良さが一番の魅力です。
また、名うての好き者という大店隠居の惣兵衛をはじめ、小童の杵七、岡っ引の栄次郎ら脇役たちの魅力も侮れない。

湯屋と裏長屋の住人たちに、湯屋+αを楽しむ隠居たちという人物構成が、いかにも江戸の風情らしく楽しい。それに加えて、ご法度の色事手引きをしているおれんだからこそのスリリングな面白さ。そんなリズムの良さ故に楽しく読める時代長篇です。

雨夜の怪事件/辻斬り退治/師走のコソ泥/宿敵、大黒湯/湯船の決闘

    

23.

●「木もれ陽の街で」● ★☆


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2006年04月
文芸春秋刊

(1762円+税)

2009年02月
文春文庫化



2006/05/16



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諸田さん初の現代小説。とは言っても時間設定は昭和26年ですから、感覚的には現代小説と時代小説の間に位置する作品という気がします。
荻窪に住む中流家庭の長女、公子が主人公。父親が戦前から商社マンで先取的な考え方の持ち主だったため、丸の内で会社勤めをしている若い女性。その彼女が味わうことになった恋模様を描いた長篇です。

まず、背景となった時代への懐かしさが先にたちます。
借家住まい、台所のタイル貼りの流し、氷で冷やす冷蔵庫等々。
私は昭和30年生まれですから、私の記憶にある時代より10年遡りますが、今から見ればそう差は感じません。
次いで感じるのは、現代と違って若い女性の行動がずっと制約されていたこと。男性と一緒にお茶や食事をすることも、帰宅が遅くなることも、主人公はかなり気を遣い、良家の子女なのにと両親への後ろめたさを抱きます。
そんな公子が出会ったのは、画家の片岡。彼の示す強引さと危うさに公子は惹きつけられます。この辺り、温室育ちであるが故に強烈な個性をもつ男性に単純に惹きつけられたと思わぬでもありません。
そして一方で、母方の大伯母が長年抱えてきた恋心、親友の駆け落ちなど、公子が見知ることになった知人の恋愛模様も語られていきます。
時代背景は現代とかなり違いますが、突き詰めれば人が人に寄せる想いという点において、現代と変わるところはないのかもしれない。要は受身に終わるのか、自分から奪いに行くのか、その違いの方が大きい。そう思わせる読後感が本作品にはあります。

主人公の自宅近くに与謝野晶子の家があると設定されており、作品中しばしば晶子の詩が引用されています。
諸田作品の中ではあっさりした作品ですが、気品ある雰囲気が印象に残ります。

   

24.

●「狐狸の恋−お鳥見女房−」● ★★


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2006年08月
新潮社刊

(1500円+税)

2008年10月
新潮文庫化



2006/09/04



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時代小説版ホームドラマ“お鳥見女房”シリーズ第4弾。
久々にこのシリーズを読む楽しさを存分に味わいました。読了後とても楽しい気分です。

源太夫一家も既に他家に仕官し君江も嫁いだ今、残された子供は長男・久太郎と次男・久之助のみ。矢島家もすっかり静かになったものです。本巻ではその兄弟2人の恋模様が描かれるほか、他の人物の恋も2篇あり。
息子たちが一人前になっていく寂しさを感じる一方で、2人の行動を信頼して見守ろうとする珠世の母親らしい姿が描かれているところが秀逸です。

久太郎にかつて持ち込まれ即座に断った縁談相手が、水野越前守の鷹匠・和知家の娘で“鷹姫さま”と呼ばれる恵以
前巻ではその恵以との出会いが小出しにされて興味を釣られていましたが、それが漸く本格的に進展するところが本巻での最も楽しめるところです。冒頭の篇でまず珠世と恵以の偶然の出会いが描かれるところから、ぐっと惹き付けられます。
水野越前守の政治的失脚がターニングポイント。
久太郎と久之助の好いた女子が各々水野越前派の娘と反水野越前派の娘であるという事態には、さすがの珠世も「今度ばかりはお手上げだった」
それでも最後はさらっと解決してしまうところが、珠世の面目躍如。珠世の考えた解決策の何と心憎いことか。思わず笑みがこぼれます。
久太郎と恵以、久之助と祖父・久右衛門が内偵仕事の折に縁あった娘の、この2人が結ばれてさて次はどんな展開があるのか。次巻が今からとても楽しみです。

この母にして/悪たれ矢之吉/狐狸の恋/日盛りの道/今ひとたび/別の顔/末黒の薄/菖蒲刀

 

25.

●「奸婦にあらず」● ★☆        新田次郎文学賞


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2006年11月
日本経済新聞社刊

(1900円+税)

2009年11月
文春文庫化



2006/11/26



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井伊直弼というと、私の場合そのまま繋がっていくのは舟橋聖一「花の生涯」吉村昭「桜田門外の変の2小説。
残念ながら舟橋作品の内「花の生涯」は読み逃していて、TVのお正月12時間時代劇で見たに留まっています。
ですから小説というと「桜田門外の変」なのですが、この作品は吉村さんらしく歴史事実に力点が置かれていて、鎖国から開国へと大きく舵が切られる転換点になった事件を描いたものとしてすこぶる面白かった。率直に言ってこれで十分という思いがありました。
それにもかかわらず本書を手に取ったのは、日経新聞夕刊に連載されていて途中少し読みかけてしまい、中途半端になっていた気分が残っていたため。

「花の生涯」でも主役は井伊直弼、そしてその協力者となった村山たか長野主膳の3人が中心となっています。
本作品もやはりその3人の物語ですが、中心は村山たか。井伊直弼が中心でないだけに歴史小説としてはやや物足りなさを感じますが、“志”で結ばれたとはいえ、そこには男と女の関係も無縁ではなかったという設定が諸田作品らしいところ。
多賀大社の密偵として直弼に近付いたたかは、意外にも6歳年下の直弼に全身全霊で惚れ込んでしまう。そして、その気持ちは直弼においても同様だった。しかし、運命が2人の関係を分ち、たかは陰となって直弼のために働くことを決意する。
そこで重きを増してくるのが長野主膳の存在。たかも直弼も主膳に信服し、師として仰ぐことになります。
本作品における存在感からいうと、まず村山たか、次いで長野主膳、最後に井伊直弼。たかは結果的に直弼、主膳という2人の男に翻弄され、主膳は直弼とたかを翻弄し抜いたと言えます。その分彦根藩主となって以後の直弼の存在感は弱い。直弼の存在感があるのは、むしろ不遇の埋木舎時代、たかとの恋に燃える姿でしょう。
いずれにせよ本書は、2人の男の狭間で苛烈な人生を生きたたかという女性を描いた作品です。

   

26.

●「かってまま」● ★☆


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2007年06月
文芸春秋刊

(1619円+税)

2010年07月
文春文庫化



2007/06/29



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旗本の娘の不義により生まれた娘“さい”。
本書は、そのさいを狂言回しに彼女と関わった女たちの人生のある分岐点を前面に描くと同時に、その背後でさいの数奇な人生を描くという、巧妙な構成の連作形式の長篇小説。

各篇でさいは、赤ん坊、7歳、10歳、14歳、16〜17歳、20歳位、三十女として登場します。
その時々にさいと関わることとなった女たちは様々です。16歳と若い育ての母親に始まり、飯盛女、質屋の女主人、女掏り、怠け者の町女房、等々。
その女たちとさいとの関わりが面白い。稀に見る美貌で先を見通すような目をしているこの娘に、女たちは振り回されるようであって、さいが姿を消した後に気付くと自分の生活に光明を見い出したような気分を味わっています。
一つ所に留まれない定めを悟って一人生きていく美貌の少女と、そのさいとの出会いがきっかけで人生の好転を見い出した女たちとの対比はとても鮮やかで、しかもキレがすこぶる良い。この辺りが本書の魅力です。
(※私が子供の頃好きで見ていたTV番組に「名犬ロンドン」というドラマがありましたが、あの作品もこうしたパターンの物語ではなかったかと思います。)

一方、最後の2篇はさい自身に深く関わる話。
さいの数奇な人生を締めくくって決着をつけるストーリィが、背後に描かれます。ただし、この辺りは私の期待に反して明るいとはとても言えないもの。さいの生い立ち、境遇からすれば必然的で宿命とも言うべき展開なのですが、幼い頃のさいの姿から思うと、この結末は悔しい気がします。
もっとも、最後に鶴屋南北のセリフをもって締めくくる辺り、幕切れに関して諸田さんのお手並みは見事というに尽きます。

かげっぽち/だりむくれ/しわんぼう/とうへんぼく/かってまま/みょうちき/けれん

   

27.

●「狸穴あいあい坂」● ★★


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2007年08月
集英社刊

(1700円+税)

2010年09月
集英社文庫化



2007/10/26



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火付盗賊改方の孫娘と町方同心の恋と事件をユーモラスに描く、連作短篇集。
諸田作品にしては珍しく、ノホホンと温かくユーモラスな語り口が印象的です。
とくに主人公の結寿(ゆず)と町方同心・妻木道三郎との間で交わされる、時代小説とはとても思えぬ、明るく、笑いに充ちた会話が私好み。

結寿の祖父は、元火盗改の与力として名を馳せた溝口幸左衛門。息子と喧嘩して家を飛び出した祖父にしたがって、今は結寿も麻布にある口入屋の離れに住まう。
うるさい継母や腹違いの弟妹と離れ、結寿も隠宅で伸び伸びと暮らしている。
そんな結寿がムジナ騒動の折知り合ったのが、火盗改が敵愾心を燃やす町方(=町奉行所)の隠密廻り同心・妻木道三郎。
その結寿と妻木が、祖父や結寿の周辺で起きる様々な事件を力を合わせて解決していくというストーリィ。
町奉行所の同心が登場するからといっていつもいつも犯罪事件ではありません。日常の悩み事もあれば、2人の恋絡みで生じた問題もある、という風。
そこを結寿と町方の道三郎の2人で協力し、時には火盗改だった幸左衛門をうまく持ち上げ、時には内緒でこそこそ、と解決していく様子が本作品の面白さです。

本作品は、幸左衛門、結寿、道三郎の三角関係がはっきりしているところが秀逸。
家族という点で道三郎は部外者ですが、気持ちを通じ合わせているという点では幸左衛門が除け者で、結構笑い話のネタにされています。その三角関係の脇に百介が座していて、元幇間らしく祖父と孫娘の間を軽妙洒脱に動き回っている、という構図。
子供たちはその三角形の周囲を囲んでいて賑わしい。この作品では不思議と大人たちより、子供たちの方に存在感があるのです。

茶目っ気ある武家娘の結寿と、飄々とした観のある妻木道三郎の2人がかもし出すユーモア、そこが本作品の魅力です。
諸田さんの新境地と感じる作品。願わくば、シリーズものとならないものか。

ムジナのしっぽ/涙雨/割れ鍋のふた/ぐずり心中/遠花火/ミミズかオケラか/恋心/春の兆し

    

28.

●「遊女(ゆめ)のあと」● ★★☆


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2008年04月
新潮社刊

(1900円+税)

2010年10月
新潮文庫化



2008/05/30



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「遊女のあと」という漢字題名から本ストーリィを予想するべからず。きっと誤解してしまうに違いありません。「ゆめのあと」という平仮名で受け取ってください。
時代は8代将軍吉宗の治世。
遭難して拾われた明国人を救うため、夫と故郷を捨て出奔した農民の女房こなぎ。愛する子を喪って以来気鬱となり家を出奔した妻女を追う幕府御先手同心の高見沢鉄太郎
身分も違えば、背負った運命も対照的な二人が尾張で相見え、愛情を交わすに至るという長篇時代小説。

福岡を出て博多、芦屋、大阪、そして桑名を経て尾張に至り、その身も大きな変転を味わったこなぎ。一方、妻女を女敵討ちするという望まない羽目に陥り、妻女が駆け込んだらしい尾張家を追って尾張にやって来た鉄太郎。
そんな2人の思惑をはるかに超えて変転する運命の様だけでも面白いのですが、実はその2人の運命は、大阪の鴻池ら豪商、あるいは幕府が2人を道具として利用するために仕立て上げたものだった、という背景があるのですからさらに面白い。
そしてさらにさらに、本ストーリィは保守的政治・緊縮財政を貫こうとする8代将軍吉宗と、開放的な政治をめざす尾張7代目藩主宗春の対立が基盤になっているのですから、その面白さ、まさに多層的。
こなぎと鉄太郎、豪商と幕府という黒子の存在、吉宗と宗春の対立という、互いに絡み合う3層構造からなる小説作品なのですから、面白さ、奥行きの深さ、絡み合いの絶妙さと、まさに傑作と言える面白さです。
豪商たちの企みといっても、陰湿な悪計ということではありません。こなぎに対しても極めて好意的。したがってストーリィに暗い影を落とすことがないばかりか、むしろ温かみさえ与えているところが本作品の魅力です。

本ストーリィの核心は、吉宗対宗春の対決構図にあります。緊縮財政派の吉宗を是とするか、開放的な積極財政派の宗春を是とするか、まるで今後の日本の進むべき道を選択するかのような臨場感、興奮があります。
そしてまた、宗春とこなぎという主人公像が秀逸。
幽恋舟」「氷葬の面白さを連想させてくれる本書ですが、こなぎの覚悟いい、明るく逞しい姿があるからこそ、何とも嬉しい楽しさを感じるストーリィに仕上がっているのです。

なお、最後は私の予想もしなかった結末。でもそれこそ一番望むところと思います。私の予想より、諸田さんの選んだ結末の方がより幸せを感じられるというものです。
緊縮、節約ばかりを唱えるだけでは人は生きていけない。人が生きていくためには夢が必要だということを、こなぎの姿が教えてくれるようです。

  

29.

●「美女いくさ」● ★★


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2008年09月
中央公論新社

(1800円+税)

2010年09月
中公文庫化



2008/11/08



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浅井長政お市の方の末娘として生まれ、秀吉の養女となり、2度の婚姻・離縁を経た後に徳川秀忠に嫁ぎ、遂には将軍御台所となった小督(おごう)、その波乱の人生を女性の視点から描いた歴史時代長篇。

男たちが戦さに明け暮れた裏側で、男たちの都合良いままに道具のように離縁、婚姻、側室という運命に翻弄されてきた女たちの生き方に視点を当てているという点で、本書は読み応えたっぷりです。
それは何も小督に限ったことではありません。男たちに翻弄されたという点では、祖母=土田御前(信長の生母)、実母=お市の方、養母となった北政所=お禰、長姉=淀君こと茶々。その他にも夫を殺された後に秀吉の側室となった龍子、同じく婚約者を殺された前田家の姫=摩阿、等々。そして小督の娘たちも。
男たちの戦いが生死をかけて家運を高めようとするものであったのに対し、“女たちの戦い”は命を繋いでいくこと、家族を守ることであった、というのが本作品の主眼。
「女の強さとは、我を張ることではなくで己を曲げること」という言葉は、女性作家でなくては吐けないものだと思います。
3度目の結婚として秀忠に嫁した小督の胸の内に、男が戦場に臨むのと同じ覚悟があったと語る部分は、まさに圧巻。

一般的に淀君、小督(徳川に嫁してお江与の方)と2人とも勝ち気で倣岸な女というイメージが強く、評判良く書かれることがないばかりで、生家の滅亡や政略結婚という苛酷な運命に甘んじた彼女たちの哀しさが思いやられることは余り無かった様に思います。
その点では家康の正室=築山殿を描いた月を吐くに連なる面も併せ持った作品であると言えます。

それにしても、信長・秀吉・家康らが天下取りを争った裏側の閨房では、織田・浅井の血を引く女たちが珍重されていたという事実を今更ながらに気づかされ、唖然とする思いです。
徳川の将軍家に織田、浅井の血も入っていたというのは、歴史の必然なのか、それとも単なる結果なのか。
入っていないのは秀吉の血だけなんですねぇ・・・。

 

30.

●「巣立ち−お鳥見女房− ★★


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2008年11月
新潮社刊

(1500円+税)

2011年10月
新潮文庫化



2008/12/02



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時代小説版ホームドラマ“お鳥見女房”シリーズ第5弾。

待ちかねていた鷹姫さま=恵以の、矢島家への嫁入りが漸く本巻で実現。
嫁入り直前で、利かぬ気な性格者同士、相手をそれと知らずして言争う恵以と矢島家の隠居=久右衛門のやりとりが愉快、笑いを誘います。
とはいえ、久太郎と恵以が晴れて夫婦となる一方で、次男=久之助と夫婦になって大御番組の永坂家へ養子入りと、矢島家の子供たちはついに4人とも身を固めます。
しかし、子供が大人になってしまうと、とかく物語はつまらなくなってしまうもの。
本書でそれを補うのが、子沢山で賑わしい、石塚源太夫の子供たち。本書ではお転婆な次女のが行動力を発揮してあちこちに顔を出します。
それと対照的なのが、末っ子の多津に初子が生まれることとなり、末っ子の複雑な胸の内が描かれます。そんな雪を気遣う、多津、珠世、そして父親=源太夫の細やかで温かな愛情が、読み手の心を温かくしてくれます。

新たに生まれる子があれば、去りゆく年配者もいます。そうした時の流れ、世代の移り変わりを本シリーズは避けることがありません。
それでも、直前まで元気で、いざとなれば慕ってくれる大勢の者たちが駆けつけてくる。悲しみこそあれ、本人にとっては祝うべきこと、と思います。

珠世の前向きな明るさ、優しさ、温かさが、ことに心に残る巻。ですからこのシリーズを読むことは、いつも楽しい。
いつも楽しく、賑やかな本シリーズですが、次巻はちと寂しいかもしれない。その分を補って余りある存在感を、恵以に期待したいところです。

ぎぎゅう/巣立ち/佳き日/お犬騒ぎ/蛹のままで/安産祈願/剛の者

    

読書りすと(諸田玲子作品)

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諸田玲子作品のページ No.6

 


  

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