諸田玲子作品のページ No.5



41.四十八人目の忠臣

42.心がわり−狸穴あいあい坂−

43.来春まで−お鳥見女房−

44.再会−あくじゃれ瓢六−

45.ともえ

46.相も変わらずきりきり舞い −きりきり舞い−

47.王朝小遊記

48.破落戸(ごろつき)−あくじゃれ瓢六−

49.帰蝶

50.風聞き草墓標


【作家歴】、まやかし草紙、誰そ彼れ心中、幽恋舟、氷葬、月を吐く、お鳥見女房、笠雲、あくじゃれ瓢六、源内狂恋、髭麻呂

諸田玲子作品のページ No.1


其の一日、蛍の行方、犬吉、恋ほおずき、仇花、紅の袖、鷹姫さま、山流しさればこそ、末世炎上、昔日より

諸田玲子作品のページ No.2


こんちき(あくじゃれ瓢六)、天女湯おれん、木もれ陽の街で、狐狸の恋、奸婦にあらず、かってまま、狸穴あいあい坂、遊女のあと、美女いくさ、巣立ち

 → 諸田玲子作品のページ No.3


めおと、べっぴん(あくじゃれ瓢六)、楠の実が熟すまで、きりきり舞い、炎天の雪、天女湯おれん−これがはじまり−、お順、春色恋ぐるい、恋かたみ(狸穴あいあい坂)、幽霊の涙

 → 諸田玲子作品のページ No.4


今ひとたびの和泉式部、元禄お犬姫、尼子姫十勇士、旅は道づれきりきり舞い、別れの季節(お鳥見女房No.8)、嫁ぐ日(狸穴あいあい坂)、きりきり舞いのさようなら

 → 諸田玲子作品のページ No.6

 


                   

41.

●「四十八人目の忠臣」 ★☆      歴史時代作家クラブ賞作品賞


四十八人目の忠臣画像

2011年10月
毎日新聞社刊

(1800円+税)

2014年10月
集英社文庫化



2011/12/15



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毎日新聞夕刊に2010年6月3日から11年6月6日まで連載された、時代物長篇小説。
忠臣蔵の赤穂浪士との恋に燃え、討ち入りを助け、浪士遺族の赦免、浅野家再興のために力を尽くしたひとりの女性を描くストーリィです。
主人公にまつわる部分は殆どフィクションですが、主人公は実在の女性であるとしたところがミソ。
あとがきで諸田さん曰く、様々な事実と照らし合わせると「荒唐無稽な話とも思えない」とのことです。

主人公のきよは元武士の娘で、音曲が得意なところから赤穂浅野家五万石の藩主=内匠頭長矩の奥方である阿久利(後の瑤泉院)に仕える身。
内匠頭の寵臣である
磯貝十郎左衛門と密かに想い合う仲でしたが、内匠頭が刃傷事件を起こして切腹、赤穂藩は改易となり、予想もしなかった運命に翻弄されることとなります。

女性の視点から見ると忠臣蔵の事件はどう見えたのか、というところが本作品の読み処でしょう。
男たちは武士としての意地を貫き、仇討という目的を達成して満足して死地についた。しかし、遺された女たちの心中は如何ばかりだったのか、ただ男たちの戦いを見守るだけだったのか。
本書を読んで最も感じたことは、きよのみならず、その保護者である
仙桂尼、堀部安兵衛の妻=ほり、十郎左衛門の母=貞柳尼、瑤泉院のみならず吉良上野介の奥方=富子にもまた、女としての戦いがあった、ということです。
刃傷事件も討ち入りも切腹も、女性の視点にたった物語であるが故に全て伝聞として描かれます。
女性の視点に立ち、女たちの戦いを描いた、女性のための忠臣蔵 という作品です。

※きよが後の誰であるのか、まず知っておきたいという方は、本書「あとがき」をご覧ください。

              

42.

「心がわり−狸穴あいあい坂− ★☆


心がわり画像

20
12年12月
集英社刊

(1600円+税)

2015年12月
集英社文庫化



2013/01/09



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狸穴(まみあな)あいあい坂のシリーズ第3弾。

実家と同じ御先手組の小山田家、万之助の元に嫁いだ結寿の日々を描いた巻。
奉行所同心=妻木道三郎への想いを未だ胸の内に残しながら、嫁に対して優しい舅・姑の下、結寿の小山田家での日々は穏やかに過ぎていきます。
そんな中、身寄りがなく小山田家に同居している縁類の
お婆さまの元に、みずぼらしい出で立ちながらお婆さまの親類だと名乗る柘植平左衛門という男が訪ねて来て、そのまま小山田家の居候になってしまいます。何事も鷹揚な小山田家の人々の隙をうまく突かれたという観あり。
人が好さそうでどこか滑稽味を漂わせる平左衛門、少々呆けているお婆さまがその滞在を喜んでいる様子に、ついつい結寿もその正体を質すことを怠っていたのですが、その平左衛門が小山田家に、そして結寿に、およそ予想もしなかった大問題をもたらすことになるとは・・・・。

本書の最後において結寿は、小山田家に嫁いだ身としてその性根・覚悟を問われる展開となります。それは結寿にとり、また一つの新たな脱皮と言えるもの。
結寿が味わうそんな試練が、本書における読み処(本書題名もそこに関連します)。また、続巻への期待を抱かせる要素にもなっています。
結寿の祖父=
溝口幸左衛門、その小者=百介、想い人=妻木道三郎等々、常連メンバーも相変わらずの活躍を見せます。
※本シリーズ、何時の間にか
お鳥見女房シリーズのヤング版という様相を見せてきたなァという印象あり。

月と幽霊/父子/心がわり/大火のあと/平左衛門の心/小山田家の長い一日/夫婦

        

43.

「来春まで−お鳥見女房− ★☆


来春まで画像

2013年05月
新潮社刊

(1500円+税)

2015年10月
新潮文庫化



2013/06/12



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時代小説版ホームドラマ“お鳥見女房”シリーズ第7弾。
本シリーズ、もはや盤石と言っていい落ち着きがあります。

前作では子供たちがようやく配偶者を得て親離れしたものの、子ができるできないという悩みにつき合わされた珠世ですが、嫁の恵以も懐妊してようやく一安心。一方、大番頭与力の家に夫婦養子にはいった次男=久之助の妻であるは流産してしまった心の痛手を引きずっている、というのがこの第7巻の出だしです。
他からも相変わらず珠世には悩みや相談ごとが持ち込まれ、珠世は相変わらず忙しい。それでも
“来る者は拒まず”という珠世の信条かつ矢島家の家風が全頁を貫いているからこそ、本シリーズの包容力はとても魅力的で、また相変わらず楽しい。

「女ごころ」:流産した綾の苦しい心の内を描く。
「新春の客」:恵以の守り役だった松井次左衛門が山形から恵以懐妊の祝を携えてくるのですが・・・。
「社の森の殺人」:鬼子母神の森で起きた連続殺人。犯人捜索にしゃぼん玉売りの藤助が活躍します。
「七夕の人」:石塚家のお転婆な娘=に訪れた初恋風景を描きます。
「蝸牛」石塚源太夫多津の間に生まれた子=多門に、旗本家への養子話がふって湧きます。2人と珠世はどうする?
「鷹匠の妻」:一人の鷹匠の不審な行動に巻き込まれた伴之助が珠世に助けを求めます。その事情とは・・・。
「来春まで」:矢島家の人々と昵懇のしゃぼん玉売り=藤助にまつわる話。その藤助に珠世はどう向き合うのか。

女ごころ/新春の客/社の森の殺人/七夕の人/蝸牛/鷹匠の妻/来春まで

         

44.

「再 会−あくじゃれ瓢六− ★☆


再会画像

2013年07月
文芸春秋刊

(1600円+税)

2016年07月
文春文庫化



2013/08/10



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あくじゃれ瓢六シリーズ第4弾。

3年前の大火で恋女房のお袖を失った痛みから未だ立ち直れず、かつての仲間たちとの繋がりを断ち切って姿を隠すように旗本屋敷内の借家住まい、無為な生活を送っているというのが冒頭における瓢六の状況。
そんな瓢六の住処を漸く突き止めて訪れてきたのが、かつて名コンビを組んだ北町奉行所同心の
篠崎弥左衛門。しかし、会わずにいた間に弥左衛門は中風で倒れて今も右手が使えず、かつて瓢六としきりに言い争った岡っ引きの源次親分も病の床に倒れ、瓢六以外の面々にも3年という歳月が陰を落としています。
弥左衛門と源次の心を汲んで、そして謎の女性=
奈緒に心惹かれながら、瓢六が再び仲間たちと手を携えて悪党たちと闘うために立ち上がるという巻。
さながら瓢六シリーズの面白さも復活、という印象です。

背景となるのは、将軍家斉が逝去して12代将軍=家慶の世、老中首座の水野越前守忠邦天保改革に取り掛かり、さらに"妖怪"と仇名された南町奉行=鳥居耀蔵が蘭学者や戯作者たちを徹底的に弾圧した時代。
そんな状況を憂う北町奉行所与力の
菅野一之助と新たに登場した奈緒らの指示の下、瓢六は弥左衛門やかつての仲間たちと手を携えて水野・鳥居の配下となって悪道を繰り返す大蛤の治助一味に対抗して活躍します。しかし、状況は瓢六たちにとってもかなりシビア、犠牲も伴います。それだけにこれまでの巻に比べぐっと深みを増した観あり。また、男谷家、勝麟太郎の登場も見逃せません。

とりあえずは瓢六シリーズ再開に意味あり。
闘いの相手が水野−鳥居一派となれば、本格的な闘いがこの後も繰り広げられそうです。今後の続刊に期待大です。

再会/無念/甲比丹/縁者/でたらめ/毒牙/泣き所

          

45.

「ともえ ★☆


ともえ画像

2013年09月
平凡社刊

(1600円+税)

2016年03月
文春文庫化



2013/10/03



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大津で商人の寡婦である智月尼こと智(とも)は、しばしば詣でる義仲寺(ぎちゅうじ)で、どこか惹かれる旅姿の男と出会います。その人こそ、俳諧の宗匠として名高い松尾芭蕉
その時から智と芭蕉はお互いに気持ちの通じ合うものを感じ、お互いへの想いを静かに深くしていきます。
2人が出会った義仲寺は
木曾義仲を供養した寺と言われ、その妾だった巴御前の墓と言われる巴塚もある場所。

本ストーリィは、智と芭蕉の熟年の恋と呼応するように、2人の時代から 500年を遡って巴御前の辿った数奇な運命を同時並行的に描いていきます。
智と巴御前、縁戚でもないのにと少々こじ付けのように感じなくもありませんが、智と巴には共通するところあり。即ち2人とも生涯で2度に亘る忘れ難い恋をしているという点において相似形である、という設定です。
智は、元々公家の出で禁裏に内侍として務めていた若い頃に熱い恋を経験しています。そして今また芭蕉と深い情愛を交わし合っている。一方巴御前も幼い頃からの義仲との熱烈な恋の後、頼朝の家臣であった和田義盛に請われて後妻となるという人生を辿っている。

智と巴御前の時空を超えた関係、芭蕉晩年のロマン、巴と木曾義仲の壮絶な歴史絵巻と興味ネタは尽きませんが、要は智と巴という女性2人の 500年という時空を超えて重なり合う恋愛ドラマが本作品の主題だと思います。
セックスによらずプラトニック、お互いに深く結びつき合う愛という点で智月尼と芭蕉の熟年ロマンにやはり一番興味を惹かれますが、智と巴の関係づけに今一つ必然性を感じられなかったのが残念なところ。

※なお、本書執筆の契機となったのは、諸田さんが訪れた義仲寺に芭蕉と義仲の墓、巴御前を供養する巴塚の三基がひっそりと並んでいるのを見たところからだそうです。

       

46.

「相も変わらずきりきり舞い ★☆


相も変わらずきりきり舞い画像

2014年02月
光文社刊

(1600円+税)

2016年12月
光文社文庫化

2014/03/29

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酒飲みで中風の父親=十返舎一九、葛飾北斎の娘で居候の女絵師=お栄、同じく居候で一九の押しかけ弟子となり舞と許婚者気分でいる浪人者の今井尚武という3人の奇人に相変わらず振り回されているを主人公とする、時代小説版コメディ・ストーリィきりきり舞いの続編。

いっそ自分も、奇人たちと同様に我が儘、無鉄砲、その場凌ぎで済ませてしまえばずっと楽なのでしょうけれど、そうはいかないのが普通人の常識。
奇人らが巻き起こす珍騒動に、その後始末をいつも押し付けられている舞の奮闘とぼやきを好対照に描いており、気軽に楽しめる時代小説作品になっています。

小町娘と評判をとった舞も、舞い込んだ良縁話をことごとく父親が潰したことから縁談も途絶え、20歳になってそろそろ嫁ぎ遅れを気にする年頃。
そんな冒頭、延岡藩の若い勤番侍=間与五郎兵衛に気持ちを惹かれる舞ですが、さてどうなることか。


相も変わらず/祝言コワイ/身から出たサビ/蓼食う虫も/人は見かけに/喧嘩するほど/人には添うてみよ

              

47.

「王朝小遊記 ★☆


王朝小遊記画像

2014年04月
文芸春秋刊

(1600円+税)

2017年07月
文春文庫化



2014/05/18



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題名に似合わず、平安時代を舞台にした時代物サスペンス活劇。
諸田さん、これまでにも
まやかし草紙とか髭麻呂」「末世炎上といった平安時代を舞台にした作品を書いていますが、本作品の特徴は市井に目を向けていること。
ストーリィは連作風に展開され、各篇では物売り女、元貴族の老人、失職した元女房、ひねくれ者の貴族少年、元勇猛な武者といった訳有の面々が次々と登場します。
各篇ストーリィに共通するのは、不安に満ちたこの時代に暗躍して人を喰らう、鬼のような悪人の存在。
時の有力者の一人、
藤原実資の邸宅=小野宮第に集められた彼らが、力を合わせた悪人退治を行おうと手を結びます。
差し詰め、現代映画の題名を借りるならば“平安朝ミッション・インポッシブル”。

それだけなら平安朝ならずとも、江戸時代、現代でもあり得るようなストーリィですが、背景に平安朝ならではの構図があるところが本作品の面白み。
時代はまだ、闇の中においては人を喰らう鬼が暗躍する時代なのです。

彼ら一人一人の物語は連作短篇として十分面白かったのですが、皆が集まっていよいよ、という以降のストーリィが短く、あっという間に決着してしまったところが残念。せっかく集まった各メンバーの活躍が十分とは言えないまま終ってしまったという印象が残りますので。


ナツメとナマス/シコン/コオニ/ニシタカ/悩める家人、平広方/そしてだれもいなくなった!?/後日譚

           

48.

「破落戸(ごろつき)−あくじゃれ瓢六− ★☆


ごろつき

2015年06月
文芸春秋刊

(1600円+税)

2016年08月
文春文庫化



2015/07/02



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あくじゃれ瓢六”シリーズ第5弾。
前作
再会に引き続き、善良な人々を蹂躙し続ける“妖怪”一派(老中首座・水野越前守を後ろ盾にする南町奉行=鳥居甲斐守耀蔵一味)と瓢六らの闘いを描くストーリィ、その後半戦。

瓢六がチームを組む顔ぶれはというと、備後福山藩主の実兄で隠居の身の
阿部不争斎、女性の身ながらその片腕となって活躍する奈緒、北町奉行所与力の菅野一之助、今や瓢六の親友と言って良い関係にある同定町廻り同心の篠崎弥左衛門という面々。
それに、瓢六が住まう借家の大家である不品行旗本の
小出茂右衛門一家があれこれと瓢六に難題を押し付けて振り回すというコミカル要素と、若い勝麟太郎と瓢六が気さくに交わるという中に未来への希望という要素が加えられています。

妖怪一派との戦いは、本書中で水野越前の老中解任、鳥居甲斐の南町奉行免職という形で決着が付けられますが、それは瓢六たちの活躍の結果であるとは言えません。瓢六らの戦いは、少しでも犠牲になる人を減らそうとするものであり、同時に妖怪一派の犠牲になって倒れていく人たちを結果的に看取るというものとなります。
その意味でやや物足りなさを感じてしまうところを補っているのが、奈緒と瓢六との関係変化。

冒頭で未だに失った女房=
お袖のことを涙なしに思い出せなかった瓢六が、最後には平静にお袖の名前を口にすることができるようになった変化に、やっと心の内に晴れ間が覗いたような、救われる気持ちがします。

第一作
あくじゃれ瓢六を読んだ時には、こんなシリーズものになるとは思いも寄りませんでしたが、これで決着でしょうね。

織姫/ちょぼくれ/恋雪夜/於玉ヶ池の幽霊/化けの皮/破落戸/熊の仇討

         

49.

「帰 蝶 ★☆


帰蝶

2015年10月
PHP研究所刊

(1700円+税)

2018年11月
PHP文芸文庫化



2015/12/24



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“マムシ”と言われた斎藤道三の娘にして、織田信長の正室となった「濃姫」こと帰蝶の生涯を描いた歴史長編。

とは言ってもこの帰蝶、信長に嫁いだ後どのような生涯を送ったのかについてはまるで記録がなく歴史の中に埋もれた存在といった観がありましすが、、これまでは本能寺の変のずっと前に死去したか離縁されたと考えるのが通説だったとのこと。
しかし近年、京都の大徳寺総見院の織田家過去帳に
「養華院殿要津妙玄大姉」という記載が発見され、これが帰蝶ではないか(そうすると1612年に78歳で亡くなったことになる)という説が信憑性を帯びてきたそうです。
本書は、その後者の説に基づいて描かれた歴史ストーリィ。

信長に関わる物語というと、私などはつい興奮を覚えてしまうのですが、本書はあくまでも正室である帰蝶の視点から描かれていますので、数多の戦などは描かれておらず、全て(本能寺の変さえも)伝聞でのこと。
家中を掌る正室らしく、織田家の家中に居て、その家中から見た信長&織田家の変貌していく様子、という趣向です。

帰蝶から見て信長とは、どのような人間(夫)であり、どのような存在であったのか。そして織田家をどのような目で見ていたのか。また、信長にとって帰蝶とはどんな存在だったのか。
ちょっと考えただけでも興味尽きない処ですが、諸田さんは本書においてその一つの答えを描いています。
どんな答えかは、本書を読んでのお楽しみです。

ただ、家中が治まっていなくては信長もあれだけの活躍は出来なかったのではないか。そう思うと本書ストーリィについてはそれなりに納得がいきます。
また、信長死後も長く生き続けていたと思えば、流石はマムシの娘、信長に引けを取らない存在であったと、何やら痛快さを覚える気分です。

※なお、織田信長については好悪別れるところと思いますが、諸田さんは大嫌いという側のようです。


歳月/本能寺の変/阿弥陀寺にて

        

50.

「風聞き草墓標 ★★


風聞き草墓標

2016年03月
新潮社刊

(1800円+税)



2016/04/20



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綱吉将軍下の元禄時代、勘定奉行として貨幣改鋳や佐渡金山再生等に辣腕を振るい幕府財政を支えた荻原重秀は、家宣政権下になって失脚、変死を遂げたという。
本書は、その荻原重秀の変死という史実の謎に諸田さんが挑んだ時代ミステリ。

かつて重秀の嫡男である
源八郎の許婚者で、重秀死去後根来長時の妻となって早や18年を過ごした主人公=せつの元に、南町奉行の大岡越前守忠相が訪ねてきたところから、本ストーリィは始まります。
大岡越前の訪問の目的は、荻原重秀変死の真相を明らかにし、重秀の汚名を拭うこと。それによって再度の貨幣改鋳へ道を開こうというのが、その最終目的。

ストーリィは、大岡越前の配下である
左右田藤馬とせつが何故か佐渡へ向かって急ぐ訳有りの旅と、それに至るまでの経緯が並行して語られる、という構成になっています。
いくら相手が奉行所の内与力とはいえ、仮にもれっきとした旗本の妻女であるせつが、何故他人である武士と旅路を辿ることになったのか。どう話が展開してそこへ至るのか。それへの興味を掻き立てられ、ぐいぐいストーリィに引っ張られていきます。
この辺りは諸田さんの初期作品
氷葬と共通するものがあり、その点で本書は「氷葬」からレベルアップした時代サスペンスとも言えます。

少々残念なのは、展開の面白さに比較して、連続して起きた殺人事件の真相が単純で割りと些末なものであったこと。
その点から言えば、本書時代ミステリの面白さは、その真相解明より、せつの旅路も含めたその途中経過にある、と言うべきでしょう。
ともあれ、史実の謎への挑戦という点も、本書の読み処ではあります。

  

読書りすと(諸田玲子作品)

諸田玲子作品のページ No.1    諸田玲子作品のページ No.2

諸田玲子作品のページ No.3    諸田玲子作品のページ No.4

諸田玲子作品のページ No.6

 


  

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