三崎亜記作品のページ No.1


1970年福岡県生、熊本大学文学部史学科卒。2004年「となり町戦争」にて第17回小説すばる新人賞を受賞し作家デビュー


1.
となり町戦争

2.バスジャック

3.失われた町

4.鼓笛隊の襲来

5.廃墟建築士

6.刻まれない明日

7.コロヨシ!!

8.海に沈んだ町

9.決起!−コロヨシ!!2−

10.逆回りのお散歩


玉磨き、ミサキア記のタダシガ記、ターミナルタウン、手のひらの幻獣、ニセモノの妻、メビウス・ファクトリー、チェーン・ピープル、30センチの冒険、作りかけの明日

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1.

●「となり町戦争」● ★★        小説すばる新人賞


となり町戦争画像

2005年01月
集英社刊
(1400円+税)

2006年12月
集英社文庫化



2005/05/16



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となり町と舞坂町との間で戦争が始まったことを「僕」(=北原修路)が知ったのは、「広報まいさか」によってでした。
次いで、舞阪町役場総務課となり町戦争係から封書が届き、僕はこれまでの会社勤めを続けながら「戦時特別偵察業務従事者」の任命を受けることになります。
まったく嘘みたいな話です。真実なのか、それともブラック・ユーモアなのか。
それでも町役場に呼び出されれば、淡々と任命式が行われ、僕に任務が言い渡されます。すべて、町の“事業”として議会で決定済、稟議書も可決済みであるという...??。

本当に戦争が行われているのか。
広報では戦死者の増加が伝えられ、実際に戦争が行われていることを裏付けていますが、戦争は僕の目には一向にはっきりと見えない。そのアンバランスさが秀逸です。
僕と戦争を結び付けているのは、任務の伝令役であり、戦争の説明役でもある町役場の若い女性職員、香西瑞希のみ。
本来不気味さを感じて不思議のない不可解なストーリィですけれど、そんな感じはまるでありません。主人公の素直さと、公務員である香西の生真面目に事務処理を進めていく様子にむしろ好感を抱くからです。
(※しかし、いくら偵察業務だからといって、公務員が偽装結婚までするかなァ?)

本書を読みながらふと、「戦争」という名前を冠してないだけで実際に戦争は行われているのではないか、と思うに至るのです。
昨今の市町村合併、地域開発競争、住民人口の増加競争等々、実態は戦争と変わらない、と言えるのではないか。
ファンタジーともブラック・ユーモアとも、カフカ「のような不条理小説、あるいは戦時中ラブ・ストーリィとも、本作品はいろいろに受け取れます。
戦争である以上、僕にもその痛みをやがて訪れます。それでもない、本書は意外と気持ちの良いストーリィなのです。
稀なストーリィであることに間違いありませんが、本書の魅力は新鮮さ、その気持ち良さにあります。

   

2.

●「バスジャック」● ★★☆


バスジャック画像

2005年11月
集英社刊
(1300円+税)

2008年11月
集英社文庫化



2006/09/03



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上手いっ! 本当に上手い。舌を巻く程。
7篇を収録した短篇集ですが、各篇の長さもまちまちなら趣きも各々いろいろ。それでいてどの篇も秀逸です。
「バスジャック」という表題にとなり町戦争の二番煎じのような感じを受けて見送っていたのですが、こんな見事な短篇集を読まないでいたなんて、まさに不明の至り。
どの篇も意表を付くストーリィばかりですが、そのファンタジー風だったり不思議だったりするネタにおんぶする面白さでなく、ストーリィ展開そのものの上手さ、見事さが魅力です。お薦め!

「二階扉をつけてください」カフカ的不条理に星新一的結末を加えたという風な短篇で、正直言ってその上手さに冒頭から度肝を抜かれました。
「しあわせな光」は僅か3頁のショート・ストーリィだというのに、う〜ん、上手い!
「二人の記憶」は、恋人同士である2人の記憶にズレが生じるというストーリィでどうなるのかと心配させられたのですが、こう来るかぁ〜。脱帽です。
「バスジャック」は「となり町戦争」と同じタイプの作品。バスジャックが世間で流行となり、バスジャックの実行に一定の枠が嵌められた中での犯行話。この“枠”に何とも言えない妙味があって、短篇とは思えない読み応えがあります。伊坂幸太郎「陽気がギャングが地球を回すの4人を思い出すのは、私だけでしょうか。
「雨降る夜に」も僅か5頁。何でそうなるかは判りませんが、本好きならホラーにはなり得ませんよね。
「動物園」は登場人物の顔ぶれが魅力です。どういう仕組みなのか理解できないままなのですが、主人公の日野原柚月という女性は本書中で最も惹かれる登場人物。動物園のベテラン飼育係の野崎、小さな女の子ゆみちゃんとの組み合わせが絶妙で、何とも晴れやかな気分になります。
「送りの夏」は中篇作品。失踪した母親を行方を追った小学生の麻美が、訪ねていった先のアパートに暮らすちょっと不可解な住民たちとの交流を描いたひと夏のストーリィです。大切な人を失った衝撃を受け入れるためには時間が必要であるという本篇のテーマは、読み終わった後にしみじみと胸に伝わってきます。

二階扉をつけてください/しあわせな光/二人の記憶/バスジャック/雨降る夜に/動物園/送りの夏

   

3.

●「失われた町」● ★☆


失われた町画像

2006年11月
集英社刊
(1600円+税)

2009年11月
集英社文庫化



2006/12/17



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「失われた町」という題名から何を連想しますか。
私がまず連想したのは、ミュージカルブリガドーンのようなファンタジーなストーリィ。
しかし、本作品で失われるのは、町そのものではなく町の住民。しかも住民の消滅には、町の意思が働いているという。その意味では、恩田陸「月の裏側に近いかもしれない。もっとも恩田作品がホラー的である対し、本ストーリィはSF的な町と人間との攻防ともいえるストーリィ。
ただし、SF的であっても本作品に描かれるのは、消滅という悲劇に翻弄されつつも希望を失うことなく前向きに生きようとする人々の、幾多もの人間ドラマなのです。

“消滅”への対抗組織である管理局に働く桂子、恋人を失った高校生の由佳、消滅後の回収作業員として隣町に来てそのまま“風待ち亭”というペンションで働くことになった、住民が消滅した町でただ一人生き残った少女ののぞみ、等々。
本書では、彼女らが入れ代わり立ち代わり主人公となり、また時間も前後しながら町の消滅に関わった人たちが背負ったドラマが描かれていきます。
ただ、人間ドラマとはいいつつ、本書のSF的設定は微に入り細にわたり、人間ドラマよりそちらの方が優先されてしまっている観があります。読み応えはあるもののその点で物足りないと感じていたのですが、そんな気持ちを変えたのは最終章に至ってからのこと。初めて本ストーリィの伝えようとしたものに、気持ちが繋がった思いがしました。
一旦読み始めたのなら、感想を決めるのは最終章まで待つことをお薦めします。

プロローグ、そしてエピローグ/風待ちの丘/澪引きの海/鈍(にび)の月映え/終の響き(ついのおとない)/艫取りの呼び音(ね)/隔絶の光跡(しるべ)/壷中の希望(のぞみ)/エピローグ、そしてプロローグ

     

4.

●「鼓笛隊の襲来」● ★★


鼓笛隊の襲来画像

2008年03月
光文社刊
(1400円+税)

2011年02月
集英社文庫



2008/07/17



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「赤道上に戦後最大規模の鼓笛隊が発生」、通常であれば「次第に勢力を弱めながらマーチングバンドへと転じるはず」であったが、今回は勢力を拡大しつつこの国に進路を向けている、というから、台風をもじったものとは分かりますが、これが本当に鼓笛隊。なんとまぁ、よくこんな発想ができるなぁと呆れる思い。

本書収録の9篇は、いずれもそんな奇想に基づくものばかり。
ただし、奇想が舞台設定になっているとはいえ、核心となる部分はごく普通のストーリィになんら変わりなく治まっているところが本短篇集の妙味と言えます。
そんな三崎作品の妙味がはっきりと感じられるのも、本書が短篇集であって、共通項として自然と導き出されるからでしょう。
そうだからこそ、圧倒されるような面白さではなく、じわじわと滲み出てくるような面白さのある一冊。

本書中で一番面白いのは、やはり表題作「鼓笛隊の襲来」。子供の頃に読んだネズミと音楽隊の話を思い出します。
避難勧告にしたがわず居残った一家が結局被害にあわずに済んだのは、おばあちゃん力に負うところ大だった、というのが可笑しい、と言うより、微笑ましいと言うべきか。
その次に気に入ったのは、「覆面社員」。不倫問題で悩んでいた同僚の女性社員に勧めたところ、喜んで覆面を被り覆面ネームまで名乗って働き出したところ、すべてが上手い具合に回り出し、ついには覆面姿のまま結婚式まで挙げたというストーリィ。しかし、主人公自身が気づいたことには・・・・。
ただ、このストーリィ、どこかで読んだ気がするんだなぁ。

本短篇集の共通テーマは、「見えているのに、見えていないものはありませんか?」ということらしい。
「彼女の痕跡展」、「「欠陥」住宅」、「校庭」はまさにその典型的なストーリィ。
ただし、内容はハッピーエンドだったり悲劇だったり、一様ではありません。その点は三崎さんのしたたかな点、と思う次第。

「象さんすべり台のある街」はファンタジー要素がありますが、なんとなく侘しく、同時に愛おしくなるストーリィ。
また、「遠距離・恋愛」は確かに遠距離恋愛を描いているのですが、なんとまぁ・・・。

鼓笛隊の襲来/彼女の痕跡展/覆面社員/象さんすべり台のある街/突起型選択装置/「欠陥」住宅/遠距離・恋愛/校庭/同じ夜空を見上げて

   

5.

●「廃墟建築士」● ★★


廃墟建築士画像

2009年01月
集英社刊
(1300円+税)

2012年09月
集英社文庫化



2009/02/13



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バスジャック」「鼓笛隊の襲来に続く、奇想を元にしたストーリィ、4篇。
毎度のことながら、よくもまぁこんなことを考え付くものだと、感心します。
そう納得できれば、あとはただ読んでこれら独創的なストーリィを楽しむのみ。

冒頭の「七階闘争」は、何故か7階で事件が多く起きる、そのため市が全ての建物から7階を撤去することを決定、反対派が7階護持闘争を繰り広げるというストーリィ。
となり町戦争を連想させられる篇ですが、本書4篇の中にあっては未だ序の口。
本書ではやはり表題作の「廃墟建築士」が白眉でしょう。
“廃墟建築”は、都市が成熟すると共に人々に魂の安らぎをもたらす貴重な存在となる。その溢れるようなイマジネーションの膨らみ一方で、偽装廃墟という現実的な事件が発生。虚構と現実の絡み合うところが、本篇の魅力です。

一方「図書館」は、図書館の夜間開館のため、市から依頼を受けてハヤカワ・トータルプランニングの日野原という女性が、図書館を調教するためやって来るというストーリィ。
野性を潜める図書館とはどんな存在なのか。本好き、図書館好きの方なら、見逃せない篇です。
なお、本篇の主人公=日野原は、「バスジャック」「動物園」という短篇に登場した人物。思い出すことができれば、楽しさが増すこと間違いなし。

「蔵守」はちと判りづらい篇。その分、一番奇想かも。

七階闘争/廃墟建築士/図書館/蔵守

   

6.

●「刻まれない明日」● ★★


刻まれない明日画像

2009年07月
祥伝社刊
(1600円+税)

2013年03月
祥伝社文庫化



2009/08/06



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 3,095人もの人が理由もなく消え去った事件、それから10年後の物語。
失われた町と直接繋がるストーリィではありませんが、それに連なる作品という印象です。ただし、「失われた町」がSF的要素の強いストーリィであったのに対して、本書は残された人々の、消えた人々に対して今なお抱き続ける深い想いを描くストーリィ。

10年経った今も、消えた人々の痕跡は残っています。人々と一緒に消えた図書館第五分館では今なお消えた人々による借出しが行なわれており、ラジオ放送局には消えた人々からのリクエスト葉書が届く。しかし、最近になって本の借出もリクエストも減り、人々に変化の時が訪れようとしています。
あの事件の時に消え残った女性、第五分館便りを残された家族に配り続けてきた担当者、消えた町からの鐘の音を聞く高校生、消えたバスの発着案内を聞き続ける女性等々を各篇の主人公とし、連作風に語られていきます。

繋がりが消えていくという寂しさ、いつかはケリを付けなければならないという覚悟、新たな出発へ向けての気持ちの切り替え。残された人々が新たに抱えつつある、そうした心情が切なく、愛おしい。
しかし、終わりは始まりに通じる。
読み始めた当初は、消えたものへの大きな喪失感が全体を覆っていましたが、読み終えた今は、新しい旅立ちへ向けた人々の清新な想いに触れ、爽快な気分が胸を満たします。

序章:歩く人/1.第五分館だより/2.隔ての鐘/3.紙ひこうき/4.飛蝶/5.光のしるべ/新たな序章:つながる道

   

7.

●「コロヨシ!!」● ★★☆


コロヨシ!画像

2010年02月
角川書店刊
(1600年+税)

2011年12月
角川文庫化



2010/03/17



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国家の統制下に置かれ、高校時代にしか競技することが認められていないという伝統的なスポーツ「掃除」。その掃除に邁進する高校生=藤代樹を主人公にした大長篇ストーリィ。

まず、三崎亜記作品として珍しい、というのが第一印象。
伝統的な競技であるもののまるでお伽話のような、という点では万城目学「鴨川ホルモーを思い起こさせられますし、ファンタジー性はなく架空現代社会での対決劇という点では、有川浩「図書館戦争に近い。
でも、違うなぁ・・・。やはりこれは、三崎亜記さんの作品世界なのです。町などを主体に据えてきたこれまでの作品から一転して異なる高校スポーツ小説という風なのですが、不条理、という点で共通しているのです。
スポーツでありながら国家の統制下に置かれ、ただ純粋に掃除という競技を極めたいと思っているだけの樹を様々な思惑が取り囲む。これ、不条理と言わずして何をか況や。

高校スポーツを背景に不条理を描き、また高校スポーツの世界に不条理を持ち込んだ長篇作品。
とは言っても、高校が舞台だけに、個性的な掃除部の面々や一癖ありそうな周辺人物が次々に、和気藹々と登場してくるのが楽しい。
肝心の「掃除」という競技の中にも、フリースタイルの“散華の舞”もあれば団体競技の“還立の舞”もあり、さらにエキシビションとしての“華宴”もありと、多彩。その競技風景を読むだけで、結構魅せられます。
また、架空の日本を舞台に設定しているため、「掃除」以外にも「肩車スポーツ部」とか「跳ね剣部」、居留地なども登場して興味尽きません。
そのうえ主人公の樹には、吉川英治「宮本武蔵」のような求道者としての面影が十二分にあり。
つまり、楽しめる要素たっぷり、読み応え充分なのです。

ただし、不条理小説故に、最後の結末は一般的なスポーツ小説のようには終わりません。しかし、それも楽しからずや。
なお、題名の「コロヨシ!!(頃良し)」とは、競技の開始時に発せられる掛け声。

            

8.

●「海に沈んだ町」●(写真:白石ちえこ) ★★


海に沈んだ町画像

2011年01月
朝日新聞出版

(1500円+税)

2014年02月
朝日文庫化



2011/02/14



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失われた町」「廃墟建築士」「刻まれない明日に連なる、失われた町、廃墟となった町等を語る9つの物語。
気鋭の写真家とのコラボレーション、という構成に興味を惹かれる一冊です。
題材からして最初の頃はどこか不安、でも何故か次第に安らかな気持ちになる、そして魅せられていく短篇集。

町の喪失、廃墟というテーマは三崎さんの継続テーマですが、短篇集だけあって、それが端的に描かれているといった印象です。
そのうえで写真とのコラボ。必ずしもストーリィのイメージにぴったりはまる、と感じるものばかりではありませんが、これらの写真があるからこそ本書テーマがくっきりと、陰影をもって立ち上がってきます。
このコラボ、味わいはかなりのものです。

私が子供の頃には考えられなかったことですが、成熟した社会にあって町の廃墟化が決して絵空事ではないことを、既に我々は知っています。
現に私の生まれ育った町も住民の高齢化が進み、かつて賑やかだった商店街はすっかり廃れてしまった観があります。そしてまた、かつて輝くような存在であった近所の大型団地も、その輝きを失って久しい。
目を背けて否定するのではなく、当然のことと弁えて、その存在を記憶に留める、それこそ我々が取るべき姿勢なのかもしれません。
陰影がもたらす、不思議な味わいある、短篇集です。

遊園地の幽霊/海に沈んだ町/団地船/四時八分/彼の影/ペア/橋/巣箱/ニュータウン

           

9.

●「決 起!−コロヨシ!!2−」● ★☆


決起!画像

2012年01月
角川書店刊

(1700円+税)



2012/02/26



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架空世界での伝統競技“掃除”を中心に描く成長&戦いの青春ストーリィコロヨシ!!の続編

前篇で高校2年生だった主人公=藤代樹も3年生となり、掃除部の主将となります。
全国大会で第三位の好成績をあげたこと、“掃除”が“相撲”と並んで新国技の有力候補にあげられていることから掃除部への取材、そして入部希望者が殺到。それにもかかわらず部予算を半減される等掃除部を囲む情勢はむしろ厳しい。
さらに
寺西顧問は姿を消し、樹が手を携える相手=高倉偲も姿を見せないと、樹の心は揺れ動く。
そうした状況を背景に、相次いで樹の前に立ちはだかる試練をひとつひとつ克服していくことにより樹が掃除の技術面でも精神面でも成長していく様子を描くのが、この続編ストーリィ。その印象は、設定条件は異なるものの、
吉川英治「宮本武蔵」を彷彿させます。とはいえ樹は所詮高校生、周囲の大人たちの樹を謀ろうとする様子に動揺もすれば気持ちを削がれることもある、というところが高校青春ストーリィらしいところ。

本書の特徴は、そうした樹の成長と同時に“掃除”という競技のもつ秘密、歴史が徐々に明らかにされていくところにあります。
前作と同様、樹を囲む登場人物は多彩で、本ストーリィ世界を大きく広げています。
掃除部の寺西元顧問、新顧問となった
牧田先生、新登場のコーチ=喜多瀬麻衣子、親友にしてライバルの大介、究極のお嬢様=梨奈、そして大切な仲間である高倉偲、等々。
舞台も樹たちの国から
居留地、西域へと広がります。
題名の「
決起!」とは、最後に樹と偲が放つ掃除の掛け声。
ただ“掃除”という競技の具体的イメージが今一歩浮かばないため、読後の満足感は今一歩。惜しいところです。
さて、更なる続編はあるのか?

          

10.

●「逆回りのお散歩」● ★★


逆回りのお散歩画像

2012年11月
集英社刊

(1400円+税)

2015年11月
集英社文庫化



2012/12/18



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デビュー作となり町戦争は“見えない戦争”を書いたので、今度は“見えるけれど、存在しない戦争”を書いてみた、とのこと。
ストーリィは、A市とC町の合併をめぐるもの。
この合併にはどこか不審を感じるところがあった。隣接する他の町ではなく、何故特に縁もないC町なのか。さらに、C町にA市が乗っ取られるという噂、等々。
そこから生じたA市民による合併反対運動は、ネット上で繰り広げられます。ネット上なので統合反対者の姿は見えない、だから潰されることはない、というのがミソ。
現実では従来どおり合併推進が着々と進められている。でもネット上では反対運動が燃え上がっていると、まるで逆。ネット上の反対運動は果たして現実社会を動かすのか、というストーリィ。
とはいえ、現実の戦いだろうがネット上の戦いだろうが、公権力との闘争はそう生易しいものではない、というのが現実だろうと思います。
ただ、その中で恐ろしいと感じたのは、公権力によって疑問をもつという心の動きまでいつの間にかコントロールされてしまっているという事実。
表題は、逆に歩いてみたら、もしかするとコントロールされているかどうかが判るかもしれない、ということらしい。
「となり町戦争」同様、底の知れないスリリングさ、怖さを感じさせられる作品です。

もう一篇の「戦争研修」は、まさに「となり町戦争」に連なる作品。
市町村が生き残るための方策=戦争。そうした状況下、舞阪町の町役場職員である
香西が“戦争事業実務研修”を受ける、というストーリィ。
北朝鮮の“○○日運動”というお題目を何度も聞かされている所為か、何やらリアルに感じられます。
※この主人公、となり町戦争の香西と同一人でしょうか。

逆回りのお散歩/戦争研修

      

三崎亜記作品のページ No.2

       


  

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