北原亞以子作品のページ No.2



11.雪の夜のあと

12慶次郎縁側日記−

13.再会慶次郎縁側日記−

14.昨日の恋

15.埋もれ火

16.消えた人達

17. おひで慶次郎縁側日記−

18.慶次郎縁側日記−

19.お茶をのみながら

20.慶次郎縁側日記−


【作家歴】、深川澪通り木戸番小屋、花冷え、まんがら茂平次、恋忘れ草、その夜の雪、風よ聞け−雲の巻−、深川澪通り燈ともし頃、東京駅物語、江戸風狂伝、銀座の職人さん

→ 北原亞以子作品のページ No.1


妖恋、隅田川(慶次郎縁側日記No.6)、妻恋坂、脇役(慶次郎覚書)、やさしい男(慶次郎縁側日記No.7)、夜の明けるまで、赤まんま(慶次郎縁側日記No.8)、夢のなか(慶次郎縁側日記9)、ほたる(慶次郎縁側日記10)、月明かり(慶次郎縁側日記11)

→ 北原亞以子作品のページ No.3


父の戦地
、白雨
(慶次郎縁側日記12)、誘惑、似たものどうし(慶次郎縁側日記傑作選)、あんちゃん、澪つくし、あした(慶次郎縁側日記13)、祭りの日(慶次郎縁側日記14)、たからもの、雨の底(慶次郎縁側日記15)

→ 北原亞以子作品のページ No.4


ぎやまん物語
、乗合船、恋情の果て、春遠からじ、化土記、いのち燃ゆ、初しぐれ、こはだの鮓

 → 北原亞以子作品のページ No.5

   


  

11.

●「雪の夜のあと」● ★★★


雪の夜のあと画像

1997年07月
読売新聞社

2022年08月
朝日文庫
(新装版)


1997/12/04

短編集その夜の雪、 その表題作の続編となる長編作品です。
どんな風に短編作品が長編に書き継がれているのかに興味を引かれながら読み出しました。ところが、本作品は、そんな気軽さを吹き飛ばすような、見事に充実した作品でした。

ストーリィの中心となる人物は、短編同様に、元同心・森口慶次郎であり、常蔵であり、その娘おとしです。それだけにとどまらず、はるかに多くの市井の人々が、それぞれの人生を背負って登場してきます。“それぞれ”であり、人によって、重い、軽いの別を感じることはありませんでした。
本作品は、人の愛憎と怨念の、底の底まで見据えようとした作品であるように思います。善人と悪人との区別も、底の底まで至ってしまうとどこかに消し飛んでしまうものらしい。そこで感じることは、生い立ちや境遇とかの運命をひきずって生きていかなければならない、人間の哀れさでしょうか。

後半に至ってからは、ただ、ただ、圧倒されるように読みつづけました。最後は、悲惨としか言いようの無い結末。しかし、その中にも救われるような思いを得ることができる。人はそれを救いに生きていくしかない、そんな結論でしょうか。

今まで読んできた北原作品の中では、もっとも迫力に満ちたものだと思います。表面的な人情話だけで終わる作家ではない、それを実証してみせた作品だと言えます。

  

12.

●「傷−慶次郎縁側日記−」● ★☆


傷画像

1998年09月
新潮社
(1700円+税)

2001年04月
新潮文庫

2022年06月
朝日文庫
(新装版)


1998/11/10

気軽に読んでそれなりに楽しめる、という感じの連作短篇集です。主人公はその夜の雪」「雪の夜のあと森口慶次郎
今は定町廻り同心を養子の晃之助に譲って隠居、酒問屋山口屋の寮番 (実態は居候に近い)という気楽な身分です。
その慶次郎が出会う、事件というより世話物話の数々、といったストーリィ。

この、元定町廻り同心の隠居で寮番という設定が、なかなかのものです。暇ですからいろいろと面倒話に首を突っ込むのも自然ですし、その一方で、捕り物および人間への洞察力は長年の同心時代に鍛えた自家薬籠中のもの。また、時に岡っ引を手足として使える人脈もあります。

もうひとつ私にとって魅力なのは、慶次郎と婿の晃之助、その妻の皐月との関係とその距離感です。
それぞれ元々は他人の間柄。でも、今はれっきとした一家族。しかしそれでなお、今は亡き慶次郎の実娘三千代に多少遠慮するような抑制した雰囲気がなんとなく感じられます。それぞれ、相手への深い思いやりが感じられるようで、心惹かれる関係です。

なお、「その夜の雪」が冒頭に挿入されているため、本書から読んでも充分楽しめます。

その夜の雪/律義者/似たものどうし/傷/春の出来事/腰痛の妙薬/片付け上手/座右の銘/早春の歌似ている女/饅頭の皮

    

13.

●「再会慶次郎縁側日記−」● ★★


再会画像

1999年05月
新潮社
(1700円+税)

2001年11月
新潮文庫

2022年07月
朝日文庫

1999/05/26

元同心・森口慶次郎を主人公とする連作短篇集第2弾。

北原さんは藤沢周平系統の作家なのですが、本書を読む限り、思い出すのはむしろ池波正太郎「剣客商売」の秋山小兵衛です。隠居同然の主人公から生じる、ゆったりとした雰囲気があるからでしょう。とは言っても、小兵衛のような超人的活躍は望むべくもありません。
その代わりと言って良いかどうか判りませんが、キラリと光るものが感じられます。登場人物たちがそれぞれに生き生きとしていますし、救いがあってしかも雰囲気が明るい、また生きていることの楽しさが感じられて、読みながらとても快い気分になります。
慶次郎があまりでしゃばらず、それでいて未だ色気を多分に残している、という人物設定も心憎いばかりです。

北原さんの市井小説がすっかり円熟の段階に至った、という印象を受ける一冊。シリーズものとして、これからも楽しみです。

恩返し/八百屋お七/花の露/最良の日/日々是転寝/やがてくる日/お見舞い/晩秋/あかり/再会一(秘密)/再会二(卯の花の雨)/再会三(恋する人達)

  

14.

●「昨日の恋−爽太捕物帖−」● 


1995年04月
毎日新聞社刊

1999年04月
文春文庫化


1997/09/21

事件というより、市井だからこそのいろいろな出来事を、事件にせずに済ませる、という傾向の連作短篇・捕物帖。
主役である岡っ引・爽太は、評判の鰻屋・十三川の入り婿。大火事で孤児になった爽太は、父親の友人だったという十兵衛に引き取られ、その後、岡っ引となる一方で十兵衛の一人娘おふくと夫婦になったという設定。2歳と生まれたばかりの赤ん坊と2人の娘がいる。
不要に人々を事件に巻き込まずに済ませることから評判が良い、というのはそうした背景があってのこと。
ちょっと変わった傾向の捕物帖です。
7篇を収録。

  

15.

●「埋もれ火」● 


埋もれ火画像

1999年10月
文芸春秋刊
(1524円+税)

2001年09月
文春文庫化

  

2000/04/27

幕末の激動期、坂本龍馬近藤勇らはそれぞれ歴史に名を残す生涯を遂げますが、その裏舞台では、彼らに関わった女たちが思いがけず時代に翻弄されたような生き方を余儀なくされました。そんな残影とでもいうような、彼女らの後日を描いた短編集。
読んで面白いというのではなく、華やかな歴史の陰に隠れてそんなヒトコマもあったのだと、読み手に訴えるような一冊です。
愛した男の行動による結果としても、自分で選んだ半生ではないだけに、物悲しさを感じる部分があります。
とくに冒頭の2篇は、龍馬をめぐって対極の関係にあったお龍、千葉佐那子という2人のその後を語るストーリィですが、互いに相手への対抗心が心の底に根強くあった胸の内が描かれていて、興味を惹かれます。

お龍・・・・・・・維新後も龍馬の妻として生きたお龍
枯野・・・・・・・龍馬を愛した千葉周作の姪、佐那子
波・・・・・・・・・近藤勇の愛人おさわの義侠心
武士の妻・・・追い腹を迫られる勇の妻、ツネ
正義・・・・・・・偽官軍の汚名を着せられた男の妻、照
泥中の花・・・尊攘の志士の妻に横恋慕する男
お慶・・・・・・・志士の後見人となった大浦屋のお慶
炎・・・・・・・・・薩長貿易の先鞭をつけた小倉屋の女将
呪縛・・・・・・・高杉晋作の墓守を続けるうのの胸中

   

16.

●「消えた人達」● 


消えた人達画像  
1999年12月
毎日新聞社刊
(1600円+税)

2010年03月
文春文庫化

  
2000/01/24

昨日の恋の岡っ引・爽太親分が登場。
ただ、時間は前作と前後し、「昨日の恋」より若い爽太が登場します。
大火事で両親を失って盗みをしながら暮らしていた頃の仲間、弥惣吉の恋女房おせんが失踪します。その行方を探すことが、ストーリィの始まり。
爽太とその仲間の下っ引の活躍で、失踪の経緯、おせんは割と簡単に見つかり、何と言うこともないストーリィだなあと思ったのが前半。
ところが後半に入ると、この物語はそう簡単に終わらないことが明らかになっていきます。
登場人物の殆どは、大火事のため大きく人生が異なってしまった当時の仲間たち。皆な当時と少しも変わらないつもりでいたのですが、既に10年以上も経つとその間にそれぞれ人間的にも大きな違いが生じていた、という現実に爽太は直面していきます。
それぞれの人生の変転ぶりを描き出したストーリィと言えるでしょう。
当初はまとまりがよすぎて、物足りない作品という印象だったのですが、北原さんなりに人生の裏表を描くという特色を出そうとした作品のように思います。
でも、読んでいてストーリィへの興味があまり膨らまなかったことが残念。

  

17.

●「おひで慶次郎縁側日記−」● ★★


おひで画像

2000年01月
新潮社刊
(1700円+税)

2002年10月
新潮文庫化

2022年09月
朝日文庫



2000/02/03

シリーズ3冊目に至り、盤石の連作シリーズになってきた、と思いました。
本書では、前2冊ほど、元定町廻り同心の森口慶次郎が主役となることはありません。慶次郎と同程度に、養子で現役同心の晃之助が活躍していますが、そもそも2人とも狂言回しにすぎません。主人公となるのは、各篇に登場する、ごく普通の市井の男女です。

本シリーズに一番近い連作ものというと、池波正太郎“剣客商売”シリーズだと思うのですが、同シリーズはあまりにも登場人物たちが普通の人ではない。つまり、秋山小兵衛・大治郎父子にしろ、佐々木三冬、各篇で登場する人物にしろ、剣術使いという特殊な世界の人達が多く、活躍ぶりもまさに超人的です。
それと対照的に、本シリーズ・各篇の主人公たちは、どちらかというと貧しく、生活の苦労を背負っている人たちです。また、慶次郎、晃之助にしろ、彼らにどう対してよいのか迷うことも度々です。

ごく普通の市井ばなしに、ちょっと哀歓が混じっている、というのが本シリーズの良さだと思います。
“鬼平犯科帳”“剣客商売”、あるいは藤沢周平“用心棒日月抄”ほどの人気シリーズになることはできないにしろ、市井もの時代小説ファンに、しみじみとした味わいを与えてくれる好シリーズになると期待できます。白石一郎“十時半睡”と比較しても、市井の人々が主人公であるだけに、しっかりとした手応えがあります。
そういえば、晃之助にもだいぶ風格が出てきました。

ぬれぎぬ/からっぽ/おひで(一 油照り)/おひで(二 佐七の恋)/秋寂びて/豊国の息子/風のいたずら/騙し騙され(一 空騒ぎ)/騙し騙され(二 恵方詣り)/不惑/騙し騙され(三 女心)/あと一歩

   

18.

●「峠−慶次郎縁側日記−」● ★☆


峠画像

2000年10月
新潮社
(1700円+税)

2003年10月
新潮文庫

2023年06月
朝日文庫

2000/11/05

「小説新潮」に連載されている“慶次郎縁側日記”シリーズですが、第4巻目ともなるとすっかり安定してきた観があります。
今回収録の内では「峠」が中編ものと言えますが、あとは比較的短い作品です。

「峠」は、1回、それもやむなく犯した罪であるにも関わらず、そのことによってどれだけ人の人生が狂わされてしまうのか、ということが主題となっている作品。
富山の薬売り・四方吉、ひもじさを我慢しても男との所帯を大切にしようとするおいとは、まさにそんな運命を背負った人物たちです。そんな人生の難しい出来事を、どうやって乗り越えれば良いのか、「峠」という題名はその困難さ、その岐路を現した題名のようです。
人生のそんな悪戯に対して「二度とこんな真似はやめてくれ」と慶次郎がわめきたくなるという部分には、説得力があります。

慶次郎、美男のため付け文されるという晃之助、島中賢吾の岡っ引・太兵衛等々、登場人物の皆がスーパーマンではなく普通の人間であるところに、地味ですが本シリーズの良さがあります。

峠/天下のまわりもの/蝶/金縛り/人攫い/女難の相/お荷物/三分の一

   

19.

●「お茶をのみながら」● ★★


お茶をのみながら画像

2001年10月
中央公論新社
(1900円+税)

2005年11月
講談社文庫化

   

2001/12/15

北原さんの初エッセイ集。そのため、幅広く北原さんのエッセイが収録されています。北原さん自身の周辺事もいろいろと書かれていますので、北原ファンとしては楽しめる一冊。
収録されているエッセイは、4つに分類されています。

そのうち「むかし書いた話」は、本当に昔々、北原さんが新人賞を受賞した以前のものだそうです。最近のエッセイと比べると、やはり随分違うなぁ。人生の年輪、作家としての経験の差だと思いますが、味わいというものがあまり感じられない。(言い換えれば、最近の北原さんのエッセイには、小説と同じように味わいがある、ということです)

一番面白く読めたのは、冒頭の「あんな話」
若くして同時期に、新潮新人賞受賞、小説現代新人賞佳作入選を果たしたものの、その後20年も鳴かず飛ばず
。生活していく為やむなく会社勤めをしながら、小説を書き続け、深川澪通り木戸番小屋で泉鏡花賞を受賞し、やっと作家として陽の目を見たとのこと。北原さんにそんな長い雌伏の時があったとは、思いもよりませんでした。藤沢周平さんの後継者として、順調な歩みを辿ったとばかり思っていました。そう思うと、最近のシリーズもの慶次郎縁側日記が、よりいっそう味わい深く感じられます。
北原亞以子ファンにはお薦めしたい一冊です。

あんな話/むかし書いた話/むかしの話/こんな話
なお、「むかしの話」の最初、「三井高利の現金掛値なしというエッセイで、同名の小説が取上げられていますが、これも面白い本です。

   

20.

●「蜩慶次郎縁側日記−」● ★★


蜩画像

2002年01月
新潮社
(1700円+税)

2004年10月
新潮文庫

2023年07月
朝日文庫

    

2002/02/11

お馴染み“慶次郎縁側日記”シリーズの第5弾。
江戸市井の庶民たちを描く作品としては、現在このシリーズに勝るものはないだろうと思います。
その魅力は、何と言っても、しみじみとした味わいの深さにあります。

20歳も年上の地獄宿の女を女房に貰おうという「綴じ蓋」、女を騙す稼業がそれを上回る女に仰天して番屋に駆け込んできたという「権三回想記」、おしゃべりが唯一の楽しみという「おこまの道楽」は、いずれも愉快な一篇。
一方、職人の意地を張り合う父親と恋人の板ばさみになる「意地」のおちせ、恩と恋情の間で心揺れる「夕陽」のおさと、2人の心情には、切なさが溢れます。
長生きし過ぎたといって嘆く「不老長寿」のおわかには、同情するものの、なんとなく可笑しさがあります。
お見事なのは「天知る地知る」。これはもう読んで頂くほかありません。

森口慶次郎は、もはや登場人物のひとりというに過ぎません。主役は、各ストーリィそれぞれの主人公たち。でも、慶次郎、晃之助、辰吉、佐七と、いつもの面々が所々に登場するところに、安心できる楽しさがあります。
また、慶次郎と花ごろもの女将・お登世の親密さが更に深まり、藤沢周平「三屋清左衛門残日録の清左衛門とみさを連想させるのが、心憎いところです。

綴じ蓋/権三回想記/おこまの道楽/意地/蜩(ひぐらし)/天知る地知る/夕陽/箱入り娘/逢魔ヶ時/不老長寿/殺したい奴/雨の寺

       

読書りすと(北原亞以子作品)

   

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