北原亞以子作品のページ No.1


1938年東京都新橋生、千葉県立千葉第二高等学校卒、本名:高野美枝(よしえ)。広告会社に勤務しながら創作活動開始。69年「ママは知らなかったのよ」にて第1回新潮新人賞を受賞すると共に「粉雪舞う」にて小説現代新人賞佳作。その後20年を経た89年「深川澪通り木戸番小屋」にて第17回泉鏡花文学賞、93年「恋忘れ草」にて 第109回直木賞、97年「江戸風狂伝」にて第36回女流文学賞、2005年「夜の明けるまで」にて第39回吉川英治文学賞を受賞。13年03月心筋梗塞により死去、享年75歳。歴史時代作家クラブ特別功労賞を受賞。


1.
深川澪通り木戸番小屋

2.花冷え

3.まんがら茂平次

4.恋忘れ草

5.その夜の雪

6.風よ聞け−雲の巻−

7.深川澪通り燈ともし頃−深川澪通り木戸番小屋−

8.東京駅物語

9.江戸風狂伝

10.銀座の職人さん


雪の夜のあと、傷(慶次郎縁側日記1)、再会(慶次郎縁側日記2)、昨日の恋、埋もれ火、消えた人達、おひで(慶次郎縁側日記3)、峠(慶次郎縁側日記4)、お茶をのみながら、蜩(慶次郎縁側日記5)

 → 北原亞以子作品のページ No.2


妖恋、隅田川
(慶次郎縁側日記6)、妻恋坂、脇役(慶次郎覚書)、やさしい男(慶次郎縁側日記7)、夜の明けるまで、赤まんま(慶次郎縁側日記8)、夢のなか(慶次郎縁側日記9)、ほたる(慶次郎縁側日記10)、月明かり(慶次郎縁側日記11)

→ 北原亞以子作品のページ No.3


父の戦地、白雨
(慶次郎縁側日記12)、誘惑、似たものどうし(慶次郎縁側日記傑作選)、あんちゃん、澪つくし、あした(慶次郎縁側日記13)、祭りの日(慶次郎縁側日記14)、たからもの、雨の底(慶次郎縁側日記15)

 → 北原亞以子作品のページ No.4


ぎやまん物語、乗合船、恋情の果て、春遠からじ、化土記、いのち燃ゆ、初しぐれ、こはだの鮓

 → 北原亞以子作品のページ No.5

          


  

1.

●「深川澪通り木戸番小屋」● ★★★  第17回泉鏡花賞

深川澪通り木戸番小屋画像

1989年04月
講談社刊

1993年09月
講談社文庫

1993/10/06

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深川・澪通りにある木戸番小屋の笑兵衛、捨夫婦の周りに集まる市井の人々を描く連作短篇集。ちょうど藤沢周平「本所しぐれ町物語に似た作品です。

しかし、決して藤沢さんの真似ではなく、北原さん独自の江戸の市井模様を映し出しています。
何と言っても魅力なのは、笑兵衛、捨の夫婦。穏和で、貧しい生活にも屈託がありません。周囲の人々からも親しまれ、以前は大店の主人夫婦か、京の由緒ある家が出ではないかと噂されています。
この二人にも過去に苦しみがあり、その末にてこの木戸番小屋に流れてきたことが、次第に明らかにされていきます。
本書の中では、表題作が一番好きです。とくにおけいの健気さが忘れられません。

深川澪通り木戸番小屋 /両国橋から/坂道の冬/深川しぐれ/ともだち/名人かたぎ/梅雨の晴れ間/わすれもの

   

2.

●「花冷え」● ★★


花冷え画像

1991年07月

2002年02月
講談社文庫
(495円+税)

    

2002/05/08

昭和45年〜平成3年にかけて発表した短篇7作を収録。
最近の北原さんは、「
慶次郎縁側日記」シリーズなど淡々とした姿勢が基調となっていますが、本書収録の各篇の執筆時期はだいぶ前のことだけに、人々の情感が明快に描かれています。それだけに小気味良い。北原ファンとしては、当初親しんだ北原さんらしさを久々に味える、という楽しさがあります。

表題作の「花冷え」は、恋仲だった若い男女が2年ぶりに料理屋の座敷で再会するというストーリィ。主人公おたえ弥吉に対する戸惑い、淡い期待感が徐々に描き出されていくという展開で、その臨場感がお見事。

また、本書中の逸品は「女子豹変す」。中間部屋に惣菜を売り歩く寡婦おてつと、女子にもてる男前ながら貧乏御家人の次男坊という要次郎の2人が主人公。乱暴な言葉遣いと男を引っ張り込むような威勢の良さが評判のおてつですが、本性は臆病な女。おてつが次男の手を引きながら惣菜の入った箱を下げ、その背後に用心棒を引き受けた要次郎が長男の手を引いて従うという風景は、まるで現代の家族風景が浮かび上がらせるようで、思わず可笑しくなります。

「古橋村の秋」は関ヶ原後落武者となった石田三成に関わるストーリィで、本書中では異色の一篇。

その他の短篇もそれぞれの味わいがあって、そのひとつだけでも十分楽しめる作品です。時代小説ファンにお薦めできる一冊。

花冷え/虹/片葉の葦/女子豹変す/胸突坂/古橋村の秋/待てば日和も

    

3.

●「まんがら茂平次」● ★★


まんがら茂平次画像

1992年11月
新潮社刊

1995年09月
新潮文庫化

2010年02月
徳間文庫化

1993/04/06

好評を得ている作品と聞いて、初めて読んだ北原作品です。 
評判どおりに楽しめ、北原さんに魅せられた作品でもあります。小説としての完成度も極めて高いと言ってよいのではないでしょうか。

まず、主人公である茂平次が何と言っても魅力的です。
千に三つの真実の
“せんみつ”を超え、万にひとつの真実もないという意味の“まんがら”の綽名をもつ風来坊です。茂平次がつく嘘は、罪がなくて、あまりの嘘ぶりに笑いが止まらないほどです。

そして、その茂平次の周囲に集まる仲間たち(謙助、金吾、お鈴等)は、様々な事情を抱えて集まるに至ったわけなのですが、それぞれ個性があって、生活感を備えた魅力を持っています。彼らが互いに助け合う様子は楽しく、まるで江戸幕末期から明治維新という激動期にあっての青春群像を見る思いが します。

また、本作品が幕末という時期を背景としていることについて、北原さんの、独自の時代小説を切り開いていこうという意気込みを感じられるように思いました。

   

4.

●「恋忘れ草」● ★★    109回直木賞

  

1993年05月
文芸春秋刊

1995年10月
文春文庫化

  

1993/09/12

江戸を舞台に、それぞれに職業をもつ女たちの恋模様を描いた短編集です。
江戸時代だからこそのストーリィでは決してなく、現代の自立した女性達に置き換えても、充分通じるようなストーリィです。もっとも、現代のOLあたりでは、本書に登場する女たちの可憐さ、色気には到底及ばないように思います。
藤沢周平さんがいみじくも言っていたように、時代物に設定するが故に、雰囲気が充分に読み手に伝わってくる、と言える作品のひとつです。
健気に一人生きていこうとする女の可憐さ、運とちょっと掛け違った為に自立せざるを得なかった女の寂しさ、逆に一人で生きようとする女の強さや色気、女性の多様な魅力がしんみりと伝わってくるかのような作品集です。
しっとりとした女の美しさを満喫できる一冊、とお薦めできます。

恋風/男の八分/後姿/恋知らず /恋忘れ草/萌えいずる時

  

5.

●「その夜の雪」● ★★


その夜の雪画像

1994年09月
新潮社刊

1997年09月
新潮文庫化

2010年05月
講談社文庫化

1994/10/02

優しさを感じる短篇集。
しかし、決して弱々しいということではありません。生きることの厳しさを感じさせながらも、人間に対する優しさをきちんと備えている、という印象を受けます。
女性作家の良さを感じますが、その一方、表題作
「その夜の雪」では、男性的かつ直線的な強さを備えています。

表題作の「その夜の雪」は、嫁ぐ直前の娘が見知らぬ男に乱暴されて自害。“仏”と言われていた同心・森口慶次郎は、復讐の為に犯人の探索をする、というストーリィ。
昔そうした状況にありながら、相手に対する復讐を慶次郎に説かれてやめた手下の
辰吉。そして同様の過去をもつ吉次。遂に犯人を追い詰めた慶次郎の脚にしがみつく犯人の娘おとし。4人の思いが、心に強く響く作品です。

うさぎ/その夜の雪/吹きだまり /夜鷹蕎麦十六文/侘助/束の間の話

※表題作「その夜の雪」は、長篇「雪の夜のあと」と“慶次郎縁側日記”シリーズへと続いていきます

  

6.

●「風よ聞け−雲の巻−」● 


風よ聞け画像

1996年10月
講談社文庫刊
(466円+税)

  

1997/03/23

北原亜以子さんは、藤沢周平さん亡き後、唯一藤沢さんの作風を承継しているといって良い作家だと思います。けれど単に真似しているというのではなく、特に本作品を読むと、北原さん独自の世界を 着実に切り開いているなと感じます。
本物語の舞台は、幕末、それも官軍が江戸に押し寄せるという大振幅にゆれる最中の江戸。そんな時期にも拘わらず、北原さんの描く作品はまぎれもなく市井小説なのです。

ストーリーの中心は、官軍と戦う江戸4大道場の跡取り、伊庭八郎という実在の人物。
しかし、主人公は決して彼ではなく、彼を慕う千遠、小稲、また通弁尺振八の妻キクがみる、当時の社会・人々そのものだと言えます。
時代の大変動時に、多くの人がどう考え、行動したか。それが3人の女性の眼を通して観察されます。そして彼女たちは、それぞれ慕う男の生き方に沿って生きていこうとする。そんな彼女たちの中に毅然としたものが感じられて、思わずため息してしまいます。またその中には、土足で江戸に踏み込んでくる官軍に対する、人々の反骨心も感じられます。
市井小説でありながら、時代の検証を行ない、かつ女性の凛々しさ(?)まで盛り込んだ、贅沢な作品と言えるかもしれません。本書は 180頁と薄いのですが、続編があるとのこと。続編を楽しみに待ちたい。

  

7.

●「深川澪通り燈ともし頃」● 

深川澪通り燈ともし頃画像

1994年
講談社刊

講談社文庫化

1997/09/16

泉鏡花賞受賞の深川澪通り木戸番小屋の続編です。
前作もお気に入りだったのですが、前作の終わり頃、中心人物たる笑兵衛・お捨夫婦を持ち上げ過ぎるところがちょっと引っかかっていて、続編を読むのに間を置いてしまいました。
本作品でも、それは 基本的に変わらないのですが、読むうちにそんな気分は次第に薄れ、この夫婦の存在によってほのぼのとした居心地 のよさに浸ってしまいました。

本書は2つの話からなっています。
第一話は浮世の厳しさを感じる話、第二話は人それぞれの生き方を感じさせてくれる話。いずれも、藤沢周平本所しぐれ物語の続きかと思わせるような作品です。
藤沢周平さんの市井小説を継承する作家としては、この北原さんが第一人者だと思います。前作と合わせ、藤沢周平ファンの方には是非読んでもらいたい作品です。

  

8.

●「東京駅物語」● ★☆

東京駅物語画像

1996年11月
新潮社刊

1999年11月
新潮文庫化

2010年08月
文春文庫化

1997/11/19

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明治末の東京駅着工から敗戦後までの、東京駅を舞台にした連作短編です。

9話から成るストーリィの中に、それぞれのストーリィでの主人公達がもつれ合うように登場してきます。時代を超えた連作短編という試みに、北原さんの意欲を感じました。
駅建設工事で働く若者、夢を抱いて東京へ出てきた娘たち、東京駅を舞台に詐欺をたくらむ男、一時つきあう男を捜し求める女。時代の流れに沿ってストーリィを追っていくうちに、時代に翻弄されつつ生きてきた人たちへの愛おしさを感じずにはいられません。そんな人々を東京駅は見守ってきました。改めて駅というものが、数多くのドラマを生み出してきた出会いと別れの場であることを思い出します。

現在の東京駅、上野駅は、ともに随分と変ってしまいましたが。今はむしろ空港がそんな場所でしょうか。

  

9.

●「江戸風狂伝」● ★★   第36回女流文学賞

    
1997年06月
中央公論社刊

2013年05月
講談社文庫化

   
199/01/01

  
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読む前に予想していたより、ずっと良い本でした。
雪の夜のあとと同様に、北原さんがこれまでの境地から一歩抜き出た、という感じを受けます。単なる人情話から、もっと奥行きのある短編を書けるようになった、というような。(おこがましい限りなのですが。^^;)

7篇からなる短篇集。そのいずれもに、それぞれのおかしみと哀しさ、切れの良さを感じます。帯の宣伝文句は「意地と張りとをつらぬき通すあっぱれ江戸の粋人たち」
将軍綱吉に伊達比べを挑む商家のおかみ、世間離れした画人夫婦、平賀源内等。拍手喝采したいような登場人物たちで、正月の元旦に読むにはぴったり、という気分で満足感に浸りました。

  

10.

●「銀座の職人さん」● 


江戸の職人さん画像

1998年07月
実業之日本社
(1700円+税)

2000年11月
文春文庫化

  

1998/09/03

日本の旧い伝統を引き継いでいる職人さんたちを北原さんが訪ね歩き、聞き取った職人話の数々。雑誌「銀座百点」に連載されていたものだそうです。
銀座の職人さんと言っても銀座で仕事をしている人は僅か。銀座の老舗に品物を納めている職人さん、という意味です。
職人さんたちが楽しみも感じながら仕事をしている様子を読むと、ホッとする気分に浸れます。頭の中で自社の利益を稼ぐことばかり考えているサラリーマンとは、余っ程違う世界です。
とは言っても、ここ迄至るには皆さん修行を重ね、今は後継者のいないことを寂しく感じ、でも仕事が減っているのだから仕方ないと諦観していたりします。
こうした、人間にしかできない、それも長い年月を要する技を見聞きすると、人間って捨てたものじゃない、と感じます。その一方で、その技が後継者なく廃れてしまうことを考えると、何が文化国家なのかと思います。何が大事なのかを考える、そんな余裕がない程の後進国家なのでしょうか、日本は。

鼈甲細工/ハンドバック/鰻の蒲焼/浴衣の型付/江戸指物/帽子/鮨/江戸千代紙/足袋/カステラ/紳士靴/ステッキ/クラシックギター/宝飾/アイスクリーム/江戸切子/カジュアルシャツ/飾り菓子/蝋纈染かつらの地金/てんぷら/アンパン/手縫い草履/象牙細工

     

読書りすと(北原亞以子作品)

   

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