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22.ユニコーン 23.翔ぶ少女 24.太陽の棘 25.奇跡の人 26.あなたは誰かの大切な人 27.異邦人(いりびと) 28.モダン 29.ロマンシエ 30.暗幕のゲルニカ |
【作家歴】、カフーを待ちわびて、普通じゃない、ごめん、さいはての彼女、おいしい水、キネマの神様、花々、翼をください、インディペンデンス・デイ、星がひとつほしいとの祈り |
本日はお日柄もよく、ランウェイ・ビート、風のマジム、まぐだら屋のマリア、でーれーガールズ、永遠をさがしに、楽園のカンヴァス、旅屋おかえり、生きるぼくら、ジヴェルニーの食卓 |
デトロイト美術館の奇跡、リーチ先生、サロメ、アノニム、たゆたえども沈まず、スイート・ホーム、やっぱり食べに行こう、フーテンのマハ、常設展示室、美しき愚かものたちのタブロー |
原田マハの印象派物語、風神雷神、<あの絵>のまえで、リボルバー、丘の上の賢人、板上に咲く |
21. | |
「総理の夫 first Gentleman」 ★☆ |
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2016年12月
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日本国初の女性総理が誕生! しかも総理となった相馬凜子は我が愛妻。突然“総理の夫”という立場に置かれた主人公は、どう振る舞うのか、どう振る舞えばいいのか。 日々総理として奮闘する妻を、主人公は総理の夫として如何に支えるのかというストーリィ。 主人公である相馬日和は「天然」と評される鳥類学者、38歳。ただし、日本を代表する財閥相馬一族の次男坊。 そしてその妻=相馬凜子は、小説家の父と国際政治学者の母との間に生まれ、現在は少数野党の党首である42歳。 その凜子は与党が倒れた後、野党連立政権の旗頭として 第111代内閣総理大臣に就任します(※ちなみに現安倍総理は96代)。 初の女性総理が誕生する日本の状況は? “総理の夫”になると一体何がどうなるのか? という辺りが興味どころですが、本書で野党連立政権が成立するくだりは自民党から新生党が分離・立党して93年に8党連立政権が誕生した当時をモデルとしていて、新しさと古さが入り混じったような印象を受けます。 そうしたことはさておき、政治的かけひきを舞台背景としながらも、本ストーリイの本質は夫婦愛。日和と凜子の夫婦によもや!という危機も訪れますが、最後は夫婦が力を合わせて難局を乗り切るストーリィになっています。 女性総理、まぁ現時点では仮想ストーリィですが、近い将来誕生しても何ら不思議ないことと思います。 むしろ男性か女性かなどということは最早あまり意味のないことで、肝心なのは日本にとってどんな政策実行が必要であるかを明確に認識しており、それについて説得力をもって国民に訴えることができ、その実現のために邁進してくれる人かどうか、ということでしょう。本書の相馬凜子総理のように。 少なくとも、信頼という言葉を軽率に使ったり、恰好付けばかり考えたり、政党間の駈け引きこそ政治だと吹聴したり、ただ選挙に勝てば良いなどと言っている政治家は要らない、ということは確かです。 一見重たい話に思えますが、夫婦愛にベースを置いたエンターテインメント小説。政治に興味がない方もきっと楽しめる筈。 |
22. | |
「ユニコーン−ジョルジュ・サンドの遺言− La Licorne;La volonte de George Sand」★★ |
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貴婦人とユニコーン(一角獣)という、不思議な題材を描いた6枚のタピストリー(装飾用の織物)。 誰が、どんな目的で作成したのかはまるで不明。 本書は、現在パリのクリュニー美術館に所蔵されているというこの連作ものタピストリーと作家ジョルジュ・サンドとの関わりを描いた短い物語です。 最初の章は1876年サンドの葬儀の時。 次章はその40年前に遡り、サンドが2人の子供を連れてフランスのベリー地方のプサック城に住むポーリーヌ・ド・カルボニエールの元に滞在した時のこと。その時この居館で飾られていたのが件のタピストリー。 そして次の章では、このタピストリーとの縁についてサンドが画家ドロクロワに語るという構成です。 プサック館に滞在したとき、「お願い、ここから出して」「私の唯一の望み」という声がサンドに聴こえてきたという。 実際、サンドが自らの作品中でこのタピストリーについて語ったことが、このタピストリーを有名にしたということがあるようです。 ジョルジュ・サンドが主人公という処に惹かれてしまうのですが、本作品の意味合いは「貴婦人とユニコーン」というタピストリーの紹介、タピストリーのジョルジュ・サンドの関わりを知らしめる、ということに尽きると思います。 物語より、収録されたタピストリーのカラー図版に惹きつけられて、何度眺めても見飽きるということがありません。 ※なお、一角獣は強固な処女性の象徴なのだそうです。 ユニコーン−ジョルジュ・サンドの遺言/付章:ジョルジュ・サンドの著作より(マルシュ地方とベリー地方の片隅/戦争中のある旅行者の日記) |
23. | |
「翔ぶ少女」 ★★ |
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2016年04月
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1995年、阪神淡路大震災。両親を失った幼い3人の兄姉妹が、彼らを助け出してくれた“おっちゃん”の元で力強く成長する姿を描いた感動的な成長ストーリィ。 神戸市長田区で「阿藤のパン屋」を営んでいた一家は、2階の住居部分が崩れ落ち、開店準備をしていた両親は1階の店舗部分とともに押し潰されて死去、小学1年生の丹華(にけ)と兄で3年生の逸騎(いっき)、未だ3歳の燦空(さんく)という幼い兄姉妹が生き残ります。 火の手が上がった状況から3人を助け出してくれたのは、近くで診療内科医院を営んでいた“ゼロ先生”こと佐元良是朗医師。 お互いに大切な家族を失った4人はそれから、避難所、仮設住宅と寄り添うように生きていきます。 勿論辛く悲しい想いが消えた訳ではありませんが、それでも丹華たちはお互いに支え合い明るくしっかり生きていこうとします。それでも、丹華たちが成長するにつれ、いろいろな問題にぶつからざるを得ない。 大切な人のことを想う時、すぐにでも相手の元に飛んで行きたいと思う。そんな羽があったら。 本作品は“羽”をひとつの象徴として、主人公である丹華という少女が心の中に潜めた切実な想い、熱い想いをファンタジー的に描き出したストーリィ。 すぐに相手の元に飛んで行きたいという想いは、それだけ強く真っ直ぐな想いであるということなのでしょう。 大切な人がいる、その人を大切にしたい想いがある、ということがどれだけ人を支えてくれることか、とつくづく感じさせられます。 ※“ニケ”とはギリシア神話に登場する、翼をもった勝利の女神の名前だそうです。 |
24. | |
「太陽の棘 Under The Sun and Stars」 ★★☆ |
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2016年11月
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終戦直後、米国統治下に在った沖縄が舞台。 若き精神科医エド・ウィルソンは、在沖縄アメリカ陸軍の従軍医として徴用され、沖縄に赴任してきます。 多忙な日々の中の休日、彼は父親から送ってもらった愛車ポンティアックに同僚医師2人を乗せ、島内へのドライブへに出掛けます。 そんなエドが偶然にも行き着いた先は“ニシムイ・アート・ヴィレッジ(ニシムイ美術村)”。そこは、ゴーギャンやゴッホ等を彷彿させる沖縄の若き画家たちが、集って絵を描き続けている場所だった。 自分も絵を描くことが大好きなエドは、休日の度にその村へ出かけ、彼らと親交を深めていきます。 戦争の傷跡がまだ生々しく残る沖縄、米国軍人と島民たちの間には複雑な感情が絡み合っている筈の状況下で、絵画を通して若き米国人エドとタイラを初めとする若き沖縄の画家たちが気持ちを通い合わせていく姿は、未来への希望を現しているようでとても嬉しい。 そして戦争直後という苦しい最中にありながらも、絵画への情熱を迸らせているような画家たちの姿には感動尽きないものがあります。 終戦直後の沖縄を舞台にした、彼らの友情と情熱を生命力豊かに描いた佳作。彼らが発するその熱さの、何と眩しいことか。 それに触れるだけでも本作品を読む価値が十分あります。 ※なお、本ストーリィにはモデルとなった実話があるとのこと。 |
25. | |
「奇跡の人 The Miracle Worker」 ★★ |
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2018年01月
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明治20年の青森県中津軽郡弘前町、、目が見えず耳も聞こえず、口の利けない三重苦の少女のための教師として、自分も弱視でいずれ失明の恐れを抱える女性が東京から招かれます。 少女の名前は介良(けら)れん、当時6歳。そして女教師は去場安(さりば・あん)。 2人の名前を聞いただけですぐ察することができると思います。言うまでもなく、実在のヘレン・ケラーの物語を明治時代の日本、それも旧弊な地方名士(男爵家)の家を舞台に設定した作品。一方、去場安の経歴は、父親の一方的な命令で9歳という幼さで使節団随行留学生に加えられ、米国で成長・教育を受けた後帰国した女性。教育の仕事に意欲を持ちながら当時の日本社会では叶えられず悶々としていたところを、伊藤博文から介良れんの家庭教師という仕事を紹介された、という設定です。 ヘレン・ケラー物語の日本版ではありますけれど、地方の旧弊な家長制度、自分の思い込みが全てで他人の言うことに聞く耳をもたない頑迷な男性家長、陰湿な女中たちの他、乞食同様に遇されているボサマ(全盲で三味線や民謡を演じる門付旅芸人)の少女狼野(おいの)キワを配し、創作小説に全く引けを取らない読み応え、独自の感動を謳い上げています。 私が思うに原田マハさん、実在の人物をモデルにした創作小説となるとこれ以上ないくらい達者なストーリィを紡ぎ出す、という印象があります。私が大好きな作品「翼をください」もやはりそうでした。 本書の主人公である去場安との共通点は、独立不羈の精神、そして先に広がる可能性を信じてやまない強い精神、と言って良いでしょう。 「奇跡の人」とは本来アン・サリヴァン、本作品では去場安のことを指す言葉ですが、その安はストーリィ中で何度もれんのことを“奇跡の人”だと主張します。 介場家では諦められ、蔵の中に閉じ込められてケモノのように扱われていたれんを安は、人間は誰でも学習能力を持っている、そしてれんはとても賢い子という信念を貫き、周囲の無理解故の苦汁をなめながら少しずつ可能性の扉をこじ開けていきます。 最後は、感動で胸がいっぱいになるストーリィ。 ※アン・バンクロフトがアカデミー主演女優賞を獲得した1962年の映画“奇跡の人”も思い出し、当時の感動を新たにする思いです。 |
26. | |
「あなたは、誰かの大切な人」 ★☆ |
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2017年05月
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文字(表題)通りの小ストーリィ、6篇。 最近の原田マハ作品の中にあっては、小品集ということもあって、気軽に楽しめる短篇集になっています。 ストーリィとしては単純なものですが、きちんと整理してみようとすると、そう単純とばかり言うことはできません。 即ち、大切な人である“あなた”とは誰のことなのか、また“誰か”とは誰のことなのか。 ストーリィを単純に楽しみながら、その謎解きをしてみる、というのも本書を楽しむ上での一興かと思います。 誰にとっても、誰かしら大切な人はいる筈。 本書を読んでいる内にそうした思いが浮かんできて、そうするとまるで誰かの打ち明け話を聞いているような気分になります。 その辺りはきっと、ストーリィテラー=原田マハさんの上手さなのでしょう。 ※各篇で主人公たちが語るのは、 「最後の伝言」:死去した母親と、ろくでなしの父親。 「月夜のアボカド」:母親程も年上の貴重な友人2人と、長い付き合いの恋人。 「無用の人」:母親からずっと無用扱いされていた父親。 「緑陰のマナ」:亡き母親。 「波打ち際のふたり」:学生時代からの友人。 「皿の上の孤独」:かつてのビジネスパートナー どの篇、どの組み合わせにも、それぞれのドラマあり。 最後の伝言/月夜のアボカド/無用の人/緑陰のマナ/波打ち際のふたり/皿の上の孤独 |
27. | |
「異邦人(いりびと)」 ★★ |
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東日本大震災の直後、妊娠中だから放射能被害が心配だと、一人京都のホテルに避難させられている菜穂。その菜穂と、彼女の夫である篁一樹の2人が、本書の主人公です。 菜穂は、有吉不動産の創業者にして有吉美術館を創立した故喜三郎の孫娘にして、有吉美術館の副館長兼学芸員。 一方の一樹は、菜穂の母親である克子が懇意にしている東京の老舗画廊“たかむら画廊”の息子にして専務。 ひとり京都でホテル住まいしていることに不満を募らせ始めていた菜穂ですが、ある日、京都の画廊で全く無名の画家の絵に出会ったとたん、突き刺されるような衝撃を覚えます。 実は菜穂、絵画蒐集家だった祖父を凌ぐ並外れた慧眼の持ち主。しかし、絵画のプロである一樹には、その白根樹(たつる)という画家の描いた絵の価値が読み取れない。 その白根樹の絵と出会ったその時から、妊娠中であることをものともせず、菜穂は迸る情熱のまま一直線に走り出します。 冒頭こそ、金持ちの我が儘娘といった風で鼻持ちならないという印象の菜穂でしたが、その絵画に対する貪欲なまでの情熱は読み手を引きずり込み、圧倒せずにはおきません。 それに対し、両親である有吉夫婦、たかむら画廊父子の何と俗物的であることか。 名画、個人美術館と、庶民にはまるで縁のない世界での出来事ではありますが、金銭は勿論のこと、芸術を全てに優先する菜穂の姿勢には魅せられずにはいられません。 後半に入ってからは、菜穂と白根樹の情熱が怒涛の様にストーリィを引っ張っていくという印象で、逆転劇の興奮と面白さも交えた、まさに迫力に溢れた絵画小説。 ※どんな困難にも負けず、自分の情熱を貫いていく菜穂の姿は、「翼をください」のアメリア・イーグルウィングに共通する人物像だと思います。本書題名の“異邦人”とは、勿論菜穂のこと。 1.うつろい/2.青葉萌ゆ/3.火照る夜/4.山鳩の壁/5.葵のあと/6.花腐す雨/7.無言のふたり/8.寄るさざ波/9.秘密/10.睡蓮/11.屏風祭/12.宵山/13.巡行/14.川床/15.送り火/16.蛍/17.残暑/18.焔/19.魔物/20.落涙/21.夕闇/22.紅葉散る/23.氷雨 |
28. | |
「モダン The Modern」 ★☆ |
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2018年04月
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NY市マンハッタンにあり、1920年代「ザ・モダン」と呼ばれたモダンアートの殿堂、ニューヨーク近代美術館を舞台にした美術ストーリィ、5篇。 「中断された展覧会の記憶」は、東日本大震災の発生によりふくしま近代美術館に貸し出していた名画「クリスティーナの世界」の回収を命じられ福島に赴いた、MoMAで展覧会ディレクターの女性の話。 「ロックフェラーギャラリーの幽霊」は、MoMA監視員の青年が出会った不思議な入場客の話。 「私の好きなマシン」は、今はインダストリアルデザイナーとなった女性の、MoMA初代館長アルフレッド・バーとの出会いを描いた話。 「新しい出口」はピカソ&マティス展を開こうと約束した同僚学芸員との別れと新たな出発を描いた話。 「あえてよかった」は、研修で1年間MoMAに在籍した日本人女性学芸員とアルバイト女性職員との交流を描いた話。 どれも小品というべきストーリィですが、本書の場合はこれでいい、と思います。 肝心なのは、ニューヨーク近代美術館の独特と言える存在感を描き出すことにあったのだろうと思いますから。 「美術館」と書かれるとつい昔ながらの美術館を想像してしまうのですが、The Museum of Moderm Art, New York つまり「MoMA(モマ)」と記載するとだいぶ印象は変わります。 美術品、MoMAへの興味をかき立てられる短篇集です。 中断された展覧会の記憶/ロックフェラー・ギャラリーの幽霊/私の好きなマシン/新しい出口/あえてよかった |
「ロマンシエ Romancier」 ★★ | |
2019年02月
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原田マハさんには珍しいというか、予想すらもしなかったラブコメディ作品。 なお、題名の「ロマンシエ」とは“小説家”のこと。 主人公は、子供の頃から乙女チックだった美術系男子の遠明寺美智之輔。幸運にも通っていた美大で卒業制作が学長に目に留まりパリの美術学校への留学チャンスを手中にしますが、留学先は憧れの国立学校ではなく単なる私塾。学生寮を出てアパート暮らしを始めたためカフェでのバイトを余儀なくされますが、そこで偶然にも出会ったのが、美智之輔も大ファンであるハードボイルド小説<暴れ鮫>の作者、羽生光晴(ミハル)。 訳有りらしい光晴の逃避行に美智之輔も巻き込まれる形ですが、そのことが美智之輔に新たな可能性を開くことに繋がる、というストーリィ。 パリを舞台にしたドタバタ風ラブコメディという点でふと「のだめカンタービレinヨーロッパ」を思い出してしまいますが、美智之輔がありのままの自分でいられる自由を手に入れ、そのアート才能を翼を広げるように伸ばし始める処は、すこぶる楽しくもありまた爽快です。 主人公の他、美智之輔憧れのイケメン同級生男子=高瀬君、ハルさんとそのダチである麦さん、咲ちゃん等々個性的な登場人物が繰り広げるやりとりや逃走劇も充分に面白いのですが、そこは原田さんらしく、“リトグラフ”という版画世界へと読み手を導くアート系小説となっている点が読み処。 たまには原田さんのコメディ小説を読むのも楽しき哉、と感じた次第です。 |
「暗幕のゲルニカ GUERNICA UNDERCOVER」 ★★☆ | |
2018年07月
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反戦のメッセージを伝えるピカソの大作<ゲルニカ>。 本書は、第一次大戦前後のパリと現代ニューヨークにまたがって展開される、<ゲルニカ>にまつわる物語。 2003年02月、国連本部で米国コリン・パウエル国務長官がイラク空爆について演説した時、安保理事会の入り口に掲げられていた<ゲルニカ>のタベストリーが覆われて隠されていたのだそうです。 本書はその事実に着想を得て執筆された大胆な絵画サスペンス。 1930年代のスペイン内乱で、フランコ軍が都市ゲルニカに対し無差別爆撃をしたことに怒ったピカソがパリ万博出展作として書き上げた大作が<ゲルニカ>。したがって、その絵が反戦へのメッセージを含んでいるのは当然のこと。 片や当時ピカソの愛人であった女性写真家ドラ・マールを主人公に、パリにおける<ゲルニカ>創作当時の状況とその後の運命を描くストーリィ。 それと並行して9.11後の現代NY、ニューヨーク近代美術館(MoMA)のキュレーターである八神瑤子が、自ら企画した“ピカソと戦争”展のため何とか<ゲルニカ>をスペインの美術館から借出そうと奮闘するストーリィ。 前者ではナチス・ドイツ、フランコ軍が引き起こした戦争が視線の先にあり、後者では9.11テロ後のアメリカの軍事行動を視線の先に置いているのは明らかです。 <ゲルニカ>創作当時とその後の経緯を描いた部分にも興味は尽きないのですが、本書においてはそうしたストーリィよりも、<ゲルニカ>が持っている巨大なメッセージ力に圧倒される思いでした。 そして、軍事行動を起こすのは簡単なこと、それより戦争を忌避し平和を守ろうとすることにおいてこそ人類の叡智が試されるのだということを、本書は読み手に強く訴えかけてきます。 混乱に満ちた今この時だからこそ、お薦めしたい一冊! ※「楽園のカンヴァス」の主人公=ティム・ブラウンも顔を出します。 序章.空爆/1.創造主/2.暗幕/3.涙/4.泣く女/5.何処へ/6.出航/7.来訪者/8.亡命/9.陥落/10.守護神/11.解放/最終章.再生 |
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