ジョルジュ・サンド作品のページ


George Sand  1804〜76 フランス・ロマン派の作家。本名はアマンディーヌ・オロール・リュシル・デュドバン。ポーランド王の血をひく軍人の娘として生まれ、少女時代の大半を中部フランスで過ごす。18歳でデュドバン男爵と結婚したが、後に離婚。恋人ジュール・サンドとの合作による小説2作を発表したのち、1832年からジョルジュ・サンドの筆名にて作家活動に入る。作曲家ショパンとの恋愛にても有名。


1.ジャンヌ

2.魔の沼

3.愛の妖精

4.フランス田園伝説集

 


 

1.

●「ジャンヌ−無垢の魂をもつ野の少女−」● ★★
 
原題:“Jeanne”         訳:持田明子
  −
ジョルジュ・サンド セレクション 第5巻−




1844年発表

2006年06月
藤原書店刊

(3600円+税)

 


2007/06/06

サンド初の新聞連載小説で、彼女の本格的な農民小説の第1作とのこと。
素朴で敬虔な美しい羊飼いの娘
ジャンヌと、乳のみ兄弟にあたる貴族ギョーム、放蕩者の弁護士マルシヤ、英国人貴族アーサー卿3人らとの関わりを中心ストーリィとした長篇小説です。

農民の素朴さ、敬虔さを讃美したサンドらしい作品ではあるのですが、あまりにジャンヌを美化し過ぎていて読みにくいところ、戸惑うところがあります。
当時として、器量の良い農民の娘が貴族や金持ちの誘惑にさらされることは多分にあったようです。ジャンヌもその点では同じ。ただし、誘惑の誘いをはねつける賢さをジャンヌがもっているところは賞賛されてよいのでしょうが、真摯な求愛まで一切拒否し耳も傾けないとなると、素直さに欠け頑迷という印象を受けてしまいます。
その辺り、神への信仰を大切に、神への誓いをひたむきに守ろうとする点でジャンヌは殆ど尼僧に変わらない。キリスト教社会からすれば称えるべき女性像ということになるのでしょうけれど、非キリスト教信者の我々からすると何でそこまで?と思わざる得ません。
何故ジャンヌがそこまで神との誓いにこだわるかというと、サンドはこのジャンヌを
ジャンヌ・ダルクの再現という視点から描こうとしたためらしい。
ただ、どんな目論見があろうと、ジャンヌが農民の娘にして美化され過ぎているのは事実。
愛の妖精ファデットと比べて余りに現実離れしていると言わざるを得ません。

ドストエフスキイバルザックという同時代の作家がこのジャンヌ像をかなり讃美したらしいのですが、それはキリスト教という共通地盤がある故でしょう。
とはいっても、本書がサンドとして力作であるのも間違いないところ。最終場面でのジャンヌの言葉にはかなり胸に迫ってくるものがあります。その辺りは流石。

   

2.

●「魔の沼 ほか」● ★★
 
原題:“La Mare au diable”         訳:持田明子
  −
ジョルジュ・サンド セレクション 第6巻−




1846年発表

2005年01月
藤原書店刊

(2200円+税)

 

2006/09/12

G・サンドのいわゆる“田園小説四部作”の最初を飾る作品(他の3作は「捨て子のフランソワ」「少女ファデット」「笛師の群れ」)。日本で最初に紹介されたサンドは本作品だそうです。

幼い3人の子供を抱えたやもめの農民ジェルマンは、舅から再婚を強く勧められます。舅が勧める相手は、隣村に住む後家。
さっそく舅に急かされ、ジェルマンは泊りがけで相手の家を訪ねることになります。そのジェルマンの道連れになったのは、貧しい家の娘
マリ。羊飼いの働き口が他の村でみつかり、途中までジェルマンに送ってもらうことになります。
思いがけずもう一人道連れになったのは、ジェルマンの長男
ピエール。父親が出かける途中で待ち伏せしていた次第。
途中で道を間違えたジェルマンは、魔の沼に近い森の中でマリと一晩を過ごすことになりますが、落ち着いて思慮分別のあるマリに驚くばかり。しかもピエールがすっかりマリに懐いている。
本作品は、ジェルマンが紆余曲折を経てマリを花嫁として手に入れるまでを描いた健全な小説です。
朴訥に生きる真っ正直な農民の姿を描くというG・サンドの姿勢には私も惹かれますが、いくらなんでも本ストーリィは綺麗過ぎて、美化し過ぎの観あり。
また、若い娘のマリが幾らなんでも出来過ぎ。なにしろ、3人の子供をもち男盛りの28歳であるジェルマンが意外と気弱に描かれているのと対照的に、16歳の小娘であるマリが成長したファデットを超える程の思慮分別を見せるのですから。
ただし、そうではあっても農民の善性を前提にしたこの作品は読んでいてとても気持ち良い。他の田園小説への期待を膨らませてくれます。本書を読めたのは、本当に嬉しいこと。

<付録・結婚式の風習>は、ジェルマンとマリの結婚式という設定にてベリー地方における結婚式の風習を描いたもの。3日間に亘って繰り広げられる<衣装渡し><キャベツの儀式>の両方共とても興味深いものですが、する方もされる方も本当に大変だ。

魔の沼+<付録:結婚式の風習> /マルシュ地方とベリー地方の片隅(ブサック城のタピスリー)/ベリー地方の風俗と風習

 

3.

●「愛の妖精」● ★★★
 
原題:“La Petite Fadette”




1849年発表

1936年09月
岩波文庫刊

第79刷
1998年06月

(500円+税)

 


2000/02/01

 


amazon.co.jp

フランスの農村を舞台にした小説。
私が初めて読んだのは中学2年の頃ですが、何度読んでもその名作としての手応えは少しも変わりません。世界中で読み続けられる名作の感触というのはこうしたものかと、改めて感じます。

本作品については、農村、農民を主要な舞台、主役にしていることが、特筆すべきことでしょう。フランスに限らず、本が富裕階級向けのものであった以上、小説の舞台も当然にして富裕階級であることが多かったのですから。
田園地方を舞台に幾つかの作品を書いたG・サンドは、その点で燦然と輝く存在であるように思います。彼女の作品の中でも、この「愛の妖精」が最高傑作であることは、言うまでもありません。
本作品を読んですぐ感じることは、その力強さです。農民の実生活を基にしているからこそ、という気がします。

主要人物は3人。裕福な農民バルボー家の双生児シルヴィネランドリー、そして近在で魔法使いのように思われているファデー婆さんの孫娘ファデットです。
双生児の弟であるランドリーとファデットの恋物語が中心なのですが、それに双生児である兄シルヴィネの心理的葛藤が絡んだストーリィとなっています。

“ファデー”とは悪戯好きな妖精のことで、女主人公ファデットの名前と響きが重なります。「愛の妖精」という邦題はその意味をもっています。
ファデットもまた、文学が生み出した、忘れ難いヒロインの一人でしょう。
不器量で人に嫌われ、“こおろぎ”と悪口を言われる存在であった小娘のファデットが、ランドリーと相思相愛の間柄になり、可憐な娘に変貌を遂げていく中心ストーリィは、いつも清新な感動をもたらしてくれます。

 

4.

●「フランス田園伝説集」●  
 
原題:Legendes Rustiques”

 

1858年発表

1988年07月
岩波文庫刊

 

2000/01/13

文庫表紙の紹介文によると、「狼使い・森の妖火・いたずら小鬼・巨石にまつわる怪・夜の洗濯女といった、サンドが居を構えたフランス中部ベリー地方の農村に伝わる口碑・伝説を集めた一書」とのことです。
まさにそのとおり、田舎で伝え広められていた純朴な伝承話というもので、各篇からは幻想的な印象を受けます。
現代感覚から思うと愚かしいような妄想とも言えるのですが、夜の闇、鬱蒼とした森というものに対する昔の人の感覚からすると、実際こうしたものだったのだろうなあと感じます。
サンドの代表作愛の妖精においても、やはり“鬼火”というものに対する恐れが語られていますので、「愛の妖精」の背後にある当時の実情として受け止めることができる一冊でもあります。

 


 

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