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12.朝のこどもの玩具箱 13.火群(ほむら)のごとく 14.シティ・マラソンズ 16.さいとう市立さいとう高校野球部−甲子園でエースしちゃいました− 17.透き通った風が吹いて 20.ハリネズミは月を見上げる |
【作家歴】、バッテリー、バッテリー2、バッテリー3、バッテリー4、バッテリー5、バッテリー6、えりなの青い空、福音の少年、ラスト・イニング、ランナー |
●「待ってる−橘屋草子−」● ★★ |
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あさのあつこさんには珍しい、時代物連作短篇集。
江戸は深川の料理茶屋「橘屋」を舞台に、薄幸の少女=おふくが厳格な仲居頭=お多代に鍛えられて成長していく姿を描いた長篇時代もの成長ストーリィ、と思い込んで読み始めたら、2章目で主人公が変わり、連作ものと判ってガクッ。 甲斐性なし、本性は怠け者という亭主のおかげで女房、子供は苦労するというパターンがやたらと多く、いくら女性作家だからといってワンパターンに決め付け過ぎでは?と思うところ。 待ってる/小さな背中/仄明り/残雪のころに/桜、時雨れる/雀色時の風/残り葉 |
●「朝のこどもの玩具箱」● ★ |
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2012年08月
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色とりどりの小品を詰め合わせた短篇集。
家族の話もあれば、少年の勇気が試される話、人生訓から妖怪ファンタジー的な恋物語、イジメ+ホラー、宇宙ものSFまでと、実に多彩。 6篇中で私が好きなのは、ふわーぁとした感じの若い継母=麻衣子さんと高校生の安奈との、自然に心触れ合っている様子を描いた「謹賀新年」。 「がんじっこ」は、頑固で嫌われ者の老婆の元へ出かけた、市役所の職員で地味な女性が、老婆から思わぬ人生訓を受け取る、という話。 謹賀新年/ぼくの神さま/がんじっこ/孫の恋愛/しっぽ/この大樹の傍らで |
●「火群(ほむら)のごとく」● ★★ |
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2013年07月
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柚香川と槙野という名川を有し、水利に恵まれた小舞藩六万石を舞台にした、少年剣士たちの時代版青春ストーリィ。 主人公は新里林弥。敬愛する15歳年上の兄=結之丞が背後から斬殺された姿で見つかるという事態から、試練を負います。 仲の良い3人に、江戸から呼び出された筆頭家老の庶子=透馬が加わります。大人の世界に入ってしまえば、身分差・家柄差は大きく対等に付き合いなど叶うべくもありませんが、そこはまだ元服前の少年たち。 小藩、権力争いは時代小説の定番でしょうけれど、本作品の本質はあくまで、大人への入り口を間近に控えた少年剣士たちの、女性への淡い想いも含めた、まぶしい青春物語。 |
●「シティ・マラソンズ City Marathons」● ★☆ | |
2013年03月
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3人の女性作家による、NY・東京・パリという3都市のシティマラソン・ストーリィ。 まずは、三浦しをんさんの「純白のライン」。 それと対照的にあさのあつこさんの「フィニッシュ・ゲートから」は、人生ドラマ含み。しかし、「純白のライン」で単純な楽しさを味わった後となると、ドラマを作り過ぎ、という印象です。 近藤史恵さんの「金色の風」は、冒頭にミステリ風味あり。こちらも人生ドラマ風ですが、若い女性が主人公であるだけに瑞々しさがあります。パリを舞台にしての再スタート・ストーリィ。 いずれにせよ、女性作家3人各々の持ち味を生かした、シティマラソン・ストーリィ。主人公たちと一緒になって走り出す気持ちで楽しめます。 |
15. | |
「さいとう市立さいとう高校野球部」 ★★ | |
2017年08月
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こんな野球部練習あり? 独自のやり方が飛び出す度思わず笑ってしまう、ユニークな高校野球部小説。 主人公はさいとう高校1年の山田勇作。中学時代はエースピッチャーとして活躍したが、ある理由から今は帰宅部。 お試し期間、○○サービス付き、さらに今なら○○恩典付。 これらのユニークさこそ、本ストーリィの真骨頂。 |
16. | |
「さいとう市立さいとう高校野球部−甲子園でエースしちゃいました−」 ★ | |
2018年08月 2014/08/30 |
実技よりトークを重視するユニークな監督=美術教師の“鈴ちゃん”率いる「さいとう市立さいとう高校野球部」の続編。 前回惜しくも甲子園出場を逃したものの、本巻では春の選抜大会で甲子園出場を果たし、いよいよさいとう高校野球部、甲子園デビューです。 そんな訳で少々、いやかなりかな、物足りず、です。 しかしまだ春、主人公たちにはまだ夏の大会が待っています。まだまだ続きがあるのでしょう。 次巻(きっと刊行されるのでしょう)に期待!です。 |
「透き通った風が吹いて」 ★☆ | |
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モラトリアムの時期を迎えた高校生の姿を描く小作品。 主人公の真中渓哉は高校3年生。硬式野球地方大会の2回戦で敗れて部活を引退、受験のための夏季補習授業を受けている最中。 しかし、未だに試合敗戦の苦みを引きずっていて、受験へ向かう姿勢にはなれていない。 さらに言えば、進学方向も、将来設計もまるで白紙。 実質高校生活が終わりに近づき、大学進学の前という、まさにモラトリアムの季節。 同じ高校生仲間として、幼馴染にして野球部でバッテリーを組んでいた津田実紀、実紀のまた従姉妹で陸上部を引退した深野栄美が配され、さらに一回り上の年代として、実家の葉茶屋を継ぐため故郷の美作に戻ってきた兄の淳也、偶然に知り合った都会から来た美しい女性=青江里香が登場。 彼ら一人一人の姿を渓哉の現状と照らし合わせることによって、モラトリアムにある渓哉の姿を浮かび上がる、という構成です。 渓哉の心の揺れを清新に描いた、まさにモラトリアム小説という一言に尽きる作品。 個人的な思いかもしれませんが、そんな渓哉の、ある一瞬の姿の向こう側に、ふとコレット「青い麦」の光景を見る思いがしました。 |
「I love letter」 ★☆ | |
2019年07月
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手紙、文通をモチーフにした連作ストーリィ。 元々書簡体小説とか、手紙を主体にしたストーリィは好きな方なので期待して読んだのですが、趣向としてはちょっぴりミステリ風という訳で、期待をはぐらかされた感あり。 人付き合いが苦手な故にヒキコモリとなった岳彦、17歳が本書の主人公。 部屋に閉じ籠った生活が半年続いたところで、未だ30歳と若い叔母=「むうちゃん」こと奈波睦美から近所の喫茶店に呼び出されます。ちょうどそろそろ外に出ようかと思っていたタイミング。 そのむうちゃんが岳彦を呼び出した理由はというと、起業した会員制の文通会社で、手紙の返事書きを手伝って、というもの。 そんなむうちゃん&岳彦が、会員からの手紙によって関わることになった謎あるいは事件を描いた連作ものストーリィ。 小川糸「ツバキ文具店」の如き“手紙”を突き詰めていくようなストーリィを期待した訳ではなかったのですが、それでも文通を発端としたミステリ趣向とはまるで予想していませんでした。 ちょっと残念、という思いです。 I love letter/さよなら、ママ/おさななじみ/こいぶみ/猫が鳴いている/Love letterの降る夜に |
「さいとう市立さいとう高校野球部−おれが先輩?−」 ★ |
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2020年10月
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“さいとう市立さいとう高校野球部”第3弾。 主人公でエースピッチャーの山田勇作は、幼馴染でバッテリーを組む山本一良と一緒に相変わらずおちゃらけばかり。 いくら温泉好きとはいえ、日本全国各地の名湯を並び立てる与太話で本書頁の大部分を消化してしまうというのは、幾ら何でもどうなのかなぁ。 つい先日、シリーズもの高校野球小説、須賀しのぶ「夏は終わらない−雲は湧き、光あふれて−」を読んだばかりなので、なおのこと比べてそう感じてしまいます。 そのうえで本書の目玉としては、新入生の新入部員の中に、中学野球部で県大会ベスト4の原動力となったバッテリー2人がいたこと。なお、監督の鈴ちゃんは2人のことを承知済。 キャッチャーは頭脳派の長瀞智樹、ピッチャーは面倒臭がり屋の妙高五志(いつし)という珍妙コンビ。 その2人に紅白戦でまんまとしてやられるかといえば、そうはならないところが頼もしいところ。 さてさて、本格的な野球ストーリィの展開は、次巻に期待して良いのでしょうか・・・。 1.すみません。やっぱり温泉から始まります。/2.塩江温泉での早足散歩は、チョウ刺激的だった。/3."憧れの先輩"は雲の彼方に。/4.ついに新入部員、登場か?/5.怒涛の紅白戦の始まり、始まり。/6.ということで、おれの期待と不安をのせて紅白戦、始まり、始まり。/7.ふふふ。いよいよ、試合のマウンドです。ふふふ。 |
「ハリネズミは月を見上げる」 ★★ | |
2023年05月
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通学電車の中で痴漢に遭い、訴えるどころか逆にその中年男に怒鳴られて委縮してしまった御蔵鈴美の窮地を救ってくれたのは、同じ高校で同学年の生徒=菊池(きくいけ)比呂。 不器用で話が下手なことから引っ込み思案になった鈴美と、一人でもしっかりしていなければと気持ちを張っている菊池。 対照的な性格の2人が出会ったところから、2人の前に新しい扉が開けていく。 前半は、菊池に比較して鈴美の弱々しい処ばかりが気になり、鈴美一人の成長ストーリィかと思いましたが、いやいやそうではない、後半に至り、菊池比呂もまた苦しい悩みを抱えていたのだと分かります。 鈴美は両親が離婚、菊池は優等生だった姉のヒキコモリと、程度の違いこそあれ家族のことで振り回されているのは同様。 そうした中で、自分自身を守り、大切にしていくためには、自分の思っていることはきちんと言葉に出して相手に伝えなければならない、ということを鈴美は学んでいきます。 そうした意味での、青春成長ストーリィ。 ふと気がつけば本作、2人の家族や、周辺人物の登場もありますが、殆ど2人だけでストーリィを引っ張っている感じです。 そうしたところで終盤、鈴美の幼馴染である基茅陽介が登場してくるのが、良いポイントになっています。 本テーマが、女子高生2人だけの問題ではなく、高校生世代に共通する問題と感じられるようになりますので。 さて、本ストーリィのどこでハリネズミが登場するのか。 それは、是非、最後の楽しみに取っておいてください。 1.蜘蛛糸のような雲/2.微かな風音と香り/3.小波立つ/4.森の王国/5.わたしのこと、あなたのこと/6.風の通り道/7.空に星を数える/8.思いがけない風景たち/9.雲間の空色/10.耳と目と口と心/11.わかったこと、わからないこと/12.明日、逢うために/13.ハリネズミの物語 |