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11.シティ・マラソンズ 12.木暮荘物語 13.ふむふむ 14.舟を編む 15.神去なあなあ夜話 16.政と源 17.あの家に暮らす四人の女 18.愛なき世界 19.エレジーは流れない 20.墨のゆらめき |
【作家歴】、格闘する者に○、まほろ駅前多田便利軒、風が強く吹いている、きみはポラリス、あやつられ文楽鑑賞、仏果を得ず、光、神去なあなあ日常、星間商事株式会社社史編纂室、天国旅行 |
ゆびさきに魔法 |
●「シティ・マラソンズ City Marathons」● ★☆ | |
2013年03月
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3人の女性作家による、NY・東京・パリという3都市のシティマラソン・ストーリィ。 まずは、三浦しをんさんの「純白のライン」。 それと対照的にあさのあつこさんの「フィニッシュ・ゲートから」は、人生ドラマ含み。しかし、「純白のライン」で単純な楽しさを味わった後となると、ドラマを作り過ぎ、という印象です。 近藤史恵さんの「金色の風」は、冒頭にミステリ風味あり。こちらも人生ドラマ風ですが、若い女性が主人公であるだけに瑞々しさがあります。パリを舞台にしての再スタート・ストーリィ。 いずれにせよ、女性作家3人各々の持ち味を生かした、シティマラソン・ストーリィ。主人公たちと一緒になって走り出す気持ちで楽しめます。 |
●「木暮荘物語」● ★☆ |
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2014年10月
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小田急線・世田谷代田駅から徒歩5分のところにある、古ぼけた木造2階建てアパート=木暮荘。 「シンブリーヘブン」:3年前にいなくなったきりの元恋人が、突然に主人公と現恋人の前に現れて・・・。 シンプリーヘブン/心身/柱の実り/黒い飲み物/穴/ピース/嘘の味 |
●「ふむふむ−おしえて、お仕事!−」● ★☆ | |
2015年05月
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特殊技能を活かして仕事をしている女性にお話をうかがいたい、そんなコンセプトで展開された、様々な仕事をもつ女性16人へのインタビュー集。 興味はその仕事、そして、その仕事に携わる女性たち。 本企画、雑誌「yomyom」の創刊号から始まった連載だそうです。 つい阿川佐和子さんの「この人に会いたい」と比較してしまうのですが、仕事がテーマである所為か、また三浦しをんさん自身の好奇心の所為か、時折質問に硬いところもあり、一方前のめりし過ぎ、おいおいツッコミ過ぎ、と感じる場面もあります。その辺りがユーモラス。 最初の「靴職人」の話に引き込まれましたが、興味深かったのは「活版技師」「漫画アシスアント」「フラワーデザイナー」「大学研究員」「現場監督」。 また、「コーディネーター」はユニーク。 「ウェイトリフティング選手」はお仕事とちょっと違いますが、まぁそれもありか、と。 靴職人(中村民)/ビール職人(真野由利香)/染織家(清水繭子)/活版技師(大石薫)/女流義太夫三味線(鶴澤寛也)/漫画アシスタント(萩原優子)/フラワーデザイナー(田中真紀代)/コーディネーター(オカマイ)/動物園飼育係(高橋誠子)/大学研究員(中谷友紀)/フィギュア企画開発(澤山みを)/現場監督(亀田真加)/ウエイトリフティング選手(松本萌波)/お土産屋(小松安友子・コーカン智子)/編集者(国田昌子) |
●「舟を編む」● ★★☆ 本屋大賞 | |
2015年03月
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仕事を超え、人生をかけてて辞書作りに尽きない情熱を傾ける辞書編集者たちの姿を描いた長篇小説。 まず、本の装丁が実に良い! 手触りの良い紺地に銀の文字、そして最近ではあまり見かけることのなくなった、深い背丸。質実一辺倒という風采ですけど、かえって愛情が湧く、という装丁です。 しをんさん、「あやつられ文楽鑑賞」や「ふむふむ」とか、このところ職人仕事に注目したルポ的な本を書いていますが、それらが本書で見事に結実した、と言えるような味わい深い一冊です。 本の編集者というより、職人というに相応しい。自身の損得は考えず、言葉を時代に受け継いでいくことのできる名辞書を世に送り出すことに情熱を捧げる、良いじゃないですか。 また、言葉へのこだわり、文章へのこだわりも、好きだなぁ。 主人公は一応、馬締(まじめ)光也という若き編集者。ただし、営業部に所属していた時は、変人、“キモイ”とまで言われた社員。それが辞書編集部に転じるや、辞書づくりのセンスと適性は桁はずれ、「こいつはものがちがう」とまで言わせてしまうのですから、面白いものです。 もっとも、主人公は馬締一人ではなく、ベテラン辞書編集者の荒木、辞書に生涯を捧げる研究者=松本先生、チャラチャラ社員の西岡、中年女性の契約社員=佐々木、後から辞書編集部に異動してきた岸辺みどり、そして製紙会社や大勢の学生バイト、さらに彼らを個人的に支える家族等々、本作品にあっては彼ら皆が主人公と言って良いのではないかと思います。 辞書作りという大変な仕事の仔細を知る喜び、お仕事小説としての面白さ、そしてちょっぴり恋愛物語部分あり、という嬉しい一冊です。 私も国語辞典はよく引きます。その点では愛読書といっていいのかもしれません。 言葉を大切にしたいと思う方に、是非お薦め! |
※映画化 → 「舟を編む」
15. | |
●「神去(かむさり)なあなあ夜話」● ★☆ |
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2016年06月
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林業を題材にした「神去なあなあ日常」の続編。 ・「神去村の起源」は、繁ばあちゃんが語る“神去”という名前の由来となる伝承話。 「神去なあなあ日常」ファンには楽しい一冊ですが、「日常」を読んでいないと各篇の前提にあるニュアンスは判り難いと思います。その意味で、「日常」未読の方は是非合わせて読まれることをお薦めします。 1.神去村の起源/2神去村の恋愛事情/3.神去村のおやかたさん/4.神去村の事故、遭難/5.神去村の失せもの探し/6.神去村のクリスマス/最終夜.神去村はいつもなあなあ |
16. | |
「政と源 MASA AND GEN」 ★★ |
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2017年06月
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荒川と隅田川に挟まれた三角州の様な土地=墨田区Y町。この町で育ち、今も近くに暮す政と源、対照的な個性をもった老人2人の友情&下町物語。 同じ73歳の幼馴染といっても有田国政は大学を出て銀行員として勤め上げ、定年退職の身。一方の堀源二郎は小学校もろくに卒業しないままつまみ簪職人に弟子入りし、今もつまみ簪職人と、対照的。 家族がいなくなっても、傍らに何の遠慮もいらない幼馴染でもいれば幸せと言える。本作品からはそんなエールを感じます。 1.政と源/2.幼なじみ無線/3.象を見た日/4.花も嵐も/5.平成無責任男/6.Y町の永遠 |
「あの家に暮らす四人の女」 ★★ |
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谷崎潤一郎「細雪」の現代版、といった長編ストーリィ。 杉並区は善福寺川近く、敷地 150坪の土地に立つ古い洋館。 現在、その牧田家に住むのは四人の女性。 ・鶴代は牧田家の家付き娘で、離婚後はずっと独り身 ・佐知は鶴代の娘。刺繍作家で、37歳、独身 ・雪乃は佐知の友人で保険会社勤務、同じく37歳、独身 ・多恵美は雪乃の会社で後輩、恋を楽しむ26歳、独身 という次第。 「細雪」の四姉妹とはいささか異なりますが、女性が4人集まれば、一人なら静かという人物がいてもいなくても、それはそれで賑やかなもの。 結婚するのが当たり前という時代の蒔岡家4姉妹(細雪)と異なり、離婚、独身、ストーカー被害もありという牧田家同居の4人の姿は如何にも現代的社会の反映、と感じます。 それにしても、ミイラ、化け物カラス、死に霊まで飛び出してくるという展開は、もはや何でもあり?と言うべきか。 現代日本に生きる女性たちにとっては、その位どうってことないじゃないか!と開き直れるくらいの気構えがあった方が良い、ということなのかもしれません。 単純に本ストーリィだけを読んでもそれなりに楽しいのですが、「細雪」を思い浮かべながら比較して読むのもまた面白き哉。 |
「愛なき世界」 ★★ | |
2021年11月
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恋愛小説なのに「愛なき世界」とはこれ如何に? 主人公の一方は、T大学(東大)赤門の向かいにある洋食屋“円服亭(えんぷくてい)”の住み込み店員である藤丸陽太。 調理師専門学校を卒業した後、今は念願叶って老店主の円谷正一の元で修業中。 もう一方の主人公は、本村紗英(もとむらさえ)。植物研究の松田賢三郎教授の研究室に所属する大学院生。 その2人の出会いは、料理の出前を始めた円服亭に、松田教授が、週一回研究室生のために昼食の出前を依頼したことから。 足繁く松田研究室に通うようになった藤丸に、機会があるごと本村は研究模様を案内し、藤丸は素直に驚きの気持ちを表します。 そんな2人、誰から見ても気が合うように見えるのですが、恋愛ごととなるとまた別物。 本村、思考も感情もない、それでも旺盛に繁殖し、環境に適応して生きている、そんな植物が大好き。その研究に情熱のすべてを捧げたいと。つまり“愛なき世界”に、という次第。 料理の高みを目指しつつ、でも本村に惹かれる気持ちも大事にする藤丸と、不器用だから両方を追えない、だから植物を選ぶという本村。 そう書くと2人は対照的のように思えますが、ちょっとしたスレ違いだけのようにも感じられます。 約 450頁と大部なストーリィの中、植物研究の様子が地味に、かつ丹念に描かれます。 そうした地味な研究に営む人たちの姿を描き出すのに、藤丸という好青年、恋愛要素を組み合わせた、という風です。 思えば、辞書作り(「舟を編む」)も地味でしたよね。 植物研究に日々熱心に取り組んでいる松田研究室の個性的なメンバーたちも魅力的ですし、藤丸や円谷等々の側も魅力的。 無理に感情の行方に決着を付けようとせず、自然のままに任せている藤丸に好感大。 2人の恋愛の行方など、大したことではないように思う次第。 |
「エレジーは流れない」 ★★ | |
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海と山に囲まれた古くからの温泉町、餅湯温泉。 新幹線「こだま」が停車し、かつては団体客で賑わったこの温泉町も、今は見る影もない。 本作は、その餅湯町で暮らす高校生たちの日常を描いた青春群像劇。 題名の「エレジー」とは、哀歌、悲歌のこと。 寂れた温泉町、想像するその夜の雰囲気には何ともイメージ的に似合う言葉ですが、高校生たちにとって、今は現在進行中。決して過去の残影ではありません。 「エレジーは流れない」という題名は、高校生たちの、自分たちの現在を決して手放したりしない、という明確な意志を表しているように感じます。 主人公の怜は土産物屋の息子。幼馴染の竜人は同じ商店街の干物屋、ジミーは喫茶店の息子。 さらに、やはり仲間の藤島は旅館の跡取りで、心平はサラリーマンの息子ながらちょっと変わったところのある少年。 そんな5人の、些かダラダラした日常。何か将来の夢があるかと言えば、そうしたものは特にない。その一方、藤島をはじめとして、家の商売を継がないといけないのだろうなぁという思いを抱えている。 高校時代=青春、と小説の中では描かれつつも、実際はそうそうそんなものだったよなぁ・・・。私はと言えば、彼女などいる訳もなく、ただ時間を過ごしていて、特に将来の夢など描いたりしてはいなかった、と思います。 その意味で、彼ら5人には親近感がたっぷり。 なお、小説らしい出来事は2つ。 主人公の怜、何故か母親が2人いる。それは何故? そしてもう一つ、町立博物館から縄文式土器が盗み出されているらしい、という事件。 それらを通じて、お互いに助け合って生きているこの温泉町の人間関係が浮かび上がってきて、それはそれで良いじゃないかと、何やら楽しくなってくる気分です。 肩の力を抜いて楽しめる、ごく普通の高校生、青春群像劇。 |
「墨のゆらめき」 ★★☆ | |
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「舟を編む」以来の快作、と言って良いでしょう。 本作の頁を広げて読み進めば、そこには墨で書いた「書」の豊かな世界が広がっているのですから。 西新宿にある、小ぶりだけれど根強いファンを持つ老舗の「三日月ホテル」。 そのホテルマンである続力(つづき・ちから)が、顧客から指名のあった筆耕師の遠田薫を自宅に訪ねていくところから本ストーリィは始まります。 長く筆耕士を務めていた遠田康春氏が昨年死去し、息子である薫が書道教室と筆耕士の仕事を継承した、ということらしい。 遠田薫のワイルドなイケメンぶりと、書道教室の生徒である小学生たちの賑やかさ、遠田の乱暴な指導の仕方に驚いたものの、遠田の言葉を受けて書いた子供たちの、生き生きとした字に続は圧倒されます。 その後、続はあろうことか遠田の代筆仕事に巻き込まれ、文案を考えることに・・・。 遠田薫と続力のやりとり、2人の組み合わせがとても良い。 紆余曲折を経て遠田の元に足繁く通うようになった続は、遠田の書いた「書」を通じて「書」の世界の豊かさを知るようになります。 しかし、遠田は突然、続との繋がりを断とうとするかのようにして・・・。 メールやSNSでのやり取りが一般化するに伴いう文章力の低下は、広く認識されていることですが、字を書かなくなることによって、字に込められた個性、思いが失われた、という指摘もまたごもっとも(私としても耳の痛い処です)。 字、手紙のやりとりは、それ即ち想いのやりとり、なのかもしれません。 終盤、遠田薫が抱えていた秘密が明らかになりますが、その部分は必要だったのだろうか、と感じます。 それによって薫が繰り広げる「書」の世界に変わりがあろうか、と思いますから。 なお、代筆業において、続が考え出す文案が面白い。続もまた、薫に劣らず、面白いやっちゃ、です。 |
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