あさのあつこ
作品のページ No.1


1954年岡山県生、青山学院大学文学部卒。小学校教師を経て91年作家デビュー。「バッテリー」(教育画劇)にて野間児童文芸賞、「バッテリー2」にて日本児童文学者協会賞、「バッテリー」シリーズにて小学館児童出版文化賞を受賞。


1.
バッテリー

2.バッテリー2

3.バッテリー3

4.バッテリー4

5.バッテリー5

6.バッテリー6

7.えりなの青い空

8.福音の少年

9.ラスト・イニング

10.ランナー


待ってる、朝のこどもの玩具箱、火群(ほむら)のごとく、シティ・マラソンズ、さいとう市立さいとう高校野球部、さいとう市立さいとう高校野球部−甲子園でエースしちゃいました−、透き通った風が吹いて、I love letter、さいとう市立さいとう高校野球部−おれが先輩?−

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1.

●「バッテリー」● ★★☆       野間児童文芸賞


バッテリー画像

1995年12月
教育画劇刊

2003年12月
角川文庫

(514円+税)

 

2004/09/09

 

amazon.co.jp

鋭く差し込んでくるような雰囲気を感じる作品。
児童小説ということですが、とてもそうは思えない。大人であってもがっぷりと四つに組んで読んでしまう、それだけの読み応えがあります。
何よりの魅力は、原田巧という主人公。小学校を卒業したばかりの少年だというのに、孤高であり、極めてストイック。快哉を叫びたくなるような類稀な主人公像です。

少年野球の県大会で準決勝までいった天才肌のピッチャー・原田巧が、両親、病弱な弟の青波とともに岡山県山間の新田市に引っ越してくるところからストーリィは始まります。
巧が引っ越してくるのを待ち構えていたのが、同学年の永倉豪。巧のピッチングに魅せられ、巧とバッテリーを組むことを熱望しています。
つい灰谷健次郎「天の瞳の倫太郎と比べてしまうのですが、同じように大人のいいなりにならない子供といっても、その行動姿勢はかなり異なります。倫太郎が仲間や理解ある大人を周りに増やしていくのに対し、巧は他人に惑わされず自分の力だけを信じようとする。その孤高さに強く惹きつけられます。
自信家過ぎて鼻につくところもありますが、母親・真紀子の巧への接し方をみているとそうなる他ないよなと、巧に共感も覚えるのです。
巧と豪らの交流が彼らの可能性を広げていくものであるのに対して、2人の母親は思い込みが強くて辟易してしまう。
本ストーリィは、中学校にあがる前の春休みという僅かな間のこと。巧や豪たちの築いていく物語のプロローグに過ぎない、と言って良いでしょう。これからの展開が楽しみです。

※映画化 → 「バッテリー

 

2.

●「バッテリー2」● ★★☆       日本児童文学者協会賞


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1998年04月
教育画劇刊

2004年06月
角川文庫

(552円+税)

 

2004/09/10

バッテリーの続編。
巧、豪、東谷、沢口の4人が中学校に進学し、ストーリィはますますスリリング。

巧らは予定どおり野球部に入学したものの、独裁的な顧問教師の戸村、従順な表情の裏で陰湿さをうかがわせる上級生たちに、巧は反発を覚えます。
納得できないものに対しては断固として自分を主張するという巧の姿勢が、波乱を起こさない訳がありません。その辺りが本書のスリリングなところ。
しかし、教育指導という表看板の下、権力を傘にして高圧的に押え込もうとする教師もいれば、力に屈せず自分の意見を堂々と主張する巧の姿勢に感化されて頑張ろうとする教師もいる。そこには教師、生徒という区別はありません。
豪たちだけでなく、小町先生、同級生の矢島繭もそうした仲間。

本書ストーリィの中心は野球ですが、決して野球小説ではなく、登場人物各々の成長を描く小説というべきでしょう。
そしてまた本書では、豪がいなくてはどうにもならないと巧が本音をもらす場面もあります。巧もまた変化をみせるところが嬉しい。
本書に続く更なるストーリィを、是非とも読んでみたい。

※なお、前作の感想で巧のことを類稀な主人公といいましたが、ひとり同型の主人公像を思い出しました。その名は、ジャン・クリストフ

  

3.

●「バッテリー3」● ★★


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2000年04月
教育画劇刊

(1500円+税)

2004年12月
角川文庫化

 
2004/09/11

バッテリー2で発覚した新田東中学野球部の不祥事により、部活動が停止されている最中のから本書のストーリィは始まります。

前作で独裁的だった野球部顧問の戸村、通称オトムライに変化が生まれ、教師と生徒たちの間で本音でぶつかりあう雰囲気が多少出てきたところが、小気味良い。
それは、巧や豪たち1年生のみならず、今まで模範生の振りをしてきた3年生部員も同じこと。
完全なる悪役かと思いきや、今の学校教育制度の中で翻弄される生徒にも同情すべきところが多々あると、ちょっと共感を抱きます。
このシリーズの素晴らしさは、登場人物ひとりひとりが生き生きとして皆魅力的なところにもあります。
中心となる野球部一年生部員は勿論ですが、脇役でありマドンナ的存在でもある小町先生の人物造形も絶妙。

前の2巻同様、読み始めたら頁を繰る手が止まらず、あっという間に読み終えました。

  

4.

●「バッテリー4」● ★☆


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2001年09月
教育画劇刊

(1500円+税)

2005年12月
角川文庫化

 
2004/09/11

あれれっ、という場面から始まるのがこの第4巻。
新田市に引っ越して以来、の周囲にはいつも東谷、沢口らの仲間たちがいましたが、それがみられない。
それは、巧と豪のバッテリーが初めて挫折を覚え、ピッチングどころではなくなった事情であることが、すぐ語られます。
その分本書は、これまでの3巻に比べるとちょっと深刻で、翳りのある巻となっています。

翳りの原因となっているのが、予想もしなかったことに女房役の豪。巧と豪が思い悩んでいる姿を補うかのように、「バッテリー2」の末尾で仲間に加わった吉貞と、例によって小町先生が賑やかです。
それに加え、新たに全国大会ベスト4の横手ニ中・野球部の中心メンバーである門脇瑞垣が登場、ストーリィの緊張感を保っています。

本書は、ひとつの挫折を語ると共に、第3巻から第5巻へ繋ぐための巻という印象を受けます。
もっとも、巧といい、豪といい、門脇と瑞垣といい、とても中学一年生、三年生とは思えないのですが(苦笑)。

  

5.

●「バッテリー5」● ★★


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2003年01月
教育画劇刊

(1500円+税)

2006年06月
角川文庫化

  

2004/09/12

のバッテリーは復活したものの、すっきりとはしない。
本書は2人の新たなステップとなる心理的葛藤を描いた巻。

バッテリーとして戻ってきた豪に対し、巧は容赦ない。何を考えて俺の球を受けるのかと、豪に対し問い詰めていく。巧と豪、そしてその相似形として横手ニ中の門脇秀吾瑞垣俊二、切磋琢磨してお互いを成長させていくという奇麗事を排除し、格闘し合うような関係を本書は描いていきます。
実際に喧嘩し合うようなことであれば、ストーリィは割と単純。しかし、本書は主人公たちの心理的葛藤を描いていますので、その分理屈っぽい巻になっています。
ネアカの小町先生が登場しないため、一服の清涼剤も本巻にはなし。
もはや、巧たちと戸村監督との対立構図はありません。巧たちが自立したという意味で、その分巧や海音寺らの新田東中チームと門脇・瑞垣らの横手ニ中チームという対立の構図がはっきり出てきます。
そうしたチーム同士の対抗意識が強められるのと並行するかのように、野球以外の一切を関係ないものとして拒否してきた巧の内面にも変化が芽生えています。豪たちの影響によるものか。
その中で、相変わらず青波という存在がユニーク。

野球を舞台に少年たちの成長を描くストーリィ、まだまだこれからの展開が楽しめそうです。

    

6.

●「バッテリー6」● ★★


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2005年01月
教育画劇刊

(1600円+税)

2007年04月
角川文庫化

  

2005/01/16

「バッテリー」の最終巻。
横手二中チームと新田東中チーム、自分たちの手で作り上げた試合に向かい、収まるべきところへ収斂していくストーリィ展開です。
その分、これまでのような少年たちの個性と個性がぶつかり合うような場面はなく、あっさり味。
ストーリィを引っ張るのは、ではなく、この試合を作り上げて卒業していく瑞垣(横手)、海音寺(新田東)らと言って良いでしょう。
中学最後の試合を飾るべく、在校生を一部加えてグラウンドに広がる選手たちの背中には、好きだからこそ野球をやっているという気持ちが現れているようです。
教師の命令や指示でやるのではなく、自分たちの意思でやるところが尊い。
この最終巻で描かれるのは、少年たちの自主性への讃歌と共に、中学を卒業して新たなステップに向かう彼らへのエールのように感じられます。
これまで以上に少年たち一人一人の姿が生き生きと描かれているのは、その所為かもしれません。
シリーズの最後を飾るにふさわしい、爽やかなエンディング。ただ、どうしても中学生のこととは思えないんですよねェ。

  

7.

●「えりなの青い空」● 絵:こみねゆら  ★★☆


えりなの青い空画像

2004年10月
毎日新聞社刊

(1238円+税)

2008年07月
文春文庫化

2004/11/07

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小学5年生のえりなは、昼休み校庭の中庭に寝転がって空を見ているのが大好きな女の子。
同級生や母親はそれに目を顰めますが、本人はいたってマイペースであまり気にしていない、青い空を眺めている気持ち良さに比べれば。

読んでいるだけでも気持ち好いです。
私も青い空や、流れゆく白い雲を見ているのはいたって好き。さすがに学校の昼休みに一人でそんなことをする程風変わりではありませんでしたが、一人旅の休憩時よく寝転がって空を見上げたものです。
ふつーに過ぎると母親がため息する程のんびりやさんのえりなと対照的なのが、学級委員で何でもてきぱきできる鈴原さん
えりなと友達になった観のある鈴原さんは、皆が驚く行動に出ます。それは何なのか。
ストーリィ云々より、自分の気持ちに素直にしたがっているえりなという女の子がとても魅力的、爽やかです。また、こみねゆらさんの絵もなかなか好い。
すっきり晴れた青空を見るような、そんな気持ち好さが感じられる作品。児童書ですけれど、お薦め。

  

8.

●「福音の少年」● 


福音の少年画像

2005年07月
角川書店刊

(1400円+税)

2007年06月
角川文庫化

  

2005/09/13

帯には「本当に書きたかった作品」、「十代という若さにこそ存在する心の闇を昇華した、著者渾身の問題作!」とありますが、まるで理解できず。

登場するのは2人の高校生、永見明帆柏木陽。そして、2人に絡む同級生の女の子として北畠藍子
明帆は藍子とつきあっていたが、実は藍子に対して冷めた感情しかもっていない。陽は藍子とアパートの隣同士で幼馴染。
事件は、陽が押しかけるようにして明帆の家に泊まった夜に起きます。それは、陽と藍子の家族が住むアパートが全焼し、藍子の家族や陽の両親を含め9人が焼死するというもの。
アパート全焼の背景にどんな秘密が隠されているのか、というのが主ストーリィ。

本書で肝心なのは、明帆、陽の2人とも、自分の親を含めて他人と相容れない心の闇を抱えているというところにあるようなのですが、その明帆と陽の“心の闇”という正体がまるでつかめず。
また、闇を抱えていたのは2人だけでなく、藍子も同様であったことが終盤明らかにされますが、藍子の抱えていた闇については一考もされず、といった風。
そのうえ、事件の決着がつかないばかりか、極めてはっきりしないままの幕切れ。
あさのさんの意欲作なのかもしれませんが、思い入れが強い余りに、かえって空回りしてしまったのではないかと感じます。
率直に言って、何のためのストーリィで、何を描こうとしたのか、全くつかめず。

   

9.

●「ラスト・イニング」● ★★


ラスト・イニング画像

2007年02月
角川書店刊

(1200円+税)

2009年02月
角川文庫化

  

2007/05/01

 

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「マウンドへと」バッテリー6の最後、新田東対横手二中の試合の始まりを描いた篇。したがって内容は重複しています。

本書の読みどころは「白球の彼方」の方。「バッテリー」の事後談、高校へ進んだ瑞垣俊二、門脇秀吾らの様子が描かれます。
あの試合の後、秀吾は決まっていた推薦入学を突然断って地元高校へ進学してしまい、一方の瑞垣は何と野球部のない名門進学校に進学してしまうのですから、関係者にとっては一大事!
チームメイトだった唐木だけでなく新田東の海音寺まで秀吾のことを心配し、瑞垣に様子を聞いてくるといった具合。
何でもかんでも俺にばかり頼ってくるな、というのが瑞垣の抱えている憤懣の原因のよう。そこから瑞垣の抑え切れない胸の内が回想を交えつつ4章に分けて諄々と描かれていきます。

生意気な原田の向こうを張るぐらいの曲者だった瑞垣。その瑞垣を主人公としているところが本書の特徴。
瑞垣という特異なキャラクターを「バッテリー」の中で描ききることはとても無理なことだったでしょう。その瑞垣を改めて描くために、本書が必要だったのです。ですから本書は、単なる事後談ではありません。
瑞垣という人物の複雑な胸の内も読み応えありますが、横手ニ中の唐木、門脇秀吾、新田東の海音寺と、野球というスポーツを介して彼らの間に繋がりが広がっている様子が快い。
また、いつの間にか海音寺と瑞垣の妹・香夏が親しくなっているというのも、学園青春ものらしく愉快です。
原田&永倉のバッテリーとの勝負があの試合で終わった訳ではない。終わりのないストーリィ、それは何と魅力に満ちていることか!
「バッテリー」ファンにとっては読み逃せない番外編です。

マウンドへと/白球の彼方

   

10.

●「ランナー」● ★☆


ランナー画像

2007年06月
幻冬舎刊

(1400円+税)

2010年04月
幻冬舎文庫化

   

2007/07/16

 

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バッテリーと同様のシリーズものになるらしい作品の、第一作。
「バッテリー」が中学生を主人公とする野球ものだったのに対して、本書は高校生を主人公にした陸上もの。
このところ本当に陸上もののスポーツ小説が続きますね、何でだろう?(一瞬の風になれ」「風が強く吹いている等々)。陸上競技で最近日本人選手の活躍が目立つようになったこと、数字がはっきり出るスポーツであること、速さは皆が憧れるものであるからでしょうか。

そうしたストーリィ設定の他に、本書には「バッテリー」と決定的な違いがあります。
「バッテリー」が自分自身の力を信じて進むべき道を切り開いていこうとするストーリィだったのに対し、本書では壁にぶつかってもがいているところから始まっているストーリィであるからです。
主人公は高校2年の加納碧李(あおい)。両親が離婚し、現在は母親の千賀子と、未だ5歳の妹=杏樹との3人暮らし。
妹の杏樹を守るためという理由付けで陸上部を退部したものの、退部した本当の理由が競技会で無残な結果に終わり恐さを感じてしまったことにあるのは、碧李だけが知っていること。
その碧李の元へ、陸上部マネージャーである3年生の前藤杏子から練習参加を誘う電話がかかってくるところから本ストーリィは始まります。
壁にぶつかっているのは決して碧李だけではありません。母親の千賀子も妹の杏樹も、マネージャーの杏子にしても壁にぶつかっている。それを乗り越えていく物語は、「バッテリー」以上に困難なものかもしれません。

本作品が「バッテリー」に比肩する魅力ある物語になるかどうかは、この第一作だけでは不透明。しかし、充分そうなりうる作品と期待して次作も読んでいこうと思います。

  

あさのあつこ作品のページ No.2

  


   

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