小川 糸作品のページ No.1


1973年生。作詞家・春風として音楽制作チームFairlifeに参加。著書に絵本「ちょうちょ」あり。2011年「食堂かたつむり」にてイアリアのバンカレッラ賞を受賞。


1.
食堂かたつむり

2.蝶々喃々

3.ファミリーツリー

4.つるかめ助産院

5.あつあつを召し上がれ

6.私の夢は

7.さようなら、私

8.にじいろガーデン

9.サーカスの夜に


ツバキ文具店、キラキラ共和国

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1.

●「食堂かたつむり」● ★★☆


食堂かたつむり画像

2008年01月
ポプラ社刊
(1300円+税)

2010年01月
ポプラ文庫化



2008/04/20



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倫子がバイト先から戻ると、アパートの部屋は何と空っぽ。一切合財、貯めたお金までも、同棲していたインド人の恋人共に消え失せていた。そのショックで声も出せなくなった。
無一文になり呆然としたまま倫子が戻ったのは、15歳の時飛び出してから10年間一度も戻った事のなかった、山間にある実家、おかんの元。
倫子に残されたものは、祖母から受け継いだ大切な糠床と、祖母から教わった料理、そして数々の料理店でのバイト経験のみ。それらを活かしたいと、物置小屋を改修して倫子は食堂を始めることにします。そして付けた名前が“食堂かたつむり”

客は一日一組だけという、ちょっと変わった食堂。材料は近くの山や畑で採れた食材をふんだんに用いる。
そんなメルヘンチックな食堂から、ファンタジーのような物語がつむぎ出されます。
「食堂かたつむりの料理を食べると恋や願い事が叶う」というまことしやかな噂が広まり、幾つもの心温まるストーリィが繰り広げられる。
一組一組の客をもてなすために心と食材を込めた芳醇な料理が作り出されていく過程、そしてその結果もたらされる幸せなストーリィ、この2つのハーモニーがとても素敵です。

しかし、それはあくまで本作品の前段に過ぎません。前半を土台に、主人公と母親であるおかんの、母娘のストーリィが語り始められます。
冒頭ハチャメチャな印象のあったおかんとまるで異なる、倫子のまるで知らなかった母親の姿が次々と明らかになっていく。
何とそのさじ加減、味わいの見事なことか。
“終り”は決して終幕ではなく新たな“始まり”でもある。本書の最後はそんなメッセージを伝えているようです。

なお、本書に登場するのは皆気持ちの良い人物ばかり。
倫子から始まり、倫子の良き援助者である熊さん、お妾さん、高校生の桃ちゃんお見合いカップル、そして豚のエルメス拒食症のウサギまで。そしてその極め付けが倫子の実母であるおかんであることは、言うまでもありません。
本書は、料理、ファンタジー、心温まるストーリィが大好きな方に是非お薦めしたい、魅力溢れる素敵な作品です。

  

2.

●「喋々喃々(ちょうちょうなんなん)」● ★☆


蝶々喃々画像

2009年02月
ポプラ社刊

(1500円+税)

2011年03月
ポプラ文庫化



2009/03/01



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東京・谷中でアンティークな着物を扱う“ひめまつ屋”を一人で営む若い女性=横山栞を主人公に、彼女の恋と離れて暮す家族との関わりを、季節の移り変わりを背景としつつ1年に亘って描いた長篇小説。
東京の下町だからこそ近く感じられる、季節の風物、行事、そして美味しい食べ物と共にストーリィが語られていくところが、本作品の魅力です。
着物、季節の風物、食べ物とあって、幸田文さんの日常風景が柔らかい小説になったような気分がして、懐かしい気分に誘われました。

一人暮しだからこそ、彼女と家族の関係も色濃く浮かび上がります。田舎で暮す父親と義母、そして都営住宅に暮す実母と妹、未だ幼い末の妹という3人。
それと並行して、栞が未だに忘れられないでいる過去の恋、そして新たに思慕するようになった男性客とのことが描かれていきます。
本の帯にある「おいしいものを、一緒に食べたいひとがいます」というキャッチフレーズ、本書を読んでいると同感してしまいますねー。食堂かたつむりに連なる、食べ物がなおのこと美味しそうに感じられる風情あり。
着物に関わる部分も日本的な情趣が感じられて楽しいのですが、食べ物を楽しむシーンはことに魅力に富んでいます。

ただ、栞が恋する相手の男性、幾らなんでも不自然に過ぎる。
谷中に住む栞の側から見れば本物語に似つかわしい登場ぶりなのですが、男性側に立って見れば不自然極まりなく、人格も感じられず、好感は持てない。
それと対照的なのが、栞を孫のように可愛がっているイッセイさんという老人。小気味良くて本物語には欠かしたくないキャラクターです。

本作品を「食堂かたつむり」に劣らず楽しめるかどうかは、相手男性の不自然さを容認できるかどうかでしょう。
単なる舞台設定の一部と思って看過しようと思いましたが、私の場合はついに最後まで気にかかりました。
なお、題名の「喋々喃々」とは、男女が打ち解けて小声で楽しげに語り合う様子、とのこと。

   

3.

●「ファミリーツリー」● 


ファミリーツリー画像

2009年11月
ポプラ社刊

(1500円+税)



2009/11/27



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長野県の穂高を舞台に幼い頃から始まる、少年と少女の純粋なラブ・ストーリィ。
曽祖母の経営する旅館の離れに主人公リュウ(流星)の一家は居候中。毎年夏になると、リュウと生まれた日が3週間違いといういとこおば(お互いの祖父と母がいとこ同士)のリリー(凛々)が泊まりにやってくる、というのが物語の始まり。

幼馴染の間の淡い恋というストーリィはそう珍しいものではありませんが、子供たちが拾いあげて飼うことになった子犬()の存在が、本書では細やかな優しさを醸し出しています。しかし、そこは幼い頃の情景で前半部分。
後半、2人が成長していくと・・・・またもやこういう展開になるのか。小川さんには申し訳ないのですが、ほとほとうんざりというのが正直な気持ちです。
また、リュウのリリーに寄せる想いは理解できるのですが、リリーのリュウに対する想いに納得を欠く。必然性が感じられないのです。
つい比べてしまうのですが、やはり幼馴染同士の恋を描いた川上健一「雨鱒の川には、必然性が感じられました。
その2つの理由があって、その後の展開はむしろ退屈。優しさが過ぎて甘ったるい、あるいは女々しさを感じてしまうのです。

そもそも、本物語を2人のラブ・ストーリィと捉えるのが間違いだったかもしれません。
長い年月、様々な苦労や哀しみをその身に受け留めながら、2人に対する温かい視線を失わずに生きる、曽祖母の菊さんこそ、本物語の真の主人公というに相応しい。
犬の海と並び、いや海を遥かに超える魅力的な登場人物です。
家族の繋がりを描いた長篇小説、「ファミリーツリー」という題名は家系図のことと、最後にしてようやく判りました。

             

4.

●「つるかめ助産院」● ★★


つるかめ助産院画像

2010年12月
集英社刊
(1400円+税)

2012年06月
集英社文庫化



2011/01/09



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出産という母・胎児にとって不思議で、偉大な営みを通じて、一人の女性の再生を描いた物語。

主人公は小野寺まりあ、28歳。突然夫が失踪、途方に暮れるままにかつて2人で訪れたことのある南の島へ、一人やって来ます。
その島でまりあが偶然出会ったのは、島で“
つるかめ助産院”を開いているという元気な中年女性=鶴田亀子
誘われて助産院に寄ったまりあは、予想もしていなかった、妊娠しているという事実を告げられます。
夫も失踪、頼れる家族もいないという状況の中で、一体まりあはどうしたらいいのだろう?
つるかめ先生に勧められるまま、助産院の仕事を手伝いながら、この南の島で出産することをまりあは決意します。

自分は必要とされる人間なのか?という苦しい気持ちをずっと抱えながら生きてきたまりあ。つるかめ先生をはじめ、ベトナム娘のパクチー嬢長老サミー、エミリーといった助産院の面々に励まされながら、島での妊婦の日々が過ぎていきます。
母と胎児の繋がりの深さ、母子の愛情、一方で恵まれなかった故の親の悲しみを、助産院を手伝うことによってまりあも教えられていきます。
まりあの再生ストーリィですが、一方で妊娠・出産という貴重な体験への讃歌、を感じます。
肌触りという点で、本書は
食堂かたつむりに似ています。
これから出産を迎える女性へ、そして(私自身の反省を含め)その旦那さんに、特にお薦めしたい作品です。

                  

5.

●「あつあつを召し上がれ」● ★★


あつあつを召し上がれ画像

2011年10月
新潮社刊
(1300円+税)

2014年05月
新潮文庫化



2011/11/19



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寝たきりになった祖母を介護する母娘、恋人と最後の食事?、10年間一緒に暮した末に別れることになった男女、幼い時に母が死んで以来ずっとみそ汁を作り続けていた娘の最後の朝、痴呆症となった老女が夫と共に出かける思い出のレストラン、亡き父親が食べたがっていたきりたんぽ鍋。

ちょっとした事々に人生のドラマがあり、そしてその中心にはいつも美味しい料理がある、という趣向の短篇集。
長篇と短篇という違いはありますが、小川さんの出世作
食堂かたつむりに通じる一冊です。
料理を美味しく食べられるのであれば、まだ人生捨てたものではない。
また、共に味わう料理が美味しければ幸福感はいっそう増し、悲しい時には多少なりともその悲しさが和らげられる、という風です。
「食堂かたつむり」ファンには、お待ちかねの一冊。

収録7篇の内、恋人である男女の食事風景を描いた「親父のぶたばら飯」が、ダントツに楽しい。また、「こーちゃんのおみそ汁」は胸に残る一篇。
なお、
「ボルクの晩餐」にはちょっと困惑させられますが、その一篇での気分転換があって、最終話「季節はずれのきりたんぽ」をじっくり味わうことができます。
※ふと、私はどっちの側になるかなぁと思ったのですが、やはり死ぬ側の方が落ち着きが良いようです。

バーバのかき氷/親父のぶたばら飯/さよなら松茸/こーちゃんのおみそ汁/いとしのハートコロリット/ポルクの晩餐/季節はずれのきりたんぽ

                

6.

●「私の夢は」● ★☆


私の夢は画像

2012年04月
幻冬舎文庫刊
(533円+税)

2012/05/28

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南西諸島八重山列島(石垣島・波照間島・与那国島)、モンゴル、カナダはバンクーバー等々、旅と味覚がかなりの部分を占める、日記エッセイ。
小川さんのHP「糸通信」に掲載された、2010年の日記を文庫本かしたもののようです。

同時に食堂かたつむりの文庫化、「つるかめ助産院」の執筆・ゲラ確認、「食堂かたつむり」韓国語版・イタリア語版・台湾版の出版、あつあつを召し上がれの雑誌連載開始決定と、小川作品の出版・執筆の話も語られます。

それにしても、国内・海外問わず、随分とあちこち飛び回っているものだなぁと思います。作家って、そんなにあちこち行けるのでしょうか。ちょっぴり羨ましい(苦笑)。

小川糸ファンであればこそ楽しめる日記エッセイ本です。

             

7.

「さようなら、私」 ★☆


さようなら、私画像

2013年02月
幻冬舎文庫刊
(533円+税)



2013/02/28



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人生に行き詰まりを覚えた女性3人が、再出発しようという気持ちになるまでを描いた、再出発ストーリィ3篇。
いずれも旅、非日常が鍵となっています。

「恐竜の足跡を追いかけて」は、希望の編集仕事に就いたものの3ヵ月で退職してしまった美咲(22歳)が主人公。
たまたま中学時代に好きだった同級生の
ナルヤに再会。実はモンゴル人の日本人のハーフなのだと打ち明けたナルヤに誘われ、美咲はモンゴルに向かいます。ナルヤに助けられながら美咲がモンゴルの大平原で体験し、考えたことは・・・・。
「サークル オブ ライフ」は、母親の自分勝手な生活の為にセックスにトラウマを抱えてしまった楓(30代後半)が主人公。
仕事で自分が生まれた国であるカナダへ渡航した楓は、その地で改めて母親、自分、そして7歳年下の恋人と向かい合います。そしてその結果は・・・。
「おっぱいの森」は、幼い我が子を突然死で喪った母親の美子が主人公。行き場所のない美子が慰めを求めて向かったのは、偶然知り合ったオカマ男性が経営する“おっぱいの森”という店。

「恐竜」は舞台となったモンゴルが魅力。主人公と共にモンゴルでの生活を体験するという面白さがあります。
一方「サークル」と「おっぱい」は、設定の独創性は認めるものの、私としては拵えられたストーリィという印象が拭えません。

恐竜の足跡を追いかけて/サークル オブ ライフ/おっぱいの森

 

 

8.

「にじいろガーデン」 ★★


にじいろガーデン画像

2014年10月
集英社刊
(1400円+税)

2017年05月
集英社文庫化



2014/10/26



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夫が家を出ていき、もうすぐバツイチ確定の、自殺しそうな雰囲気を漂わせる女子高生=千代子に思わず声を掛け・・・。
それがきっかけとなって結びついた泉と千代子の2人、千代子の強い願いに引きずられるようにして、泉は7歳の息子=
草介を連れて3人で街を出ます。
都会から離れた田舎の集落で3人は暮し始め、まもなく
という女の子も生まれて、母親2人に子供2人という“タカシマ家”の生活がスタートします。

従来の家族像とは全く異なる、新しい家族の物語。
決して小川さんが初めてという訳ではありません。従来の家族像が日本でも変わりつつあり、本作品もその流れにある一つと思います。
生れながら当然にしてある家族ではなく、皆がひとつ家族であるという強い思いを持っていて成り立つ家族の姿。

ストーリィはプロローグに続いて4章構成、泉、千代子、草介、宝の4人が順繰りに語り手=主人公となっています。
タカシマ家を構成する各人の視点から語るという点に味があります。
最後は必ずしもハッピーエンドではありませんが、宝が家族の一人一人からバトンをきちんと受け継ごうとする姿に些か感動を覚えます。

プロローグ/1.駆け落ち/2.ゲストハウス虹、誕生/3.ハネムーンと夜の虹/4.エピローグ、じゃなくて、これから

      

9.

「サーカスの夜に」 ★★


サーカスの夜に画像

2015年01月
新潮社刊
(1400円+税)

2017年08月
新潮文庫化


2015/02/22


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薬のおかげで難病が治ったものの、10歳の時から身長が伸びないままとなった主人公、離婚した両親の双方から置き捨てられ、年金暮らしのグランマに引き取られます。主人公を大切に世話してもらいましたが、何時までも老いたグランマに頼っていてはいけないと自ら決断してサーカス団へ飛び込んでいきます。
そんな主人公が味わい、経験する、サーカス団の内幕を描いたストーリィ。
そこで出会った個性的な芸人たち。各人がそれぞれの芸を持つように、各人の抱える経緯、物語も語られていて、見逃せません。

何処となくファンタジー世界の中にいるかのように感じるストーリィです。その理由は勿論、主人公がサーカスの内部にいるために他なりません。なにしろサーカス自体がそもそも、ファンタジー世界のようなものなのですから。
といっても零細サーカス団の厳しい状況も描かれます。客の入りが悪ければ、興行を予定より早く切り上げることもあります。
豪華絢爛で感動すら覚えるけれど料金が高いサーカスもあれば、主人公が加わったレインボー・サーカスのように安い料金で気軽に楽しめるサーカスもある。それら全てを含めて“サーカス”というものなのでしょう。

夢と希望を抱いてサーカス団に飛び込んだ少年の出発ストーリィですが、同時にサーカスそのものを描く作品になっていてそこが魅力。
本書を読めば、サーカス気分全開です。
また、小川さんらしく、身体が資本のサーカス団にとっては食事も大切と、料理・食事場面にも十分に頁が割かれており、その部分も見逃せません。

   

小川糸作品のページ No.2

        


      

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