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1.食堂かたつむり 2.蝶々喃々 3.ファミリーツリー 4.つるかめ助産院 6.私の夢は 7.さようなら、私 8.にじいろガーデン 9.サーカスの夜に |
ツバキ文具店、キラキラ共和国、ライオンのおやつ、とわの庭、椿ノ恋文 |
●「食堂かたつむり」● ★★☆ |
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2010年01月
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倫子がバイト先から戻ると、アパートの部屋は何と空っぽ。一切合財、貯めたお金までも、同棲していたインド人の恋人共に消え失せていた。そのショックで声も出せなくなった。 無一文になり呆然としたまま倫子が戻ったのは、15歳の時飛び出してから10年間一度も戻った事のなかった、山間にある実家、おかんの元。 倫子に残されたものは、祖母から受け継いだ大切な糠床と、祖母から教わった料理、そして数々の料理店でのバイト経験のみ。それらを活かしたいと、物置小屋を改修して倫子は食堂を始めることにします。そして付けた名前が“食堂かたつむり”。
客は一日一組だけという、ちょっと変わった食堂。材料は近くの山や畑で採れた食材をふんだんに用いる。 しかし、それはあくまで本作品の前段に過ぎません。前半を土台に、主人公と母親であるおかんの、母娘のストーリィが語り始められます。 なお、本書に登場するのは皆気持ちの良い人物ばかり。 |
●「喋々喃々(ちょうちょうなんなん)」● ★☆ |
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2011年03月
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東京・谷中でアンティークな着物を扱う“ひめまつ屋”を一人で営む若い女性=横山栞を主人公に、彼女の恋と離れて暮す家族との関わりを、季節の移り変わりを背景としつつ1年に亘って描いた長篇小説。 東京の下町だからこそ近く感じられる、季節の風物、行事、そして美味しい食べ物と共にストーリィが語られていくところが、本作品の魅力です。 着物、季節の風物、食べ物とあって、幸田文さんの日常風景が柔らかい小説になったような気分がして、懐かしい気分に誘われました。 一人暮しだからこそ、彼女と家族の関係も色濃く浮かび上がります。田舎で暮す父親と義母、そして都営住宅に暮す実母と妹、未だ幼い末の妹という3人。 ただ、栞が恋する相手の男性、幾らなんでも不自然に過ぎる。 本作品を「食堂かたつむり」に劣らず楽しめるかどうかは、相手男性の不自然さを容認できるかどうかでしょう。 |
●「ファミリーツリー」● ★ |
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長野県の穂高を舞台に幼い頃から始まる、少年と少女の純粋なラブ・ストーリィ。 曽祖母の経営する旅館の離れに主人公リュウ(流星)の一家は居候中。毎年夏になると、リュウと生まれた日が3週間違いといういとこおば(お互いの祖父と母がいとこ同士)のリリー(凛々)が泊まりにやってくる、というのが物語の始まり。 幼馴染の間の淡い恋というストーリィはそう珍しいものではありませんが、子供たちが拾いあげて飼うことになった子犬(海)の存在が、本書では細やかな優しさを醸し出しています。しかし、そこは幼い頃の情景で前半部分。 そもそも、本物語を2人のラブ・ストーリィと捉えるのが間違いだったかもしれません。 |
●「つるかめ助産院」● ★★ |
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2012年06月
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出産という母・胎児にとって不思議で、偉大な営みを通じて、一人の女性の再生を描いた物語。 主人公は小野寺まりあ、28歳。突然夫が失踪、途方に暮れるままにかつて2人で訪れたことのある南の島へ、一人やって来ます。 自分は必要とされる人間なのか?という苦しい気持ちをずっと抱えながら生きてきたまりあ。つるかめ先生をはじめ、ベトナム娘のパクチー嬢や長老、サミー、エミリーといった助産院の面々に励まされながら、島での妊婦の日々が過ぎていきます。 |
●「あつあつを召し上がれ」● ★★ |
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2014年05月
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寝たきりになった祖母を介護する母娘、恋人と最後の食事?、10年間一緒に暮した末に別れることになった男女、幼い時に母が死んで以来ずっとみそ汁を作り続けていた娘の最後の朝、痴呆症となった老女が夫と共に出かける思い出のレストラン、亡き父親が食べたがっていたきりたんぽ鍋。 ちょっとした事々に人生のドラマがあり、そしてその中心にはいつも美味しい料理がある、という趣向の短篇集。 収録7篇の内、恋人である男女の食事風景を描いた「親父のぶたばら飯」が、ダントツに楽しい。また、「こーちゃんのおみそ汁」は胸に残る一篇。 バーバのかき氷/親父のぶたばら飯/さよなら松茸/こーちゃんのおみそ汁/いとしのハートコロリット/ポルクの晩餐/季節はずれのきりたんぽ |
●「私の夢は」● ★☆ |
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2012/05/28 |
南西諸島八重山列島(石垣島・波照間島・与那国島)、モンゴル、カナダはバンクーバー等々、旅と味覚がかなりの部分を占める、日記エッセイ。 同時に「食堂かたつむり」の文庫化、「つるかめ助産院」の執筆・ゲラ確認、「食堂かたつむり」韓国語版・イタリア語版・台湾版の出版、「あつあつを召し上がれ」の雑誌連載開始決定と、小川作品の出版・執筆の話も語られます。 それにしても、国内・海外問わず、随分とあちこち飛び回っているものだなぁと思います。作家って、そんなにあちこち行けるのでしょうか。ちょっぴり羨ましい(苦笑)。 小川糸ファンであればこそ楽しめる日記エッセイ本です。 |
7. | |
「さようなら、私」 ★☆ |
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2023年11月
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人生に行き詰まりを覚えた女性3人が、再出発しようという気持ちになるまでを描いた、再出発ストーリィ3篇。 「恐竜の足跡を追いかけて」は、希望の編集仕事に就いたものの3ヵ月で退職してしまった美咲(22歳)が主人公。 「恐竜」は舞台となったモンゴルが魅力。主人公と共にモンゴルでの生活を体験するという面白さがあります。 恐竜の足跡を追いかけて/サークル オブ ライフ/おっぱいの森 |
8. | |
「にじいろガーデン」 ★★ |
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2017年05月
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夫が家を出ていき、もうすぐバツイチ確定の泉、自殺しそうな雰囲気を漂わせる女子高生=千代子に思わず声を掛け・・・。 従来の家族像とは全く異なる、新しい家族の物語。 ストーリィはプロローグに続いて4章構成、泉、千代子、草介、宝の4人が順繰りに語り手=主人公となっています。 |
9. | |
「サーカスの夜に」 ★★ |
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2017年08月
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薬のおかげで難病が治ったものの、10歳の時から身長が伸びないままとなった主人公、離婚した両親の双方から置き捨てられ、年金暮らしのグランマに引き取られます。主人公を大切に世話してもらいましたが、何時までも老いたグランマに頼っていてはいけないと自ら決断してサーカス団へ飛び込んでいきます。 何処となくファンタジー世界の中にいるかのように感じるストーリィです。その理由は勿論、主人公がサーカスの内部にいるために他なりません。なにしろサーカス自体がそもそも、ファンタジー世界のようなものなのですから。 夢と希望を抱いてサーカス団に飛び込んだ少年の出発ストーリィですが、同時にサーカスそのものを描く作品になっていてそこが魅力。 |