荒山 徹作品のページ


1961年富山県生、上智大学卒。新聞社、出版社勤務を経て韓国留学、朝鮮半島の歴史・文化を学ぶ。99年「高麗秘帖」にて作家デビュー。


1.
十兵衛両断

2.柳生雨月抄(文庫改題:柳生陰陽剣)

3.忍法さだめうつし

4.友を選ばば(文庫改題:友を選ばば柳生十兵衛)

5.柳生黙示録

6.砕かれざるもの

7.白村江

8.秘伝・日本史解読術

9.神を統べる者−厩戸御子倭国追放篇−

10.神を統べる者−覚醒ニルヴァーナ篇−

11.神を統べる者−上宮聖徳法王誕生篇−

  


     

1.

●「十兵衛両断」● ★★


十兵衛両断画像

2003年0
6月
新潮社刊

2005年10月
新潮文庫
(667円+税)



2006/08/01

柳生友景を主人公とした長篇もの柳生雨月抄を先に読んだ後だったので、最初こじんまりとした印象を受けたのですが、読み進んでみるとどうしてなかなかのもの。収録された5篇のいずれをとっても中篇並みの読み応えを備えています(短篇集と思い込んだことがそもそも誤りなのかもしれない)。

5篇の中では表題作の「十兵衛両断」が秀逸。
韓人の呪術師によって宗矩の眼前で十兵衛の肉体が乗っ取られてしまう、というストーリィ。その奇抜さより、韓人の脆弱な肉体に取り残されてしまった十兵衛のそれからが凄い。いくら修行しても少しも剣術が身につかず、ついに柳生家を出奔。放浪した挙句絶望のまま死を覚悟する際まで至ります。しかし、そこから十兵衛の再生がなり、韓人・十兵衛(=柳三厳)との対決があるというのですから読み応え十分。柳生十兵衛の空白の年月、子を成さなかった史実にうまく本ストーリィをはめ込んでしまうのですから流石。
この1冊・5篇の中に柳生家の面々を勢揃いさせている手腕もなかなかお見事。十兵衛、友矩宗冬の他、石舟斎や友矩の隠し子までふんだんに登場してくるのですから何をか況や。
またその中で、本書では印象が薄いものの柳生友景の登場が見逃せません。新陰流の達人でしかも陰陽師という魅力的な人物。「陰陽師・坂崎出羽守」「太閤呪殺陣」の2篇に脇役として登場し、「太閤呪殺陣」はそのまま「柳生雨月抄」の前段階となる作品になっています。
・・・と4編に納得した気分でいたら、最後の「剣法正宗溯源」で驚愕させられました。決着ついた筈の「十兵衛両断」がまたぶり返してこようなどとは全く思いも寄らないこと。そのうえストーリィ自体が凄絶。度肝を抜かれるというのはこのような逆転ドラマのためにある言葉か、とまで思う次第です。
虚々実々の伝奇小説もここまで至れば名人芸と言うべきでしょうか。

十兵衛両断/柳生外道剣/陰陽師・坂崎出羽守/太閤呪殺陣/剣法正宗溯源

     

2.

●「柳生雨月抄」● ★★
 (文庫改題:柳生陰陽剣)


柳生雨月抄画像

2006年04月
新潮社刊
(1800円+税)

2008年10月
新潮文庫化



2006/07/14



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伝奇小説と言えば山田風太郎隆慶一郎が思い出されますが、本作品はスケールにおいて隆作品に近く、奇抜さという点では山田作品も凌ぐ、といった風です。
なにしろモスラや巨大サソリが登場する一方でオスカルアンドレという男装の美女剣士まで登場してくるのですから、時代小説なのに何と現代的なことと驚けば良いのか、冗談がキツイと笑い飛ばしてしまえば良いのか。まさに山田風太郎、隆慶一郎も真っ青という感じです。

主人公は、柳生石舟斎の甥である柳生友景
宗矩ら従来の柳生一族と友景のキャラクターが異なるのは、陰陽師家に養子入りし、現在の正式名は幸楽井友景。後に後水尾天皇に仕える陰陽頭となり、陰陽師であると同時に新陰流の剣客という2つの顔をもつ人物であるという点です。
本書はこの友景が、「征東行中書省」を復活して日本を征服し名を高めようとする朝鮮王朝の王・光海君とその術客・鄭仁弘と妖術を駆使した攻防を繰り広げるというストーリィ。
各章、朝鮮から入り込んだ術客と友景の対決等々といった連作短篇風になっているので、区切りよく読み進むことができます。
破天荒でスケールの大きな伝奇小説の割りに軽く、サクサクと読める作品。気晴らしに楽しむには恰好の一冊です。

なお、本作品は如何にも映画向きです。時代劇、妖術、主人公のキャラクター、およそ全ての点において。
あえて気になるとしたら、朝鮮国の日本国に対する怨念が基となっているストーリィであり、しかも元々百済は日本に属する領土であり、百済や高麗を正式に継承したのは日本であると主張している点ぐらいでしょうか。

恨流/柳生逆風ノ太刀/第十一番花信風/八岐大蛇の大逆襲/妖説・韓柳剣/杏花の誓い、柳花の契り

  

3.

●「忍法さだめうつし」● ★☆


忍法さだめうつし画像

2007年07月
祥伝社刊

(1800円+税)

2010年04月
祥伝社文庫化



2007/11/02



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高麗軍が対馬、壱岐で繰り広げた島民虐殺、それへの報復として繰り返された倭寇。
そんな朝鮮と日本の歴史を背景に高麗と倭国の攻防を描いた伝奇歴史小説4篇。

「以蒙攻倭」は、元朝の使節団が北条時宗をいきなり襲うところから始まります。
元に倭国を侵略させ、自らの利を得ようとする高麗の陰謀。その手先となった丹術(忍術)遣いと対決し高麗の陰謀を挫くべく、高麗国にただ2人上陸した日本武士と少女がいた。
ストーリィ展開も背後にある歴史も面白く、すんなりと楽しめた一篇。
それに対し「忍法さだめうつし」とその続編「怪異高麗亀趺」は奇想天外の度が大きく、私の好みを越えてしまった感じ。
この2篇、呪術もしくは忍法、それにエロティックな要素が絡む分、山田風
太郎を髣髴させてくれます。とくに後者は、タイムマシンが出てくるばかりかガメラまで登場(モスラに次いで今度はガメラかよ!)するのですから、なんともはや。
その空想の飛躍ぶり、山田風太郎に伍して譲らずといった荒山さんの意気込みを感じます。

日本史における外国との交流というと頭に浮かべてしまう相手はとかく中国なのですが、日本と朝鮮の間にこれ程濃密な関わり合いがあったのかと、頭にガツンと一撃!してくれる歴史小説。そこにこそ、本書を読む甲斐があるというもの。
最後の「対馬はおれのもの」は、対馬侵略に執念を燃やす父王に反旗を翻し、親日に国論を転回させた李氏朝鮮第4代世宗を描いた一篇。改めて日朝近代史を知ったという、感動が残りました。

そんな日朝の歴史にもかかわらず、明治の世に日本が朝鮮国を蹂躙するような侵略を行なった歴史に強い痛みを感じます。(※角田房子「閔妃暗殺
※なお世宗=李祹は、日本の平仮名に倣ってハングル文字を創製したという不滅の功績を残した王、とのこと。

以蒙攻倭/忍法さだめうつし/怪異高麗亀趺/対馬はおれのもの

       

4.

●「友を選ばば」● ★☆
 (文庫改題:友を選ばば柳生十兵衛)

 
友を選ばば画像

2010年11月
講談社刊
(1700円+税)

2013年11月
講談社文庫化



2010/12/24



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本書主人公は、何と三銃士ダルタニャン
パリに出てきてから早や10年、27歳。銃士隊副隊長を務めながらも寂しく思うのは、傍らにアトス・ポルトス・アラミスという仲間がいないこと。
そんなダルタニャンが授けられた特別任務は、イングランドからやってきた司法長官配下の貴族、謎めいた美女とともに、各地を荒らす残虐な強盗団
“スカーレット・ルピナス団”を追うこと。
ダルタニャンの旅はパリから始まり、ついにはイングランドへ渡り、さらにスコットランドまで。
そして英国内でダルタニャンの前に姿を現したのは、東洋的な風貌で片目に眼帯を掛けた謎の剣士。彼はいったい何者か、敵か味方か。

その謎の剣士が誰かいうと、家光から密命を受けて西欧社会にやってきた柳生十兵衛三厳
本書の読み処は、ダルタニャンと柳生十兵衛(本書では
ウィロウリヴィングと名乗る)の2人による活劇、というに尽きます。それが全て。

後半の山場、ダルタニャン物語からいうととんでもない展開になってギョッとしますが、荒山ストーリィとすればいつものこと、そう驚くようなことではないと納得。
それにしても、ダルタニャンの相方として
シラノ・ド・ベルジュラック(佐藤賢一「二人のガスコン」)はともかく、柳生十兵衛とはなぁ・・・。
その意外さが面白さのグレードアップに繋がらなかったのは、ちと残念。

       

5.

●「柳生黙示録 YAGYU APOCALYPSE」● ★☆


柳生黙示録画像

2012年02月
朝日新聞出版
(1800円+税)



2012/03/04



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山田風太郎系統の伝奇小説、と改めて感じる時代小説。

キリスタンとして国外追放となり東南アジアの地で死んだと伝えられていたジュスト高山右近が密かに日本に生還。しかも、キリシタン復権のための秘策“極東十字軍”計画を携えて。
高山右近、右近を守る異国の美女剣士をめぐり、キリシタンの地下組織を統率する
森宗意軒とその神聖ハポン騎士団7剣士、それに対する柳生十兵衛を筆頭とした反キリシタン側との闘いが切って落とされます。そしてその闘いは、天草四郎で有名な島原の乱へと繋がっていく。

伝奇小説らしい処といえば、柳生十兵衛とハポン騎士団剣士らとの闘い、森宗意軒らと十兵衛らとの闘いが挙げられますが、宣教師らを日本を征服しようと企む妖術師たちと位置づけた点が眼を引くところ。
敬虔なキリスト教徒からすればとんでもない!という設定だろうと思いますが、布教のために血を流すことをむしろ喜んでいるような姿勢は
塩野七生「十字軍物語3でも指摘されていることであって、あながち全てを否定できないと思うところがあります。
その意味で、高山右近の行動を皆が肯定するところが、本ストーリィの鍵。

十兵衛と肩を並べて宗意軒らと闘う富田流小太刀の遣い手=ヤスミナ姫がエキゾチックな魅力を本作品に与えている他、天草四郎時貞の正体は?という奇策もまさしく伝奇小説らしいところ。
しかし、それらを越えて唖然とさせられるのは、究極の危機に陥ってからの柳生十兵衛の逆転経緯。
きっと読者誰しも、唖然とせざる得ないでしょう。

          

6.

●「砕かれざるもの」● ★★


砕かれざるもの画像

2012年07月
講談社刊
(1600円+税)



2012/08/12



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関ヶ原後に八丈島へ流刑となった宇喜多秀家の孫である剣士=宇喜多秀景が活躍する長篇伝奇小説。

3代将軍となった家光、自分の権勢を示したいと企てたのが、加賀百万石=前田家の取り潰し。その先手となって動いたのが柳生十兵衛・友矩の兄弟。
所詮前田家と徳川幕府の争いということなのですが、そこに巻き込まれたのが八丈島に暮す宇喜多一族。元々秀家の正室が前田家の
豪姫ですから縁浅からずという次第。加賀藩&三代藩主=前田利常に助勢するため秀景が島を脱出しますが、その脱出行の以前から既に戦いの火蓋は切って落とされていたという展開。

本書の面白さは、次から次へと名だたる剣豪ら歴史上の実在人物が登場する点にあります。それはもうオールスタッフ勢揃いというくらいに豪華。
十兵衛兄弟、山田浮月斎、吉岡清十郎一門、宮本武蔵、伊藤一刀斎、ジュスト高山右近、そして○○まで。
それらが入り乱れて争うのですから、伝奇小説としてはもう十分に面白い。
残念なのは秀景に増して魅力的だった女忍び=
弥勒の活躍が前半に限られたこと。もっとその活躍を見たかったのですが。

※なお、加賀百万石を幕府から守るという“乾雲坤龍”の家宝。何やら隆慶一郎「吉原御免状に似ているような。

1.孤島/2.乾坤/3.出帆/4.一乗/5.漂着/6.受洗/7.弥勒/8.亡霊/9.報復/10.越中/11.一命/12.決戦/大団円

  

7.

「白村江(はくそんこう ★★☆


白村江

2018年01月
PHP研究所刊

(1900円+税)



2018/05/13



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“白村江”というと、日本の歴史の一頁にそんな歴史的事件があったなぁという程度の認識しかないのが正直なところ。
しかし、本作を読むと、朝鮮半島の国々と
倭国(当時の日本)の深い関わり合い、その双方にとって激動の時代であったこと、そして日本にとっては大きな歴史的転換だったことを知ることができます。
そのうえ歴史教科書のような無味乾燥な記録ではなく、当時の主役たちが生身の人間として、活き活きと歴史上のドラマを演じているのですから、興奮するのはとう当然のこと。
伝奇小説のような面白さはありませんが、歴史ドラマの面白さが本作にはあります。

まず登場するのは、
百済での王位継承争いから処刑される寸前だった百済王子の余豊璋。その王子を絶体絶命の危機から救ったのが、倭国へ帰国する途中だった蘇我入鹿
その
蘇我蝦夷と入鹿父子が抱く野望、それに対抗するのが葛城皇子中臣連鎌子という顔ぶれで、その結果となる史実が“大化の改新”という次第。
律令制国家の確立を目指す葛城皇子の策謀が、その後の朝鮮半島3国(新羅・百済・高句麗)間の争いに関わるという展開になるのですから、朝鮮と日本の関りの深さに圧倒される思いです。

新羅王族で後に権力を握る
金春秋。その金春秋に対し、倭国の実質最高権力者となった葛城皇子はどう対するのか。また、百済に対しては如何に。
そして、入鹿に連れられて倭国に渡り、倭国で育った豊璋王子の運命はどうなるのか。

各登場人物に対して個々の思いはいろいろありますが、歴史上の事件であった以上、運命がそれにより変わるというのはあり得ないこと。だからこそ、読了後の思いも深いものがあります。

※本書の中でも改めて思いを強くするのは、葛城皇子(後の天智天皇)の非情さ、冷酷さ。
ふと、天智天皇と大海人皇子との兄弟争いを荒山さんならどう描くのだろうかと、是非読んでみたいと思いました。

1.開戦二十一年前/2.開戦二十年前/3.開戦十八年前/4.開戦十六年前/5.開戦三年前/6.開戦一年前/7.開戦/付録.各国王家略系図

     

8.

「秘伝・日本史解読術 ★★


秘伝・日本史解読術

2017年05月
新潮新書刊

(800円+税)



2017/08/15



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伝奇小説作家の荒山さんが、日本史を理解するのには基礎トレーニングが欠かせないと、日本史を読み解く鍵となるポイントを、歴史小説の名作を交えてわかりやすく語った一冊。

新潮社の宣伝誌「波」に「歴史の極意・小説の奥義」という題名にて27年04月から翌年11月まで連載されたエッセイの新書化なので、私は連載時に一度読んでいますが、改めてまとめて読むと本書の面白さ、歴史を知る楽しさが改めて感じられます。

作家らしい大胆な取捨選択、そして歴史上の人物を語るのにその人物等を描いた歴史小説の紹介を以てする、というところが大きな魅力。
荒山さん曰く「歴史小説は、歴史を理解するのに有効なツール」なのだそうです。
そして冒頭から、そのツールが遺憾なく紹介されます。
・縄文時代を語るなら・・・
荻原 浩「二千七百の夏と冬
・邪馬台国時代なら・・・・
帚木蓬生「日御子
・源平時代なら・・・・・・
吉川英治「新・平家物語」
・戦国時代なら・・・・・・
津本 陽「夢のまた夢」
・幕末なら・・・・・・・・
司馬遼太郎「龍馬がゆく、と。
元より小説好きですから、すんなり気分が乗っちゃいます。

それ以降も、歴史小説の紹介は、枚挙にいとまがありません。きっと、あれもこれもと読みたくなるに違いありません。
私も、連載時読んだ時に是非読もうと思った作品があるのですが、新刊書を読むのに忙しく未だ読むに至らず・・・・。

なお、最後の方で、日本と韓国との歴史的な関係、歴史観の違いについて言及されていますが、一興に値する意見だと思います。
小説的な面白さをもった、歴史解読の指南書と言える一冊。
是非、お薦め。


序章.「史観」を語る前にすべきこと/
1.「遺跡は人なり」と心得よ/2.秘伝・日本史収納整理術/3.古代史学は伝奇文学か/4.日本書紀を再評価せよ/5.史料は原文が面白い/6.超「仏教」入門(上)/7.超「仏教」入門(下)/8.遷都の裏に政教分離あり/9.藤原氏で知る系図の秘訣/10.時代の境目とは何か/11.日本史上の二大画期/12.二つの中国とモンゴルの侵略/13.「皇統」は誰が決めるのか/14.歴史は「応仁の乱」以後で十分か/15.歴史と地理は不可分なり/16.「太閤記もの」の読み方/17.世界史から捉える島原の乱/18.史的眼力を「忠臣蔵」で考える/19.近くの国より遠くのオランダ/20.小説を楽しむためのスキル/
終章.歴史は「取り扱い注意」で

           

9.

「神を統べる者−厩戸御子倭国追放篇− ★★


神を統べる者−厩戸御子倭国追放篇−

2019年02月
中央公論新社

(1800円+税)



2019/03/20



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少年・厩戸御子(後の聖徳太子)を主人公とし、日本〜中国〜天竺(インド)にまで舞台を広げる、長大な歴史物語シリーズの幕あけの巻。

まず冒頭、厩戸御子はまだ7歳。しかし、既に百済語・漢語を自在に読み書きし、数多くの仏教経典を読んでいたばかりか全て諳んじているという、類まれな才能を発揮していた。
時代は崇仏派の
蘇我馬子と、廃仏派の物部守屋が凌ぎを削っていた時代。その中で厩戸御子は、仏教の真実を知ろうとあらゆる仏教経典を読み漁っていた訳ですが、そんな厩戸御子の異能ぶりを危険視したのが現帝である敏達天皇

仏教を敵視する敏達天皇は、伊勢神宮からの神託を理由に、厩戸御子の暗殺を謀ろうとします。
厩戸御子の才能に期待をかける物部守屋は、主張の差を超えて蘇我馬子と共闘し、厩戸御子を大和から脱出させます。
護衛を命じられて御子に同行するのは、守屋配下の女性剣士=
柚蔓(ゆずる)と、馬子配下の剣士=虎杖(いたどり)

想像力を発揮しての広大なストーリィとはいっても、荒山徹さんらしいのは、禍霊が登場したり、果てはゾンビまで登場。

とはいっても所詮本巻は、幕開けのストーリィ。
異能を発揮する厩戸御子に、男女2人の護衛剣士という組み合わせ。そして、日本古来の女神が登場するかと思えば、ゾンビまで登場。さらにインド人修行僧、道教の道士まで登場し、これからの破天荒な面白さを十分期待させてくれます。

いったいどれだけ長い物語になるのかと畏れつつも、今後の展開が楽しみです。
仏教の是非をいろいろな人物をして語らせているところも、十分面白いですし。


第一部 大和/第二部 筑紫/第三部 揚州

         

10.

「神を統べる者−覚醒ニルヴァーナ篇− ★★


神を統べる者−覚醒ニルヴァーナ篇−

2019年03月
中央公論新社

(1950円+税)



2019/04/11



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3巻からなる物語の第2巻。
冒頭は、前巻から続く、
厩戸御子を拉致した九叙道士たちの呪力と、ヴァルディタム・ダッタ老師たち仏僧の法力との対決。
その対決が決着し、厩戸御子一行は目指す修業の地=インドの
ナーランダへと向かいます。
この辺りはインドネシア〜インドという船旅となり、興味は覚えるもののやや退屈。

ナーランダ寺院に着いて御子が修業に入ったことから、
柚蔓虎杖は一旦護衛の任を解かれますが、そこでの2人の対照的な行動に驚かされます。
ところが驚きはまだほんの序の口。その後、御子をナーランダまで導いたヴァルディタム・ダッタ老師、御子の指導僧となった
シーラバドラが懸念していたことが現実化していきます。

はっきり言えば、現実化どころではありません。まさか厩戸御子の身の上にそんなことが起きるとは!
それ後も、まさか、まさかの繰り返し、もう驚天動地という他なく、まるで谷底へ転がり落ちていくかのような展開。
まぁ物語にあっては、一旦底まで落ち、そこから再生するというパターンがあるからと、何とか気持ちを持ち応えました。

しかし、そこからの展開を、そんなところへ持っていくのか!とまた驚き。
いったい、仏陀の教える“悟り”とは何なのか。
荒山さんが解き明かす“仏陀の悟り”の真相には呆気にとられてしまいますが、“中道”という考え方に立てば、私にとっては得心のいくことでもあります。

本巻の最後で、ようやく厩戸御子の修業に目途がつき、・・・と思ったところでまた新たな危難が到来。興味は早くも第3巻へと引きずられます。
なお、聖徳太子を聖人君子として崇める人達からすると、本巻はとんでもなく、許し難いストーリィでしょうねぇ。

第三部 揚州(承前)/第四部 ナーランダ/第五部 タームラリプティ

         

11.

「神を統べる者−上宮聖徳法王誕生篇− ★★☆


神を統べる者 上宮聖徳法王誕生篇

2019年04月
中央公論新社

(1900円+税)



2019/05/23



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過去2巻のストーリィを集約するような完結編。
それに相応して読み応え、興奮とも、たっぷりです。

第五部は前巻からの続き。
トライローキャム教団に誘拐された厩戸御子は、その霊力を教団に利用され・・・。
しかしまぁ、巨大○○同士の激突なんて、
柳生雨月抄でモスラ等が登場した時のことを思い出しました。

第七部は、ついに厩戸御子が
柚蔓・虎杖と共に倭国へ帰国。
御子を迎えた
蘇我馬子、物部守屋の前で、仏教の全てを知ったという厩戸御子が、仏教のありのままの姿を告げます。
してやったり顔の一方と、落胆の顔を隠せないもう一方。

その厩戸御子の決意、そして御子の実父である
用明天皇崩御を経て、ついに仏教受容・仏教排斥をかけた物部守屋軍と蘇我馬子軍との激突が始まります。
一方、厩戸御子はまたしても・・・。
最後はまたもや仰天すべき結末ですが、ここまで来るともう何も恐くない、もう驚かない、という気持ちです。(苦笑)

壮大なストーリィを展開させる伝奇小説としての面白さの他にもう一つ、仏教論の語りがとても面白い。
まぁ判ってはいることですが、これだけ明晰に作中人物に言わせているところに、痛快な面白さがあります。

倭国から始まり、中国〜インド〜中国〜そして帰国という、壮大なスケールをもった伝奇小説。
御子、柚蔓、虎杖と一緒に、読み手もまた遥かな旅を今終えた気がします。
もっとも歴史に残された功績は、これから後のことなのですが。


第五部 タームラリプティ(承前)/第六部 隋/第七部 淤能碁呂島/終章

   


  

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