角田
(つのだ)房子作品のページ


1914年東京府生、福岡女学校専攻科卒業後、38年パリ・ソルボンヌ大学へ留学。戦後夫の転勤に伴い再度渡仏。60年代より執筆活動に入る。2010年01月逝去。


1.閔妃暗殺

2.悲しみの島サハリン

3.責任 ラバウルの将軍今井均

           


        

1.

●「閔妃暗殺−朝鮮王朝末期の国母−」● ★★★  新潮学芸賞受賞

   

1988年01月
新潮社刊


1993年07月
新潮文庫

   

1993/08/15

 

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本書を読んで初めて、朝鮮と日本の深い関わり、近世において互いに絡み合うような歴史を知り、今まで何も知らずにいたことを恥ずかしく思いました。
日本の朝鮮征服は、第2次世界大戦という短い歴史の中だけでなく、明治にまで遡る長い期間に及ぶ問題だったのです。こんなことさえも知らずにいるのですから、日本は学校教育の中で真実の歴史を意図的に隠していると韓国から非難されても、それは肯定せざるを得ないでしょう。
そして、この閔妃暗殺事件は、一国の王族を外国人が計画的に殺害するという信じ難い事件。邪魔者さえ殺せば日本は有利になるという身勝手な論理。そして、日本政府もこの計画を黙認。まさに、当時の日本の卑劣なやり方を象徴するような事件です。韓国においては、未だに生々しく記憶に残っている事件だと言います。
本書は、この事件と事件に至るまでの歴史背景を、詳細に語った作品です。日本と朝鮮の関係を知ることができる、貴重な一冊だと思います。
朝鮮王朝は少し前の日本同様に鎖国政策を取っていました。思うに、欧米列強諸国から日本が受けたかもしれなかった圧迫を、日本はそのまま朝鮮に対し、まるで反復する様に行った気がするのです。
当時の日本の首相は伊藤博文、外相は陸奥宗光。そして、福沢諭吉も朝鮮を蔑視していたと言います。それに対して、勝海舟は日清戦争を“不義の戦い”として批判的だったとか。
明治外交史の知られざる一面に目を開かされたような気がします。

   

2.

●「悲しみの島サハリン−戦後責任の背景−」● ★★★

   

1994年03月
新潮社刊


1997年03月
新潮文庫

    

1994/04/30

 

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閔妃暗殺でもそうでしたが、前回の大戦において日本がしたこと、そして現在もその傷を受けたまま放置されている人々のいることについて、余りに現代の日本人が無知であることに、疑問すら感じます。
何故なのか? ひとつには日本政府が殊更に頬かむりをしている所為ではないでしょうか。
本書はそのことを教えてくれる好書であると思います。
閔妃暗殺が歴史小説のような面を持っていたのに対し、本書は丹念な取材と公正な記述によって裏打ちされた、ドキュメントです。
太平洋戦争当時、樺太開拓の人手不足の為、朝鮮半島南部から強制連行等が行われました。日本の敗北により日本人は樺太から国内へ強制送還されましたが、朝鮮の人々は日本国籍を当然のように失った為、強制送還もなくそのまま樺太に取り残されたと言います。不幸だったのは、それらの人々だけでなく、母国で夫を一生待ち続けさせられ、嫁という重荷を背負わされたままの妻達も同様であったと言います。
これらの実話に対し、すまなさを感じるというより、唖然とすることが多かったというのが事実です。
日本政府は一貫して補償問題は解決済と言っています。しかし、それは金銭面だけに偏った考え方ではないでしょうか。本書のように未だ深い傷を抱えている人々に対し、償う義務があることを直視すべきではないでしょうか。

          

3.

●「責任 ラバウルの将軍今井均」● ★★  新田次郎文学賞受賞

   

1984年05月
新潮社刊


1987年07月
新潮文庫

    

1995/09/10

本書を読んで一番に感じたことは、陸軍にもこんな大将がいたのか、という驚きでした。
敗戦後、各地の収容所に収容された部下たちを少しでも救うため、自ら戦犯であると主張し、収容所に幾度も入った元陸軍大将。ラバウルからジャワ、巣鴨と移った後も、マヌス島の豪軍による収容所の扱いが過酷と聞くと、自ら懸命の運動までしてマヌス島の収容所に移る。また、釈放後も、夫婦共々戦犯に指定された家族の為に尽くしたと言います。
本書は、その陸軍大将・今井均の軌跡を語った一冊です。
ただ、類稀な人格者ではあったが、海軍の米内・井上のような見識は兼ね備えていなかったようです。
本書には、もうひとつ、「戦犯」の問題が取り上げられています。終戦後、戦犯に指定された人、その家族への風当たりは非常に強かったようです。しかし、その実態は、ろくな立証もなく、単なる風聞だけで多数のものが戦犯として刑を科せられ、処刑もされたと言います。
戦犯の処刑という問題だけをとらえても、戦争というものの不合理な悲劇があります。
日本は何時の間にか敗戦を美化してしまったようですが、前回戦争の事実直視および反省が、不足したままのような気がします。

※戦犯の過酷さを描いた作品に、帚木蓬生「逃亡」があります。

 


          

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