[2021年の動向]

フランスがアフリカに文化財を返還
-各国で確実に進む返還の準備-

森本和男

はじめに
フランス
イギリス
ドイツ
オランダ
ベルギー
アメリカ
おわりに


はじめに

 フランスのマクロン大統領が西アフリカのブルキナファソで文化財返還を声明してから4年、ようやく2021年11月9日に文化財返還が実現した。フランスからベナンに公式に26点を返還した。所蔵するアフリカ由来の膨大な文化財のほんの一部を返したわけだが、長年にわたって返還を拒んできた旧宗主国が、植民地から奪った文化財をもどした歴史的意義は大きいといってよかろう。

 フランス以外でもヨーロッパ各国で返還の動きがあったが、さほど大きな出来事はなかった。各国の2021年の動向を見てみよう。


フランス

 2020年12月に国民会議で、ベナンに26点、セネガルに1点、計27点の文化財を返還する法律が可決された。法律制定後、2021年10月26日から31日までケ・ブランリ美術館で、返還されるベナンの文化財展覧会が開催され、同時に講演会も行なわれた1)

 11月9日にパリのエリゼ宮で返還の調印式が催行され2)、翌日10日にはベナンの首都コトヌーのマリーナ宮殿で盛大な返還歓迎式典が挙行された3)

ベナンの受領式典(Présidence Bénin


 返還されたベナンの文化財は、1892年にダホメ王国アボメー宮殿からフランス軍によって奪われた王のトーテム像や王座などである。現在アボメー宮殿で建設中の新しい博物館で、最終的に展示される予定である。

 もちろんベナン側は26点の返還だけで満足したわけではない。パトリス・タロン大統領(Patrice Talon)は「最大限の返還」を期待していると地元メディアに語った。とくにケ・ブランリ美術館所蔵のブードゥー教の鉄と戦争の神、ゴウ神像(Sculpture dédiée à Gou)の返還に、高い関心が寄せられている。この鉄製彫像は多くの芸術家や作家たちから高い称賛を受け、1935年にニューヨーク近代美術館のアフリカ美術展にも展示されて、逸品と評されている4)

ダホメのゴウ神像
Musée du quai Branly - Jacques Chirac


 2022年2月20日から3月22日までコトヌーの大統領宮殿で開催された展覧会で、現代アーチスト34人の作品とともに、フランスから返還された文化財が一般に披露された5)


イギリス

 イギリスの大英博物館は、旧植民地から持ち出された膨大な数量の文化財を収蔵・展示していて、原産国から文化財返還の要求がいくつも出されている。数年前からフランス、ドイツ、オランダなどの旧宗主国が文化財返還に動き出したため、返還の圧力がイギリス内外で高まっている。しかしイギリス政府や大英博物館は、現状を維持する強固な姿勢を変えようとしていない。

 3月25日にギリシャは独立宣言200周年記念を迎えた。そこで独立記念日を祝うためギリシャ首相は、国外へ一度も出たことのない文化財を貸す代わりに、大英博物館にあるパルテノン大理石の一時的返還・貸与を申し入れた。しかし3月12日にジョンソン首相は、イギリスは合法的に取得したと主張して、ギリシャへの返還はありえないと述べた6)

 パルテノン大理石の返還をいつものようにジョンソン首相が拒否して間もなく、3月25日にスコットランドのアバディーン大学が、所蔵しているベニン青銅器をナイジェリアに返還すると声明した。この青銅器はベニンの王(オバ)頭部の彫像で、1897年にイギリス軍懲罰遠征で持ち出された略奪品の一つである。大学は1957年にオークションで入手した。大学博物館の責任者であるネイル・カーチス(Neil Curtis)は「今ではとても不道徳と思われる方法で」取得されたと語り、大学学長兼副総裁ジョージ・ボイン教授(George Boyne)は、「そのような非難される環境で取得された」銅像を所持しているのは不正だと付け加えた7)

アバディーン大学のネイル・カーチスとベニン青銅器オバ像
artnet news 2021/03/24)


 アバディーン大学が返還を声明する数日前、ベニン青銅器数百点の返還をドイツがナイジェリアと協議しはじめたというニュースが駆けめぐった。ベルリンの民族博物館には青銅器440点をふくむベニンの文化財が500点以上所蔵されている。ドイツの動向は、ベニン青銅器を多数所蔵するイギリスの大英博物館やピットリバー博物館に、返還への圧力になると報じられた8)

 続いてベニン青銅器15点を所蔵するロンドンのホーニマン博物館庭園で、返還にむけた新しい方針が3月末に承認された。暴力や強要によって取得された文化財や人間の遺骸を、関係者と返還を話し合うのが適切だと評議会が認めた。19世紀の茶貿易商フレデリック・ホーニマンが収集したコレクションを基礎にして博物館が作られ、ベニンの文化財を49点所蔵している。返還要求をまだ公式に受け取っていないと語っていた9)

 4月にはイギリス国教会がベニン青銅器2点をナイジェリアに返還すると約束した。この青銅器は、1982年にナイジェリア大学と医学教授からカンタベリー大主教に寄贈され、大主教公邸のランベス宮殿に所蔵されていた現代の作品である。1897年のイギリス懲罰遠征時の略奪品とは関係ない10)

 さらにイギリス国教会は、ベニン青銅器だけでなく、世界のあらゆる文化財に関して目録を公開するように促された。オックスフォード大学ピットリバー博物館のダン・ヒックス教授(Dan Hicks)は、イギリス国教会の決定を歓迎するが、世界中から集めた文化財の全目録を教会は公刊すべきであり、バチカンの「巨大な民族誌コレクション」にも焦点を移すべきだと述べた。ケンブリッジ大学の考古学人類学博物館、ブリストル博物館アート・ギャラリー、ハンコック自然史博物館なども返還への動きを見せていた11)

 大英博物館の所蔵品は、大英博物館法(the British Museum Act 1963)にもとづいて、重複品など特殊な事例をのぞいて、売却や譲渡は不可能である。そしてもしも所蔵品を処分する場合には、評議会が決定することが規定されている12)。他の国立の博物館やコレクションについても同様な法律があり、所蔵品の処分は大英博物館とほぼ同じ規定である。しかし政府所有のコレクション以外は、それぞれ自由に独自の方針を定めているので13)、大学博物館や地方博物館などで、大英博物館とは別個に返還が検討されているのである。

 6月に、1868年のマグダラの戦いで略奪された文化財2件がオークションで販売されそうになり、エチオピア大使館が出品を停止させた。物件は、マグダラの戦いを指揮したロバート・ネイピアの書記官補だったウィリアム・アーバスノット陸将補(William Arbuthnot)の遺産に由来するものだった。1件は18世紀前半から中頃のコプト教会の聖書、もう1件は3個の象牙製容器で、1875年にロンドンで口縁に銀縁が施され、アーバスノットの名前とともに「Magdala」、「taken at Magdala」と刻まれていた。エチオピア大使館は2件を「不法に得られた」と主張し、販売会社のバズビーはオークション寸前に出品を取り下げた14)

 9月にマグダラの戦いに関連する文化財が、エチオピアに返還された。作家、ジャーナリスト、ドキュメンタリー制作者のタヒル・シャー(Tahir Shah)が、返還のために彼の財団を通して購入したもので、ロンドンのエチオピア大使館に手渡した。

 返還された文化財は2組のグループからなり、1組は6月にバズビーのオークションで販売されそうになったグループでである。シャーは数百ポンドで個人的に購入した。2組目はブリュッセルのコレクターに由来し、18~19世紀の行列用十字架、司祭用冠、盾、小十字架、お守り用巻物などからなる。シャーは数千ポンドで購入した。大使館は「単一のマグダラ時代の文化財返還としては最大」と述べた15)

エチオピアに返還されたマグダラの戦いの文化財
the Art Newspaper 2021/09/10)


 10月にユネスコの文化財返還促進政府間委員会(ICPRCP、the Intergovernmental Committee for Promoting the Return of Cultural Property)は、パルテノン大理石返還の勧告を、満場一致ではじめて決議した16)。1984年にギリシャが委員会に返還を最初に提議してから、ようやく大きな進展となった。また、状況は施設のレベルではなく政府間の問題であり、イギリス政府には正面から返還に対応する義務があると、勧告のなかで述べられた。

 イギリス政府の報道官は、委員会の決議に賛同しない、我々の立場は明らかだ。パルテノン大理石は合法的に取得された、大英博物館は政府とは独立して運営されている、コレクションに関する決定は博物館評議会で行なわれると応え、ユネスコ政府委員会の決議を一顧だにしなかった17)

 パルテノン大理石が展示されている大英博物館のギリシャ室は、屋根の雨漏り修理のため長期間閉鎖となり、劣悪な収蔵環境をめぐって返還論議に一層拍車をかけた。コロナ感染防止対策のロックダウンで、大英博物館は2020年12月16日から閉鎖されて翌年5月17日に再開館された。しかしギリシャ室は日常点検作業の遅れで閉まったまま、さらに7月の大雨で屋根から雨もりし、修理のため再開室が12月13日まで遅れた18)

 10月末からグラスゴーでCOP26が開催され、会議に参加したジョンソン首相とギリシャ首相キリアコス・ミツォタキス(Kyriakos Mitsotakis)が、11月16日に会談した。ギリシャ首相は、重ねてパルテノン大理石の返還を要求し、代わりに今まで国外に一度も出したことのない貴重な文化財を、大英博物館に貸与すると交換条件も提示した19)

 ジョンソン首相は、合法的に彫像を入手したのだというイギリス政府の長年の主張を繰り返さずに、大英博物館評議会の問題だと語った。つまり政府が対処すべき政治課題ではなく、当事者は大英博物館だとして責任を回避したのである。イギリス政府の見解の変更を問われて、大英博物館は政府から独立している、政治的に介入されない、パルテノン大理石の場所をめぐる質疑は彼らの問題だと彼は応えた20)

 ところでジョンソン首相はオックスフォード大学出身で、在学中は古典を専攻していた。30年以上前の学生時代にパルテノン大理石の返還を説いた彼の論文が、12月に発覚した。1986年6月に当時ギリシャの文化相だったメリナ・メルクーリ(Melina Mercouri)をオックスフォード大学に招待して討論会が行なわれた。メルクーリは女優で大理石返還の口火を切った人物でもあった。討論会のテーマもパルテノン大理石だった。学生組合の委員長だったジョンソンがメイン・スピーカーとなり、紀元前5世紀の文化財はあるべき場所で展示されるべきだと熱心に返還を主張した当時の論文が残されたのである。パルテノン大理石についてジョンソン首相は、学生時代には180度違う意見だった21)

 シチリア島パレルモの博物館が、展示されているパルテノン大理石の破片をギリシャに永久的に貸与し、代わりに、ギリシャは紀元前5世紀のアテネ女神像を博物館に貸与するという交換条件で、ほんの一部分とはいえパルテノン大理石がイタリアから返還されることになった。シチリアとマルタのイギリス領事の未亡人から、パレルモ大学が購入したものだった22)。ギリシャは同じ条件でイギリスにパルテノン大理石の返還を求めている。

 年末にはイギリスの前文化相エド・ベイジー(Ed Vaizey)が、パルテノン大理石をギリシャへ返還すべきだと発言して話題となった23)。パルテノン大理石をめぐり、さまざまな観点から返還への圧力がイギリス政府と大英博物館におよんだ1年となった24)

 パルテノン大理石以外の問題となっている文化財の動向を見てみると、10月27日にケンブリッジ大学ジーザス・カレッジがベニン青銅器の雄鶏像を、翌日28日にはアバディーン大学がベニン青銅器のオバ像を、それぞれナイジェリアに返還した25)

 11月にインドのティプー・スルターン(Tipu Sultan)の虎頭部王座装飾品を、イギリス政府が一時的に輸出禁止に指定した。ティプー・スルターンとは、南インドのマイソール王国の18世紀の王で、侵略してきたイギリス東インド会社に最も激しく抵抗した。しかし1799年の第4次マイソール戦争で首都セリンガパタム城に追いつめられ敗北、戦死した。

 勝利した東インド会社の兵士たちは略奪に狂奔し、町で略奪をまぬがれた家はほとんどなかったと司令官アーサー・ウェルズリー (後の初代ウェリントン公爵)は記している。多くの宝物がイギリスに運ばれ、作家チャールズ・ディケンズや画家ターナーにも影響をあたえたとされる。

虎頭部王座装飾品(GOV.UK 2021/11/12)


 もともと王座は平面八角形の大きなもので、金や無数の宝石で豪華に装飾されて、金工細工の傑作と見なされた。八角形の各頂点には黄金と宝石で装飾された虎の頭部が設置されていた。ティプーは自身を虎に擬して、王座、武器、甲冑、廷臣服/軍服や宮殿内装飾にトラのモチーフを多用した。宮殿は前例のないほど略奪され、王座は、戦利品分配のため、無残にもハンマーで叩き割られた。その結果、現在ほんの一部しか残っていない。

 イギリスの文化財保護制度の一つとして、貴重な文化財が国外に流出するのを防ぐため、輸出を一時的に禁止して購入基金を募り、国内で買い取るという制度がある。この制度を適用して、18世紀のインド産虎頭部装飾品を国内にとどめるため、輸出許可の決定を2022年2月11日にまで延期して、150万ポンド(約2億5,000万円)で購入することをイギリス政府は呼びかけたのである26)

 けれども、植民地から強奪してきた文化財を輸出禁止にして国内にとどめることに、疑問を投げかける人たちもいた。美術史家アリス・プロクター(Alice Procter)は、まずどのようにしてここに来たのか知っているのか?...輸出禁止はナショナリストの貪欲であり、「我々の歴史」とは別な次元の認識で、植民地暴力で強制的に持ち出されたものに適用したと批判した。インドでは、的外れな対応だとSNSで反発が拡がったと報じられた27)

 結局、猶予期限までに購入希望者はあらわれなかった。なお、ティプー・スルターン敗北の戦利品(略奪品)として、現在ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館にある「ティプーの虎」が有名である。ほぼ等身大の横たわる西洋人の喉元に虎が食らいつくという異様な形象をした機械仕掛けの木製オートマトン(自動楽器)である。

ティプーの虎(no 2545 Victoria and Albert Museum


 12月にジンバブエのエマーソン・ムナンガグワ大統領が、セシル・ロードの遺骸と交換に、イギリスやヨーロッパの他の場所に戦利品として持ち去られた民族指導者たちの頭骨返還を表明した。19世紀にイギリス侵略に抵抗し、1898年に処刑されたンブヤ・ネハンダ(Mbuya Nehanda、Nehanda Charwe Nyakasikana)の銅像が、2021年5月に建立された28)。彼女は独立戦争の伝説的人物である。処刑された彼女の頭部、そして他の反乱指導者の頭部を戦利品としてイギリス軍は持ち去った。

 彼女および指導者たちの頭部はロンドンの自然史博物館にあるとされたが、博物館は否定した。2020年にイギリス当局がジンバブエの専門家チームを招待し、博物館の頭骨を調査することになった。議会でも頭骨返還の問題が質問された29)。しかしコロナ禍で調査は延期となってしまった。

 改めてジンバブエ大統領が、独立戦争で犠牲となり持ち去られた英雄たちの頭骨返還を訴えたのである30)。ロードの墓はジンバブエ南部の世界遺産マトボの丘群にある。ムナンガグワ大統領は、彼(ロード)の遺体は出身地に戻すべきだ、そしてヨーロッパにある先祖の遺骸を迎えられると語った。10月にジンバブエ人の頭骨と遺骸の返還を要求するオンライン・キャンペーンが発足し、11月には第1次チムレンガ独立戦争を闘った英雄たちの頭骨と、関連する文化財の返還をイギリス大使館に要求した。

 大英博物館はかたくなに文化財返還の論議を拒み続けているが、イギリス国内外で少しずつではあるが、植民地時代の文化財返還が進行している。今後さらに返還への圧力が、否応なくイギリス政府および大英博物館におよぶのは必須と見てよかろう。


ドイツ

 2018年にフランスで返還レポートが公表されると、ドイツも返還に向けて動き出した。2019年2月に植民地時代文化財の出所調査のために予算が計上され、また同年3月には16州の文化相が、植民地から持ち出された文化財の返還に合意した。さらに2020年には植民地時代の中国由来の文化財についても、出所調査の予算が用意された。

 また植民地文化財に関する取り扱い説明書の第3版『植民地的状況で得られた文化財の取扱いガイドライン(Leitfaden zum Umgang mit Sammlungsgut aus kolonialen Kontexten / Guidelines for German Museums. Care of Collections from Colonial Contexts)』が、2021年2月に公刊された31)。第2版が2019年7月に公表されてから、植民地から取得した文化財に関する実践的な詳しい解説が新たに付け加えられた最終版である。

 3月中旬に、ドイツ外務省文化部部長がナイジェリアのベニンシティを訪問してエド州知事と会談し、略奪されたベニン文化財の返還と、新しく建てられる博物館のための事前考古学調査に協力することに合意したと報じられた32)。ドイツでは、ベルリンの民族学博物館、ドレスデンの民族博物館、ライプツィヒのグラッシィ民族学博物館、フランクフルトの世界文化博物館、シュトゥットガルトのリンデン博物館、ハンブルグ民族学博物館など、約25館の博物館がベニンの文化財を所有しているとされる。

 2020年末に新しく開館したベルリンの民族博物館フンボルト・フォーラムの館長は、ベニン青銅器を展示しないと述べた。フンボルト・フォーラムはベニンの文化財を約530点所蔵し、そのうち440点が青銅器である。フランスの返還レポートの執筆者の一人であったベネディクト・サヴォワ(Bénédicte Savoy)は、ドイツでベニン青銅器を展示することを批判していた33)

 4月29日に、文化相が博物館館長や州文化相たちとオンラインで会談して、ベニン青銅器の返還、デジタル・データベースの作成などについて合意した。6月15日までにドイツ所蔵ベニン青銅器の全点リストを公開、2022年から返還をはじめると具体的な行程も提示された34)。ドイツ政府および博物館関係者たちがベニン青銅器の返還を公式に声明したことで、エポック・メーキングなニュースとして報じられた35)

 5月には、個人所有や小コレクションで所蔵されているベニン青銅器を調査するために、2万5,000ユーロの助成金がドイツ損失美術品財団(the German Lost Art Foundation)で用意された36)。また、ドイツとアフリカ各国の専門家たちの交流を深めるミュージアムラボ(MuseumsLab)というプロジェクトもはじまった37)

 6月には、ドイツ所蔵の1,000点以上のベニン青銅器のデータベースが、「植民地的状況からのコレクション用ドイツ・コンタクト・ポイント(German Contact Point for Collections from Colonial Contexts)」というウェブサイトで公開された38)。なお、ドイツ以外の国の所蔵物件をふくむ世界的データベース「デジタル・ベニン(Digital Benin)」は、2022年に公開される予定である39)

 建設工事の遅れとコロナ禍により、長らく待たされたベルリンの民族博物館フンボルト・フォーラムの一般公開が、ようやく7月に実現した。巨大な施設で年間約1,000件のイベントを催行し、300万人の来館者を予想している40)。前年12月にデジタルで開館したが、新型コロナウィルス感染防止のため、実際の来館入場が遅れていた。

 11月末に、ドイツデジタル図書館(Deutsche Digitale Bibliothek、German Digital Library)に「植民地的状況からのコレクション(Collections from Colonial Contexts)」というポータルサイトが開設された41)

 ドイツは植民地的状況で取得されたコレクションを取り扱う歴史的責任に直面している、関連する歴史と責任をになう前提条件として最も重大なのは透明性である、なぜならば透明性は世界的所有権を明らかにするからだという趣旨にもとづき、博物館など25の文化施設からデジタルデータを集約して、公開された。情報はドイツ語であるが、追加言語をふやし、さらに多くの施設と協力してデータの蓄積を目指すとしている。

 ドイツデジタル図書館は、連邦と各州の財源で運営されているドイツを代表するポータルサイトで、EUの巨大文化プラットフォームのヨーロピアナ(Europeana)を支えている。現在1,400万点以上のデジタル資料が公開されている。ドイツデジタル図書館における植民地時代の文化財のデジタル公開は、植民地責任および文化財返還について、透明性を高めるドイツ政府の熱意をうかがうことができる。現在、6,600点以上の物件が検索可能である。

 12月に港町ハンブルグの民族学博物館(Museum am Rothenbaum Kulturen und Künste der Welt)で、ナイジェリアに返還されるベニンの文化財179点の展覧会が開かれた。青銅器だけでなく象牙製品や宝飾品もふくまれ、多くは1897年のイギリス軍による王宮略奪に由来するものだった。全点が展示されるのは、今回がはじめてだという42)

 2021年にドイツでは、返還に向けて着々と準備が進められた。データベースを整備・公開して、問題となっている植民地時代の文化財について、透明性を高める努力がつみかさねられた。さらに文化財原産国と協力関係を築いて、新しい交流の流れを構築しようとしているのである。


オランダ

 前年2020年10月7日に、文化審議会(植民地コレクション政策審議委員会:the Council for Culture、the Advisory Committee on the National Policy Framework for Colonial Collections)が、植民地時代の文化財を政府は原産国に戻すべきだと、文化相に勧告を提出した43)。この勧告は、2018年のフランスの返還レポートに比肩しうる画期的な提言だった。

 そして返還に向けて、オランダでも植民地時代文化財の大規模な出所調査がはじまった。世界文化博物館(NMVW、Nationaal Museum van Wereldculturen)とアムステルダム自由大学(Vrije Universiteit Amsterdam)が中心となり、5ヶ所の研究機関と5館の博物館の研究者からなる調査チームが結成されることになった。プロジェクトの予算は450万ユーロ、期間は4年間と設定された44)

 2020年に最初の出所調査レポートが刊行された。アフリカ博物館にある宣教師コレクション、日本人実業家根津嘉一郎が寄贈した中国の仏頭、パプアニューギニアの鳥の羽でできた頭飾り、日本の長崎出島を描いた屏風絵などがレポートにふくまれていた。

 2021年に刊行された2冊目のレポートでは、世界文化博物館の所蔵するベニンの文化財コレクションについて報告された。2022年にはパイロット・プロジェクトとしてインドネシアの文化財46点が報告された45)

 返還に向けた出所調査の開始と並行して、オランダ政府は、前年10月に文化審議会から提出された文化財返還の勧告を1月末に承認し、独立した評価委員会の設置、旧植民地諸国と協力や対話を深めると声明した46)。植民地時代の権力不均衡によって、文化財は -実質的に- 頻繁に盗まれた。文化遺産を原産国に返し、国際的協力関係を強化することで、この歴史的不正義の是正に政府は取り組む。旧植民地から確かに盗み出された物件と判明したら、無条件で返還される。「窃盗で取得された文化遺産を、オランダの国家的コレクションとしておいておくわけにいかない」と文化相はコメントした。

 6月5日から8月29日までアムステルダム国立美術館(Rijksmuseum)で「奴隷制(Slavery)」展が開催されて、話題となった。実際の10の話題をもとに、足かせや首輪、労働用具、絵画、古文書、音楽などを陳列して、植民地時代の奴隷制の実態を描き出すというユニークな展示方法だった。

 前年のブラック・ライブズ・マターの抗議運動で表明された人種主義や白人至上主義、植民地主義への批判、さらにはコロナ禍で可視化された根深い不平等など、現代社会の問題には、17世紀から19世紀にかけて世界的規模で展開された奴隷制に歴史的根源があることを、展覧会は分かりやすくしめしたのである。前例のない展覧会は4年前から準備され、多数のスタッフ・関係者の交流と精密な文化財調査によって実現し、時宜にかなった展覧会と評価された47)

 多数の展示品は、もともとオランダの富と権力を物語るものとして美術館で展示されたのだが、今回の展覧会で学芸員たちは、別な解釈をしめした。オランダの教育では奴隷交易ではたした自国の役割をめったに強調しない、奴隷制といえば、アメリカ合州国の話しだと思っている、アメリカの歴史でも、ましてや植民地の歴史でもなく、わが国の歴史であることを明確にするのが重要なのだと、展覧会を準備した美術館の上級歴史学芸員は語っていた48)

奴隷の足かせ「奴隷制」展
(inv. nos. NG-2019-502, -503 Rijksmuseum
奴隷の首輪(inv. no. BK-NM-5144)


 2021年にオランダでは、過去の不正義を正すとして政府が文化財返還を進めることを公式に表明した。返還に向けた準備として、ドイツと同様に大規模な出所調査が着手された。また奴隷制、植民地主義の惨状を文化財でしめす展覧会を国立の美術館で開催し、負の歴史遺産に正面から向き合う姿勢を鮮明にしたのである。


ベルギー

 ベルギーでは2019年に、国連人権委員会のアフリカ系人民に関する専門家作業グループ(United Nations Working Group of Experts on People of African Descent)がベルギーを訪問し、植民地化への謝罪、人種差別を直視するように論評した49)

 2020年にブラック・ライブズ・マターの抗議運動が盛んになり、各地でレオポルド2世像が汚されると、コンゴ独立60周年記念の6月30日にフィリップ国王が植民地支配について「痛惜の念」を表明した。そして7月に代議院(下院)に、16人の議員からなるベルギーの植民地過去に関する特別委員会が設置された。特別委員会の第1回公開会議が10月5日に開かれ、問題を明らかにするため、歴史家、政治学者、法律家など10人の専門家が任命された50)

 10人の専門家による700頁ちかい大部のレポートが、2021年10月26日に刊行された51)。内容は3部に分けられ、第1部は約450頁を費やして「歴史」が記述された。植民地の歴史を実証するにはまだ調査が必要だが、人間労働の暴力的搾取は否定できない顕著な事実だ。体系的暴力はレオポルド2世からコンゴを奪取しても終わらず、圧政、強制労働、その他の暴力が隠ぺいされたままベルギー領コンゴの植民地支配が続いて、搾取と暴力が植民地主義の構造的特徴だと指摘された。

 第2部は「記憶、償い、参加」について、とくに植民者によって持ち出された物や人間の遺骸の返還が論じられた。出所調査をおこなう資金をベルギー国家が提供する必要性があり、ベルギーとアフリカの文化施設による公平な協力関係の組織化を反映させるべきだと専門家たちは主張した。このような償いによる返還がとても重要だと強調された。

 第3部は「植民地主義と人種主義」が論じられた。植民地主義を正当化し美化する植民地的プロパガンダが、強力な社会文化的ルートを通じてベルギーの集団的心象に残り、植民地化された人々が、搾取され、支配され、侮辱され、排除され、残虐にあつかわれることを可能にする身体的、知的、文化的特性をそなえていると見なされている。この見方こそが、現在ベルギーで見られる黒人に対する人種主義と差別につながる要因の一つなのだと分析された。そして専門家たちは、補償をふくめて、差別を是正する一連の勧告を提案した52)

 専門家たちのレポートを受けて、特別委員会の議員たちが困難な政治課題に取り組むことになる。ヨーロッパの旧宗主国にとって、植民地過去の不正義に正面から向き合い、謝罪し、償い、補償するのは新しい時代を切り開く転換点といえるだろう。だが、特別委員会の動きは鈍かった。2ヶ月以上たってもわずかな進展しかなく、レポートを執筆した専門家の一部は、代議院の成果に疑いをもちはじめている53)

 特別委員会の専門家レポートでも文化財の返還は重要な位置をしめていたが、特別委員会さらには代議院がどのような施策を講ずるのか未知数である。一方、特別委員会とは無関係に、政府および博物館を中心にして返還への動きは着々と進んでいった。

 まず6月2日に博物館関係者や研究者などからなる独立したグループが、ベルギーにある植民地コレクションの取り扱いと返還に関する倫理原則を発表した54)。返還要求を検討する中立の委員会と、出所調査のための独立機関の設置、そして返還を促進する新しい法律の制定を政府に求めた。

 フランスやオランダ、ドイツの返還施策と同じような内容が提案された。ベルギーでは政府および博物館に返還への志向が見受けられないので、独自の提案をたたき台にして、多くの関係者やアフリカ離散民、原産国のコミュニティをふくめて広範な議論が必要なのだと、執筆者グループは述べた。学術政策相トーマス・ダーミン(Thomas Dermine)は、返還論議にとても有益な貢献だとして独立レポートを歓迎した55)

 6月下旬に、植民地時代に略奪された文化財を国立のコレクションから返還する計画を政府が承認した。植民地時代に不法に取得された文化財の問題を協力して解決するため、コンゴ民主共和国との2国間協定をトーマス・ダーミンが内閣に提案したのである。「問題はそれらをベルギーにとどめるべきかどうかではない。それらは我々のものではないのだ」とダーミンは語った。ベルギーとコンゴとの協力は、保存、研究、目録化、修復の合同事業や、2019年にキンシャサで開館された国立の新博物館の限られた収納場所に、ベルギーが収納スペースを創る援助もふくまれる。

 王立中央アフリカ博物館のコレクションのうち、約280点、0.3%が略奪品と認定され、約60%が合法的に取得された。残りの約40%近くについては取得された状況が分からない。出所調査を加速させ、盗まれた物件はコンゴに法的に移す計画だ。2024年に終わる現在の議会期間中に返還がはじまるのを期待したい。2つの国の対話を築くのが原則で、物の移動は2国間外交の骨組みの部分となるべきだと、ダーミンは述べた56)

 こうしてベルギー政府も文化財返還について、公式に取り組むことを決めたのである。アフリカ由来の文化財を最も多く所蔵しているのは、7,500万ユーロで改装されたアフリカ博物館で、12万点の収蔵品のうち85,000点がコンゴからもたらされたとされる57)

 11月9日から翌年3月6日まで、アフリカ博物館で「人間動物園(Human Zoo: The Age of Colonial Exhibitions)」の展覧会が開催された。1897年にレオポルド2世が267人のコンゴ人を博物館のあるテルビュレンの公園に連れてきて、動物園の動物のように見世物にした。屋外ですごすことを強要され、雨にうたれてインフルエンザと肺炎で男性6人と女性1人が死亡、カトリック教会の墓に埋められた。植民地主義の冷酷な悲劇から125周年を記念して、19世紀前半から20世紀中頃まで世界中で発生した差別的な人間見世物の歴史をしめす展覧会が開かれたのである。

1897年の人間動物園で死亡したコンゴ人の墓
the New York Times 2021/12/29)


 1884~85年のベルリン会議でコンゴ自由国が承認された。プロパガンダのためレオポルド2世は1897年のブリュッセル世界万博の時に植民地部門を設置し、植民地宮殿(Palace of the Colonies)を建設して、民族資料、動物のはく製、コーヒー、ココアなどコンゴの輸出産品などを展示した。公園には人間動物園を造り、アフリカの村落を再現させた。1898年に植民地宮殿は常設展示のコンゴ博物館となり、現在のアフリカ博物館に継承されている。2013年に改装のため閉館され、2018年12月に新しい館名のもとで再開館された。

 博物館総裁グイド・グリィジーレス(Guido Gryseels)は、博物館が数十年にわたり人種差別を助長した原因の一つだったと認め、常設のコレクションは1956年から21世紀初頭まで手つかずまま放置され、アフリカ人について欺瞞をひろげたと語った。4才か5才の時に博物館を訪れ、アフリカにネガティブな印象をいだいたと回想している。「とくに槍をもった野生のアフリカ人を思い出す。彼らはそこで私を殺すような気がした」。

 アフリカ人が野性的で裸で疾駆する、彼らは文明化してないという印象を何世代もつづけてあたえられたら、これらの世代が多文化社会に問題をかかえることに驚かないだろうと述べた。

 2001年に総裁に就任してから、グリィジーレスはベルギーの植民地主義を批判する多角的な展覧会を開催し、またアフリカの国々や雇用したアフリカ人子孫のスタッフと返還の話し合いにも関与している。「人間動物園」展は、我々の過去を見つめる、目で正しく見て過去を受け入れる、博物館として問題に寄与していることを実感できる機会になると彼は語った58)

 フランス、ドイツ、オランダに続いて、ベルギーでも政府が文化財返還を推進することになった。代議院の植民地過去に関する特別委員会では、植民地責任を明確化して文化財返還や補償を行なう施策が専門家たちから提言された。専門家レポートが今後どの程度実現されるのか不明である。しかしながら専門家レポートは、現在の問題がベルギー植民地の歴史に根源し、今なお解決しなければならないベルギー国家の課題であることを、議会そして社会に明示したのであった。また王立の博物館では、植民地主義の残酷な実態が文化財によって描写され、過去に向き合う重要性を人々に告げているのである。


アメリカ

 ヨーロッパ帝国主義の旧宗主国の間でアフリカ文化財の返還が実現し、世界の博物館で文化財返還が脱植民地化あるいは倫理問題として次第に大きく取り上げられるようになると、アメリカの博物館でもアフリカ由来の文化財に関心が寄せられるようになった。

 6月9日にメトロポリタン美術館が、16世紀のベニン青銅器2点の返還、さらに美術館に購入を打診された14世紀の真鍮製頭部像の返還を仲介したと声明した。2点のベニン青銅器は1897年のイギリス軍略奪後に大英博物館にあったもので、後にナイジェリア・ラゴスの国立博物館に収蔵され、さらに博物館から流出して市場に出回り、ニューヨークのコレクターが取得した。コレクターが1991年にメトロポリタン美術館に寄贈した。

 メトロポリタン美術館には約160点のベニンの文化財が収蔵されていて、多くは1970年代と90年代にコレクターたちが美術市場で取得したものである。3点の青銅器は11月22日に正式にナイジェリアへ返還された59)

 11月にはスミソニアン博物館の国立アフリカ美術館で、ベニン青銅器が展示から外され、返還が計画されていると報じられた。「過去の傷をいやす最大限の努力なくして未来を築くことはできない」と、就任したばかりの新館長ンゲアー・ブランケンバーグ(Ngaire Blankenberg)は語った。

 美術館にはベニンの文化財21点が展示されていたが、全部で39点所蔵しているという。約半分は1897年のイギリス軍略奪にたどりつく60)。しかし、すぐさま返還が実現したわけではない。2022年4月末にスミソニアン博物館は新しい方針として、法律的解釈よりも倫理を重視する返還政策を採用した。これにより、ベニン青銅器の返還も本格化すると見られている61)

 アフリカの文化財ではないが、スミソニアン博物館の国立アメリカ・インディアン博物館が、6月にプレ・インカ時代の胸に飾る黄金ディスクをペルーに返還した。ディスクは顔を表現していて、太陽神あるいはネコ科の動物を意味しているとされ、諸説ある。インカ帝国以前の約B.C.800~A.D.1の作品で、クスコではデザインを市の紋章にするほど、ペルーでは人々に馴染みぶかい文化財となっている。

 黄金のディスクは、19世紀中頃にペルー大統領だったホセ・ルフィーノ・エチェニケ(José Rufino Echenique)が所有していたが、彼の子孫がドイツ人医師でコレクターのエデュアルト・ガッフロン(Eduard Gaffron)に売却。1912年にアメリカ人実業家ジョージ・グスタフ・ヘイ(George Gustav Heye)がガッフロンから購入した。その後ヘイのコレクションを基礎にしてアメリカ・インディアン博物館が設立された。出土地などは不明である。

 2017年にクスコ市が返還を要求する公式書簡をスミソニアン博物館に送っていた。当初長期間の貸与が予想されたが、返還によって先住民族のコミュニティに活力をあたえるとして、ディスクを処分し、永久に返すことを博物館が決めたのである62)

スミソニアン博物館がペルーに返還した黄金ディスク
Smithsonian Magazine 2021/06/24)


 スミソニアン博物館が、厳密な法律解釈ではなく、倫理を優先する返還政策に転換させたことは重要だろう。アメリカを代表する博物館の返還に関する基本姿勢の変化は、他のアメリカの博物館・美術館にも影響をおよぼすにちがいないからである。


おわりに

 2017年にマクロン大統領がアフリカに文化財を返還すると公言し、そして翌年にはサヴォワとサルの画期的な返還レポートが公表されてから、文化財返還の実際の道のりは遅々とした動きだった。旧宗主国からかつての植民地国へ文化財を返還するという歴史的大事業には、それなりの準備が必要であることも次第に明らかになってきた。単に物を移送すれば返還の事業が完了するのではなく、さまざまな付帯的作業が総合的に執り行なわれているのである。いくつかの特徴を見てみよう。

 まず第1に、植民地過去に正面から向き合うという歴史認識の自覚である。現代社会の課題となっている不公正、不平等は奴隷制や植民地主義に歴史的淵源があることが学術的にしめされ、文化財や文化遺産など実物によって過去の惨状を理解する傾向が顕著となった。2020年に広範におきたブラック・ライブズ・マターの抗議運動にも関連して、歴史的不正義を告発する勢いが強くなったのである。

 イギリスでは、奴隷制や帝国主義的世界収奪の実態がカントリー・ハウスによって語られるようになった。同じようにオランダやベルギーでも、奴隷制や植民地主義の過酷な現実が、国の主要な博物館で収蔵する文化財によって提示された。

 植民地からの文化財の持ち出しは、過酷だった植民地支配の一環として発生したのであり、この歴史的不正を是正するために文化財返還が国家の政策となりはじめたのである。

 したがって文化財返還は、取得の合法性を厳密な基準とする法的解釈ではなく、倫理を本位とする方向へと発展している。イギリス軍が強奪してきたベニンの文化財取得は不当だったとして、ドイツは返還に動き出した。スミソニアン博物館は黄金ディスクをペルーに返還し、さらには倫理を優先する文化財返還の規則に転じた。これらの物件は、以前ならば、市場で購入された合法的取得と解釈され、所持の絶対的正当性が主張されて、返還要求は門前払いとなったはずである。

 第2に出所調査の進展と公開性である。植民地由来の文化財の実態を把握するには、広範な出所調査が不可欠である。ドイツは2019年から多額の予算を植民地時代のコレクション出所調査に投じている。アフリカだけでなく、アジアの植民地も対象範囲にふくめている。オランダでも出所調査が進められ、逐次成果が公表されている。

 近年、世界の主要博物館・美術館の収蔵データベースがネットで公開されるようになった。出所調査で蓄積された植民地時代の文化財データベースも、ネット公開を期待したい。ドイツはベニンの文化財だけでなく、文化財返還過程の透明性を高めるために、植民地由来の包括的な文化財データベースを公開した。文化財に限らず、情報を積極的に公開して政策の透明性を高める努力は、政府の信頼性アップに欠かせない。

 第3に返還する相手国と協議を重ねて新しい信頼関係を構築することにある。文化財返還は、単なる物の移動ではない。過去の不正義を正して、対立や相互不信を緩和させる和解の過程でもある。文化財返還が2国間交流のさまざまな側面に改善をもたらす可能性が考えられる。

 2018年のフランスの返還レポートは、副題が「新しい倫理関係に向けて」とあるように、返す側と受け取る側との倫理にもとづく将来的展望を指向していた。マクロン大統領は2021年5月にルワンダを訪問し、ルワンダ大虐殺におけるフランスの責任を認めた。公式の謝罪はなかったものの、「歴史に正面から向き合う義務」があると述べた。また8月には仏領ポリネシアで、同じく謝罪はしなかったが、核実験の責任を認め、実験情報の開示や補償に向けた健康調査の加速を約束した。マクロンは、フランスの歴史的責任を認めて新しい外交関係を展開させる一部として、文化財返還を促進させているように見える。

 2022年4月のフランス大統領選挙で、現職マクロンが極右「国民連合」のマリーヌ・ルペン党首を破って当選した。マクロンのもとで文化財返還の流れは、途切れることなく続くだろう。

 ベルギー政府は文化財返還に向けて、対話を原則としたコンゴとの外交的枠組みという長期的取り組みを想定している。代議院の特別委員会への専門家レポートでは、ベルギーの歴史的責任が指摘されて、文化財返還や補償などによって現在の人種主義を正す指針が提案された。旧植民地諸国との関係がベルギー社会全体で総合的に再認識され、今後の外交にも反映される可能性がある。

 ヨーロッパ帝国主義旧宗主国の間では近年脱植民地化の認識が高まり、過去の悲惨な歴史的実態に向き合う姿勢がますます鮮明となってきた。近代日本も脱亜入欧をかかげて帝国主義の仲間入りをした旧宗主国だが、現在日本では、ヨーロッパほど植民地責任が意識されていないように見える。

 2022年2月1日に日本政府は「佐渡島の金山」の世界文化遺産への推薦を閣議了解し、推薦書をユネスコに提出した。2021年末に佐渡金山が世界遺産の推薦候補となると、佐渡には朝鮮人強制労働の歴史問題があるとして、韓国で反発が広まっていた。韓国側の反発に対抗して岸田首相は官邸内に「歴史戦チーム」を設置したと、まるで挑戦状を突きつけるようにNHKは報じた。

 佐渡金山の推薦概要では、西三川砂金山と相川鶴子金銀山を構成資産とし、16~19世紀にかけての伝統的手工業が顕著な普遍的価値(OUV)に相当すると説明されている。2012年に重要文化財に指定された近代以降の旧佐渡鉱山採鉱施設は、なぜか推薦にふくまれていない。指定文化財となるほど重要な意義をもつ近代の鉱業施設を切り離して、産業遺産として鉱山の歴史的評価を下すことは可能なのだろうか。近代を除外した理由がよく分からない。

 2015年に世界遺産となった「明治日本の産業革命遺産」でも朝鮮人強制労働の歴史問題がある。明治産業遺産を説明する産業遺産情報センターが2020年3月31日に東京で開設され、6月15日に一般公開された。韓国政府は、強制労働を認めて記憶にとどめる措置を盛り込んでいない、主要当事国である韓国側の持続的な対話要請に応じていないと批判していた63)。日韓の対立を受けて、ユネスコから3人の専門家が2021年6月に日本へ派遣され、翌月に調査レポートが公表された64)

 レポートによると、1910年以後の資料はとても少なく、とくに軍事時期はほとんど言及されていない。OUVの最重要性を減ずることなく強制労働の習慣や軍事目的の利用が十分に認識される、他の同じような歴史をもつ産業遺産遺跡でしめされるような、犠牲者の記憶を目的とした展示がまったくない。情報センターの重要な目的は犠牲者を記憶にとどめることだ。遺産の解釈に関する対話で他の国の専門家がふくまれていない、情報センターのコレクションですら他の国の重要な歴史資料がふくまれていないと、情報センターの不備が指摘された。

 専門家たちのレポートを受けて世界遺産委員会は、関連する決議を日本が十分に履行していないとして、a)OUVと歴史全体を理解する各サイトの説明戦略、b)劣悪な環境で働いた朝鮮人の強制労働を理解する手段、c)犠牲者を記憶する情報センターなどの設置、d)OUVの時期とそれ以外との全体を歴史説明する国際的慣例、e)関係者との対話継続を要求した。そして2022年12月1日までにレポート提出を要請した65)

 世界的に脱植民地化の潮流が活発となるなか、とくにヨーロッパ旧宗主国では、奴隷制や植民地主義に正面から向き合い、過酷な歴史的惨状を文化財・文化遺産で展示することが一般的となってきた。そして過去の不正義を正すため旧植民地諸国と対話・和解をすすめて、新しい外交へと志向している。植民地時代の文化財の返還は、この過去への省察を土台にして取り組まれているのである。日本の産業遺産情報センターの不備を指摘した専門家のレポートや世界遺産委員会の決議も、世界の動きを反映した至極真っ当な対応と考えられる。

 長らく日本では分断と対立を基調とする強権的政治がつづき、政府は植民地過去を認めるどころか、歴史的事実の抹消に奔走し、東アジア諸国との対立をふかめている。外交的展望はまったくない。時代の流れから取り残される日本の落差を感じざるをえない。



参考
2022年の動向
森本和男「ドイツがベニン青銅器を返還 -「パンドラの箱が開いた」-」(2023年7月)
2020年の動向
森本和男「ブラック・ライヴズ・マターとモニュメント・文化財 -加速する脱植民地化の動き-」(2021年11月)
2019年の動向
森本和男「フランスの文化財返還レポートから1年 -欧米の脱植民地化の流れと文化財- 」(2020年4月27日)
2018年の動向
森本和男「フランスのアフリカ文化財返還政策とその波紋」『韓国・朝鮮文化財返還問題連絡会議年報2019』No. 8(2019年5月1日)



1) Looted Treasures Begin a Long Journey Home From France(the New York Times 2021/10/28)
 https://www.nytimes.com/2021/10/28/arts/design/france-benin-restitution.html
  Colloque scientifique international | Semaine culturelle du Bénin(Musée du quai Branly - Jacques Chirac 2021/10/27)
 https://www.youtube.com/watch?v=_vBJPtc-y8Y
2) France hands back 26 treasures looted from Benin(ArtDaily 2021/11/10)
 https://artdaily.com/news/140973/France-hands-back-26-treasures-looted-from-Benin#.YjF2ujVUuf2
3) Réception des biens culturels : Hommages solennels au Palais de la Marina pour le retour de 26 trésors royaux du Bénin(Les trésors royaux du Bénin
 https://tresorsroyaux.bj/article/11/reception-biens-culturels-hommages-solennels-palais-marina-retour-tresors-royaux-benin/
4) Benin pushes for 'full restitution' as 26 looted objects destined to return to the country go on show at the Quai Branly in Paris(the Art Newspaper 2021/10/25)
 https://www.theartnewspaper.com/2021/10/25/benin-pushes-for-full-restitution-as-26-looted-objects-destined-to-return-to-the-country-go-on-show-at-the-quai-branly-in-paris
5) ‘They fill me with emotion’ … Benin celebrates the return of its looted treasure(the Guardian 2022/02/22)
 https://www.theguardian.com/artanddesign/2022/feb/22/art-benin-looted-african-nation-french-army-priceless-artefacts-treasure
6) British PM rules out return of Parthenon Marbles to Greece(ArtDaily 2021/03/13)
 https://artdaily.com/news/133834/British-PM-rules-out-return-of-Parthenon-Marbles-to-Greece#.YjVpXDVUuf2
7) In a Huge Win for Restitution Activists, a Scottish University Will Become the First Western Institution to Fully Repatriate a Benin Bronze(artnet news 2021/03/24)
 https://news.artnet.com/art-world/benin-bronze-aberdeen-restitution-1954342
  University of Aberdeen to return pillaged Benin bronze to Nigeria(the Guardian 2021/03/25)
 https://www.theguardian.com/world/2021/mar/25/university-of-aberdeen-to-return-pillaged-benin-bronze-to-nigeria
  Regional museums break ranks with UK government on return of Benin bronzes(the Guardian 2021/03/26)
 https://www.theguardian.com/world/2021/mar/26/regional-museums-break-ranks-with-uk-government-on-return-of-benin-bronzes
8) Berlin's plan to return Benin bronzes piles pressure on UK museums(the Guardian 2021/03/23)
 https://www.theguardian.com/artanddesign/2021/mar/23/berlins-plan-to-return-benin-bronzes-piles-pressure-on-uk-museums
9) London’s Horniman Museum—home to 15 Benin bronzes—announces new ‘transparent procedures’ for looted object requests(the Art Newspaper 2021/04/07)
 https://www.theartnewspaper.com/2021/04/07/londons-horniman-museumhome-to-15-benin-bronzesannounces-new-transparent-procedures-for-looted-object-requests
  A London Museum Has Put Forth a Plan That Could Make It the Next Institution to Repatriate Benin Bronzes(artnet news 2021/04/07)
 https://news.artnet.com/art-world/london-museum-might-repatriate-benin-bronzes-1957559
10) Church of England to return Benin Bronzes given to it by Ambrose Alli, UNN(the Guardian 2021/04/08)
 https://guardian.ng/news/church-of-england-to-return-benin-bronzes-given-to-it-by-ambrose-alli-unn/
11) Calls for full inventory of world artefacts held by Church of England(the Guardian 2021/04/09)
 https://www.theguardian.com/world/2021/apr/09/calls-for-full-inventory-of-world-artefacts-held-by-church-of-england-benin-bronzes
12) the British Museum Act 1963(the British Museum
 https://www.britishmuseum.org/sites/default/files/2019-10/British-Museum-Act-1963.pdf
13) Deaccessioning Public Collections(Artquest 2011)
 https://artquest.org.uk/artlaw-article/deaccessioning-public-collections/
  Deaccessioning in the United Kingdom(Museums & Deaccessioning in Europe
 https://www.museumsanddeaccessioning.com/countries/united-kingdom/
14) Looted Maqdala objects—pulled from rural English auction at the last minute—will be returned to Ethiopia(the Art Newspaper 2021/06/16)
 https://www.theartnewspaper.com/2021/06/16/looted-maqdala-objectspulled-from-rural-english-auction-at-the-last-minutewill-be-returned-to-ethiopia
15) Maqdala treasures looted by British troops returned to Ethiopia in 'largest single restitution'(the Art Newspaper 2021/09/10)
 https://www.theartnewspaper.com/2021/09/10/maqdala-treasures-looted-by-british-troops-returned-to-ethiopia-in-largest-single-restitution
  Artifacts From the Battle of Maqdala Have Returned to Ethiopia in ‘the Most Significant Heritage Restitution’ in the Country’s History(artnet news 2021/09/10)
 https://news.artnet.com/art-world/ethiopian-artifact-restitution-2007704
16) Decisions, ICPRCP/21/22.COM/Decision(UNESCO Digital Library 2021/09)
 https://unesdoc.unesco.org/ark:/48223/pf0000379856
17) The U.K. Has Rejected UNESCO’s Call on British Authorities to Reassess Their Position on the Contested Parthenon Marbles(artnet news 2021/10/05)
 https://news.artnet.com/art-world/british-museum-reassess-parthenon-marbles-2016998
18) How British Museum's maintenance woes have kept Parthenon Marbles off view for a full year(the Art Newspaper 2021/11/02)
 https://www.theartnewspaper.com/2021/11/02/how-maintenance-woes-kept-parthenon-marbles-off-view
19) In a New Bid for the Return of the Parthenon Marbles, Greece’s Prime Minister Is Offering to Loan the U.K. Other National Treasures(artnet news 2021/11/15)
 https://news.artnet.com/art-world/greek-prime-minister-offers-trade-for-parthenon-marbles-2034905
20) Return of Parthenon marbles is up to British Museum, says No 10(the Guardian 2021/11/16)
 https://www.theguardian.com/artanddesign/2021/nov/16/return-of-parthenon-marbles-is-up-to-british-museum-says-no-10
  Boris Johnson says British Museum trustees must decide fate of the Parthenon Marbles(the Art Newspaper 2021/11/17)
 https://www.theartnewspaper.com/2021/11/17/boris-johnson-says-british-museum-trustees-must-decide-fate-of-the-parthenon-marbles
21) Boris Johnson’s zeal to return Parthenon marbles revealed in 1986 article
the Guardian 2021/12/18)
 https://www.theguardian.com/artanddesign/2021/dec/18/boris-johnsons-zeal-to-return-parthenon-marbles-revealed-in-1986-article
22) In a Breakthrough, Italy Will Return a Piece of the Parthenon Frieze to Greece Under a Long-Term Loan Agreement(artnet news 2021/12/01)
 https://news.artnet.com/art-world/parthenon-greece-swap-italy-2042252
  Italy returns Parthenon fragment to Greece amid UK row over marbles(the Guardian 2022/01/05)
 https://www.theguardian.com/artanddesign/2022/jan/05/italy-returns-parthenon-marbles-fragment-greece-uk-row
  Your move, British Museum: Sicily sends back Parthenon fragment to Athens(the Art Newspaper 2022/01/06)
 https://www.theartnewspaper.com/2022/01/06/sicily-sends-back-parthenon-fragment-to-athens
23) Former U.K. Culture Minister Says the Parthenon Marbles Should Be Returned to Greece: ‘It Would Be a Wonderful Thing’(artnet news 2021/12/22)
 https://news.artnet.com/art-world/parthenon-marbles-restitution-2053596
  Parthenon Marbles should be returned to Greece, former UK culture minister says(the Art Newspaper 2021/12/22)
 https://www.theartnewspaper.com/2021/12/22/parthenon-marbles-should-be-returned-to-greece-former-uk-culture-minister-says
24) The U.K. Has Held Onto the Parthenon Marbles for Centuries—But the Tide Is Turning. Here’s Why I Expect Them to Be Returned by 2030(artnet news 2021/12/15)
 https://news.artnet.com/opinion/parthenon-marbles-dan-hicks-2048268
  As Europe Returns Artifacts, Britain Stays Silent(the New York Times 2021/12/20)
 https://www.nytimes.com/2021/12/20/arts/design/parthenon-marbles-restitution.html
25) Cambridge college to be first in UK to return looted Benin bronze(the Guardian 2021/10/15)
 https://www.theguardian.com/education/2021/oct/15/cambridge-college-to-be-first-uk-return-looted-benin-bronze
  Cambridge University college becomes first UK institution to return looted Benin bronze to Nigeria(the Art Newspaper 2021/10/28)
 https://www.theartnewspaper.com/2021/10/28/cambridge-university-college-becomes-first-uk-institution-to-return-looted-benin-bronze-to-nigeria
  After Years of Debate, Two Universities Have Become the First U.K. Institutions to Restitute Benin Bronzes(artnet news 2021/10/29)
 https://news.artnet.com/art-world/uk-universities-restituted-benin-bronzes-2027670
26) 18th-Century Tipu Sultan Throne Finial worth £1.5 million at risk of leaving UK(GOV.UK 2021/11/12)
 https://www.gov.uk/government/news/18th-century-tipu-sultan-throne-finial-worth-15-million-at-risk-of-leaving-uk
  Case 8 - Tipu Sultan Throne Finial, Reviewing Committee - case hearings 2021/22(Arts Council England
 https://www.artscouncil.org.uk/reviewing-committee-case-hearings
  Expert's statement
 https://www.artscouncil.org.uk/sites/default/files/download-file/Final_Note%20of%20case%20hearing_finial_%20updated.pdf
  Note of case hearing
 https://www.artscouncil.org.uk/sites/default/files/download-file/EA%20statement_finial.pdf
  Note of outcome
 https://www.artscouncil.org.uk/sites/default/files/download-file/Note%20of%20outcome_finial.pdf
27) UK puts temporary export ban on Tipu Sultan tiger's head—but commentators claim it was looted in the 18th century(the Art Newspaper 2021/11/16)
 https://www.theartnewspaper.com/2021/11/16/uk-puts-temporary-export-ban-on-finial-from-the-throne-of-tipu-sultanbut-commentators-claim-it-was-looted-in-the-18th-century
  UK is Auctioning Tipu Sultan's Throne Finial Worth Rs 14 Crore it Looted From India(NEWS18 2021/11/16)
 https://www.news18.com/news/buzz/uk-is-auctioning-tipu-sultans-throne-finial-worth-rs-14-crore-it-looted-from-india-4447910.html
28) Spiritual Medium Mbuya Nehanda Defied Colonialists in 19th-Century Zimbabwe(Smithsonian Magazine 2021/05/26)
 https://www.smithsonianmag.com/smart-news/zimbabwe-unveils-statue-anti-colonial-leader-mbuya-nehanda-180977835/
29) Nehanda, Kaguvi remains head home(the Sunday Mail 2020/06/12)
 https://www.sundaymail.co.zw/nehanda-kaguvi-remains-head-home
30) Zimbabwe wants to make a trade with the UK for Cecil Rhodes’ remains(the Quartz Africa 2021/12/21)
 https://qz.com/africa/2104812/zimbabwe-wants-to-trade-rhodes-remains-for-war-trophy-skulls/
31) Guidelines for the Care of Collections from Colonial Contexts (Deutscher Museumsbund 2021)
 https://www.museumsbund.de/publikationen/guidelines-on-dealing-with-collections-from-colonial-contexts-2/
  Guidelines for German Museums. Care of Collections from Colonial Contexts (英語版、Deutscher Museumsbund)
 https://www.museumsbund.de/wp-content/uploads/2021/03/mb-leitfaden-en-web.pdf
32) Germany moves towards full restitution of Benin bronzes(the Art Newspaper 2021/03/23)
 https://www.theartnewspaper.com/2021/03/22/germany-moves-towards-full-restitution-of-benin-bronzes
  In a Historic Move, Germany Has Entered Into Talks to Return the Contested Benin Bronzes in Its National Museums to Nigeria(artnet news 2021/03/23)
 https://news.artnet.com/art-world/restitution-benin-bronzes-humboldt-forum-1953883
33) Berlin Museum Won’t Show Benin Bronzes, Begins to Pursue Return of Artifacts(ARTnews 2021/03/22)
 https://www.artnews.com/art-news/news/humboldt-forum-benin-bronzes-return-process-1234587480/
34) Statement on the handling of the Benin Bronzes in German museums and institutions(Federal Foreign Office 2021/04/30)
 https://www.auswaertiges-amt.de/en/newsroom/news/benin-bronze/2456788
35) In a ‘Historic Milestone,’ Germany Will Begin to Return Benin Bronzes From Its Public Collections to Nigeria in 2022(artnet news 2021/04/29)
 https://news.artnet.com/art-world/nigeria-germany-benin-bronzes-1963143
  Germany pledges to return Benin bronzes to Nigeria starting in 2022(the Art Newspaper 2021/04/30)
 https://www.theartnewspaper.com/2021/04/30/germany-pledges-to-return-benin-bronzes-to-nigeria-starting-in-2022
  Germany Sets Out Plans to Return Benin Bronzes(the New York Times 2021/04/30)
 https://www.nytimes.com/2021/04/30/arts/design/benin-bronzes-germany.html
36) German museums to receive up to €25,000 for research into their Benin bronzes ahead of restitutions next year(the Art Newspaper 2021/05/12)
 https://www.theartnewspaper.com/2021/05/12/german-museums-to-receive-up-to-euro25000-for-research-into-their-benin-bronzes-ahead-of-restitutions-next-year
37) Germany launches African museum exchange programme to discuss returning looted objects(the Art Newspaper 2021/05/25)
 https://www.theartnewspaper.com/2021/05/25/germany-launches-african-museum-exchange-programme-to-discuss-returning-looted-objects
38) Benin Bronzes in Germany(German Contact Point for Collections from Colonial Contexts
 https://www.cp3c.org/transparency/benin-bronzes.php
  Database of Benin-Bronzes in Germany(German Contact Point for Collections from Colonial Contexts
 https://www.cp3c.org/benin-bronzes/index.php
39) Digital Benin(Museum am Rothenbaum Kulturen und Künste der Welt
 https://digital-benin.org/
40) Berlin’s Embattled Humboldt Forum Has Opened Its Doors at Last. Can It Persuade Its Critics to Give It a Chance?(artnet news 2021/07/19)
 https://news.artnet.com/art-world/humboldt-forum-opening-at-last-1990180
  Humboldt Forum opens in Berlin—finally for real(the Art Newspaper 2021/07/19)
 https://www.theartnewspaper.com/2021/07/19/humboldt-forum-opens-in-berlinfinally-for-real
  A Long-Awaited Museum Opens, With Agony and Ivory(the New York Times 2021/07/22)
 https://www.nytimes.com/2021/07/22/arts/design/humboldt-forum-berlin-ivory.html
41) Collections from Colonial Contexts(A portal of the German Digital Library
 https://ccc.deutsche-digitale-bibliothek.de/
  “Collections from Colonial Contexts” online portal launched(Deutsche Digitale Bibliothek 2021/11/30)
 https://www.deutsche-digitale-bibliothek.de/content/journal/aktuell/onlineportal-sammlungsgut-aus-kolonialen-kontexten-gestartet?lang=en
42) Hamburg shows its Benin artefacts before restituting them to Nigeria(the Art Newspaper 2021/12/15)
 https://www.theartnewspaper.com/2021/12/15/hamburg-to-show-benin-artefacts-before-restituting-them-to-nigeria
  A Send-Off Exhibition of 179 Looted Objects in Hamburg Marks ‘the Beginning of the Return’ of Germany’s Benin Bronzes to Nigeria(artnet news 2021/12/17)
 https://news.artnet.com/art-world/hamburg-benin-bronzes-return-2050827
43) Summary of report Advisory Committee on the National Policy Framework for Colonial Collections(RAAD VOOR CULTUUR 2020/10/07)
 https://www.raadvoorcultuur.nl/english/documenten/adviezen/2020/10/07/summary-of-report-advisory-committee-on-the-national-policy-framework-for-colonial-collections
  Colonial Collection and a Recognition of Injustice(英語版)
 https://www.raadvoorcultuur.nl/binaries/raadvoorcultuur/documenten/adviezen/2021/01/22/colonial-collection-and-a-recognition-of-injustice/Colonial+Collection+a+Recognition+of+Injustice.pdf
44) NMVW and VU start research project on colonial collections(NMVW Nationaal Museum van Wereldculture 2020/12/07)
 https://www.wereldmuseum.nl/en/nmvw-and-vu-start-research-project-on-colonial-collections
  Forging ahead with historic restitution plans, Dutch museums will launch €4.5m project to develop a practical guide on colonial collections(the Art Newspaper 2021/03/10)
 https://www.theartnewspaper.com/2021/03/10/forging-ahead-with-historic-restitution-plans-dutch-museums-will-launch-euro45m-project-to-develop-a-practical-guide-on-colonial-collections
45) Provenance series(Tropenmuseum in Amsterdam
 https://www.tropenmuseum.nl/en/provenance-series
  PPROCE - Provenance Research on Objects of the Colonial Era(Tropenmuseum in Amsterdam
 https://www.tropenmuseum.nl/en/our-collection-0/pproce-provenance-research-on-objects-colonial-era
46) Government: Redressing an injustice by returning cultural heritage objects to their country of origin(the Government of the Netherlands 2021/01/29)
 https://www.government.nl/ministries/ministry-of-education-culture-and-science/news/2021/01/29/government-redressing-an-injustice-by-returning-cultural-heritage-objects-to-their-country-of-origin
  Netherlands takes lead in Europe’s efforts to return artefacts to former colonies(the Art Newspaper 2021/02/04)
 https://www.theartnewspaper.com/2021/02/04/netherlands-takes-lead-in-europes-efforts-to-return-artefacts-to-former-colonies
47) ‘Colonial history is international history’: Rijksmuseum reflects on slavery’s legacy in new show(the Art Newspaper 2021/05/19)
 https://www.theartnewspaper.com/2021/05/19/colonial-history-is-international-history-rijksmuseum-reflects-on-slaverys-legacy-in-new-show
  The Rijksmuseum’s Timely Exhibition on the History of Slavery Focuses on the Individual Stories of Those Who Lived Through It(artnet news 2021/05/20)
 https://news.artnet.com/art-world/rijksmuseum-slavery-exhibition-1970425
  We tackled Dutch slaving history—the Rijksmuseum's exhibition could serve as a model of its kind(the Art Newspaper 2021/07/07)
 https://www.theartnewspaper.com/2021/07/07/we-tackled-dutch-slaving-historythe-rijksmuseums-exhibition-could-serve-as-a-model-of-its-kind
  The Big Review: Slavery at the Rijksmuseum(the Art Newspaper 2021/07/09)
 https://www.theartnewspaper.com/2021/07/09/the-big-review-slavery-at-the-rijksmuseum
48) Telling Stories of Slavery, One Person at a Time(the New York Times 2021/06/04)
 https://www.nytimes.com/2021/06/04/arts/design/rijksmuseum-slavery-exhibition.html
49) UN: Belgium must apologize for colonialism, face its racism(AP NEWS 2019/02/12)
 https://apnews.com/article/belgium-race-and-ethnicity-africa-discrimination-international-news-ce9234aaabbd4fd5ac1aff4148cfac32
  Statement to the media by the United Nations Working Group of Experts on People of African Descent, on the conclusion of its official visit to Belgium, 4-11 February 2019(UN Human Rights 2019/02/11)
 https://www.ohchr.org/EN/NewsEvents/Pages/DisplayNews.aspx?NewsID=24153&LangID=E
  Visit to Belgium : report of the Working Group of Experts on People of African Descent(United Nations Digital Library 2019/08/14)
 https://digitallibrary.un.org/record/3849772
50) Commission on Belgium’s colonial past: “It’s important, but will it succeed?”(JusticeInfo.net 2020/10/08)
 https://www.justiceinfo.net/en/45612-commission-belgium-colonial-past-important-but-will-it-succeed.html
  Commission on Belgium’s colonial past: expert mission ends(JusticeInfo.net 2021/07/15)
 https://www.justiceinfo.net/en/79855-commission-belgium-colonial-past-expert-mission-ends.html
51) Rapport des experts, La Commission parlementaire spéciale chargée d’examiner l’État indépendant du Congo et le passé colonial de la Belgique au Congo, au Rwanda et au Burundi, ses conséquences et les suites qu’il convient d’y réserver(仏語版、DE KAMER.BE、2021/10/26)
 https://www.dekamer.be/FLWB/PDF/55/1462/55K1462002.pdf
52) Colonial crimes: Experts recommend that Belgium compensate(JusticeInfo.net 2021/11/02)
 https://www.justiceinfo.net/en/83944-colonial-crimes-experts-recommend-that-belgium-compensate.html
53) Belgium’s colonial past commission stalls(JusticeInfo.net 2022/01/31)
 https://www.justiceinfo.net/en/87109-belgium-colonial-past-commission-stalls.html
54) Ethical Principles for the Management and Restitution of Colonial Collections in Belgium(Restitution Belgium 2021/06)
 https://restitutionbelgium.be/en/report
  Press Release(Restitution Belgium 2021/06/01)
 https://restitutionbelgium.be/en/press-release-2021-06-01
55) Belgian experts frustrated at 'lack of initiative from museums and government' call for restitution of colonial-era acquisitions(the Art Newspaper 2021/06/03)
 https://www.theartnewspaper.com/2021/06/03/belgian-experts-frustrated-at-lack-of-initiative-from-museums-and-government-call-for-restitution-of-colonial-era-acquisitions
  Scholars in Belgium, Frustrated With the Government’s Inertia on Restitution, Have Released Their Own Repatriation Guidelines(artnet news 2021/06/03)
 https://news.artnet.com/art-world/restitution-guidelines-belgium-1975986
56) 'There has been a generational shift': Belgian government to collaborate with Democratic Republic of Congo to return colonial-era loot(the Art Newspaper 2021/06/22)
 https://www.theartnewspaper.com/2021/06/22/there-has-been-a-generational-shift-belgian-government-to-collaborate-with-democratic-republic-of-congo-to-return-colonial-era-loot
  As a Belgian Politician, I Feel a Responsibility to Restitute Stolen Artifacts to the Congo. Here’s Why My Fellow Citizens Should, Too(artnet news 2021/07/23)
 https://news.artnet.com/opinion/belgium-restitution-1991446
57) Belgium unveils plans to return DRC artworks stolen during colonial rule(the Guardian 2021/07/07)
 https://www.theguardian.com/world/2021/jul/07/belgium-unveils-plans-to-return-drc-artworks-stolen-during-colonial-rule
58) Remembering the Racist History of ‘Human Zoos’(the New York Times 2021/12/29)
 https://www.nytimes.com/2021/12/29/arts/design/human-zoos-africa-museum.html
59) Met Museum Announces Return of Two Benin Bronzes to Nigeria(the New York Times 2021/06/09)
 https://www.nytimes.com/2021/06/09/arts/design/met-museum-benin-bronzes-nigeria.html
  Met Signs Loan Exchange Agreement with Nigeria: ‘It Shouldn’t Be Limited to the Benin Bronzes’(ARTnews 2021/11/22)
 https://www.artnews.com/art-news/news/met-nigeria-loan-exchange-agreement-benin-bronzes-1234611007/
60) Smithsonian Museum of African Art removes Benin bronzes from display and plans to repatriate them(the Art Newspaper 2021/11/05)
 https://www.theartnewspaper.com/2021/11/05/smithsonian-museum-of-african-art-removes-benin-bronzes-from-display-and-plans-to-repatriate-them
  With Promise It Is ‘Committed to Repatriation,’ Smithsonian’s National Museum of African Art Takes Its Benin Bronzes Off View(artnet news 2021/11/05)
 https://news.artnet.com/art-world/2030789-2030789
61) Smithsonian Adopts Policy on Ethical Returns(Smithsonian 2022/05/03)
 https://www.si.edu/newsdesk/releases/smithsonian-adopts-policy-ethical-returns
  In a Nod to Changing Norms, Smithsonian Adopts Policy on Ethical Returns(the New York Times 2022/05/03)
 https://www.nytimes.com/2022/05/03/arts/design/smithsonian-ethical-returns.html
62) A Golden Symbol of National Identity Returns to Peru(Smithsonian Magazine 2021/06/24)
 https://www.smithsonianmag.com/smithsonian-institution/golden-symbol-national-identity-returns-peru-180978052/
63) 明治日本の産業革命遺産に関する世界遺産登録後続措置の保全状況報告書に対する報道官論評(駐日本国大韓民国大使館 2019/12/04)
 https://overseas.mofa.go.kr/jp-ja/brd/m_1055/view.do?seq=757345&srchFr=&amp%3BsrchTo=&amp%3BsrchWord=&amp%3BsrchTp=&amp%3Bmulti_itm_seq=0&amp%3Bitm_seq_1=0&amp%3Bitm_seq_2=0&amp%3Bcompany_cd=&amp%3Bcompany_nm=
64) Report on the UNESCO/ICOMOS mission to the Industrial Heritage Information Centre related to the World Heritage property ‘Sites of Japan’s Meiji Industrial Revolution: Iron and Steel, Ship-building and Coal Mining’ (Japan) (c1484), 7 to 9 June 2021, Documents(Sites of Japan’s Meiji Industrial Revolution: Iron and Steel, Shipbuilding and Coal Mining、UNESCO
 https://whc.unesco.org/document/188249
65) Decision 44 COM 7B.30 - Sites of Japan’s Meiji Industrial Revolution: Iron and Steel, Shipbuilding and Coal Mining (Japan) (C 1484), Documents(Sites of Japan’s Meiji Industrial Revolution: Iron and Steel, Shipbuilding and Coal Mining、UNESCO
 https://whc.unesco.org/en/decisions/7748