C タイイング



   

モンカゲロウのダンと抜け殻(右側の半分水面に沈んでるモノ)

抜け殻から出るのに数秒、飛び立つのにも数秒、水面に到達してから10秒以内で空中に飛び立って行きます。(気象条件でこの時間は変わります)

短い時間ですがこの時が一番魚に食べられる危険が多い時です。そして水面付近で釣ろうとする釣り人にとっても重要な瞬間です。フライのモデルはこのハッチの前後の状況をどう捉えるかという事です。


モンカゲロウはボディサイズが20ミリから25ミリと大型のカゲロウです。

尾(テール)を抜いた頭(ヘッド)、胸(ソラックス)、お腹(アブドメン)、をたしたサイズです。





 C-1 タイイングの目的

 最初はタイイングの方法をある程度、身に付けることが必要になりますが、キャスティングと違い、タイイングはそのプロセスはどんな形でもかまいません。

鈎(フック)に糸(スレッド)を使い、色々な素材(マテリアル)を巻き止めて行くことがタイイングになります。

 タイイングで重要なことは、どのようなフライを作るかという、思いが先にあることが必要です。それにはモデルが存在し、そのモデルを食べてる魚がいることになります。

このことが先にあることで、どのようなフライを作れば良いかは見えてくる筈です。

難しく考えず、釣りたい魚が食べてるモノに真似たフライを作ることです。

そしてこの考えが自分の求めるフライをタイイングする一番の近道だと思います。

始めにもお伝えしたことですが、広く浅くではなく、ひとつのことを深く探ることです。

色々なタイイング用の道具(ツール)やテクニックが存在していますが、それらのモノは全てこの、自分の思いや願いを具体化する為の方法であったり道具です。

自分の思いや願いが先にないと、単にフライを作る作業になってしまいます。



 「自然の法則にそって魚を釣ろうとする行為」をタイイングの所でもう少し具体的に見てみると、「魚が食べてるモノに真似た毛鉤を作る」と言うことになります。

魚がその食べ物をどう見てるかは永遠の謎ですが、自分の考えられる範囲で、魚の気持ちになって考えて行きます。

何処を見るか、何を表現するか、どのような思いがあるか等は個々により様々な筈です。

自分の思いや願いが重要です。タイイングとはこの考えにそって、毛鉤を作って行くことです。





4月13日 10:28分のストマックです。内容はオオクママダラカゲロウのスピナーです。

オオクママダラカゲロウのハッチは、3月下旬から4月下旬の約1ヶ月です。(地域によりこの期間は変化します)

ダンではなく(ハッチに伴うダンの流下ではなく)スピナーの流下がこの時間、少し上流であった事を想像させられます。

使用したフライは#14のスペントスピナー(ウイングをボディーに対して十字に広げたパターン)です。

オオクママダラカゲロウの大きさは12ミリから13ミリ位です。







 C-2 食べてるモノ


 渓流では主に水生昆虫のカゲロウ、カディス(トビケラ)、ストーン(カワゲラ)、や陸生昆虫の蟻、小さい甲虫、毛虫、バッタ、セミ、等、また貝やヨコエビ等の甲殻類も食べられています。湖ではワカサギ等の小魚も補食されます。

この案内では、渓流や湖で水面付近の釣りを想定していますので、水生昆虫や陸生昆虫を中心にとらえて行きます。

 釣りに行こうとする釣り場では、今の季節何が流れているか、何が食べられているかを調べ又は想像し、フライをタイイングします。

何をタイイングして良いのか解らなかったり、どんなフライが釣れるのか等が解らない時は、元になる水生昆虫やフィールドで起ってる事柄を考えることで、多くは解決します。

 フライフィッシングでは、このように元になってる事柄を知ることで何をすれば良いか、何が必要かがハッキリしてきます。

一方どうすれば魚が釣れるかという疑問は、釣り人が永遠に考え続ける思いで、答えは有りません。


 四季の昆虫

3月解禁 まだ寒いが状況によりドライフライでも十分釣れる。

 ユスリカ、カゲロウ共にサイズは小さめ。

 ストーン(カワゲラ)   #18〜#16

 ユスリカ         #26〜#18 種類が多く1年中流下があります。

 カゲロウ         #20〜#18


4月  とても良い季節(待ちわびたシーズン) 日中にライズが多い。

 カゲロウ         #18〜#14

 カディス         #20〜#14


5月  最盛期  夕マズメ(日没時)のライズが増えてくる。

 カゲロウ  多くのカゲロウがハッチする。サイズは大小のもので幅がある。

 ストーン  大きめにのモノが出て、大きめのフライを水面で動かすと反応が良くなる。

 陸生昆虫のアント(蟻)等が流下し始める。

 

6月  最盛期  ライズは朝と夕マズメに集中してくる。

 カゲロウ  多くのカゲロウがハッチする。

       モンカゲロウ等大型のカゲロウが出る一方最小のカゲロウも出てくる。

 ストーン  ストーンは流下の数が多くないが、小型で流下の数が多いモノが出る時期。

 陸生昆虫  種類が増えてくる。


7月  梅雨明けまでは6月とほぼ同じ状況。

 カゲロウ  モンカゲロウ等大型が目立つが全体的にカゲロウは少なくなってくる。

 陸生昆虫  カゲロウが減ってくる代わりに陸生昆虫は増えてくる。


8月  暑い日中は釣り辛くなる。朝と夕マズメが中心になる。

 陸生昆虫  大きめのテレストリアル(陸生昆虫)フライで大型の魚が釣れる。


9月  ヤマメは産卵の時期が近づき、釣りづらくなる。

 カゲロウ  第二世代のカゲロウが出てくる。


*朝マズメ、夕マズメとは、釣り人が使う通称。

 夜明け前後の時間帯が朝マズメ。日没の暗くなって行く時間帯が夕マズメ。

 この両方の時間帯はライズが起こりやすく重要な時間帯、特に夕マズメは季節によるが、

 とても面白いことが起こる。


セオリーとしての状況もありますが、あくまでも個人の感じたほんの一例です。

大雑把ではありますが、こうして線にしてみると何となく全体像が見えてくるものです。このような全体像の中の、もう少し狭い範囲を実際のフィールドで探って行くと、より具体的な状況が見えてきます。

自然の中で起きてることは同じでも、感じ方や捉え方は様々です。出てくる結果もそれぞれ違ってきます、この辺もフライフィッシングの面白い所だと思います。

大切なことは自然の時間が、全ての元になっていることです。






 カゲロウを例にとってもう少し具体的に見てみます。


 水生昆虫のカゲロウは水中生活期のニンフ(幼虫)、から空中へ出るハッチ(脱皮)をし、ダン(亜成虫)になり、もう一度脱皮しスピナー(成虫)になり、交尾又は産卵して、一生を終わります。

水面近くでのフライフィッシングをする訳ですから、食べられてる昆虫等は水面近くに在る状態になります。それは前記のハッチの前後や交尾や産卵を終えて、空中から水面へ落ちてきた、スピナーだったりになります。

使うフライはこのハッチ前後の状態や、スピナーを真似ることが多くなります。


 カゲロウの呼び方とハッチに伴う呼び方の一例

ニンフ  水中生活期の幼虫

フローティングニンフ  ハッチの為に水面に浮上して来たニンフ。

イマージャー  ハッチの途中の状態。ニンフらダンへの途中。

スティルボーン  ハッチに失敗した状態。ヌケガラが引っかかった状態で動けない又は脱   

         皮は成功したものの溺れて死んでるもの等。

ダン   ニンフから脱皮した個体、亜成虫。もう一度脱皮し成虫になる。

スピナー  成虫。ダンがもう一度脱皮したもの。多くの種でダンの時より透明感が増し、   

      ガラス細工のようにとても奇麗になる。


この辺の表現は捉え方や個々の考え方等で、大きく変わって来て曖昧です。

実際のハッチに際して起きてることも、捉え難く解りづらい事だらけだと思いますが、フライフィッシングでは、その周辺の出来事を見ようとしたり、捉えようとする事が面白さの元になっていると思います。

単にこの辺の言葉を覚えるのではなく、実際に自分で調べ、観察して見るのが良いと思います。

渓流の一般の釣り場でも、管理釣場と言われる釣り場でもかまいません。水際の水中の石を持ち上げて、裏側を見てみると、水生昆虫の幼虫(ニンフ)が動き回っている事があります。また空中を観察すると、小さな虫が飛んでいるのが確認出来ます。この辺から簡単に入って行けます。

少し調べる事で、そこで起きてる事がイメージ出来てくると思います。

 単に何々の毛鉤をタイイングすると言う事だけで無く、そのイメージしてる昆虫の生態や、起きてる事柄を少しでも知る事で、フライフィッシングとしてのタイイングになって行きます。

この辺の繋がりを感じながら釣る事で、1尾の価値がとて大きくなり、達成感が大きくなります。

 色々なわかり難い言葉が有りますが、無理に覚える必要は有りません。自分の釣りに必要なひとつの所を深く探って行くと、自然に頭に入ってきます。

自分のペースで、出来る所から進めて行くのが良いと思います。



 ワンポイント

釣れるフライを作ったり考えるのは楽しく重要な事ですが、落とし穴が有ります。

フライ単体で釣れる釣れないを判断したり語ったりする事は、なかなか出来ません。

魚が釣れた状況の中で、フライそのものが占める割合は3割以下だと思います。フライ以外にストーキングやキャスティング、状況の判断等多くの要素が絡み合って、釣れるという状況が生まれてきます。自分の作ったフライで結果がうまく出ない時、又は人から聞いた釣れるフライで釣れない時、このフライ以外の重要な要素を一緒に考えないと、空回りしてしまいます。

一概には言えませんが重要な要素を順番に考えると。ストーキング、キャスティング、フライ、組立て、状況の判断。このような順番になってくると思います。そして状況によりこの順番をどう変えて行き、どう組み合わせて行くかが「釣れる」に繋がって行く事になると思います。






 C-3  フライに求める機能とフライデザイン


 フライに求める機能とはどのようなモノが考えられるでしょうか。

これは状況により多岐にわたり考えられます。あえてどのような事なのかをイメージしやすいように、何例かを書いてみます。


魚が「食べてる物と同じ」と思って口にすること。当たり前ですがタイイングの中で、一番重要で一番面白い所です。この答えを永遠に探し求めて行くことになります。

答えはひとつではなく色々有る筈です。フライだけでなく多くの要素が複雑に絡んできた結果、釣れるということになります。

つまりフライだけで考えるのではなく、この多くの要素が絡んだ先のフライを作って行く(タイイングして行く)と言うことです。


水面の上やすぐ下で使う為、水面に浮いたり、すぐ下で使えるフライ。

たとえば浮かせて使うドライフライでは、出来るだけ長く浮いてる事をもとめるのか、数回流して使う事だけを求めるのかによって機能は違ってきます。

渓流でポイントを数回流しては次ぎ、数回流しては次ぎと釣り上がって行くときは、出来るだけ長く浮いてることを求めることになりますが、同じポイントでライズしてる魚を釣ろうとする時は、長く浮くことより、魚に受け入れられること、つまり食べてるものに似ていることの方が重要になります。

このことはドライフライとはいえ、釣り方により求める機能が変わってくる、と言うことです。


キャスティングや実際の使用時に問題が無い事。

キャスティング時に回転したり、水面での姿勢が思惑通りに行かないようなフライは問題です。

フライはフライライン、リーダー、ティペット、に引かれて空中を飛んで行く訳ですが、このとき回転をしてしまうと、ティペットによりが入ってしまい、釣りになりません。

また水面に落ちた時、イメージしていた通りの姿勢で水面に乗っていることが必要です。


タイイングで必要と思われる項目を整理して見ました。

 フライに求める6の要素と釣り場でフライを替える時の要素

1 サイズ (大きさ 長さ)

2 プロポーション (シルエット ボリューム)

3 水面との絡み方(浮き方) 水面付近での振舞い方

4 動き 自然に流すことと、魚にアピールする動きを加えることの両方がある

5 色と模様 水面付近で使い、水中の魚にどう見えるかを考えた色と模様

6 質感

ある昆虫に焦点をあて、上記のどの項目を表現していけば良いかを考えると、ある程度整理できると思います。

実際の繋がりを考えたタイイングはユーチーブのタイイング動画を参照下さい



  ワンポイント

スレッド(糸)で色々なマテリアル(素材)をフック(鈎)に巻き止めて行き、求めるフライをタイイングして行く訳ですが、とても小さく細かい作業です。

その為細かい所を見たり確認することが難しく、ついついスレッドを巻く回数が多くなりがちです。

強度が担保される最低の回数を、出来るだけ早く身に付けると良いと思います。

その辺のことを身に付けるには、同じフライを続けて何本も作ることです。

 浮くフライは浮力ではなく、表面張力で水面のフィルムの上に乗っています。

この表面張力をどう使うか、どう無くすか等をうまく使う所にヒントが多く有ります。






ユスリカのハッチの途中の写真です。多くの水生昆虫と同じく数秒で飛び立って行きます。

短い時間の中でピューパからアダルトへ変態します。つまりどんどんプロポーションが変って行くという事です。

この写真の状態の時は数秒前のピューパの時と比べると、全体の長さは倍近くになってると思います。

フライは変化する事は出来ません、ハッチの何処かの状態を真似ざるを得ません。

ユスリカは1年中ハッチがあり、大きさ、種類等も色々あり、渓流魚の重要な食べ物になっています。





 C-4 タイイングツールとマテリアル


 タイイングツール フライを作る時の色々な道具をタイイングツールと言います。

 現在は色々なツールが有りますが、最低限必要なものを紹介します。


バイス        フックをバイスに挟み固定しタイイングが始まります。バイスの先端をジョーと言います。

           ジョーがしっかりしたものが使いやすく長持ちします。


ボビンホルダー    スレッドが巻かれたボビンをボビンホルダーに挟みスレッドを通して使います。


ハサミ        タイイング用の物で無くても使えますが、細かい作業で使えるもの。


ハックルプライヤー  ハックルや細かいものを挟んで巻く為の道具。


ハーフヒッチャー   最後にスレッドを巻き止める為の道具、止め方も色々有ります。

           ボールペンの芯を抜いた本体や使い、終わった芯もハーフヒッチャーとして使えます。




 マテリアルとは、タイイングで使う素材全てをマテリアルと言います。


タイイングのマテリアルとして売られている鳥の羽や、動物の毛、人工的な色々な素材などのモノ以外にも、世の中の多くのモノが使えます。

自分の求めるフライを作る為にマテリアルを探すのも楽しいものです。

マテリアルは、自分が求めるフライを表現出来ることが必要なことで、ここでもマテリアルより先に、自分が何を求めるかが先にある必要が有ります。




 フック 鈎


フックに色々なマテリアルをスレッドで巻き止めて行き、求めるフライを作ります。

この案内で想定してるフックの大きさは#20程度から#14位のサイズになると思います。状況によりもっと小さいサイズや大きいものも、使う必要が有るかも知れません。

 大きさの参考。 各部の名称は下図参照

同じ表記のサイズでもメーカーの違いや種類により大きさは変わってきます。

一般的なドライフライ用のフックで#20は全長で8ミリ、実際にマテリアルを巻き止めるシャンクという部分と、糸を通すアイという部分を足した寸法は6ミリ程度です。

#14は全長で13ミリ、シャンクとアイを足した寸法は10、2ミリ程度です。

この全体の寸法と、シャンクとアイを足した時の寸法の違い、同じサイズでも種類による違い等が存在しています。自分の作るフライのイメージで選んで行く必要が有ります。



フツクの各部名称



バーブ、返しは必ずつぶして使うか、バーブレスフックを使用する様にしましょう。

タイイングでバイスに挟む前にバイスの先端に挟むことで簡単につぶれます。

タイイングの中でシャンクの長さやゲープの巾はフライの各部の寸法の目安になります。



 ワンポイント


フライは消耗品です。つまり釣場に残してしまう事になります。小さいものとはいえゴミになってしまいます。自然のマテリアルは自然に帰る事が出来ますが、人工のマテリアルの多くは自然には戻りません。

自然が健全である事が前提のフライフィッシングで、小さいものでも自然に戻らないものを使う事には抵抗があります。自然へのインパクトを考えて自分自身の考えでマテリアルも選択する必要があります。


 


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