能・夜討曽我について

曽我十郎・五郎の兄弟は源頼朝が富士の巻狩を催しているのを好機とし、父の敵である工藤祐経を討つべく富士の裾野(現・静岡県富士宮市狩宿)へやってきます。そして兄弟は今夜、仇討ちを決行しようと相談をします。しかしこの事を母に告げてないため、あとで御嘆きになるであろうと心配した兄弟は、従者の團三郎・鬼王兄弟を呼び寄せ仇討ちの事を打ち明け、形見の品を持たせて故郷へ帰そうとします。しかし従者の二人はこの仇討ちの日の為に年来奉公して来たのです、と言い張ります。故郷に帰れば主君と最後まで共にできない、しかし帰らねば主君に背くことになってしまうという窮地に立たされた二人は刺し違えて死のうとします。それを見た十郎は驚き、押しとどめ、故郷の母への使者は二人しかいないのだと説得します。そして兄弟は母に文をしたため、形見と共に二人に持たせ故郷へ泣く泣く送り出します。
(中入り)
兄弟は首尾よく父の敵、工藤祐経を討ち果たしますが、狼藉者とみて捉えようとする警護の軍兵たち大勢に取り囲まれます。戦の中、兄弟は散り散りになり、兄・十郎祐成は既に打たれたとみえて、五郎の呼ぶ声に反応がありません。死ぬまで兄弟一緒だと心に決めていた五郎は一歩も引かず一人奮起し戦います。しかし薄衣をかづいた御所の五郎丸を女と思い、油断し通り過ぎたところを後ろより組み付かれついに大勢の手に捉えられてしまいます。
世阿弥の指向した幽玄能とは対極にある人情劇、活劇を主とした現在能です。能の作品の中でも歌舞伎の作品に近い曲目ですが、役者は能の格を外さないように演じます。前段では兄弟の孝心と主従愛を、後段では勇壮な奮戦の模様が展開されます。本来の目的、仇討ちの場面は常の夜討曽我では省略され間狂言によって語りで表現されます。後段で展開される切り組み合いはダイナミックで見所の一つです。