能・三輪について

大和国(現・奈良県)三輪山の麓に庵室をかまえている玄賓僧都(ワキ)のもとへ毎日、樒・閼伽の水を汲んで運んでくる女性(前シテ)がありました。今日もまた庵を訪ね、僧都に罪を助けてほしいと頼みます。そして女は、秋も夜寒になったので御衣を一重頂きたいといいます。僧都は、衣を与えてから女に住家を訊ねます。すると女は、
我が庵は 三輪の山もと 恋しくは 訪ひ来ませ 杉立てる門
と詠まれた歌を言い、杉立てる門を印に訪ねて来てくださいと言いすてて消え失せます。
(中入り)
里の男(アイ)が宿願のため、三輪明神に参詣します。すると御神木の二本の杉の枝に衣が掛かっています。よく見ると玄賓僧都の衣なので、男は不審に思い僧都に知らせます。僧都は衣を見に御神木にやって来ますと、女に与えた衣が掛かっています。衣の裾には一首の歌が書いてあるので、僧都がその歌を詠んでいると、杉の木陰から御声がして、女姿の三輪明神(後シテ)が現れます。神も迷い、人の心を持つことがあるので、罪を助けてほしいと僧都に願います。そして、三輪の妻訪いの神話を語り、神楽を奏して天の岩戸隠れの神遊の様を見せたりしますが、夜が明けると共に神姿は玄賓僧都の夢から消えて行きます。「三輪」と呼ぶ地名は女が、忍んで通ってくる男の行き先を知ろうと、その衣の裾に綴じ付けた苧環(おだまき)の糸が最後に三わげだけ残ったので、この地を「三輪」と呼ぶようになったと、作品中のクセで語っています。
能面「増女(ゾウオンナ)」について

能面「増女」は小面のような若い女性と対象的に顔全体が少し年をとった女性の相貌をしています。額が長く頬の肉付きがぐっと引き締まり鼻筋も細くほそおもてです。その上目全体がくぼんで、さらに目の幅もやや細くその周囲には影を作っています。口も若い女面では両端がやや引き上げられているのに対し、増女では反対に両端がやや下がりめに作られています。このような工作が増女の相貌を生み出しているのです。小面のような若い女性の明るさや愛らしさなどが見られない代わりに、全体に清高な品位があって端正です。女神・天女・神仙女などが主人公の曲で用いられることが多い面です。これらの曲の多くは天冠を頭にいただきますので、別名「天冠下」とも呼びます。