能・通小町について

ある僧(ワキ)が八瀬の里で夏籠りをしていると、毎日木の実や薪を持って来る女人(ツレ)がいます。今日もまた女がやって来たので、僧は数々の木の実の話を聞きます。僧の求めに応じて木の実語りをした女は、更に名を尋ねられたので
と、小町であることをほのめかし、僧に回向を乞うて消え失せます。
『秋風の 吹くにつけても あなめあなめ
小野とは言はじ 薄生いけり』
という小町の歌を思い出した僧は、先ほどの女人が小町の霊であることに気づき、市原野辺に行きます。座具をのべ香を焚き回向を始めると、女が再び現れて受戒を求めます。するとそこに一人の男(シテ)が現れてそれを止めようとします。男は、小町だけが戒を受け私一人を取り残すのかと言って小町の成仏を妨げます。その両人が小野小町と四位の少将の霊だと察した僧は、少将に懺悔の為に百夜通の有様をみせてくれるように言います。少将は請われるままに、雪の夜も雨の夜も通い続け、とうとう九十九日目の夜にあと一日と喜びつつも死んでしまった昔語りを狂おしく再現して見せますが、やがて両人共に成仏します。