能・花筐について

越前国(現・福井県)味真野におられた男大迹皇子は皇位を継承されることになったので急に都へ上ることになります。これまで側近くで召し抱え寵愛していた照日の前(前シテ)に別れの文と花筺(花籠)を使者(ワキツレ)に届けさせます。その文を読んだ照日の前(前シテ)は形見の御花筺を抱いて故郷へ帰って行きます。
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その後、皇子は継体天皇(子方)となられ、大和国、玉穂に都をお造りになられました。ある日、紅葉狩の御幸に出かけられます。一方、照日の前(後シテ)は皇子をお慕いするあまり心が乱れ、侍女(ツレ)を伴い、皇子からの御文と御花筺を持って都へ上ってきます。その途中、天皇の御幸に行きあいます。照日の前と侍女は御幸の前へ進み出ますが、供奉の官人(ワキ)に無礼を咎められ持っていた花筺を打ち落とされてしまいます。照日の前はその花筺が君の御花筺である事を告げ、帝が皇子で味真野におられた時、毎朝天照大神に花を供え礼拝されていた事を語り、叶えられぬ恋を悲しみ嘆きます。更に、漢の武帝と李夫人の反魂香の故事を物語り、帝への恋慕の情を訴えます。 帝は花筺を取り寄せてご覧になると、見覚えのある花筺なので狂女が照日の前であることを知り、再び召し使うと宣旨を下されます。 照日の前は喜び、帝と供に都へと帰って行きます。
主人公が帝と後に女御となる照日の前ですから狂女物の中でも最も品位があり、優雅な作品です。能の狂女(=物狂い)は、今日のいわゆる精神を患っている女性とは一寸違います。恋しいが故に心乱れるといったところでしょうか。ですので、能の中の女性は非常に純粋なのです。その点にも着目してご覧ください。
能面「若女」について

能面「若女」は節木増(昔、増女を節のある檜から作った面)と大変よく似ています。毛描は分け目から2本、鬘から下に3本、その2つを橋掛けるように3本描かれています。この点は節木増とは若干違います。ですが面の部位のつくりは大変似ております。小面よりも顔の部位(目、鼻、口)が詰まっており、全体が面の下のほうによっています。それにより小面よりも額の部分が広くなっており、顎の部分が短くなっています。頬の肉は小面よりも引き締まっており、理性的で品格のある顔立ちをしています。