能・道成寺について

紀州道成寺で撞鐘再興の供養が行われ、住職は理由あって女人禁制であるということを伝えさせます。すると、白拍子が一人やってきて舞を舞うから鐘を拝ませてほしいと能力に申し出ます。一度は断られてしまいますが、やがて許しを得、舞を舞いながら鐘楼に向かって行きますが、人の隙を見て鐘を引き下ろし中へ消え入ってしまいます。もの凄い音に驚いた能力は、鐘が落ちていることに気付き、あわてて住職に報告します。住職は昔話にまなごの荘司の娘がある男に恋をしたが、その男は娘を捨てて、この寺の鐘の中に身を隠した。娘は男を追って蛇体となり、鐘に巻きつき男を鐘ごと焼き殺したという話を述べます。そして先ほどの白拍子はその怨念であろうと法力を尽くして祈ります。やがて鐘は動き出して中より蛇体が現れますが、僧達の決死の祈りの前に、自らが吐く炎に身を焦がして日高川の深淵に飛び入り消え去ります。
能面「近江女」について

道成寺の前シテでつけられるこの近江女は他の女性の面(小面や若女)がもつ内に秘めた高貴な女性の感情とは対照的に面の表面に感情を表しています。またほほの肉付きはやや少なく少し老けた表情をしています。眦が下がり目に彎曲している瞼、そして眼球の穴が他の若い女性の面が四角にくりぬかれているのに対し、この面は丸くくりぬかれているのも特徴です。上瞼や頬にはほんのりと明るい朱でそめてあり、色気を表面に出しています。このように内ではなくあえて外に感情の表現を強く出すことによって、恋を捨てきれない女性の執念がより引き立つようになっています。
能面「般若」について

女の怨霊を表している面「般若」顔全体が肉色で興奮状態を表しており、額には二本の角が生えています。そして金の目、眉間をしかめた眉の筋肉、野生的に大きく開いた口には金色の歯に4本の牙が生えています。恨みを晴らそうという怨念の中にも物悲しい表情を持っている芸術的な作品です。
般若が使用される代表的な曲「葵上」「道成寺」「安達原」がありますが、それぞれに異なる般若を使います。「葵上」には白みがかった般若。「道成寺」には肉色の般若。「安達原」には更に濃い肉色の般若が使われます。これは、それぞれの主人公が違うためこのように使い分けています。葵上は女性の怨霊、道成寺は蛇、安達原は鬼女。
また、諸説ありますが般若の名前の由来は、室町中末期ころに活躍していた般若坊がこの面を打ったからと言われています。