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第六章
  あなたへの手紙 5編


あなたからの手紙しずく菜の花幻想〜秋穂にて〜
ほほえみは人をやさしく強くする 負けない言葉








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「あなたからの手紙」



 あなたからの手紙には

 いつも「風の音が・・」とある



 あなたからの手紙には

 いつも独りで食べた食事と

 遠い日に読んだ小説の話と

 いつかまた海に行こうね・・・とある



 「電話をかけても

 木の葉が散る音ばかり

 聞かせることになるから」

 と

 あなたからの手紙は、すこし湿っていて

 重たい



 それでもこの手紙が来ると

 自分の手のひらの

 あなたに似た温度を懐かしく思える



 そして

 心臓を掴まれたような懐かしさとともに

 (脳内雑音のスイッチは切断)

 椿の花の咲く丘に立っていた

 あの遠い日を思い出す








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「しずく」



 焼け落ちた聖堂の跡に築かれた新しい聖地

 礼拝堂の片隅には透明な泉

 壁をつたい ぽたん ぽたたんと

 したたって落ちていくしずく



 雨の詩を朗読(よ)んでくださいと貴方

 長い詩なんですよ 本当におつきあいくださいますか

 ありがとう 最期までともに旅しましょう

 あめつちを あやまちとくいを あがないとゆるしを

 ありがとう 最期までともに生きてみましょう

 でも声が響くと恥ずかしいから

 この礼拝堂を仰ぎ見る駐車場の

 貴方の助手席で 朗読(よ)ませてくださいますか



 不思議ですね

 読み始めるとフロントグラスを叩く驟雨は 激しさを増しました



 焼け落ちた聖堂の跡に築かれた新しい聖地

 青いステンドグラスに染められた泉

 壁をつたい ぽたん ぽたたんと

 その水面に降るしずく 

 拡がり続ける同心円状の波紋が水底に薄く影を落とす

 それはまるで

 墨絵で描かれた月の輝き

 無限に広がる精霊のささやき

 そしてひたひたと私自身に沁み入ってくる透明な何か



 不思議ですね

 私たちはそれぞれ 逃れの地から逃れられずに

 幼い日の涙の捨て場所だった あの小さな島すら

 発破で粉々に破壊され

 その事実を知った翌々日にこうして二人辿り着いたのが

 傷ついた詩人にゆかりの町にたたずむ

 この聖堂だなんて



 不思議ですね

 詩を読み終えると同時に雨は上がり薄日すら射して

 どこかで鳥の鳴き声がします

 楡の樹の木漏れ日



 泉水の上に ぽたん ぽたたんと

 したたって落ちてくるしずく

 これは誰かの涙ですか

 それとも大地を潤す雨のひとつぶ



 今日も雨が降っています

 貴方にも 過去の恋人たちにも 私にも 運命にも

 今日も雨が降っています

 焼け跡にも 聖地にも 戦場にも 砂漠にも 沃野にも

 今日も雨が降っています

 唇に燃え残る やさしいうた ひとしずく  
 
 今日も雨は沁みていくのです

 貴方がくれた接吻の 唾液の甘さのように

 私の胸に消えない傷を刻んで

 この痛みと共に生きることを

 もう辛いとは思わなくなりました



 また雨が降ってきましたね

 そうですね 貴方 こんどは祝福の雨ですね

 しずくに濡れて

 花の香りがひときわ強くなりました








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「菜の花幻想 〜秋穂にて〜」



 思い出のその場所の名前は秋穂(あいお) 

 五十音順で一番最初に来る日本の地名

 いつかの春、私があのひとと最初に会ったとき 

 連れてきてもらった場所なのです

 今この半島は

 一面のお月様みたいな菜の花色

 潮風の中 一番早い季節の色に染め抜かれ

 誰もが菜の花を摘むのに夢中



 電話掛けてもいいですか

 月に棲むうさぎに 伝えたいのです

 夢はきっと叶うってことを




 
 今宵あのひととともに出航します

 季節の先端の岬から、満艦飾の菜の花を載せて 








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「ほほえみは 人をやさしく 強くする」



  微粒子が青く降ってくるような月の
  笑
ってくれない少女の前で 看護士
  み
もしらない国の冒険談を読みきか
  は
てしない地球の広さを語ろうとす
 

  人
の行方を誰が決める禍福や命の長
  を
と彼は幾度も心の中で繰り返し問
  や
がていつしか病魔に摘み取られる
  さ
え明日に向けてそれでも伸びよう
  し
ずかに目指しているのは太陽の方
  く
るしみの在処などしらなくてもいい 

 
  強
くなりたいから最後までそばにい
  く
れと請う筋ジストロフィーの少女
  す
こしでも輝く明日へと誘うために
  る
んびにい光のある場所をめざし祈








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  「負けない言葉」


    あからさまなうそ
    りゆうなきことば
    がらんどうの心に
    とつぜんのであい
    うそは本当に変る

    きのう夢つかのま
    ずっと信じるだけ
    つなぎ合せたはな
    いつもわすれない
    てを繋いでるので
    もう涙は忘れてね








                  




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