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第二章
  昏迷の地平に  8編


あまねくすべての想いに寄せて暗闇の炎出立創生
伝説〜そしてふたたび語り継がれる〜
謎解きについて無限へと繋ぐもの緑野を導くもの









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「あまねくすべての想いに寄せて」


 
 ここに街を築きましょうと砂漠の中で最初に叫んだ旅人は

 賢者だったのか聖者だったのかはわからないままに

 食用油の商人たちに踏みつけられたまま行き倒れて床に伏している

 策士たちの魂胆はやはり予測していたとおり

 奔流のように物資と情報を垂れ流す事で

 真実も金言もただの藻屑のように磨滅させる

 商人たちの手によって牧童や村民は飼いならされ

 風見鶏のような集会所を規則的に配置した

 幾何学模様の街路が築かれていく



 旅人よ目覚めよ

 汝が力添えなくしてこの国の言葉の腐敗は止められぬ



 だが

 吟遊詩人の疲労と心痛は深く

 まだその双眸は閉じられたままだ



 せめて救援テントには露草の紫色の帆布を張れ

 看病するには賢者の泉の水

 そして真実の森からつんできた小枝の臥所



      ◇ ◇ ◇



 村人よ病の癒えた彼の者とともに歩め

 砂漠の女神よ力を貸したまえ

 まもなく火を放たれかかっている数々の書物に

 宿るひとつひとつのわがいとおしき言霊を

 是が非でも救い出すために 


 
 光を

 闇を眩ませるほどの光をここに結集せよ

 善を

 悪をたじろがぜるほどの善をここに累積せよ



 羅針盤は

 南をさしている

 さあ

 行け

 星のためいきのごとくひそやかに








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「暗闇の炎」  



  遥かなる旅路のもとようようたどり着いた

  この海はたゆまざる昏迷の入り江

  この海には時々狐火がともる

  そして、

  明日をめざして進む者は

  しばし道を見失い目の前の幻影に身をやつす




  騙す人がいて

  騙される人がいる



  脅す人がいて

  脅される人がいる



  盗む人がいて

  盗まれる人がいる



  嘲笑う人がいて

  嘲笑われる人がいる



  捨てる人がいて

  捨てられる人がいる



  愚弄する人がいて

  愚弄される人がいる



  傷つける人がいて

  傷つけられる人がいる



  謗る人がいて

  謗られる人がいる



  憎む人がいて

  憎まれる人がいる



  殺す人がいて

  殺される人がいる





  強烈な磁場に方位磁針は狂い回り続け 

  私は大切なものを奪われた

  共にここまで来た同志は、享楽に身を投じ

  めざす場所の地図さえ失くしてしまった


 
  しかし、

  逆境によってより一層 輝く光がここにはある




  生きる人がいて

  生かされる人がいる



  見いだす人がいて

  見いだされる人がいる



  信じる人がいて

  信じられる人がいる



  支える人がいて    

  支えられる人がいる



  守る人がいて

  守られる人がいる



  慕う人がいて

  慕われる人がいる



  育む人がいて

  育まれる人がいる



  癒す人がいて

  癒される人がいる


 
  許す人がいて

  許される人がいる



  愛する人がいて

  愛される人がいる





  暗闇を照らす炎をここに!

  内なる閃光をあかあかと炸裂させ燃焼させよ!


 
  手荷物は捨てよ

  古文書の真偽に幻惑されるな

  東の地平に光るあの星の歌だけをたずさえて

  風の中をまっすぐ進むのだ








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    「出 立」



 今私は日常の言葉を失ってしまった

 叙老蜘蛛の毒素に染まるのを恐れるあまりに

 厚い鎧を着てしまったのだ

 友愛は裏切られ

 誠意は泥にまみれた

 ただ一本の野の花だけが

 しずかにその命を吸い上げ

 新しい命の花を青ざめながら開く



 私はなお土の下で重い鎧の枷に抱かれている

 だが心臓は鼓動する

 閉塞した堅い鋼鉄の下でなお

 命は息づく

 血脈は流れる



 期限のない約束がかつて語られた

 君とならば、共に未来の鍵を開くことができる

 それは出来合いの既製服に微笑むことではなく

 洞窟の中の水晶脈を探り当てることだ



 ボタン一つではできない

 雑誌にも新聞にも答えは記されていない

 街角のマネキンになど尋ねれば毒液が吹きかけられるだろう

 これはゲームではないのだ



 見つけられなくても生きてはいける

 時間の波を漂う発光クラゲのように

 薫りのしなくなったコニャックのように

 だが、私は鈍色の腐敗よりは光輝ある炸裂を選択する



 残り時間は少ないのだ

 私は明日、鎧から出て歩き始める

 まるで古文書に記されたパラドクスの罠のように

 危思慕人がつくった断層を乗り越える

 そして軽やかに

 薄緑色のシルクのベールを身にまとい

 季節の戦場へと躍り出るのだ



 やがて十二点鐘が高らかに鳴り響く

 今こそ、

 出立の時と告げるために

 見よ、この輝きを!








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 「創生」



  新しい伸びやかな腕と

  しっかりとした脚と

  全身を巡る熱い血脈とを

  与えられて

  蒼い

  砂浜に立つ




  世界は水たまりのようで

  そしてロールパンのようだ



  何も終わってはいない

  何も始まってもいない



  すべてはこれから

  自分自身と

  そして他者であるあなたとあなたとあなたを巡って

  果てしない物語が

  光輝こうとする

  その水源の森の

  深いふところに導かれ

  われわれは原生林の奥の岩窟にて

  眠る龍のごとくに

  明日の風を占うのだ










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  「伝説 〜そして再び語り継がれる〜」



 天に輝く九つの太陽の八つを打ち落としたところまでで

 たとえ力つきても

 たとえ夢終(つい)えても

 それでも何かを成し遂げたという思いは

 彼の心に消えない星を残すだろう

 そして彼を愛する人たちの

 永遠の記憶として刻まれるのだ








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   「謎解きについて」



 君は種明かしはしないほうがいいというけれど

 僕の中の真実が

 たとえどんなに薄べったくて見栄えのよくないものでも

 僕はそれを言葉に綴らずにはいられない


 世界中が謎々のようにしか見えなくても

 僕の言葉を必要としてくれる人はきっと何処かに居ると

 そう信じられるからこそ

 今日も書き続けているんだ


 決して

 愛想笑いや

 与太話の相手を捜しているわけではない


 僕が望んでいることは

 この広い世界が

 青インクとパンで出来ているのではなく

 すべての陸地を飛び交う青い鳥が

 ほんとうにいるということを

 夢を失くして倒れ伏した旅人の耳に

 そっと告げること


 そうしたら彼はもう一度気力を振り絞り

 オアシスをめざして歩き始めるはずだ

 幼いころに聴いたまま忘れかけていた

 「思い出の歌」を口ずさみながら

 明日をめざしてふたたび大地を踏みしめ

 歩き続けられるのだから








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  「無限へと繋ぐもの」 
       


 人は、

 光の中にいるとき闇を思い

 闇の中にいるとき光を願う



 極限の中の永遠

 悠久の中の刹那



 実体の中の実存

 抽象の中の具象



 理性の中の情念

 詭弁の中の真実



 だから

 幸福の中に陥穽がひそんでいるように

 哀しみの中にあってこそ幸福の鍵穴を探りあてられる



 僕が君を思うとき

 君は僕のことを考えてくれるだろうか



 いや、ただ純粋に今は

 君と出会えたことに心からの感謝を贈りたい


 
 心のままに

 僕はこのまま語り続けていこう

 心の言葉で

 君と出合った

 この一瞬を、無限へと繋ぐために








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   「緑野を導くもの」
 
      

 蒼穹はここにある

 誰かが吹き続けている笛の音は

 ゆるく回りながら鳥の舞う天空へと昇っていく



 雨は明日も降らないかもしれない

 だが私たちは水車を回す二本の腕と

 麦踏みをする二本の足を持っている



 この銀の井戸を枯らしてはいけない

 どんな烈日が照りつづけようとも

 絶え間なく汲み続ければ

 冷涼なこの湧水はけして途絶えはしない

 そして大地は今も諦めずに次の季節を待ち続けているのだ

 この一縷の糸を途絶えさせてはいけない

 そして更なる水脈を、さらなる潤いを捜し続けるのだ



 緑野を導くものはたゆまぬ心

 沃野を築くものは明日を信じる勇気







                  



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