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air_mail.gif (2009 バイト) 第17回ULF大会レポート2日目
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New Advances in Measurement of Cognitive Development in Children
〜子供の発達状況の基準に関する新しい進歩〜
Dennis Molfese Ph.D. & Paul Kaufmann Ph.D. 

 白質ジストロフィーの中には、運動障害などが表れる前に精神障害が出るものがある。知的発達状況をチェックすることでこれらの異常を早期発見することができれば、素早い対応ができる。最初のDennis Molfese先生の発表は、脳波を使った検査で、人間がある単語を聞いたときに、それが自分にとって意味をもった単語なのか、それとも無意味な単語なのかで、脳波に表れる反応が違うことを利用する。この検査方法は、被験者が意識的に行動で反応しなくてもいいこと、年齢の異なる集団に全く同じ手続きで実施することができるという特徴がある。
 一方、Paul.Kaufmann先生の発表は最近の神経心理学の発展について。臨床心理学、行動神経学、行動神経化学、発達神経化学などの分野が発達してきたことで、いままで心理学が対象とすることができなかった、年少の患者などを対象にすることができるようになった。こういった検査をたとえば学校で広範囲に行うことで、白質ジストロフィーの患者の早期発見なども可能になってくるだろう。

 

質問>実際に白質ジストロフィーの患者を診察したことがあるのか。また、診察したことない人間にも本当に診断可能か。
回答>白質ジストロフィー特有の異常のパターンというのはわかるので、検査結果だけからでもある程度判断するのは可能だと思う。

 


bt_cube.gif (262 バイト) Similarities & Differences
〜各種の白質ジストロフィーの類似点と相違点〜
Shari Baldinger M.S. 

 すべての白質ジストロフィーは特定の遺伝子の異常から起こる。

【白質ジストロフィーの類似点】
・脳白質の病気である(直接/間接)
・遺伝性
・進行性:退行

遺伝異常には次のような種類がある
・染色体
・特定の一つの遺伝子
・多因子性(multifactorial)
・ミトコンドリアの異常(mitochondrial)

 ここで染色体異常の話から、遺伝の仕組み、劣性遺伝と優性遺伝、性染色体性遺伝などの説明があったが、基本的な話なので省略。

【白質ジストロフィーの相違点】

★細胞中の病変の位置
・リソソーム(MLD、Krabbe
・ペルオキシソーム(RefsumZellweger

★発症時期と退行の度合い
・変異の種類に依存→MLD
・変更遺伝子(modifier)に依存→ALD
・遺伝形式に依存→CADASIL、ALD
・個人による

★遺伝形式
・常染色体性劣性→MLD、Krabbe
・常染色体性優勢→CADASIL
・性染色体性劣性→ALD、PMD

★生化学的欠損の分類
・スルファタイド→MLD
・ガラクトブロシド→Krabbe

★分子化学的分類

★出生前検査の可否

★療法

 出生前検査には、羊水穿刺と絨毛穿刺がある。羊水穿刺は通常14週間からで、それ以前は特殊なものになる。絨毛穿刺は10〜12週の間に行う。どちらも染色体、酵素、遺伝子のいずれもチェックできる。出生前検査の利点としては、「安心した状態で出産することができる」「早い時点で疾病に対する対策に着手できる」といったことが挙げられる。胎児の状態の骨髄移植も検討されており、早い時期から代謝異常の影響が蓄積すると考えられる疾患への対応として期待される。一方、出生前検査の弱点としては「処置自体が母胎・胎児にとってリスクがある」「親を非常に難しい状況に追い込みかねない」「遺伝子差別につながる」。こういったリスクを避けるには、最初から養子縁組、提供卵母細胞による体外受精を検討することなどが考えられる。
 遺伝子病に変わる治療は、問診、診断と段階を追って行うが、診断を下したあとのフォローが重要だ。患者の思いこみを修正していったり、家族の状況が変わることによってアドバイスが変わるからだ。また、このような定期的なチェックをすすめておけば、患者が突然別の病気にかかった時なども、白質ジストロフィーに関する状況をいちいち確認せずに治療できる。
 最後に、遺伝相談でよく耳にする疑問には次のようなものがある。

  • 「私はもう子供をつくっちゃいけないんでしょうか」
    →親御さんの判断です

  • 「いままでそんな親戚はいませんでしたから遺伝病のはずないです」
    →ほとんどのひとは複数の遺伝病の因子をもっており、たまたま同じタイプの因子をもった人と結婚した場合などに発病するのです

  • 「それが遺伝ならこれから産まれる子は全員そうなりますか」
    →遺伝形式によって確率が決まります

  • 「出生前診断は結局人工流産のための前段階の技術にすぎないのではないか」
    →早期の治療計画のために行うという場合もあります

この発表をしたShari Valdinger先生の説明は非常にわかりやすいものでした。その前の発達心理学に関する2つの発表があまりにもプレゼンテーション技術がいまいちで(大学の講義のようでしかも早口)内容を10%くらいしかつかめなかったんで嫌になっていたのですが、こっちはほぼ完璧に理解できました。
 22、23日に別の会場で世界の研究者を集めた学会が開かれていて、その出席者の一部が23日、24日の夜にSecond Opinionという、専門医による診断に応じると同時に、24日、25日の一般向けのセッションで講演するわけです。
 これは、リピドーシス研究会でも感じましたが、学会発表の方はテーマを絞り込んで、次々と事例や事実を積み重ねて発表していきますが、一般向けの解説では話がどうしても一般的になりがちです。実際に、聴講している患者の家族は、それこそ科学の素養のまったくないおっちゃん、おばちゃんから、エンジニアや教師といったインテリまでものすごく幅広いので、非常に漠然とした話になるのもある程度しょうがないでしょう。しかも、研究者はあまり一般向けのプレゼンテーションを新たに組み立てようとせずに、単に学会向けに用意した発表の難しいところをはしょるだけですまそうとする。そこにさらに、研究者の習性として、断定を避ける表現をするので、英語の微妙なニュアンスまでは聞き取れないこっちとしては、「AなのかBなのか結論をはっきりしてくれ」という感じです。しかも、なぜか、この大会では印刷物の資料が一切用意されていないので、大筋や結論を読んであたりをつけることもできないというのが辛いわけです。ところが、Shari Valdinger先生は(講演が終わったあとで聞いたのですが)遺伝相談などの研究をしているため、ふだんから一般の人にこういった内容を説明することに慣れているのだそうです。日本でも最近インフォームド・コンセントが話題にのぼったりしますが、単に意識とか義務の問題だけでなく、実は技術の問題が大きく、しかもそれが十分認識されていないように感じました。

 


bt_cube.gif (262 バイト) ライブ・オークション

teddy_bear.jpg (6304 バイト) さて、お楽しみのオークションです。参加者有志が持ち寄った逸品の数々は、大会初日から会場のテーブルに並べられています。写真でもある程度わかるかと思いますが、狭い日本の家やインテリアとの調和を考えると、ただであげると言われてもパスしたくなるものが少なくありません。写真には写ってませんが、UFOキャッチャーのぬいぐるみのようなのがかなりの数があったので、それでも競ってみるかと気軽に考えていたら、これがどうもコレクターアイテムらしく、物によっては$150以上で飛ぶように売れていきました。この縫いぐるみだけで軽く千ドルはってましたね。ただのきれいなキャンディーボックスなんかも出品されており、最後の方には文字通り二束三文で競られていましたが、それでも(もちろんチャリティーだということもあるでしょうが)$5くらいの値がついていきます。値打ちというよりも、旅の想い出として一つは手に入れたいという感じでした。駅前の土産物屋でしょうもない饅頭やキーホルダーを買って帰るよりは合理的かも。auction.jpg (6869 バイト)
 実際に競りをやるのは2組の男性で、一人がアイテムを読み上げる係り、もう一人が「$15、$17、$17、$17さぁないかないかないか」という感じで例の独特の節をつけて値をつり上げていきます。はっきりと説明されませんでしたが、この二人は完全にプロだと思います。読み上げ係は「ボケ」担当で、競り係が「ツッコミ」という分担です。ツッコミは客席にも入るので、爆笑の渦で、ものを手に入れるというよりも、この掛け合いを一種の漫才のように鑑賞するという雰囲気でした。なにしろ、2時間もやってましたから、もう単なる座興を超えてます。翌日、結果が貼り出されていましたが総額$4,470.50になったそうです。ということは参加者平均で6千円近くだしているわけですね。

 


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Cornucopia of Concerns in Home Care
〜家庭内介護の悩み〜 
Polly Green M.S. 

 この時間帯は別行動となり、同時にAMNに関する最新情報のセッション、Canavan病、Alexander病Pelizaeus-Merzbacher病に関する最新情報のセッション、ALDのキャリアについてのセッションが開かれました。結果的に、この家庭内療育に関する一般的な内容を扱うセッションは、参加者がほとんどMLD患者の家族と言うことになりました。座長はポリーさんという、いかにもこの道50年という感じのおばあちゃんです。参加者が少人数だということもあり、勝手に困っていることを言って、みんなで解決策を考えていこうということになりました。
 問題として挙げられたことを列挙していくと「定置チューブを挿管した子供の姿勢をどのように保つのが楽か」「看護婦を雇っているのだが、常に気にかけていなくてはならず、一人の時間というものがないのが苦痛」「看護婦がちゃんと働かないときどうするか」「筋弛緩剤の使い方」「リハビリの意味と開始時期の目安」「痙攣発作が骨折や脱臼の原因となることがないか」「朝起きたときに体が固くなっているが、どうやってほぐすか」「せき込みやすく、それをきっかけに吐いてしまう」「誤嚥が心配」「定置チューブのプラグがうまく機能しない」「てんかん発作が起きたときの処置」「痙縮(spasticity)と硬直(rigidity)はどう違うか」といったような内容でした。
 全般に、米国の場合、比較的早い時期に腹部に?穴を空けて栄養チューブを固定してしまうようです。楓子と同じ乳幼児型で4歳の男の子も含め、ともかく私の話したMLDの患者の家族のほとんどがチューブを入れてました。これは一つには誤飲が怖いということ、もう一つはその方が介護が楽であるという合理的な判断なのだと思います。ですから、このセッションでも、「どうやって口から食べさせるか」「何を食べさせるか」という話にはならず、お腹に挿管した場合のさまざまな細かなノウハウに議論が集中しました。
 薬の面では、22日の報告でも書きましたが、筋弛緩剤(抗痙攣剤)、中でもBaclofenという薬が広く使われており、これとValiumの組み合わせを、ほとんどの患者が採用しているようです。おそらく」これは日本で言うとテルネリンとセニランの組み合わせにあたるのだと思います。クリビット先生も以前面談していただいた時にうちがテグレトールをつかっていると聞いて「みんな使っている」と言ってましたが、抗てんかん薬の話はでませんでした。聞いている限りでは、筋弛緩剤(抗痙攣剤)だけでなく、抗不安剤も連続投与しているようです。これらの薬に次第に耐性ができて、投与量が増えていくことに対しては不安を感じているようですが、緊張が始まると子供も辛く、また精神活動が衰えてしまうので、その解決を優先しているという感じです。また、夜眠れない、睡眠サイクルがつくれない子供に対しては、睡眠薬でそれを強制的に作る方がよい(睡眠時間も確保できるし)というのが常識になっているようです。このあたりも、患者も大事だが、母親を含めた他の家族も大事、という思想がけっこうはっきりしていると感じました。これは決して米国の母親が自己中心的であるということではありませんが。
 緊張やつっぱり、発作については、「うちもそうだ」という意見はたくさんでるのですが、やはり、こうするといい、という決定的なものは出てこないという感じです。結局、体をほぐすにはまず背中からだんだん末端へ、といった基本的なことしかないようです。日本とほとんど状況が変わらないので、がっかりするというか、ほっとしたというか、複雑な心境です。
 日本との状況の違いを感じさせるのは看護婦(nurse)ですね。そもそも、米国で言うところのナースがどれほど専門性があるのか(日本の看護婦の資格に比べて)よく知らないのですが、ある程度の医療知識はあるようです。MLD患者の家族の中には、母親がバリバリのキャリアウーマンで、1日に何回か暇を見つけて家に帰っても、2〜3分で子供の顔を見たらまた出かけてしまう、つまり介護はナースにほぼ依存している、といううちもあるわけです。そのうちでは24時間勤務のナースを使っているといってましたが、やはり米国でも夜間勤務できるナースを確保するのは難しいし、政府の保険では不可能、ということでした。もともと、米国は国民健康保険がない、あるいはいいかげんだったので、金持ちはかなりの金を払って民間の保険に入っていて、そういうところではいざというときに24時間勤務のできる看護婦の費用が補填されたりするという話です。映画、「ロレンツォのオイル」でも、ロレンツォ君の世話は母親というより、むしろナースがやってましたが、あれは決して特殊なケースではないにしろ、同じことができるのはやはり少数の恵まれた家庭だけということになりますね。そもそも、看護婦が確保できなければ、夫婦でULFの大会に参加するのは難しいわけです。いろいろ聞いてみると、中流クラスの家庭の場合、昼間の12時間はナースに世話をさせ、夜間の12時間を祖父母や姉妹に頼んで付き添ってもらうという形で家を空けているようです。ちなみにナースの時給は$20〜25くらいからだそうですが、人によって能力の差が大きいので、優秀な人を押さえておくためには、金に糸目はつけないとか、不要な期間も契約を続けるといった涙ぐましい努力をしているようです。
 とはいえ、全般に、実際の介護を中心になってやっているのは母親だというのは日本もアメリカも違いなく、このセッションでは、もう何年もそうやって子供を自分の手で守ってきたのだ、という自信溢れるカアチャンたちのパワーが大爆発でした。夫婦で参加しているカップルが多かったのですが、トーチャン連中は沈黙です。ましてや私の出番はなく、ひたすら聞き役にまわっていました。終わったあとで、他の父親とも話をしましたが、やはり日常的なケアはどうしても母親任せになるのでわからないところが多く、ああいう場では黙っているしかない、ということでした。ともかく、こういう場所にやってくる母親達はみんなそれぞれ非常にたくましいです。

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01/10/14


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