作者別花筵百首題 写歌

   冬  

初冬

冬日浴ぶる白き垂れ布に影(ふる)ふ庭の木叢に風荒ぶらし

落葉

光る径銀杏葉蝶の影なして(まろ)びて舞ひて吾の先ゆく

寒草

霜枯るる野辺のはたてに垣となし冬麗の空広ごりにけり

小春

ひおもてに素心蝋梅ふふみたり浅黄の珠の上枝(ほつえ)つららに

菜畑の片辺は冬日明くして家蔭に冴ゆる霜の狭莚

水鳥

夕映えの山沼(やまぬ)にしづく木立影(ひづ)めて二羽の鴨の寄りくる

夜の(くま)に紛れもあへぬ白梅の天に氷輪ほがらかにあり

冬星

星月夜その名羨しみ棲む谷戸の山際低く夕つづの影

朝ぼらけ明昼の日とみるまでに屋ぬちを照らす庭の白雪

冬花

磯触りの香りのひまに匂ひくる爪木の崎のほきの水仙

寒樹

山際に千枝の冬木の影顕ちてほがらほがらと明くる東雲

暖房

こごる手をひをけにかざせし熾きの火も遠く過世の火影となりぬ

冬山

白妙の富士のかたへに斑雪嶺(はだらね)の丹沢連るる相模冬空

歳暮

川ならば堰きて止めむと思ふにも流るる月日になす術もなく

待春

あしひきの山沼(やまぬ)薄氷(うすらひ)とけそめて春設くる木立水面に揺く

   冬  


公開日:平成22年09月24日
最終更新日:平成22年09月26日

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